物性物理学の主役は「固体」であるが、本書は世界的に見ても珍しい「液体」に焦点を当てた、物性物理学の専門書である。最近、電気化学や液体中での生体分子の物性が注目を集め、活発な研究がなされているが、その為には溶媒となる液体の物性についても深い知見を持っておかねばならない事に気が付いた研究者が増え始め、本書が再びスポットライトを浴びる日が来たのだと思う。
著者の一人は日本が誇る理論物理学者・戸田盛和先生も加わっており、特に第2章の分子間力の考察は俊逸である。
初版は1970年代であるが、第5章では計算機実験（分子力学・モンテカルロ）における議論もなされており、コンピューターの性能が当時に比べ各段に上がり、より正確で難しい問題が解ける様になった今日から見ても、こういった時代が来るのをまるで予測していたかのような、古臭さを感じさせない議論が展開されている。
本書は教科書と言うよりかは、どちらかと言うと研究者の為の貴重な資料的な存在の様な気がする。
読むために必要な知識はまずは統計力学であるが、数式がわんさか載っているのではなく、実験データや理論式の結果が掲載されていて、自分の研究テーマに近い章から拾い読み的に学ぶ事ができるので、独学で全章を学ぶ必要性はあまり感じないように思える。
しかし当時の一流物理学者達が執筆しただけあって、各章とも電気化学・コロイド科学・バイオマテリアル・相転移物理学など多岐に渡る研究のヒントが散りばめられていて、私も大変お世話になっている。
これから液体に関連した研究をする人は是非買ってみて損はないだろう。
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