「四人の母親の軌跡を追うことで、虐待は「家族病理」であって親も心にさまざまな葛藤や傷を抱え込み、悩み苦しんでいる姿を浮き彫りにした」良質のルポルタージュである(P.285)。
第一章は、結婚相談所で紹介された男性(再婚)の、2歳2ヶ月の連れ子(女児)を殺した25歳の女性。定時制高校中退。加害女性は4歳の女児を連れた再々婚。8月に入籍して、11月から同居が始まって、初めて暴力をふるったのが11月10日。致命傷の一発が1月28日で、30日に死亡している。被害児は、突然目の前に現れた知らない女性から、わずか3ヵ月で殺されるとは、夢にも思わなかっただろう。特に、保育園を退園させられた新年からは、壮絶な毎日だったと想像される。
第二章は、2歳女児を虐待する准看護師。加害女性自ら警察に出頭することで、最悪の事態は避けられた。
第三章は、プロテスタントの両親から生まれた四大卒。加害女性が精神科に通院し、夫と別居し、二歳の女児を乳児院に預けることで、最悪の事態は避けられた。
第四章は、東大卒の父が紹介した、7歳年上のマザコンと見合い結婚した女性。「母と子の関係を考える会」への参加や、「子ども虐待防止センター」のスタッフを経て、「原宿相談室」でカウンセラーとして働くようになっている。
たった四つのケースから何も結論など出すことはできないが、ひょっとしたら、加害者のインテリジェンスが高い場合、虐待は収束し、最悪の事態は避けられるかもしれないということである。第一章は定時制高校中退、第二章は准看護師、第三章は四大卒、第四章は桐朋学園大中退(父は東大卒)である。やはり、「虐待環境」というようなトポス性があるとしか思えない(P.197)。「多問題家族」、「被虐待児症候群」と呼ばれたこともある。
また、虐待家庭では、朝起きてから寝るまで四六時中叫び声が上がっているかと言えばそんなこともないようだ。第一章のケースでは、致命傷を与えた翌日(死亡前日)、加害女性は、実女と連れ子(被害者)の三人で、「気分転換に買い物に出かけ」ている(P.47, 50)。
だから、「虐待というのはいきなり子どもの頭蓋骨陥没からはじまるとは思えない」というのはその通りで(P.iv)、最初は軽いネグレクトや平手打ちから始まる。しかし、徐々に、確実に虐待は進行し、加害者と被害者を濃密な虐待関係に追いつめていく。それは、愛し合うのと同じ密度で、虐待し、虐待されていく。まさに消耗戦で体力勝負だから、必然的に大人が勝つ。絶対に勝てない。勝てるとすれば、うっかり生き延びて大人になってから復讐する時である。
頼むから生き延びてくれ、と願うしかない。
最後にちょっと一言。アメリカ帰りの「臨床ソーシャルワーカー」は、「子どもを虐待から守るという社会システムをみると、日本は現代から石器時代にタイムスリップした感じです」と言う(P.236, 248)。アメリカでは「ソーシャルワーカーの権限がすごく大きい」らしい(P.240)。なんだかファシストの臭いがして嫌だ。
¥2,310¥2,310 税込
ポイント: 23pt
(1%)
配送料 ¥480 6月21日-23日にお届け
発送元: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店 販売者: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店
¥2,310¥2,310 税込
ポイント: 23pt
(1%)
配送料 ¥480 6月21日-23日にお届け
発送元: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店
販売者: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店
¥80¥80 税込
配送料 ¥240 6月9日-11日にお届け
発送元: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】 販売者: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】
¥80¥80 税込
配送料 ¥240 6月9日-11日にお届け
発送元: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】
販売者: バリューブックス 【防水梱包で、丁寧に発送します】
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
虐待: 沈黙を破った母親たち 単行本 – 1999/5/26
保坂 渉
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥2,310","priceAmount":2310.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"2,310","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"eTxIZycA7Nn0YsakURDoCrRVHOBuZvaWmg0Jp0pHGPCMKtcfjCYAdE3L7xjKFWp%2F%2B018zNR7%2F8Ypqz3VM29oo6CjW2Rha1a4GhtWHOWpNMmz2ZnQ848XoFFN0wFXnbnPZ3paBCEoAHeXxc4I6n0WSJGne12An3Jl%2BgAC43rrAUZa8kR8mtp9VA%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥80","priceAmount":80.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"80","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"eTxIZycA7Nn0YsakURDoCrRVHOBuZvaWt2XSK%2FGlBuWiO6IGIIehN4G5Dlj%2F2KyHURAgeRQxPCbjJS%2B6xjswKm%2BwuRgtrdSxNtI4ZFuXIJtbaQhmkQk8dFC7TfCSm2II1vKUzU30nQa9kA7XkV1Zm%2BMKBJbm8aTmimg702E8zwOh8n1lXePlaA%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
なぜ母たちは,暴力への衝動に抗うことができなかったのか.いつから母たちの心は殺されていったのか.本書は痛苦の思いでわが虐待を語り始めた4人の母の心の軌跡,家族の闇を丹念な取材で描き出した衝撃のルポルタージュ.日本社会に潜行する「子どもの虐待」を「加害者」の側から初めて照らし出し,識者の助言も紹介する.
- 本の長さ250ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1999/5/26
- ISBN-104000225030
- ISBN-13978-4000225038
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
なぜ親たちは子どもの心を傷つけ、暴力をふるうのか。家庭という密室で深く静かに進行する子どもの虐待。わが子を虐待した4人の母親たちの心の軌跡と、家庭の闇を描き出したルポルタージュ。
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1999/5/26)
- 発売日 : 1999/5/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 250ページ
- ISBN-10 : 4000225030
- ISBN-13 : 978-4000225038
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,386,843位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,535位社会福祉関連書籍
- - 163,615位暮らし・健康・子育て (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.3つ
5つのうち4.3つ
3グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2005年4月11日に日本でレビュー済み
やっと始まった感のある「虐待をしてしまう親」の存在へのクローズアップを、ジャーナリストがまとめています。
実際にあった虐待事件の内容や、そのもう一方の主人公である加虐待の親へのインタビューも率直に語られていて、被害者である子どもだけでなく、加虐待の親自身にも何らかの問題があり、治療やサポートの対象になりうると言うことが分かってきます。
自分の子どもを身体的、精神的、制的に虐待するなんて信じられない、という建前的理想論を持つ人達にも、虐待の連鎖など、広い視点で考えるきっかけを与えてくれると思います。
実際にあった虐待事件の内容や、そのもう一方の主人公である加虐待の親へのインタビューも率直に語られていて、被害者である子どもだけでなく、加虐待の親自身にも何らかの問題があり、治療やサポートの対象になりうると言うことが分かってきます。
自分の子どもを身体的、精神的、制的に虐待するなんて信じられない、という建前的理想論を持つ人達にも、虐待の連鎖など、広い視点で考えるきっかけを与えてくれると思います。