この本は、この後に続く「3.11を心に刻んで2013」、「3.11を心に刻んで2014」、「3.11を心に刻んで2015」、いずれも岩波ブックレット、とともに読むのが良い。この書評も、これら全部を読んでのものだ。公共図書館にも備えられるべき本だと思うが、備えていない館もある。残念なことだ。
それぞれの人の寄せる言葉の構成は、まず「引用」があり、その後にその言葉の説明も含めて、様々な感慨が述べられている、というもの。
最初の2012年に出版されたものは、「3・11に寄せて」という寄せ書きが追加されており、これにはそれぞれ見出しが付いている。2013、2014、2015という年号を付記したものは、岩波ブックレットという形式になっており、河北新報社が発行する「河北新報」の連載企画「歩み」から、宮城県名取市・閖上地区、福島県浪江町、宮城県石巻市・石巻水産復興会議という３つの場所に関する記事と、記者の短文とが付け加えられている。
ちょうど今、鬼貫の句集や独ごとを読んでいて思ったのだが、これは、本歌取りなのだと。他人の言葉を借りることで、自分の想いがひとりよがりのものではなく、時間と距離を超えて他者とつながるそのような試みなのだと。
例えば、「あなたの行動がほとんど無意味であったとしても、それでもあなたはしなくてはならない。それは世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである。」という警句が引用されている。世界を変えるためにはどうするか、というのが大多数の論調だが、このような見方もあるのかと新鮮だった。ちなみに、これは、ガンジーの発した言葉らしい。世界を変えた人が物語る、変えられないための行動という視点。
4冊、寄稿は全部で140弱ある、引用と感想とを再度読みなおして、3・11という事件が決して単発の災害ではないことがよく分かる。ここで物語られるのは、事件と事件との繋がり、それは、ものによっては、池澤夏樹が述べているように、ヒトという種の限界を自ら示す、自己破壊への衝動をすら示すのかもしれない。日本という文脈の中では、関東大震災、広島、長崎、更に、ビキニ環礁における原水爆被災、そして、足尾から水俣に至る公害、あるいは、第二次世界大戦における狂気。引用が重複しないのは、編集部の関与があるからだろうか、但し、同じ著者、同じ著書からの引用はある。例えば、アンナ・ハーレント。
2012年から2015年にかけて人が入れ替わっていることもあるが、論調にも微妙な違いが見られる。震災復興の遅れ以上に、フクシマの放射能汚染は深刻で、核燃料が放置されている限りは、チェルノブイリ同様にとてつもない時間を待つ必要がありそうだ
日本が今後どうなるかわからないけれども、この「3.11を心に刻んで」という活動は、岩波書店が続く限りは、続けて欲しいと思う。おそらくは、貴重な文化資産になると思う。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
この著者の人気タイトル
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
