本当に良い仕事をしていただいたものです。言語学の現場を歩んできた著者だからこそ書けるのでしょう。言語を正確に観察し、きちんと理解し、その上で明確に理論化するとはどういうことか…という言語学の王道をまっすぐに解説してくれます。英語で書かれた言語学の入門書は数々ありますが、これほど「良い先生に会えた！」感を持てる本は（少なくとも近年は）他にありません。
言語データに基づいて文法を書くとは何か。これを明快な語り口で説明してくれるのですが、これがなんとも楽しい。よくある言語学系の神話（例えば「雪を表すエスキモー語の言葉」の話）に触れたり、理論に振り回されて肝心の言語理解がズッコケている例を出したり、折に触れて主要な文献を紹介してくれたり、かと思うと「サピアが何々していた時に…」という興味深い逸話を紹介したり、「私が何々語を調査していた時に…」という面白い体験談をしてくれたり…これはもう、教科書というより極上の教室というべきでしょう。「受講料」と考えると、この本は非常に安いと言えます。
近年の言語学は、最小理論とか最適化理論とか談話分析とか認知言語学とか文法化その他いろいろ、それぞれに面白いとは言え、なんだか都会を歩いているような疲れを感じるのも事実。時には山に登って良い空気を吸ってみると、「あれれ、本来こっちだったかな」という健康な気分を取り戻す。そんな本です。オススメです。
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