科学の誤用

北、「遺骨」返還で柔軟姿勢 鑑定説明聞く用意

 北朝鮮宋日昊(ソンイルホ)外務省アジア局副局長は13日、日朝政府間協議再開を前に平壌市内で共同通信と会見、別人のものと鑑定された拉致被害者横田めぐみさんの「遺骨」について、日本政府が返還できないなら、鑑定調査の詳細などの説明を聞く用意があるとの柔軟姿勢を示した。小泉純一郎首相が3回目の訪朝を希望するなら歓迎する意向も表明。拉致問題で手詰まり状態の日朝関係の局面打開を探り、政府間協議を国交正常化交渉につなげたいとの判断があるとみられる。

 昨年11月の第3回日朝実務者協議以降、日朝関係の実務責任者である宋副局長が日本メディアと会見するのは初めて。政府間協議の時期、場所については、当初「10月中旬に平壌で」と日本側に伝えたが「まだ決まっていない」とした。

 北朝鮮は日本側に対し、これまで「遺骨」の返還を強く要求、鑑定結果を「でっち上げ」として、真相究明や責任者処罰を求め協議に応じてこなかったが、宋副局長は「もし遺骨を返還できないなら、現在の保管状態、鑑定調査の真相について明白にしなければならない」と述べた。

http://www.sankei.co.jp/news/051013/sei069.htm sankei web

=後略=


北朝鮮が遺骨問題で日本の鑑定説明を聞く用意があるそうだ。
痛いところついてきますね。


北朝鮮が提出し拉致被害者の横田恵さんの遺骨に対して、
日本政府は恵さんのものではないと決断を下したのは今年の3月のことだった。
それいらい、日本と北朝鮮の間での協議は膠着状態に陥った。


そしてこの日本政府の下した判断はいかにも、うさんくさいものだった。
発表当時から僕は大丈夫かいな?
と思っていたのけれど、
この判断に対して、思っていないところから反論が寄せられた。ネイチャー誌だ。
ネイチャー誌といえばそりゃー科学の世界にいる人ならば、
聞いただけでもひれ伏してしまいそうなくらいの、権威のある雑誌だ。


その辺の経緯は
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050401/1112324277 木走日記
に詳しい。素晴らしいエントリーなので、一読を。


だいたい、なぜ日本政府は恵さんの遺骨ではないという判断を下したのか?
この判断は、決して科学に基づいたものではない。


まず、科学という方法論では"ない"ということは証明することはできない。
科学という手法ははただひたすら、"ある"ということをリストアップし、
そのリストを解釈するための仮説を考えだす。
またその仮説に沿わないような現象を探し出して、
その現象をも解釈できるような仮説を提出することで、
真実(?)に仮説を漸近させていく。


そして、その仮説が真実であるかどうかそれを確かめるすべはない。
だが、それが真実でないともいえない。
なんだか悩ましい状態に陥るのです。


「この部屋にカバがいなということを証明できるか?」といったのは、
ウイトゲンシュタインだった。


カラスは黒い。だいたいのカラスは黒い。僕は白いカラスを今までに見たことがない。
これまで、生きてきて僕がみたカラスの数は数百やそこらではない。
この経験から、僕がいえることは、ふつうカラスは黒いということであって、
すべてのカラスは黒いということではない。


もしかしたら明日白いカラスに出会うかもしれない。
従って、黒いカラスがたくさん"いる"ことはいえるけれども、
白いカラスが"いない"とはいえない。


このことを、遺骨の鑑定と照らし合わせて考えれば、
鑑定結果から日本政府が下すことができることは、
非常に条件の悪い、残存しているDNAがほとんどない、
北朝鮮が提出した恵さんの遺骨からは、
"恵さんのものである"とは鑑定できなかったということだけで、
これが"恵さんのものではない"ということではない。
(遺骨の条件がいい場合は"ない"ということはいえるが)


もし、あってほしくないことだが、
科学にいえることは恵さんのDNAが検出された場合に、
これは恵さんのもので"ある"ということである。


日本政府の鑑定から他人の複数人のDNAが検出されたということだが、
これも、ひじょうに論拠に乏しいのではないか?
北朝鮮の説明では遺骨は1200℃で火葬されたとのことだ。
これが、本当ならば、まず有機物であるDNAが残ることはあり得ない。
しかも、1200℃で火葬するということは技術的に難しいことでもない。


さすがに、エネルギー事情の悪い北朝鮮でも、
国の威信や、これからの国交正常化によって得ることのできる利益を考えれば、
そんなところで、いい加減なことをすることは考えがたい。
おそらく、もし恵さんの遺骨であれば、そこまで火葬する必要もないので、
他人のものである可能性が高い気がするが、それは科学のいえることではない。
少なくともDNA鑑定からはそんなことは帰結できない。


検出されたDNAは混入物ではないか?
お骨を拾うときや、骨壺を開けて確認するとき、
検査をするために試料を調整するとき、
いつでも、DNAが混入することは可能だ。
人間が扱っている限り、それはさけることは難しい。


検出感度の高い手法を使うということは、その分ノイズを多く拾うということだ。
サンプルの由来があいまいである以上、
それらの混入物があり得ることは常識として、考えられていたはずだ。


そして、おそらくこの鑑定を行った方はそれを知っていた。
スペシャリストがそんなことを考慮に入れていないはずがない。
では、鑑定をねじ曲げたのは誰か?


政治として判断したのではないか?
もちろん、政治家はこれをやる資格は持っている、
ときにははったりも必要だ。
しかし、このはったりはあまりにもおそまつだし、
正確という病理にとりつかれた科学者たちには、
とうてい許容できるものではないように思う。


この交渉で日本政府は北朝鮮にどう言い訳するのか?
この件に関して、完全に日本政府は死に体に見えるのだが、
なんかうまい方法はないものか?