ペンギン研究者として名高い上田一生さんの著書。
動物学的な観点でペンギンを紹介する本は多数ありますが、人類史からペンギンを観察すると言うのは非常に珍しいアプローチだと思います。
その内容の広さと深さは看板に偽り無し。
紀元前の南米から始まり、大航海時代を支え、文学史にその名を残し、世界中の動物園で多数飼育されるようになっていくペンギン達の歴史を、多数の貴重な資料から紐解いてくれます。
「昔はどこの家でもペンギンを飼っていたものさ」と語る南米の老漁師の思い出話は羨望を覚えずにはいられません。
さらに著者は北半球のペンギン「オオウミガラス」がいかにして狩り尽くされていくかにも触れ、「初代ペンギン」と呼ばれたオオウミガラスは実は、初代ではなく南半球のペンギンと同時期に「ペンギン」と呼ばれるようになったのではないか、という説を多数の文献から説明してくれます。
そして始まる大航海時代、厳しい航海を経て西洋人が始めて目にした南のペンギンを、どう表現して来たか。
大航海時代という言葉を知らない人は居なくても、その中でペンギンが果たしたとても大きな役割を知らない人は多いのではないでしょうか。
それは第一に、厳しい航海を経て全滅寸前だった水夫達を救った貴重な食料として。
世界一周を成し遂げたマゼラン艦隊を始め、ポルトガル人、スペイン人、オランダ人航海士たちが入れ替わり立ち代り、「ペンギンが埋め尽くす島」に立ち寄り、彼らを食料として何千羽も船に積み込んでいくその様を、臨場感たっぷりに彼らの残した記録から紹介してくれます。
やがてペンギンはただ餓えた水夫の腹を満たす食料から、遥か南の冒険を象徴する存在へと変わっていき、欧米人にとって胸踊る冒険譚や南方の地図、急速に広まった博物学やその書籍、さらにはロビンソン・クルーソーを始めとした様々な文学の中にまでその名前を残すようになっていきます。
当時の人々が記したペンギン図や挿絵、世界地図などイラストも多数載せられており、いずれも非常に貴重な資料だと思います。
そして終盤には日本人とペンギンの関係が紹介されますが、遡る事なんと江戸時代、六代将軍徳川家宣に仕えた政治家であり博物学者でもあった新井白石がその著者の中に「ペフイエゥン」と記載したのが最初なのだとか。
もちろん彼が実物を見る事は不可能だったので、日本を訪れた数少ない外国人たちの話や資料が元になったのですが、それでも江戸時代には既にペンギンを知る人が居たというのは驚きです。
非常に密度の濃い、しかしペンギンという存在と人類の関わりを知るには、またとない本だと思います。
ただ可愛いだけじゃない、ペンギンへの造詣をより深めたいと思う人にお勧めです。
余談ですが、一部で有名な「ペンギンを蒸す機械」についても、本書ではきっちりその経緯と顛末、なぜ廃止されたかまで記載されています。
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ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ 単行本 – 2006/2/22
上田 一生
(著)
波乱万丈のペンギンの文化史を図版満載でお届け
- 本の長さ297ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2006/2/22
- ISBN-104000059777
- ISBN-13978-4000059770
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商品の説明
著者からのコメント
野生動物をテーマにした本のほとんどは、動物の行動や生理・生態について生物学的に記したものです。生きものを「歴史叙述の対象」とする場合は、それが「人間にとって極めて有用である」場合に限られてきました。家畜やペット、害獣や害虫、農作物や花卉などが中心です。つまり、野生の生きものは「歴史叙述の対象外」という暗黙の了解があったのです。
これは、人間が自然を「克服すべき敵」として生活していた時代は「正しい認識」だったでしょう。しかし、現在、人類がおかれている環境を考えた場合、「野生の生きものと人間の関係史」に関する知識は、人類の存続を左右する重要性をおびてきていると思うのです。
ペンギンの様々な図像を楽しみながら、野生動物と人間との未来に思いをはせていただければ幸いです。
これは、人間が自然を「克服すべき敵」として生活していた時代は「正しい認識」だったでしょう。しかし、現在、人類がおかれている環境を考えた場合、「野生の生きものと人間の関係史」に関する知識は、人類の存続を左右する重要性をおびてきていると思うのです。
ペンギンの様々な図像を楽しみながら、野生動物と人間との未来に思いをはせていただければ幸いです。
著者について
1954年東京に生まれる.國學院大學文学部史学科卒業
現在—ペンギン会議研究員
目黒学院高等学校教諭
著書—『ペンギン図鑑』(文渓堂)
『ペンギン・コレクション』(平凡社)
『ペンギンの世界』(岩波新書)
訳書—トニー・D・ウィリアムズほか『ペンギン大百科』(平凡社,共訳)
ジョン・スパークス,トニー・ソーパー『ペンギンになった不思議な鳥』(どうぶつ社,共訳)
R&F・アトウォーター『ポッパーさんとペンギン・ファミリー』(文渓堂)
現在—ペンギン会議研究員
目黒学院高等学校教諭
著書—『ペンギン図鑑』(文渓堂)
『ペンギン・コレクション』(平凡社)
『ペンギンの世界』(岩波新書)
訳書—トニー・D・ウィリアムズほか『ペンギン大百科』(平凡社,共訳)
ジョン・スパークス,トニー・ソーパー『ペンギンになった不思議な鳥』(どうぶつ社,共訳)
R&F・アトウォーター『ポッパーさんとペンギン・ファミリー』(文渓堂)
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2006/2/22)
- 発売日 : 2006/2/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 297ページ
- ISBN-10 : 4000059777
- ISBN-13 : 978-4000059770
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,150,033位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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