イギリスの作家ローズマリ・サトクリフ(1920-1992)の自伝。
幼い頃から病気で身体的な不自由を強いられたサトクリフが、その困難にも屈せず、自由な精神のもとに想像(創造)力をはばたかせ、作家になるまでの道がつづられています。
全体にウィットに富んだ語り口が貫かれる一方で、彼女が病身であったがために経なければならなかった周りの人々との葛藤、それがもたらした苦しみが、真正面からしっかりと語られてもいます。
なかでも母親との関係性の難しさについての記述は、胸にせまるものがありました。
「母はすばらしい人でした。・・・しかし、母は私がそのことを忘れぬように、感謝することを止めぬように、母の考えと違う意見を持たぬように、ずっと要求し続けました。」
悲しいことですが、人は「愛情」という体裁をとって他人を縛ろうとすることがあります。その最も有効な方法のひとつが、相手の弱さにつけこむというものです。
サトクリフの母の愛は、病身の弱い娘を守ろうとするあまり、そうとは意識しないままに、彼女を支配することに向かってしまったのかもしれません。
けれどもサトクリフは、人間としての自由を、尊厳を得るために戦い続け、執筆というかたちで自立を獲得したのです。
古代や中世のイングランドを舞台にしたサトクリフの歴史物語のなかで、私にとってとりわけ印象的なのは、若くして大きな怪我をおったり、軍略で大失態を犯したり、長きにわたる奴隷生活を余儀なくされたり・・・、と厳しい状況においこまれた、ある意味では「敗者」といえる主人公たちが、その弱い立場ゆえに課される行動の制約や不自由、嘲笑や偏見に、たびたび膝を折りそうになりながらも、どうにか屈せず、粘り強く生きていこうとする姿です。
こうした弱くとも力強く、精神の自由を希求してやまない人間像を、説得力をもって描き出すサトクリフの想像(創造)力の原点を、この自伝のそこここに見る思いがしました。
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思い出の青い丘: サトクリフ自伝 単行本 – 1985/5/30
ローズマリ サトクリフ
(著),
猪熊 葉子
(翻訳)
- 本の長さ311ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1985/5/30
- ISBN-104000002341
- ISBN-13978-4000002349
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1985/5/30)
- 発売日 : 1985/5/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 311ページ
- ISBN-10 : 4000002341
- ISBN-13 : 978-4000002349
- Amazon 売れ筋ランキング: - 620,415位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 393位イギリス・アメリカのエッセー・随筆
- - 5,918位英米文学研究
- - 100,784位ノンフィクション (本)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2004年9月17日に日本でレビュー済み
~海軍士官の娘として生まれ、当時のイギリスでは自由な家風に育ったローズマリは、小児まひを患い、行動を制約されてしまいます。その反面、北部イングランドの風土の中、想像の世界に心を躍らせ、あたかも吟遊詩人のように物語を紡ぎなしていく力を獲得して行くのです。2度の大戦、期待を裏切る結婚、頑迷な家族、思うように動かない己の体。全てが現実にお~~ける彼女への頚城であり、かつ物語る力を得るための神への貢ぎ物のようです。作品はケルト時代のイングランドを舞台としたものが多く、それが特徴と言われる作家ではありますが、それだけではなくその時代時代の弱者への共感が胸を打ちます。後期の作品では、肉体的なハンディを持った主人公という設定は少なくなっていますが、その時代時代での弱者を主人公~~、もしくは副主人公に据える点は最後の作品まで共通しています。読むたびに、彼女の境遇に思いを馳せ、涙を覚えるのです。~
2006年3月22日に日本でレビュー済み
どこの図書館でも、児童コーナーで必ず彼女の本に会えます。多くは、古代から中世ヨーロッパに舞台を置いた、少年達の成長の物語です。骨太でしっかりした物語で、時代考証も正確。登場人物も魅力的で、物語として、子供だった私にも本当におもしろかったのです。
当時の感想は、「こういうお堅い感じの本にしては、やけにおもしろい。」という事。そして、「主人公達の友情が感動的だけれど、やけに濃いなあ。」・・・でした。
そうして、大人になって改めて手にしたサトクリフに、私は仰天。彼女の本の登場人物たちの友情は、それはほとんど恋と呼ぶべき熱情でした。しかし、その瑞々しい感情、たくましい行動力、生命力、強い意志に、子供の頃よりももっと惹かれました。
そうして、この本に出会い、彼女の生い立ちや試練を知った時に、彼女が熱烈な友情を繰り返し書く事の理由が、わかったような気がしたのです。
彼女は下半身が不自由で、激しく愛した人が、他の女性と結ばれるのを見ているしかなかったのです。だから男女の愛ではなく、精神的な繋がりである友情を書きたかったのかも・・・などと。独断です。ごめんなさい。
この本の内容は、そのように彼女の厳しい生い立ちなのですが、決して暗くなく、読後感は、たくましく、強く、清清しく、おおらかな彼女のパワーを分けてもらったような気持ちでした。
当時の感想は、「こういうお堅い感じの本にしては、やけにおもしろい。」という事。そして、「主人公達の友情が感動的だけれど、やけに濃いなあ。」・・・でした。
そうして、大人になって改めて手にしたサトクリフに、私は仰天。彼女の本の登場人物たちの友情は、それはほとんど恋と呼ぶべき熱情でした。しかし、その瑞々しい感情、たくましい行動力、生命力、強い意志に、子供の頃よりももっと惹かれました。
そうして、この本に出会い、彼女の生い立ちや試練を知った時に、彼女が熱烈な友情を繰り返し書く事の理由が、わかったような気がしたのです。
彼女は下半身が不自由で、激しく愛した人が、他の女性と結ばれるのを見ているしかなかったのです。だから男女の愛ではなく、精神的な繋がりである友情を書きたかったのかも・・・などと。独断です。ごめんなさい。
この本の内容は、そのように彼女の厳しい生い立ちなのですが、決して暗くなく、読後感は、たくましく、強く、清清しく、おおらかな彼女のパワーを分けてもらったような気持ちでした。