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あしなが育英会 ニュース

2010-09-09

遺児支援100年構想・『だから、あしなが運動は素敵だ』の出版を祝う会開催

 玉井義臣・あしなが育英会会長著『だから、あしなが運動は素敵だ』の出版を祝う会が、7月27日、会費制で東京「グランドプリンスホテル赤坂・新緑」にて開催されました。出席者はご支援者、15か国の大使ら各国外交官、海外を含む遺児学生ら330人。式典上、玉井会長は「あしなが運動100年構想」を発表しました。今後も日本の遺児支援の充実に加え、半世紀にせまる「あしなが運動の輪」を本格的に世界に拡げることを説明。アフリカの遺児を各国の大学に留学させ、クリーンなリーダーを育成するなどを明らかにしました。

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 「祝う会」は、堀田力さん・さわやか福祉財団理事長(弁護士・元検事)らが発起人となり実行委員会を結成して主催。参加者の方々の会費ですべて運営しました。

 司会は、秋沢淳子・TBSアナウンサー。玉井会長とともにあしなが運動の礎を築いた藤村修・外務副大臣のあいさつに続いて、発起人代表の堀田力さんが乾杯を発声。出席くださった女優・紺野美沙子さん(国連開発計画親善大使)、脚本家・小山内美江子さん(JHP・学校をつくる会代表)、鈴木寛・文部科学副大臣からお祝いの言葉をいただきました。また女優の吉永小百合さんと竹下景子さんの祝電が披露されました。

 そして、東京と神戸の学生寮「あしなが心塾」で生活しているウガンダ、インドネシア、スリランカからの海外遺児留学生9人がステージへ。留学生第1号のナブケニャ・リタさん(早稲田大学国際教養学部4年)が代表してスピーチ。ウガンダ共和国駐日大使館のプリンセス・アイリン・ンダジェレ・ジェミマ参事官から、ウガンダ・レインボーハウスでのエイズ遺児支援活動とエイズ遺児の海外留学への謝辞をいただきました。その後、ウガンダ・レインボーハウスと会場をインターネットで結び、テラコヤで学ぶ幼いエイズ遺児らのメッセージと歌声を会場に生中継しました。

 会のクライマックスは、玉井会長による「あしなが運動100年構想」の発表。また、米国ボストンから駆けつけた金木正夫・本会会長代行(ハーバード大学医学部准教授)が、自身の研究室にウガンダの医師を招いて研修させた経験など踏まえて、アフリカ支援構想の重要性などについてスピーチしました。

 そして、もう一人のあしなが運動の生みの親である桂小金治師匠が閉会のあいさつ。40年前の人気番組「アフタヌーンショー」の司会として玉井会長とともに交通キャンペーンを展開した当時のエピソードを交え、「長く地道な仕事を辛抱強くすることは大変なことです。玉井さんの歩いてきた足跡を見るにつけ、すごい人だと思います。84年の人生の中でこんなに素晴らしい一夜を持てるとは思っていませんでした。ご来場のすべてのみなさまと玉井さんに心からお礼申し上げます」。割れんばかりの拍手のなか、「祝う会」は幕を閉じました。

☆玉井会長スピーチ☆

 私は46年前に交通事故で昏睡状態だった母親から36日間、無言の説教を受けていました。母親は何も言わないけど、無頼の徒の私には一言も返せない。あの無言の説教が、今日まで続いています。妻はガンで29歳で亡くなりましたが、首から下が全く動かない脊椎のガンで2年半、生きました。妻との生活は5年半でした。ええ嫁はんでした。「人生は愛と仕事」ですからね。これからも仕事はガンガンやります。応援してください。

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 親を亡くした子どもを我々は遺児と呼んでいますが、彼らは大変なハンディを持って生きています。こんな受験戦争の中では貧乏では勝てるはずがありません。私は「勝てる」ということが、いわゆる「いい学校やいい会社に入る」だとはまったく思っていません。日本にいわゆる「貧乏人」が増えてきました。貧乏人の数が増えてくるということは、我々の時代がやってきたということだと思います。育英会の卒業生たち、若い同志たちには、優秀な者がいっぱいて、各分野で活躍しています。「世のため、人のため」なんて、いまは死語と言われるかもしれませんが、「人から受けた恩は返さなくてはならない」ということを徹底的にたたき込んで世の中に送り込んできました。私たちは、今日まで日本で遺児のための進学の制度、心のケアなどをどんな遺児も受けられるようにしました。

 ここで、「世紀の大ボラ」をふきます。これから百年、私は全世界の貧乏な遺児を救いたい。けれど、世界では多すぎるので、この数世紀、一番苦労をしてなお苦労から脱せないアフリカの子らに焦点を絞りました。貧乏な遺児にミルクと毛布とか、ハコものを作るのでは百年たっても何も変わらない。私には征服者が「生かさず殺さず」の愚民の政策をとっているように見えます。

クリーンな指導者を

 アフリカは、いま狙われています。稀少金属、レアメタルが豊富にあるということで多くの大国が先行投資しています。さらにアフリカは人口増加率が高い。人口が増えれば、将来はそれは消費に回る。だが、商品経済になることで、富の格差はさらに開く。そうすると、またアフリカは何回目かの搾取にあわないとだれが言えるでしょうか。

 私たちはアフリカの有能な遺児を選んで、ヨーロッパ、アメリカ、日本、中国、どこの国でもいいから大学に入れて、優秀にしてクリーンなリーダーを育てたい。今までのように、高学歴になって、いい会社に入って金持ちの方に移ってしまう。それでは、貧乏人はいつまでたっても貧乏人のままでいるわけです。

心塾精神を注入

 医学の父、ヒポクラテスは、ギリシャのコス島の古木の下で弟子に教育をしました。医者にとって大事なのは、知識でもある。技術でもある。しかし本当に大事なのは心である。しかし時代は逆行していると思います。また人間は心が大切だということを小学校から大学まで教えていない。だから日本もおかしくなった。私たちは、そのために別に「心塾」という学校を作って教育をしています。

 ジーン・ウェブスターが、アメリカのバッサー大学で小説『あしながおじさん』を出版しました。『あしながおじさん』出版百年が再来年の2012年なんです。私たちは再来年から百年間、アフリカの有能な遺児を世界の大学で育て、「心塾」の精神をたたき込んで、またアフリカに返すという運動をしたいと思っています。75歳ですから、ちょっと無理かなぁ(笑)。

 しかし、私の何倍かもの同志がいますので、それは脈々と続いていくものだと信じています。いえ、人間が暖かい心を持つ限り、日本人以外の国民にも同じ気持ちになり、運動は広がるはずです。私はその点、楽観主義者です。それを機に、世界中であしながさんを募って教育をすすめたい。日本では10万人のあしながさんが8万人の遺児を進学させてくださった。それは、単にお金をくださったということではないんです。お金を出してくださった方もそれを受けた子どももすべての方の心がやさしくなった。人の気持ちがわかるようになった。日本人をある意味で素晴らしい人間にしたと思います。これが私たちの教育です。これはきっと世界に広がります。

百年の計には人植える 

 私たちの子どもはそんな優秀な者でなくとも、みんな心がまともです。彼らが国を発展させないまでも、生きるに足りる、人間が尊厳を持って生きていける社会をつくると信じています。

 そういった遺児を育てる「あしなが運動」を私たちがせっかく発明したんですから、それを世界に広げたい。科学や経済の分野では技術移転と言いますが、世界200か国もあるのにどうして日本だけで他の国にあしながさんの制度ができないんですか。あしながさんが、月に500円、千円を送ってくださることでお互いに気持ちが通じ合うんです。このあしながメソッドを世界に輸出したい。

 私は「教育こそ百年の計」だと思います。私は、藤村修・外務副大臣とともに750人の学生らをブラジルに1年間留学研修させました。その学生たちに「一年の計には穀物の種を植えよ。十年の計には樹を植えよ。百年の計には人を植えよ。」と教えてました。そこでさらに大きなたくましい人間が育ちました。これは私たちの成功体験です。

運動は歴史への挑戦

 最後に私の片腕で、後継者をご紹介します。アメリカ・ハーバード大学医学部准教授、日本では東大医学部卒の、金木正夫医博(51)です。3月の理事会・評議員会で会長代行に選ばれました。「アフリカに基礎医学に取り組む人を育てたい」といって、ウガンダのマケレレ大学医学部の首席の医学生を4か月、ハーバードの自分の教室に呼びました。これから金木君の指導によって、アフリカに基礎医学者が少しずつ生まれる。マラリヤ病もHIVも怖くなくなる。「野口英世を越す素晴らしい基礎医学者を育てる」と金木君が言っています。彼は、15年間もアメリカで研究室(ラボ)を持って、たくさんの学生を指導してきました。金木正夫こそ、あしなが育英会の今後を思想的、哲学的な主柱になって、私の後継者になると信じています。難問もありますが、彼ならやってくれると思います。運動はそれまでの歴史への挑戦です。難しければ難しいほど人材が集まると信じます。肌の色も関係ない。優秀な人材を世界の心ある人が背中を押す。それが「あしなが」が40年かかってつくったメソッドです。


☆金木会長代行スピーチ☆

 30年前、私が交通遺児育英会の奨学金を借りて大学に通っていた頃、あしながさんの奨学金を交通遺児だけが受けていていいのだろうかと仲間で話し合いました。当時は学生の青臭い夢物語だったのですが、世界で最も貧しい子どもたちこそ、あしながさんの奨学金を受けるべきではないかと話し合っていました。

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 私は、アメリカで糖尿病など様々な病気の研究をしていますが、3年前にエイズの研究も始めました。そこで考えたのは、アフリカの研究者がアフリカの実態にあった研究をして、アフリカで新しい薬を開発する。そういう時代が来ない限り、おそらくエイズやマラリヤなどを私たち人類が制圧することはできないだろうということでした。しかし、現実には、アフリカでの基礎医学の研究は、研究費や設備はもちろん、研究の指導者についても、すべてこれからといった状態です。研究者を育てるのには時間がかかります。だからこそ今始めるべきだと考えました。何か自分ができることをしたいと思い、ウガンダのマケレレ大学の学長に「意欲的な学生を派遣してほしい」とお願いしたところ、アムトヘア君という医学部で一番成績のいい学生を派遣してくれました。全くの偶然なのですが、彼自身も中学生のときにお父さんを病気で亡くしていました。とても優秀な学生で特許をとろうと準備をしている発見に彼も貢献してくれました。彼は、ウガンダに帰って医者になり、エイズに関する別のテーマで共同研究を始めています。

 私は彼からアフリカについていろいろなことを学びました。その中の一つは、アフリカにはとても意欲的で志の高い学生がたくさんいるということでした。石油やレアメタル(稀少金属)などではなく、アフリカの最大の資源は子どもたちだ、アフリカは人材大国だということがよくわかりました。小学校に行きたくても行けない子どもはチャンスを得て学ぶ喜びを知ったとき、ものすごく一生懸命に勉強するんです。優秀だとか有能だということもありますが、残念ながら日本でもアメリカでもそうしたハングリー精神を持った若者を見つけるのは非常に難しい。しかし、残念ながら、そうしたアフリカの素晴らしい子どもたちが現状では埋もれてしまっているのです。アムトヘア君やリタさんが40歳、50歳の働き盛りになる頃には、おそらくアフリカが世界で最も成長率の高い地域になるだろうと言われています。そのときに活躍する新しいタイプの「クリーンなリーダー」を私たちは育てたい。アフリカの子どもたちが本来持っている能力を生かして、そして、あしながさんの「無償の愛」に接して、勉強して、アフリカのため、世界の未来のために彼らの能力と努力を役立ててもらいたいと願っています。

 これは、日本の問題を忘れるわけではありません。格差社会の中で、遺児の子どもたちが希望をなくしている、あしなが奨学金を受けて高校を卒業しても就職先がないという日本の格差社会の問題を突き詰めていくと、海外の貧困や格差の問題にぶちあたります。以前、日本の高度経済成長期には、日本と、例えば中国や東南アジア諸国との間に大きな経済格差がありました。こうした新興国との経済格差が小さくなってくるにつれ、日本国内での格差が大きくなって来たのです。国際競争力を高めるためには、少なくとも短期的には、どの国でも、国内で格差を拡大した方が有利になることが多いからです。各国の貧困層は、低賃金と、日雇い派遣に見られるような不安定な雇用条件で、気づかぬままに、互いに競争させられてしまっている側面があります。ですから、海外の貧乏な人たちの生活水準が向上すれば、国内の格差を小さくすることができるし、逆に、海外での貧困や格差が深刻化すれば、国内の格差を小さくすることがますます困難になります。国内の格差問題に本格的に取り組むためには、貧しい遺児たちの国際的な連帯が必要なのです。

 アメリカにおりますと、リーマンショック以来の経済危機は私の研究室も直撃しておりまして大変なんですが、まさに「海図なき航海」といいますか、どの方向に向かっていいかわからない状況にあることが良くわかります。「多極化」「無極化」の時代を迎えつつあると言われていますが、産業革命以来、イギリス、アメリカで世界を引っ張ってきた時代が終わり始めていて、しかし、次の新しい世界秩序が生まれるまでの、おそらく100年ぐらいかかる混迷の時代に入って来ていると思います。その中で私たちは何ができるでしょうか。地球温暖化や核軍縮なども含め、私たちの世代だけでは解決できない難問が山積しているわけです。

 アフリカで親を亡くして小学校にも行けない貧しい子どもたちに世界中の大学で勉強してもらって、世界の貧困問題に取り組んでもらいたい。あるいはアフガニスタンやイラクなどの戦争遺児にも「戦争と平和」の問題をどうしたらいいか勉強し考えてもらい、新しい国際的な秩序を作る新しい担い手を育てることに少しでも役に立ちたいと思います。世界中の若者がともに切磋琢磨する中で、彼らから多くのことを学ぶでしょう。

 アフリカが経済成長することは素晴らしいことです。しかし、残念ながら今までの経験から推測すると、極めて大きな格差がアフリカの中で生じ、都市化、核家族化、商品経済が浸透する過程で遺児家庭の経済状態はますます苦しくなることが予想されます。アムトヘア君にも教わりましたが、アフリカの豊かな自然の恵みのおかげで、バナナやヤムイモは放っておいても実り、羊を飼っていれば、羊の乳がタンパク源となるので、食べることにはそれほど困らない自給自足の生活が農村では今でも続いているようです。しかし、都市化や商品経済が進むと、現金収入の得られる仕事がかつての日本と同様に男性にかたよっているため、父親を亡くすと、遺された遺児母子は収入の道を絶たれ、一気に貧困のどん底にまで突き落とされてしまいます。その上、アフリカの本格的な経済成長は、世界のすべての国が工業国になることを意味します。国際競争はますます激しくなり、今日のグローバル経済の基本的な不安定要因である「生産能力過剰」がさらに深刻化します。世界的な不況や恐慌を防ぐために、経済政策における国際協調の重要性はさらに高まるでしょう。そのとき、他国の人たちの暮らしを同じ仲間として互いに思いやることのできる人たちが世界にどれだけいるかが重要なポイントになってくるでしょう。

 アフリカの子どもたちの進学の夢をかなえると同時に、私たちの夢を託したいと思います。世界中の庶民による貧乏人のためのシンクタンク、社会的弱者のために調査、研究、政策提言する国際的なネットワークをつくりたい、その先駆けとなる仕事をしたいと考えています。

 世界の経済が行き詰まり、曲がり角にさしかかっています。その中で新たな光を見いだして、あしながファミリーの一員として、みんなと一緒に、できる限りのことをしていきたいと思っています。