デマ、流言、噂、風評、そして都市伝説などについての何らかの学術的な考察がなされるときには多くの場合本書について言及されるが、その言及の姿勢において文章の書き手の力量が試されるのではないだろうか。すなわちこれを肯定的に引用するならばその引用者はそれほど優秀ではない。逆に批判するならばそこからが客観的な考察の始まりである、というように。というのもこの『デマの心理学』はいわゆる口頭伝承の研究書としてはかなり稚拙なものだからだ。たとえば彼らの見解には多くの誤謬があることが指摘されている。彼らはデマを「口伝えによる伝達内容の変化」として捉えたのだが、その過程でデマは①短く簡単になる、②内容の一部が強調される、③内容が社会的な通念に従って改変されると考えた。だが実際にはデマはむしろ内容が長くなる(尾鰭が付く)し、それゆえ内容の一部が強調されるどころか多様な内容が付け加わる。さらに「社会的な通念」とデマを一体どのようにして分離するのか、という問題もある。社会的な通念の構成要素としてデマもまた存在するのではないか、ということだ。したがってオルポート&ポストマンの理論は所詮実験室で形成されたものでしかなくて、現実のデマへはとても適用できないし、適用したとしても何も明らかにはならない。有名な「R~i×a」という公式にしても、iは「重要さ」というのだが、果たしてどの程度の「重要さ」なのだろうか? デマが広まったあとで、「広まったからには重要だったに違いない」と判断されたにすぎないのではないだろうか? また、「曖昧さ」とは一体「何の」曖昧さなのだろうか? 「曖昧さ」というそれこそ曖昧な言葉ならば、対象が何であれ必ず使えるのだ。
何よりオルポート&ポストマンの『デマの心理学』には、オルポート&ポストマン自身の人種的偏見が含まれた考察であり、決して中立的ではないこともすでに指摘されている。だからこんなものに頼ってデマを考察しても見当外れの結論に至ることは自明である。
またこの日本語訳は古いこともあって、本文の漢字は悉く旧字体で読みづらいし、苦労して読んだとしても得るものは少ない。
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デマの心理学 (岩波現代叢書) 単行本 – 1952/10/15
- 本の長さ281ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1952/10/15
- ISBN-104000014307
- ISBN-13978-4000014304
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1952/10/15)
- 発売日 : 1952/10/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 281ページ
- ISBN-10 : 4000014307
- ISBN-13 : 978-4000014304
- Amazon 売れ筋ランキング: - 774,805位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2020年1月29日に日本でレビュー済み
南博氏が訳されているが、目次を追ってみると、「戦時のデマ」・「デマはなぜ流れるか」・「証言と想起」・「デマの実験」・「実験の結果」・「歪みの基本形」・「社会におけるデマ」・「デマの分析」となっている。当時と現在では情報のありようが全く違うが、「デマ」というものをわざわざとりあげて意識したことは評価できる。これは社会心理学では見逃すことの出来ない好著であったのだろう、訳者の南博氏はその著書「体系社会心理学」の中では「デマ」を10ページにわたって取り上げている。
内容であるが、第10章「デマの分析」では、「自分の耳や眼に入る話を充分に疑ってみること(過度に神経質になることなく)、さらに自分自身の信じ得る過去の経験、でき得れば客観的な確かな証拠でもってその話を検討してみる習慣が必要であることはいうまでもない。」と書かれているのは、今も通用するところだろう。
現在のネット社会では、悪意を感じるデマが多いし、加工したりして手口も巧妙になっている。バノンやトランプの「フェイクニュース」も有名であるが、私達はネットやメディアで「演出情報」にまみれている。古い本ではあるが、この本から著者オルポートの大切なメッセージを受け取れば良いと思う。1974年で18刷発行、価格は800円。
余談であるが・・・目次のあとのページに、「エドウィン・G・ボーリングへ」とだけ書いてあり、その裏に「ウェルギリウス(セバスティアン・ブラント校訂)全集シュトラスブルク・グリューニンゲル版1502より」の絵と、当時のデマを意味する文章(当時の風刺詩集で「風聞」と訳されてある)があるのは、コーネル大学で大先輩の心理学者「ボーリング」を知っていて、彼に「捧げる」というような南氏のメッセージなのだろうか。??
内容であるが、第10章「デマの分析」では、「自分の耳や眼に入る話を充分に疑ってみること(過度に神経質になることなく)、さらに自分自身の信じ得る過去の経験、でき得れば客観的な確かな証拠でもってその話を検討してみる習慣が必要であることはいうまでもない。」と書かれているのは、今も通用するところだろう。
現在のネット社会では、悪意を感じるデマが多いし、加工したりして手口も巧妙になっている。バノンやトランプの「フェイクニュース」も有名であるが、私達はネットやメディアで「演出情報」にまみれている。古い本ではあるが、この本から著者オルポートの大切なメッセージを受け取れば良いと思う。1974年で18刷発行、価格は800円。
余談であるが・・・目次のあとのページに、「エドウィン・G・ボーリングへ」とだけ書いてあり、その裏に「ウェルギリウス(セバスティアン・ブラント校訂)全集シュトラスブルク・グリューニンゲル版1502より」の絵と、当時のデマを意味する文章(当時の風刺詩集で「風聞」と訳されてある)があるのは、コーネル大学で大先輩の心理学者「ボーリング」を知っていて、彼に「捧げる」というような南氏のメッセージなのだろうか。??
2011年4月14日に日本でレビュー済み
数十年前の初版をデジタルスキャンして再刊行したもののようで、活字や字体が古く汚く読みにくい。また、初版に収められていた重要ないくつかの図や写真が完全に欠落しているので、まったく意味の通らない箇所が散見される。たとえば図1、図8などは本文で詳細に解説されて重要な意味を持つようなのに、欠落しており、読者としては非常に混乱し失望する。もともと冗長な説明の多い原書なので3200円で購入した読者はどう感じるであろうか。簡潔に述べれば、「デマは受け手の都合のよいように変えられて次に伝えられてゆく」という自明な結論しか得られず、その実験手法にしても小学生の「伝言ゲーム」のレベルであり、社会心理学の実験としても時代遅れのものと言わざるをえない。オルポートの仕事のなかでも決して出色のものとは言いがたい。米国に留学した南博氏の訳文もこなれているとは言いがたく、南氏自身による解題がないのもまことに不思議で残念である。このようなレベルの本をわざわざ復刻する出版社の意図もわからない。せめて十分に校正したものにしない限り故南博氏に対しても失礼なのではないだろうか。