トーマス・クーンの『科学革命の構造』以来、なぜ近代の西欧で自然科学と科学技術が発展し続けたのかが大きな課題になっている。本書もそうした課題に答えようとして、古代ギリシアで成立したアリストテレス的学問観の変容と発展を「知識革命」の系譜と読んで、跡づけようと試みている。しかし、期待して読んだが残念ながら期待はずれだった。理由は以下の点である。１）古代ギリシアの学問の成立の前史としてメソポタミアとエジプトの知識が説明されているが、それがいったいどのような形で後世まで影響を与える古代ギリシアの多様な思想に変容したのか、十分に説明されていない。ただ、年表的な概説を並べたレベルに留まっている。２）近代的な自然科学と実験との関係を本書も考察しようとしているが、実験は仮説を証明するための方法である、科学は法則を見つけて予知をするべきであるというような、19世紀的な科学観で中世以降の西欧の自然学の展開を見ているため、ローマ帝国以後の西欧の技術的発展や海外からの技術や知識の摂取の視点が欠落し、アリストテレス思想の変容という面しか考察されていない。イスラム圈との戦争と貿易、技術輸入、14世紀移行の航海術や火薬の発展、戦術の変化など、西欧近代化を支えた技術的側面はいろいろあるはずで、もっと、他の領域と関連させて西欧の自然学を捉えた方が、ビッグヒストリーとしては新しい視点が出せたであろう。

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知識革命の系譜学: 古代オリエントから17世紀科学革命まで 単行本 – 2004/8/26

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大出 晁

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