『蓮喰ひ人の日記』(黒瀬珂瀾)

蓮喰ひ人の日記

蓮喰ひ人の日記


夏の終わりにいただきました。
ありがとうございました。


10首選(☆1首選)


国の苦をおのが苦として歌ふこゑBasicallyと繰り返しつつ
君が代が爪弾かれつつかなしいぞ教会の床を濡らせるビール
母はしづかな忘我の管と思ふとき背に犇めける九〇〇〇ポンド
☆妻と嬰児は夏のひかりを分けあひて真白き部屋に尿[pee]の香は顕つ
汗ばめる髪に苺の香りして児はわが胸をこころみに吸ふ
土耳古樫葉[トルコオーク]に裂け目は深し児の来たるからには父母にならねばわれら
まろまろと息する命背負いつつカルピス原液二リットル抱く
遠くまで来たのだ金正日の死が一面に配されざる程度には
テムズの霞に立てる親子のゆきだるま頭のしたに胸と胴ある
香り玉のやうなうんこを転がして児は英国に残すものなし

  • 2011年、ダブリン・ロンドンでの(妻の)留学のさいに、子の誕生があるという展開
    • 大容量の詞書を配し、日付をつけている。岡井隆と小池光の手法の融合
    • 引用1,2首目にあるように、異国にあって祖国を想うタイプの歌・詞書が前半に多い。
    • 団塊リベラルの伝統的価値観が、憂国の感覚や国際政治のリアリティに挑戦を受けている、というスタイル。ただ、この部分での深まりや転回はなく、後半にほぼすべてが子の誕生に回収される
  • 詞書がなくとも成立する子の歌に良い歌が多い
    • 尿、吸ふ、胸、など身体性の再発見や確認


以上です