21世紀に入って暗転する世界の状況を見つめながら、もう人生の最後も遠くないという93歳の著者ステファン・エセル(Stephane Hessel, 1917-)が、若者の世代に「遺言」のように書き記したのが本書「君よ、憤るべし!」(Indignez-vous! Indigene edition, 2010)である。
本書には、著者よりひとまわり(12歳)年長の哲学者サルトルが登場する。が、本書は哲学的な思索や議論の書ではない。本書はなによりも行動の書であり、行動への呼びかけである。
本書の本文には「怒り」(la colere)という言葉は、引用文(p. 22)をのぞいて、一度も出てこない。著者は慎重に「いきどおり」(l'indignation)と「憤る」(s'indigner)をつかう。怒りは感情、それもとびきり激しい感情であるが、憤りは激発しておわる怒りではない。行動へのサンガジェ(s'engager, 自己拘束)を含むからである。
本書の発端は、レジスタンス運動60周年を記念する共同声明とその後の著者の発言にある。エセルは自らの青春をふり返りながら、ナチス・ドイツに対するレジスタンス運動の根底にあったモチーフ(動機)は憤りだといい、若い世代の一人ひとりに「憤りの動機」をもつように呼びかける。「わたしがナチズムに憤ったように、何かについて憤るひとは戦闘的になり、強くなり、アンガジェ(engage, 参加)するのだ」。そして、無関心であるのがいちばんいけない態度である、と。
しかし、ナチズムにたいして著者がいきどおり、「戦闘的(militant)」になったというとき、それは必ずしも武器をとって戦ったことを意味しない。ナチズムに対してさえ、エセルの抵抗は「フランス解放」のために、情報の収集と発信という「平和的蜂起」(une insurrection pacifique)を意味したのである。
レジスタンス運動に加わったエセルの戦後の活動は、一転して若き外交官として、1948年12月10日、パリのシャイヨ宮殿で、国連総会において採択された「世界人権宣言」(「人の諸権利の普遍的宣言」Declaration universelle des droits de l'homme)の起草とその採択に、フランスからルネ・カサン、ピエール・マンデス=フランスらとともに関わることになる。「世界人権宣言」の起草にたずさわった当事者の回想に接するのは稀有のことであり、戦中・戦後の著者の行動が「平和的蜂起」という点で見事に一貫しているのは、わたしには驚嘆すべきことに思える。
第二次世界戦争がおわってすぐ、1945年10月、サルトルは「実存主義はヒューマニズムである」と題する有名な講演をおこなった。ステファン・エセルは生涯をかけて同じ命題を生き抜いたと言えよう。
若者たちに「君よ、憤るべし!」と呼びかけた著者は、しかしながら「非暴力(non-violence)こそ私たちが追求すべき道だ」という。「暴力は希望に背を向ける、このことを私たちは学ばねばならぬ。暴力でなく希望を、非暴力の希望を選ばねばならぬ。」いわゆるブックレットの半分にも満たない小著であるが、著者は希望のメッセージをこのように高くかかげて本書をとじる。
パウル・クレーの水彩画「新しい天使」(Angelus Novus, 1920)をとびらにもつ本書は、扉絵と本文とが響きあって、21世紀初頭の激動する世界にあって、ひとは何に憤るべきかを明らかにしており、図像学(iconologie)の観点からもまことに興味ふかい。
本書は、21世紀初頭の、世界中の若者がいつも座右において、くりかえし味読し体得すべき珠玉の一編といえる。
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Indignez-Vous! ペーパーバック – 2010/10/21
フランス語版
Stephane Hessel
(著)
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- 言語フランス語
- 出版社Indigene editions
- 発売日2010/10/21
- 寸法12.7 x 0.3 x 21 cm
- ISBN-10291193976X
- ISBN-13978-2911939761
登録情報
- 出版社 : Indigene editions (2010/10/21)
- 発売日 : 2010/10/21
- 言語 : フランス語
- ISBN-10 : 291193976X
- ISBN-13 : 978-2911939761
- 寸法 : 12.7 x 0.3 x 21 cm
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2013年4月11日に日本でレビュー済み
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2011年11月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
フランスのレジスタンスの元闘士の93歳の作家が若者に「憤慨せよ」と呼びかける内容で、ベストセラーになった小冊子。
フランスは、「財布は右に、心は左に」ということわざがあるくらい、左派思想が知的伝統として根付いている。
人権、進歩、連帯という言葉が大好きだ。
そして、フランスには、ファシズムと戦ったレジスタンスに対する郷愁、ドゴール将軍に対する英雄信仰には絶対のものがある。
さらに、哲学者、知識人が今でも一定の威光を保っており、思想の力が死んでいない(この本でもサルトルに何度も言及される)。
正直、こういう政治風土や、国家理念や歴史や国民性を共有しない日本人にはバシっと響かない部分が多い。それに、老人の昔の自慢話の連続にはやや食傷する。
が、それでも、不況が深刻化し、格差社会やグローバル経済の弊害が取り沙汰され、若者が憤慨せず引きこもる日本で、こうした小冊子の呼びかけは無意味ではないかもしれない。
私自身は、世界人権宣言を読み返そうという気になったし、パレスチナ問題をもっと知ろうと思った。
お隣の国、韓国のハングル語にはすでに訳されているようだ。一つの国際的潮流を理解するうえでも、日本語への翻訳が待たれる。
フランスは、「財布は右に、心は左に」ということわざがあるくらい、左派思想が知的伝統として根付いている。
人権、進歩、連帯という言葉が大好きだ。
そして、フランスには、ファシズムと戦ったレジスタンスに対する郷愁、ドゴール将軍に対する英雄信仰には絶対のものがある。
さらに、哲学者、知識人が今でも一定の威光を保っており、思想の力が死んでいない(この本でもサルトルに何度も言及される)。
正直、こういう政治風土や、国家理念や歴史や国民性を共有しない日本人にはバシっと響かない部分が多い。それに、老人の昔の自慢話の連続にはやや食傷する。
が、それでも、不況が深刻化し、格差社会やグローバル経済の弊害が取り沙汰され、若者が憤慨せず引きこもる日本で、こうした小冊子の呼びかけは無意味ではないかもしれない。
私自身は、世界人権宣言を読み返そうという気になったし、パレスチナ問題をもっと知ろうと思った。
お隣の国、韓国のハングル語にはすでに訳されているようだ。一つの国際的潮流を理解するうえでも、日本語への翻訳が待たれる。
2014年8月5日に日本でレビュー済み
著者93歳、2010年発表のエッセーです。
この数十ページのマニフェストは、若い世代に怒りの力を保持する
よう奨励します。 最悪の態度は無関心だ、と言います。
個人の利益を基礎とした現状の経済システムを非難し、より平等の
富の分配を提案します。個人の参加のサルトル思想を指示し、富の
不平等の増大を受け付けず、フィヨン政府の移民政治を批判し、
政治選択での財政制度による偏りを残念がり、社会保証や引退後の
制度に関するレジスタンスの国政レベルの社会的継承の脆弱さを
非難してます。同様に大部分の頁をイスラエルとパレスチナの戦い
にあて、太平洋側の反逆と期待を説きます。パレスチナ問題への
怒りというタイトルの元、イスラエル国家によるパレスチナへの搾取
状況、特にガザ地帯を改善すべく専心しています。
この本は100カ国で400万冊以上売れました。スペイン、ギリシャ、
USAに起こった怒りの運動を増幅させました。
この数十ページのマニフェストは、若い世代に怒りの力を保持する
よう奨励します。 最悪の態度は無関心だ、と言います。
個人の利益を基礎とした現状の経済システムを非難し、より平等の
富の分配を提案します。個人の参加のサルトル思想を指示し、富の
不平等の増大を受け付けず、フィヨン政府の移民政治を批判し、
政治選択での財政制度による偏りを残念がり、社会保証や引退後の
制度に関するレジスタンスの国政レベルの社会的継承の脆弱さを
非難してます。同様に大部分の頁をイスラエルとパレスチナの戦い
にあて、太平洋側の反逆と期待を説きます。パレスチナ問題への
怒りというタイトルの元、イスラエル国家によるパレスチナへの搾取
状況、特にガザ地帯を改善すべく専心しています。
この本は100カ国で400万冊以上売れました。スペイン、ギリシャ、
USAに起こった怒りの運動を増幅させました。
他の国からのトップレビュー
Yazz
5つ星のうち5.0
Un livre que tout le monde devrait lire.
2023年11月12日にベルギーでレビュー済みAmazonで購入
En moins d'une heure, vous lirez le testament humaniste d'un grand homme.
Plein d'intelligence et de bienveillance Stéphane Hessel vous adressera l'expérience d'une vie pour bâtir un monde meilleur.
Plein d'intelligence et de bienveillance Stéphane Hessel vous adressera l'expérience d'une vie pour bâtir un monde meilleur.
Yazz
2023年11月12日にベルギーでレビュー済み
Plein d'intelligence et de bienveillance Stéphane Hessel vous adressera l'expérience d'une vie pour bâtir un monde meilleur.
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Monica
5つ星のうち5.0
If you're not part of the 1%, THIS SHORT ...
2016年11月28日にカナダでレビュー済みAmazonで購入
If you're not part of the 1%, THIS SHORT PAMPHLET IS A MUST READ (heck, the 1 per-centers should read it too)
It only takes 5-10min to read it and its a eye opener by one of the most influential thinker of the past century.
Thank you Mr Hessel, you will not be forgotten !
It only takes 5-10min to read it and its a eye opener by one of the most influential thinker of the past century.
Thank you Mr Hessel, you will not be forgotten !
JFR
5つ星のうち5.0
Gegen die Trägheit unserer Existenz
2015年11月24日にドイツでレビュー済みAmazonで購入
Indignez-vous ist die französische Fassung von "Empört Euch"
Kurz und einprägsam: eine Abrechnung mit unserer eigenen Trägheit und Denkfaulheit.
Einziger (kleiner) Makel: der Autor steht in der Tradition französischen "Résistance"
und hat Neigung, die Helden der damaligen Zeit (zu denen er selbst gehörte) ein
wenig zu verklären !!
Kurz und einprägsam: eine Abrechnung mit unserer eigenen Trägheit und Denkfaulheit.
Einziger (kleiner) Makel: der Autor steht in der Tradition französischen "Résistance"
und hat Neigung, die Helden der damaligen Zeit (zu denen er selbst gehörte) ein
wenig zu verklären !!
Taylor Leibbrandt
5つ星のうち5.0
Inspirational! Find your passion!
2014年4月18日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
This was one of the first books I ever read in my introductory French literature courses in college, and after re-reading this short essay I felt like I was 20 again and ready to find something to be passionate about. It's a quick read, and it will certainly leave you feeling inspired to take up a cause and to find your passion.
ERICLEROUGE111
5つ星のうち5.0
SIMPLE, SPLENDIDE DE...
2013年6月9日にフランスでレビュー済みAmazonで購入
Bonjour, femmes et hommes de bonne volonté n'ayant pas perdu le sens de l'humain et honneur du coeur. Ce livre est fait pour vous bien sur, car il nous rappelle ou nous apprend de vrais fondamentaux. Une vision simple, splendide de simplicité, de lucidité... Pas de parti pris. Juste un regard juste. Avec le coeur, la raison sereine d'un juste parmi les justes. Une vraie voie tracée voilà plus de soixante ans pour que jamais ne s'arrete le long et laborieux travail d'évolution et d'élévation de l'homme par lui même. Car il s'agit bien de cela, le monde devenu de plus en plus fou, fait fi de ses erreurs du passé et fonce vers une folie plus grande encore et risquant jusqu'au pire. Vous voyez le pire. Et bien encore pire... Alors oui, il faut rester confiant en l'humanité, l'humain, et en son coeur immense. Oui, indignons nous de ce pire et construisant enfin un monde à la hauteur de la beauté de cet univers et de celle de l'homme dans ce qu'il a de plus beau : son coeur, la compassion et l'Amour universel...
A lire et relire. A offrir et faire circuler.
Sincèrement nous tous...
Eric
A lire et relire. A offrir et faire circuler.
Sincèrement nous tous...
Eric