翻訳が待たれる入門書――David Seed, Science Fiction (Oxford, Very Short Introduction)
Science Fiction: A Very Short Introduction (Very Short Introductions) (English Edition)
- 作者: David Seed
- 出版社/メーカー: OUP Oxford
- 発売日: 2011/06/23
- メディア: Kindle版
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(973文字)
オックスフォードのVery Short Introductionシリーズ。新書と研究書のあいだのような位置づけ。大学生(教養課程や入門段階)向け。理論+具体的な作品紹介。書いているのは研究者で、further readingも完備されているので、入門書として最適。
1章
スペースへの旅。スペースとは「宇宙」であり「空間」。ここではないどこか別の場所への移動。自分の文化やアイデンティティを見直す機会。相対化、異化効果。宇宙開発は帝国主義的。
2章
宇宙人との遭遇。何が同じで何が違うのか。人間・人類の文化的・科学的な相対化。エイリアンは人種問題(移民、差別、虐殺)などのメタファー。エイリアンという言葉には「宇宙人」と「外国人」の両方の意味がある。
3章
SFとテクノロジー。SFという言葉の創始者ガーンズバックにとってSFは「科学の啓蒙小説」。テクノロジーの有用性と、テクノフォビア(恐怖)は表裏一体。ガーンズバックやアシモフは科学の可能性を信じたが、そういう作家ばかりでもない。ロボット、サイボーグ、コンピューター、サイバーパンク。人間とテクノロジーの境界線。融合。
4章
ユートピアとディストピア。19世紀末から第一次世界大戦までユートピア/ディストピア小説が大量に書かれた。帝国主義的欲望の発露。ザミャーチン、ハックスリー。全体主義国家。コンフォーミズム。行動主義科学(パブロフ、スキナー)。人間の行動を(国家が)管理する。フェミニズムのユートピア、男性絶滅。
5章
SFの時制。時間のずれは空間のずれでもある。別の場所へ行くことは、別の時間へ移動すること。過去の自分たち、未来の自分たちとの遭遇。ウェルズの火星人(タコ型)は未来の人類(像)。歴史改変小説は、現在の世界についての思弁。
6章
SFの領域。ジャンルを固定できない。多様なジャンルと混ざる。科学は軸だが、科学的な思弁は、例えばファンタジーの中にも見られる。
以下、雑感。SFの定義やジャンルをあまり広げすぎても大変になるだけ。根底(下部構造)に科学・科学的思考を、その上部構造としてSF表象がある。このSF表象(と想像)は、下部構造の科学・科学的思考にも強い影響力を持つ。想像されたものは創造され、創造されるには想像されなければならない。また下部と上部にともに存在する私たち(身体/精神)にも、SF表象/想像が流れこむ。これ私の中でのSF像。あとは個別に時代や作家のトレンドを見ていく。