人生をありがとう     松岩榮作 短歌集  私家版 1992/9発行



人生をありがとう最近、この本の著者である、松岩榮作さんの息子さん、松岩達さんからいただいた本。シンプルに表題が文字組された厚手の紙のカバーに、二五〇首ほどの歌をおさめた小さな上製本はつつまれている。天地176センチ、左右115センチの小さな本だが、手にした途端「あ、綺麗な本だなあ〜」と思った。編集の仕事をされている息子の松岩達さんの手によって制作されたものとはいえ、だいたいこういうご自分で作った本は、往々にしてどこか野暮ったいところがあって、手に取ることを躊躇することもあるものだ。しかし、この本に関しては目にした途端、「あ〜手に取って中をあけてみたいな」と思った。
さっそく本の扉をあけて、なかにはいってみる。そして本文の歌に出逢う。いくつかの歌を引用してみよう。


   浜茄子の花の命の短さに/惜しき花弁は地を染めていく
   この花のこのよき香り遠き友に/送りたきもの浜茄子の花
   浜茄子のつぼみ若葉の中見えて/花も匂はむ水無月の来る

「夏」という歌題のもとに34ページ目に載せられた浜茄子を題材にした歌。多分北海道に住むものであれば、浜茄子の花がぼんやりとでも目に浮かび、この花を愛惜する作者の気持ちが、伝わってくるのではなかろうか。
それにしても短歌や俳句という形式があらわにしてくれる、言葉の匿名性ということと、ポエジーというものがどこかでやはり繋がっているということに、この小さな本によって教えてもらったという気がする。