日本で、最近まで
本書をまともに読まれている方が非常に少ないことに驚く限りである。
Riehl をはじめ、世界的な人材を輩出しているPenn （Pierce 率いるペンシルベニア工科大学の情報系）と比べ、
日本と、世界とのレベルの隔たりが明確にあることを感じさせてくれる。
本書を読む前に、英語が日本語のように曖昧に文脈がとれる言語である、などという甘い考え方は捨てた方が良い。
もし、その程度の英語力で本書を読むくらいであれば、お金を払ってでも、英語の直訳（つまりは構文がとれる力）を明確に養う必要がある。（通常、センター試験でふるい落とすはずなのだが、）英語の直訳すらまともにできない大学生、社会人などが多すぎるのではなかろうか。通常、英語を日本語に直すとき、日本語の文書の曖昧性から英語の同等の文書より情報量が少なくなっている。ということが多々生じるのであるが、その行間を埋める作業が意訳であるとも言うことができる。（例えば、十分に英語の具体性を享受している人が読めば、あのような邦訳の出版にはならないであろう。）
また CoPL などの日本を代表する型推論の書籍と本書とを比べるのも少し趣が違うように思う。
本書 TaPL においては、（CoPL が古い高々ゲーデルの System T レベルで閉じた型推論器の実装であるのとは異なり）、その先50年の情報学科の発展がふんだんに盛り込まれている。
日本産 CoPL にはない、TaPL の有用性についてあげるときりがない。
* Untyped Lambda Calculus について言及がなければ、そもそもλ計算の面白み、有用性などが、
まるで消し飛んでしまう。これらは、System F や Infinite Type などを通じて、Type System の中で再現される。
* Subtype や、Existential Type などの融合で、
オブジェクトオリエントなプログラミングの型付け、隠蔽や継承の概念などが実現できることなど、現代のコンパイラの根幹をなす理論を形成することができる。
* System F に始まる、証明支援系言語への理解が、ラムダキューブを通じて図られ、pure type system, あるいは
dependent type system 強いて言えば、Homotopy Type Theory の基盤へと繋がる道が本書で与えられている。
* Algebraic Data Type 強いて言えば、W-types を理解するのに必要な、無限型、System F、などの概念が定義されている。
* 無限型における、部分型付けを例に、Coinduction / Induction と言った タルスキの重要な定理が事細かに記されており、マシンの安全性の証明をするための土台について学ぶことができる。
本書の日本語訳も私には相当悪い印象があるが、
それ以上に、「我々の英語に対する認識の甘さ」が、この希書を、通読する機会を奪っているのではないか。
と最近思う。
もちろん実装がついてあるので、
どれほど優秀な方であろうと二周は読める書籍ではないだろうか。
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