著者は、環境問題、特に廃棄物処理問題の実際の事例をつぶさに観察し、リサイクル部門を考慮した経済の再生産を考える理論経済学者である。一般の方向けに、1999年に出版された「グッズとバッズの経済学」では、資源リサイクル市場の需給関係によって、財の価格が負となるバッズ(bads)の存在を著者は指摘した。また、経済学者、社会人、経済学部の学生向けに、2007年に出版された「環境制約と経済の再生産―古典派経済学的接近」では、数式を用いて、古典派経済学の関心事のひとつである「経済の再生産」が、資源リサイクル問題を考慮したときには「持続可能な成長」を意味することを著者は主張し、そしてその経済モデルを定式化した。
これら2つの著作において、廃棄物処理問題で取り上げられる「資源循環の輪」を、単純な廃棄物量の減少を目的とするフローから、静脈資源の再利用化までを考慮したフローに拡大することの必要性を説いた著者は、本著において、一般の方向けに、その詳細を体系的に分かりやすく、実例を丁寧にあげながら述べている。言わばこの点が、純粋な貢献であろう。
日本の資源リサイクル問題の問題点は、廃棄物量の減少だけを目的とした廃棄物処理を重視するがために規制が強すぎ、資源を生産活動に再投入するためのルートとしてのリサイクルに重点が置かれていないことであると著者は指摘している。
つまり、「資源の循環利用はビジネスとして成り立つか」という問いを著者は投げかけており、そのモデル例として、アメリカとEUのリサイクル産業の在り方、考え方を紹介している。廃棄物を減らすという点では日本はすぐれた法整備を行ってきたものの、バッズをグッズに変え、リサイクル産業をビジネスと捉える視点の少なかった日本は、これからどのようにこの問題に立ち向かっていけばよいのか、そのラフスケッチを著者は描いている。資源リサイクルの市場機構を利用しバッズをグッズに変える一方で、従来の動脈産業、静脈産業といった区分を超えて、「静脈産業でも利潤を目的とした経済主体が廃棄物処理問題/資源リサイクル問題に対応することによって、資源の有効利用と環境汚染の封じ込めを同時に担うことができる」という、いわば新しい経済の成長分野の開拓として、資源リサイクル問題を捉えていることが本書の特徴である。
私見ではあるが、拡大生産者責任を拡張した形で、最終財のどの部品がどのようにリサイクルされ、どのような処分をされたのか、という追跡可能性については、インターネットのモノ化(IoT)におけるブロック・チェーン技術を使って記録台帳をデジタル化しておき、各ステークスホルダーが適宜参照できるように透明化を図ればよいのではないか、と思う。これからの時代は、「市場機構が<健全で円滑に>働くような環境をつくった」経済主体が利潤を得るようになればよいと思う。
著者が教鞭をとる慶応大学経済学部のゼミナールでは、経済理論を学ぶことと同様に、実際の事例をつぶさに観察するフィールドワークも重視している。まさに本著は、「もし理論経済学者(細田先生)が廃棄物問題についてフィールドワークを行ったら、何が見えるのか」という、フィールドワークの実践の著作としても読み込める点で、経済学部の学生に、その豊潤な成果を提供するものと言えよう。
また、文面からは著者の真摯な人柄が伺え、読んでいて疲れのこない文章に仕上がっていることも特筆に値する。あとがきのくだりで、この著作の校正を手伝ってくれた息子さんへの感謝を、「このような場で自分の息子に謝意を述べるのは正直恥ずかしいのだが」と断っているのを読んで、微笑ましかったのは私だけではないと思います(微笑。
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資源の循環利用とはなにか――バッズをグッズに変える新しい経済システム 単行本 – 2015/2/14
細田 衛士
(著)
「廃棄物」という考え方はもうやめる!
天然資源の確保と廃棄物の発生抑制という二重の資源問題は同時に解決できるか。市場取引には資源利用の過程で生じる環境負荷などのコストは反映されない。市場任せでなくモノの流れを制御し、生産と廃棄を統合した国内資源循環システムをつくるために必要なものとは。グッズ(有価物)とバッズ(逆有償物)の理論を提唱した著者がこの難題に挑む。
天然資源の確保と廃棄物の発生抑制という二重の資源問題は同時に解決できるか。市場取引には資源利用の過程で生じる環境負荷などのコストは反映されない。市場任せでなくモノの流れを制御し、生産と廃棄を統合した国内資源循環システムをつくるために必要なものとは。グッズ(有価物)とバッズ(逆有償物)の理論を提唱した著者がこの難題に挑む。
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2015/2/14
- 寸法13.5 x 2.5 x 19.5 cm
- ISBN-104000610120
- ISBN-13978-4000610124
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商品の説明
著者について
細田衛士(ほそだ えいじ)
1953年東京生まれ.1977年慶應義塾大学経済学部卒業.同大学経済学部助手,助教授を経て,1994年より教授.理論経済学,環境経済学専攻.
著書に『グッズとバッズの経済学』(東洋経済新報社,1999年.第2版,2012年),『環境制約と経済の再生産』(慶應義塾大学出版会,2007年),『資源循環型社会』(慶應義塾大学出版会,2008年),『環境と経済の文明史』(NTT出版,2010年),『環境経済学』(共著)(有斐閣,2007年)などがある.
1953年東京生まれ.1977年慶應義塾大学経済学部卒業.同大学経済学部助手,助教授を経て,1994年より教授.理論経済学,環境経済学専攻.
著書に『グッズとバッズの経済学』(東洋経済新報社,1999年.第2版,2012年),『環境制約と経済の再生産』(慶應義塾大学出版会,2007年),『資源循環型社会』(慶應義塾大学出版会,2008年),『環境と経済の文明史』(NTT出版,2010年),『環境経済学』(共著)(有斐閣,2007年)などがある.
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2015/2/14)
- 発売日 : 2015/2/14
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 304ページ
- ISBN-10 : 4000610120
- ISBN-13 : 978-4000610124
- 寸法 : 13.5 x 2.5 x 19.5 cm
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