「インターステラー理論」を実践する。

12月4日(月)
19:00 友人と久々の中華「K」へ。Kさんご夫妻もお元気そうで安心しながら、相変わらず超美味しい「胡麻麺」や「蒸し豚薬膳ソース」等を堪能する。帰り掛けには、この冬から着て居る軽くて暖かいヨウジ・ヤマモトのフード付きコートを褒められ、照れる…僕が服の事で他人様に褒められる事等、人生に於いて殆ど無いし、Kさんはその昔有名ファッションブランド「B」に居た人だから。

20:30 食後は甘い物でも食べて帰ろうと、西麻布「C」へ行きケーキ(当然モンブランだ!)を注文して居ると、隣の席に客が来たのでふと見ると、何とイケメン古美術商のT氏。今後「甘いモン」の場所を変えねば…ここはもう危険だ(笑)。


12月5日(火)
15:00 久し振りにワタリウムに向かい、石巻男鹿半島での展示も結局観れ無かった「リボーンアート・フェスティバル東京展」を観る。現地の展示とは勿論違うだろうが、それでも見応え十分の展覧会で、特にカオス・ラウンジのVR作品「地球をしばらく止めてくれ、僕はゆっくり映画をみたい」に驚く…あの「憑依感」は独特で、エンターテイメント性十分。観覧後は館長姉弟とお茶をし、歓談。最近のアート・マーケットやダ・ヴィンチの「救世主」に就いて等話す。


12月6日(水)
9:00 3ヶ月毎の定期健診+血液検査。実は僕は知る人ぞ知る「検査フェチ」で、血を抜かれる時の快感や、気の小ささを紛らわす為の「検査結果待ち」期間が何とも堪らない(笑)。一週間後、検査結果に一喜一憂するのが待ち遠しい…。

19:00 若い友人とサントリーホールに向かい、ワレリー・ゲルギエフ指揮・マリインスキー歌劇場管弦楽団庄司紗矢香のコンサートを堪能。ゲルギエフはNY時代から何度聴いても素晴らしく、個人的には現存するコンダクターでは随一だと思う。インターミッションでは、バーで現代美術家S氏とバッタリ会い、一緒に居た超童顔の友人を見たS氏に「あれ、今日はお孫さん連れ?」と言われてショックを受けるが(笑)、マリインスキーは流石に鍛えられた弦と菅での透徹で力強いベルリオーズ幻想交響曲」、そして庄司紗矢香の方は、非常に難しく体力を使うショスタコーヴィチの大名作「ヴァイオリン協奏曲 第1番」を熱演し、大満足の一夜と為った。

21:00 コンサート後は、その孫的友人と老舗イタリアン・レストラン「C」でディナー。此処は僕が未だ学生の頃、ガキが決して足を踏み入れられない「オトナの店」として有名で、人生の先輩達に連れられて店のドアを開けると、例えば篠山紀信加賀まりこが入り口付近の椅子に陣取り、睨みを利かせて居たりした恐ろしい店。そんな若かりし時代の或る日、思いっ切り背伸びをして女の子を連れてこの「C」に来て、メインより前菜を多く食べた方が安上がりだろうと高を括り、前菜を沢山頼んだ結果、支払い時にチェックを見て卒倒しそうに為り、その後2ヶ月間大貧民生活を余儀なくされた…と云う過去を思い出したので、前菜は程々に、そしてバランス良くデザート迄頂く。

23:00 その友人が以前から美味しいと云って居た「しっとりおいしいイタリアの栗」を一袋持って来て呉れたので、家に帰って早速食べてみると、これがまた最高にウマい!真空パックされた剥き栗はほんのり甘くて柔らかく、確かに「しっとりおいしい」…早速オトナ買いオーダーして仕舞ったワタクシ。


12月7日(木)
9:00 ルーブルアブダビが自館のインスタグラムで、ウチが売った「ダ・ヴィンチ『救世主』がやって来る」と発表したのを知る(→https://www.instagram.com/louvreabudhabi/)…そうだったのか⁉︎これで尚更アブダビに行かねばならない…僕が売った大名品日本美術品を観る為にも。

17:00 今年大変お世話に為った茶の湯者と某美術館長との3人で、今年を締め括るお茶をする。茶の湯者の茶室に入ると、床には「救世主」の代わりに(笑)相客館長のお名前の一字を含んだ季節の横物の二字墨跡が掛けられて居て、「館長はこれを『号』とすべきだ!」と盛り上がる。そして各々激動の1年を振り返りながらの、アジの凄い高麗茶碗と和物茶碗で頂くお茶は格別だったが、今年本当に色々有った僕には師走独特の少々感傷的な茶と為った。その後は近くの中華「S」に向かい、乾杯後、カリカリと香ばしい北京ダックやモチモチ餃子、トマト炒飯からシメのプルプル杏仁豆腐迄を堪能。このメンバーでの「忘年茶」ならば、本当はもうひと方居る筈だったのだが、その方の噂話もかなり出たので、今頃クシャミどころか大風邪を引いて居るのでは無かろうか(笑)。今年の僕は或る意味常に茶の心と有り、それもこれもこの方々のお陰…感謝の気持ちで一杯です。


12月8日(金)
11:00 オフィスで今プライヴェート・セールとして手掛けている、各々200点近い2つの日本美術コレクションの作品リスト作り。アシスタントの女性スタッフのHさんとUさんのフル・サポートに感謝。

15:00 作品調査と価格設定の為に家に戻り、作業続行。そうこうして居ると、某有名コレクターから久し振りにメールが来たので、読んでみると何とコレクション売却の相談で吃驚…コレクターの世代交代を実感する。家の書庫とリヴィングを行ったり来たりしながらの仕事中の僕には弛めのBGMが必須で、この日はメゾ・ソプラノ、フレデリカ・フォン・シュターデの「フォーレ歌曲集」(僕は「夢のあとで」を愛して止まない)や、最近入手した「グレン・グールド 坂本龍一セレクション バッハ編」(16日のコンサートが楽しみスグル)、大橋トリオ「Blue」等。


12月9日(土)
13:00 某美術館を訪ねる為、箱根へ…かなり寒くて震えるが、綺麗な空気と自然に癒されながら、登山鉄道から眺める景色を楽しむ。その帰り、電車の時間迄散策した箱根湯本の駅前商店街で見つけた「焼きモンブラン」を買って食べてみると、これが恐ろしく美味い!パリパリの外見に、マロンが1つゴロリと入って、甘さも控え目…箱根湯本に行ったら、隣の店の「小田原ドック」と共に必食だ!


12月10日(日)
18:00 ニューヨークから帰国中の友人と、再びゲルギエフ+マリインスキーの今回の日本最終公演を聴く為にサントリー・ホールへ。この晩のゲスト・プレイヤーは第11回チャイコフスキー・コンクールの覇者、デニス・マツーエフ、演目は「オール・ラフマニノフ・プログラム」で、ピアノ・コンチェルト3番&4番、そして「交響的舞曲」で有る。会場に着くと、恐らくは外務省関係の背広組の姿が多く、ピアニストの松田華音さん、最近連続してクラシックコンサートで会うT大のI先生やH先生の顔も見える。開演前にはロシア大使館の外交官と政治家らしき日本人が舞台上で挨拶したが、その演説が長くてウンザリ…僕は「音楽」を聴きに来たのだから、能書きは要らない。そして始まった音楽会は、相変わらずマリインスキーの弦と菅は素晴らしく、マツーエフの演奏も完璧なのだが、彼のピアノには何故か最後迄共感出来なかった…完璧過ぎたのだろうのか?

21:00 広尾のイタ飯屋「A」でディナー。席に通されると、隣の席から「桂屋さん!」との声が。えっ?と思い振り返ると、其処には日本よりもヨーロッパで会う機会の多い古美術商のK氏の顔が!1週間に2度も行きつけの店の隣席で、然も今迄何年もこれだけ通って居ても、唯の一度も仕事関係の人に会わなかったのに、危険過ぎるでは無いか(何が?…笑)。此処でもモンブラン・パイを頂く。


12月11日(月)
10:00 オフィスで今年の総括ミーティング。今年のクリスティーズは、手前味噌だが云って仕舞えば「ダ・ヴィンチ」と「藤田美術館」に尽きる。会社の業績がこれだけ良いのだから、来年のボーナスが楽しみだ…が、古人曰く「取らぬ狸の皮算用」と。

12:30 VIPコレクターと、都内ホテルの天麩羅屋で年末のご挨拶ディナー。今年も大変お世話になりました。食後は何時もの甘味処「T」で、きな粉安倍川餅を頂く。

15:00 安藤忠雄事務所に5年務めたニューヨークの友人と、3度目の安藤忠雄展@国立新美術館へ。会場は相変わらず超満員だったが、矢張り大建築家の側に居た人の解説は貴重で、裏話を含めて大変勉強に為る。そんな裏表を含めても、安藤忠雄とは日本人としては稀なるタフでスケールの大きい人物だと思うし、家を建てるなら僕が今最も依頼したい建築家だ。ウチの社主フランソワ・ピノーの、パリのプロジェクト完成が待ち遠しい。

19:00 ここ何年か仲の良いYさんが独立して銀座に店を構えたので、お祝いのしゃぶしゃぶディナー。未だ30を出た所なのに、その実力に脱帽。店に飾るアートの相談を受ける。


12月12日(火)
19:00 友人とCharのコンサート@六本木EXシアター。年齢層が高く、Charのオヤジギャグも全開。だが、ギターだけは未だ凄い。その後は西麻布「H」で創作イタリアン夕食…ブラッタチーズと苺の組み合わせに悶絶する。

23:00 先週の血液検査の結果が、担当医からメールで届く。見ると総コレステロールが、上限を少し超えて居る以外は満点で、これでまた食えると安心する…が、「上限を超えて良いのは、オークション・エスティメイトだけだ」と職業的に反省する(笑)。


12月13日(水)
7:30 頑張って早起きし、新幹線で京都へ。愈々大学客員教授としてのスタート…緊張するなぁ。

10:30 大学前にひと仕事。初めてお会いする某収集家を訪ねて作品を拝見するが、最後に或る絵画が出て来て吃驚…非常に重要な作品で、興奮を抑えるのに必死。

13:00 京都造形芸術大学に向かい、初授業2コマ。去年のAO入試で会った学生達との再会を喜びながら、用意したパワーポイントで早速授業開始。あれから1年半…彼等は成長し、僕は年を取る。光陰矢の如し。

18:00 長年お世話に為って居る、浮世絵商のYさんご夫妻とディナー。京都の冬と云えば「コッペ(コウバコ)蟹」…いやぁマジ美味いっす!その他ぐじや百合根饅頭、海老芋揚げ等を堪能…冬の京都の食はネ申だ。

21:00 Y氏とY氏行きつけの、曰く「熟女キャバ・カラオケバー」(笑)へ。大塚博堂松山千春等を久し振りに歌うが、カラオケ自体久々だったので余り調子が出ない。「涙をふいて」と「熱き心に」…偶に聞くといい曲だなぁ。


12月14日(木)
11:00 嘗て同僚だったZと、久し振りに会ってランチ。Zはご両親は中国人だが、本人は日本で生まれ育ったトリ・リンガルな才女で、墨絵を描くアーティスト。彼女は今日本に戻って来て居るのだが、後で京都の大学で教鞭を取って居られるZのお母様もジョインすると云うので楽しみ倍増。そのZのお母様は、会ってみると一目で分かる程知的且つオープンマインドな素晴らしい方で、映画や音楽、芸術全般を心から愛する者同士の共感を得て、話が弾む。そんなお母様は、僕が偶々食後に頼んで居たマロンシャンティ風モンブランを見ると、やっぱり!と仰る…僕の栗好きもご存じだったのには驚いたが、然し良い意味で「この母にして、この子有り」を体感した、嬉しくも心温まる出会いでした。

13:00 昨晩ディナーを御馳走になった、Y氏の新門前通のお店で学生達と待ち合わせをし、版画や肉筆の体験授業。これは僕の企画なのだが、やはり美術品は実物を見ねば分からないので、これからアーティストに為る人は、必ず「ホンモノ」を沢山観るべきだと思う…と云う理由で、Y氏のご厚意に拠り浮世絵の摺りの順番や版木、メディアとしての浮世絵を実物を見たり触ったりしながら学べる彼等は幸せ者だ!最後には自分が1番好きだった作品を皆の前で発表しその理由を述べる、と云う内容で1限目は終了。

15:00 2限目は新門前から縄手に移動し、別の古美術店での講義。此処でも店主Y氏のご厚意に拠り、屏風や茶碗、漆作品を見せて頂く…のだが、用意された屏風が17世紀と思われる、プロが観ても驚く中々良いモノで、思わず学生達を押し退けたく為るが(笑)、此処は授業と云う事で必死に我慢。そしてお茶碗の方は、桃山の某美濃焼を学生達に1人ずつ実際に触って貰う。学生達は丁度2ヶ月程前に自分達で楽焼茶碗を造って居たので、その意味でも茶碗に触れる彼等の眼や手は真剣そのもの…Y氏も「無理矢理キズを探す骨董屋でも、此処迄真剣に見いへんな〜」と笑う程だった。各々触れた後に感想を聞くと、自分の作った茶碗との高台や釉薬の違い、口辺の作りの素晴らしさ等を机を挟んで座る僕に熱く語る学生達に、僕の心も熱くなった。お二人のYさん、本当に有難う御座いました!

17:30 そのY氏と祇園「T」で、おばんざいディナー。此処でもコッペ蟹や河豚唐揚げ、自家製カラスミや蕪蒸し等、京の冬味を堪能…もう、京都ラブとしか云えない。

20:00 新幹線で帰京。車中、和多利月子編著「明治の男子は、星の数ほど夢を見たーオスマン帝国皇帝のアートディレクター 山田寅次郎」を読み始める。以前僕も登壇させて頂いた「山田寅次郎研究会」を開催する、ワタリウムの和多利月子さんの新著だが、彼女の祖父で有る山田宗遍流家元の数奇でアドヴェンチャラスな生涯は、何度読んでも面白い。


12月15日(金)
10:30 オフィスに行くと、開店祝いをしたお礼にYさんからお菓子が届いて居て、開けて見ると中津川の和菓子店「S」の栗のお菓子!栗餡が葛に包まれて居て、この上なく美味いっ!流石Yさんのお見立てと感心する。

11:00 来月僕がインタビュー記事に登場する「陶説」の、原稿校正。取材の折に撮影して貰った写真の中にかなり気に入った写真が有ったので、編集主幹のM氏に欲しいと言ったら頂けるとの事。遺影に使って欲しい位、気に入ってます(笑)。

13:00 重要顧客と、今手掛けて居る某コレクションのプロモート・ミーティング。決まると良いなぁ。

18:00 六本木のギャルリー・ペロタンで始まった、アーティスト加藤泉の版画展のレセプションへ。小品から大作迄、加藤の新たなる試みへの情熱が見える作品ばかり。加藤氏も荒谷さんもお元気そうだったが、その体調を支える神の手マッサージ師の方をパーティー中に紹介される。僕も早くお願いしたい!

19:00 会社の忘年会@「S」。「S」はここひと月で4回位来て居るので、目新しくはないが、コースには入って居ない美味い料理を追加注文する役目を仰せ付かる。皆さん、一年お疲れ様でした。


僕が勝手に、僕と誕生日が一緒のクリストファー・ノーランに敬意を表して「インターステラー理論」と呼んで居るのだが、若い人や今迄会った事の無い人と会ったり、今迄した事の無い事を経験したりすると、自分の老化を鈍化・遅延させる事が出来る、と信じて居る。

此処の所それを意識して実践中な訳だが、人生54年目の年も後2週間…大嫌いなクリスマスがそろそろとやって来る。


ーお知らせー

*12月23日(土)13:30より、朝日カルチャーセンター新宿にて「北斎印象派の画家達」と題されたレクチャーを、国立西洋美術館主任研究員川瀬佑介氏と対談形式で催します。詳細は→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/6bd74df6-bb02-1d16-5bf1-59fafec5021f

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。