著者の母親は、高齢者施設のショートステイ利用中に転倒、
数日後急変し入院、脳挫傷と診断、その後他界される。
家族は施設に賠償と説明責任を求めるが、提示された額や
転倒の際の状況に納得できず、結局訴訟を起こすこととなった。
著者は元新聞記者とのことだが、その割に文章は感情的で
被害者家族の愚痴を本にしたレベルである。
事故が起こるまで、著者は母親を妹に任せきりにしていた。
記者時代に介護の記事は書いたことがあるようだが、介護について
ほとんど理解がされていない様子が伺える。
本を出版するなら、きちんと介護を理解するべきだったのでは
ないか。著者と同じように施設で事故にあった家族ばかり熱心に
取材し、高齢者施設や介護保険の現状については軽くしか
触れていない。
実際、高齢者施設での転倒は防ぎようがないのが現状である。
２４時間マンツーマンで見守ることは不可能。いくら注意して
いても、他の利用者に何かがあればそちらに神経を集中
しないといけない。特に夜間は病院と違い、部屋のモニター
監視をするわけにもいかず、精神科の様にベッドにしばりつけて
拘束するわけにもいかず、利用者の行動のすべてを職員が見るのは
不可能なのである。
しかし、不可能を可能に近づけようと日々介護職員の方は奮闘
されている。このような現状も丁寧に取り上げるべきだと思う。
この本に取り上げられた事故に携わった職員はその後施設を辞めて
しまっているようだ。それが悲しい。
著者は施設や職員のミスだと押し切ってしまっているが、その中身を
もっと丁寧に取材してほしかった。裁判では言えない職員の言い分
など色々あるはずだ。
本の初めには介護職員の給与や勤務状態などの待遇が悪いというような
一文があるが、それについてはそこだけで終わっており、
母親の事故との因果関係については一切触れられていない。
今後、同じように施設のショートステイを利用する人に
何を伝えたいのかも全くをもって曖昧。この本だけでは「高齢者
施設は怖いところ」という偏見をもち終わってしまう。
著者のアメリカ好きも気になるところ。あらゆるところに「アメリカ
だったら」というような箇所があり、訴訟大国アメリカと日本を
比較し勝手に憤っている。アメリカの介護の現状についてはまったく書かれて
いないのに、訴訟の部分だけを比較するのは浅はかとしか言いようが無い。
以上、この著書には全く専門性がなく、これを読んだ家族や介護職員は
恐怖におののくだろう。介護の裁判について書かれた著書が無いので
読んでみたが、ただただ失望。著者の「施設にうちのお母さんが
殺されました！」という感情を冷静ぶって本にしただけの駄作である。
この手の本を読んで、あまりレビューを書こうという気にならないの
だが、この本ばかりは書かずにはいられなかった。
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