「反対のための反対」よりもはるかに有害な「改革のための改革」。
著者の言うとおり、教育を取り巻く言論では変えることが善、変えないことが悪といった風潮が蔓延している。
教育分野において危険なことはアメリカやイギリスを手本にした改革を行おうという方向性である。これこそ有害な改革のための改革である。著者もデータを用いて具体的に説明しているように、アメリカやイギリスの教育改革は失敗と言っても言いレベルのものである。管理主導・政治主導という方法論や派手な見た目に幻惑されるだけの有害なものである。外国のモデルを導入するなら地味であっても堅実なフィンランドやシンガポールを参考にすべきである。
しかし、そもそも外国をモデルにする必要があるのかというのが著者の意見であろう。TIMSSやPISAといった国際的な学力テストでは日本は間違いなく高水準にある。少なくともアメリカやイギリスよりは遙かにましな状況である。基礎学力の向上が世界的な潮流となっている現在、日本の教育モデルが世界から参考にされているのに、モデルとなる日本が潮流と逆行した改革に乗り出しているのは悲喜劇といえよう。
これまで義務教育の充実に力を注ぎ、基礎学力の形成と国力の増強に寄与した日本の教育。昨今盛んな格差社会論の解決には基礎教育の充実こそが最良の処方箋(即効性は全くないがこれ以上の策はない)であるのに、格差社会を助長するような方向へ教育が進みつつあることに著者は危機感を抱いている。ここでこそ変えない勇気を発揮して世界のモデルとなる教育政策を実現を期待したい。
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教育改革のゆくえ: 格差社会か共生社会か (岩波ブックレット NO. 688) 単行本 – 2006/11/2
藤田 英典
(著)
- 本の長さ71ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2006/11/2
- ISBN-104000093886
- ISBN-13978-4000093880
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2006/11/2)
- 発売日 : 2006/11/2
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 71ページ
- ISBN-10 : 4000093886
- ISBN-13 : 978-4000093880
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,177,200位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2010年12月15日に日本でレビュー済み
本書は、教育改革や教育政策に関して著者がなさった、比較的最近の講演の
レジュメと記録をベースにして再構築したものである。
本書の秀逸なところは、実際に行われている教育改革を精査・分析しながら、
それらは多くの点で「改革のための改革」となっていて、「改善」には繋がって
いないことを鋭く指摘している点である。
著者が述べているように、社会全体において「改革すればよくなる」とばかり
に捉えて、何の「必要性」も「ビジョン」もないところに、トップダウン的に「変な」
改革ばかりが行われているのが現状だろう。言わずもがなだが、改革したことに
よって「悪く」なることだって十分にありえることを冷静に捉えたいものである。
本書の一番の主張はそこにある。すなわち、「改革」という名の下に、「世界
的に見ても優れた教育基盤を崩している」(p. 27)ことを痛烈に批判している
のである。
教育への成果主義の導入も、イギリスの教育改革による弊害を見ればすぐに分かる
はずなのに、なぜか後を追おうとしているし、教員免許更新制もその成立から
して、著者が述べているように、ビジョンや必要性も感じない。習熟度別クラス
で格差は広がり、極めつけのゆとり教育の弊害は今さら言うまでもないだろう。
これらは、明らかに「改革」の負の部分であり、その弊害を克服しようと、現状を
精査せずに「改革」を進めるものだから、負の循環に入っているような印象を受ける。
政治家や政策担当者の責任は極めて重大だと感じる。
現場の先生方の声は耳に入っていないのだろうか?
本書は、こういった「改革」という名の下の教育劣化を痛烈に指摘した、非常に
意義ある本である。こういった意義ある書籍や、現場の先生方の声が届かない
教育改革とは、さて?
本書は、教育関係者には特に意義深い本である。
レジュメと記録をベースにして再構築したものである。
本書の秀逸なところは、実際に行われている教育改革を精査・分析しながら、
それらは多くの点で「改革のための改革」となっていて、「改善」には繋がって
いないことを鋭く指摘している点である。
著者が述べているように、社会全体において「改革すればよくなる」とばかり
に捉えて、何の「必要性」も「ビジョン」もないところに、トップダウン的に「変な」
改革ばかりが行われているのが現状だろう。言わずもがなだが、改革したことに
よって「悪く」なることだって十分にありえることを冷静に捉えたいものである。
本書の一番の主張はそこにある。すなわち、「改革」という名の下に、「世界
的に見ても優れた教育基盤を崩している」(p. 27)ことを痛烈に批判している
のである。
教育への成果主義の導入も、イギリスの教育改革による弊害を見ればすぐに分かる
はずなのに、なぜか後を追おうとしているし、教員免許更新制もその成立から
して、著者が述べているように、ビジョンや必要性も感じない。習熟度別クラス
で格差は広がり、極めつけのゆとり教育の弊害は今さら言うまでもないだろう。
これらは、明らかに「改革」の負の部分であり、その弊害を克服しようと、現状を
精査せずに「改革」を進めるものだから、負の循環に入っているような印象を受ける。
政治家や政策担当者の責任は極めて重大だと感じる。
現場の先生方の声は耳に入っていないのだろうか?
本書は、こういった「改革」という名の下の教育劣化を痛烈に指摘した、非常に
意義ある本である。こういった意義ある書籍や、現場の先生方の声が届かない
教育改革とは、さて?
本書は、教育関係者には特に意義深い本である。