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ローマ帝国の東西分裂 単行本 – 2016/3/24

5.0 5つ星のうち5.0 1個の評価

ローマ史上の画期とされる帝国の東西分裂とは、何だったのか。ルフィヌス、エウトロピオス、スティリコ、アラリックら、歴史を動かした文武の官僚たちを主人公に、ローマ帝国の解体過程を描き出す。膨大な研究史の洗い直しと緻密な史料分析をふまえて古代史の大問題に取り組み、新しい歴史像の提示を試みる一書。
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登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 岩波書店 (2016/3/24)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2016/3/24
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本 ‏ : ‎ 352ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 400002602X
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4000026024
  • 寸法 ‏ : ‎ 14.8 x 2.9 x 21 cm
  • カスタマーレビュー:
    5.0 5つ星のうち5.0 1個の評価

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上位レビュー、対象国: 日本

2020年4月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
学術書ですが、少々誤解を招きそうな目次となっています。本書は行政官僚と行政機構から見た紀元400年前後30年間程のローマ帝国の政治行政史です。章題が人物名となっているため一見列伝風に見えてしまうのですが、実際には副題の方が内容に相応しい書籍です。

以下は副題を除いた各章のタイトルです。

第1章 問題の所在
第2章 シュンマクス
第3章 ルフィヌス
第4章 ルキアノス
第5章 エウトロピオス
第6章 スティリコ
第7章 アラリック
終章-ローマ帝国の東西分裂とは何か

そこで、内容を分かりやすく示すために、副題と題名をひっくり返し、副題に補足を加えてみました。この方が内容にしっくりきます。

第1章 問題の所在                    ‐ローマ帝国の東西分裂をめぐる学説史と現在の課題
第2章 「永遠の都」ローマ市と食糧供給          ‐ローマ市長官シュンマクスと帝国西部宮廷(384年)
第3章 新しい「首都」コンスタンティノープル市の官僚の姿 ‐オリエント道長官ルフィヌス(390年代前半)
第4章 帝国東部宮廷における官僚の権力基盤        ‐オリエント管区長官ルキアノス(390年代前半)
第5章 帝国東部宮廷における宦官権力の確立        ‐宦官エウトロピオス(390年代後半)
第6章 帝国西部宮廷における「蛮族」の武官と皇帝家の論理 ‐スティリコ家の権力表象(398‐408年)
第7章 イリュリクム道の分割と帝国の分裂         ‐364年から399年のイリュリクム道の変遷
終章-ローマ帝国の東西分裂とは何か

行政史研究書であるため、人物伝や人物批評的なものはありませんが、ルフィヌス、ルキアノス、エウトロピオスについては、その権力獲得過程が行政制度の発達そのものであるため、バイオグラフィ的要素も持っています。一方スティコの章は、スティリコとテオドシウス家との婚姻の表象を通じた権力分析となっていて、ほとんどスティコその人についての話はなく、第7章に至っては、本文33頁中アラリックの名前が登場するのは24頁目で、その後も行政制度との関わりで名前が登場するくらいで、これにアラリックの表題をつけるのは無理なのではないかと思われる内容です。

私は研究者ではないため、論旨について論評する能力はないのですが、これまでこの時代(4世紀後半から5世紀)の社会分析は、テオドシウス法典やローマ法大全に基づいた後期専制官僚&強制国家論、比較的文献史料の多く残るアンティオキア史(ティンネフェルト『
初期ビザンツ社会 』等)、及びキリスト教文献中心の司教権力や修道院経済等、の三極に分かれた研究中心で、地中海世界全体の経済や社会を包括的に描けている感じがしませんでした。本書は対象を絞っているため、取り上げられている部分については充実感があります。しかし一方、本書の対象となっていない部分、例えば、390年頃から410年頃の帝国西部の行政、400₋410年頃の東部宮廷行政などについても、同じ密度で扱われいる章が何章かあれば、4世紀末前後30年間の政治行政史の全体像に到達できていたのではないかと思います(そしてやはりその後の8世紀前半までの旧西方及び東方領土全体の変遷が、この密度で総合的に描ける日が来る未来を夢見ています)。その他心性史・社会史、キリスト教の動向、経済基盤(この時期の経済格差拡大の出典がパトラジアンの書籍のタイトルだけ等)などをも加味して包括的な時代像に到達できるのだと思われます(この辺りは本書の母体である博士論文論旨に記載されている内容と同感想です。博論要旨は、「ローマ帝国の東西分裂 要旨 PDF」で検索すると出てきます。

本書でも紹介されていますが、日本でも帝政後期の地方行政研究(田中創氏等)や帝政時代のギリシア語圏の政治行政社会史研究(桑山由文氏等)が進みつつあり、今後の研究の進展や発表も楽しみです。

これまでローマ帝国衰亡に関しては、大きな歴史像が先行し、研究時代の手法に大きく依存した時代像となることが多く(文学作品や宗教文献を利用した政治史/法律史料を利用した経済・行政史等)、また単なる一国家の衰亡ではなく文明の衰亡と重ねあわされて理解されてきたため文明論や歴史哲学の議論が影響を及ぼすことが多かった分野ですが、現在膨大な出土碑文や考古学、環境史等との連携により研究が深まる中、とりあえず必要なことは時代像全体に関する結論を急がないことが大事なことなのではないかと考える次第です。一見重箱の隅に見えそうなのは、ローマ帝国が広大であるが故に大所高所から語るナラティブにとっては細部に見えるだけで、実際には細かいわけではないわけですから、今後とも地道な細部の研究が積み重ねられていって欲しいと願う次第です。

本書でもっとも大きく印象に残った事項のひとつは、ローマ市の都市行政と西ローマ帝国行政の間の、現実と認知双方での分離というものです。ローマ市に供給されていたエジプトの穀物はコンスタンティノープルへと主な供給先を替えたことにより、ローマ市の人口をほぼ西方属州だけで養う必要に陥ったものの、西方属州はエジプト穀物の不足分をローマ市に送付する追加負担への動機づけが低く、ローマ市自体にはそれを属州に命じる権限も権威もなく、しかもローマ市行政側には、属州あっての都市ローマの維持が可能であるという認識が低下していて、ローマ市長官がローマ市に所在した属州民(史料には外国人(peregrini)と書かれている※)の退去を命じるという事態に陥っていた、との部分です。

※引用されているマルケリヌスは、「ローマ市壁の外で生まれた者」と形容している。

西方属州内で自給する首都としての経済行政機構の再編ができず、ローマ市長官が食糧の供給を「西皇帝政府経由」で属州に要請している一方で都市ローマ規模の枠内での行政しか考えていないのであれば、早晩「都市国家」で養える人口規模の都市へと縮小されざるを得なくなることは明らかで、その後のローマ市陥落から教皇&ラヴェンナ総督府時代へ至る、都市ローマと広域政府のずれにつながる要素は、既に4世紀末に顕在化していた、ということのように感じられました。ここからは、東方が求心力のある新都と皇帝顧問会政治の構築に成功して高い社会流動性を維持し、まがりなりにも後期皇帝政府行政の延長線上の東方行政制度を運営せしめたのに対し、首都と皇帝政府行政の調和が「守旧的価値観」により阻まれ、西方全体での高い社会流動性が失われてしまい、成功していたら西方政府の存続をなしえたかも知れない「武官政治」が未完で終わってしまった、という構図がひとつ浮かび上がって来るわけですが、西方での社会的求心性の低下は、3世紀初頭をピークとする碑文文化の衰退や度重なる分離政権の成立などにも観測されるところで、単にローマ市だけの問題ではなく、より広いパースペクティブでの分析の蓄積が求められる、ということのような気がしました。

この時期以降帝国は分裂し、それに伴い、ローマ市主観、イタリア主観、西欧主観、当時の「ローマ帝国の住民(ローマ人(※ローマ市の市民という意味ではない)」主観、当時の教会人主観等、現代の研究者や読者、当時の多様な階層/地域の多様な人々の性質/属性により、研究対象/観察者双方において主観が多様化し拡散してゆく時期なので、どの観点に同調するか・フォーカスするかで時代像/歴史像が大きく異なってくるわけで、このあたりの事情を可視化・明確化して、このあたりの事情含めて一般向けにもわかりやすく解説しないといつまでもすれ違いの論争が続くばかりではないかとの懸念があります。多くの一般読者は正確な情報を知りたいと思っているわけですが、学術側や著作家がさまざまな衰亡論を提示するだけでは、結局読者は自分の好みに合ったナラティヴで描かれた衰亡論を「真実の歴史」だと選択するだけなので、かみ合わない論争は一向に収束しません。性急に無理に諸説を統合する著作を出したところでこれまでの諸説に新説が一つ加わるだけで決定打とはなりえない段階です。ローマ帝国衰亡論の主要なナラティヴの紹介だけではなく、その背景と論争構造にまで立ち入ってわかりやすく一般向けに解説することが必要だと愚考する次第です(今月発売の『論点・西洋史学』で紹介されているのかもしれませんが)。個人的には、現在は未だに、19-20世紀前半に調査されたローマ遺跡の年代測定等を全部最新技術でサーベイしなおす必要すらある段階に過ぎないのではないかと考えています)。南雲氏には、全体像に迫ろうとする意欲と、結論の時代像ありきでなく、細部を詰める研究からボトムアップする姿勢を、本書には感じました。今度も地道な研究の積み重ねを期待したいと考える次第です。
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