国家が国際社会のアクターとしての役割を減少し、世俗主義に統治され、ナショナリズムも抑制された世界。これがEUモデルであり、西欧世界を中心に世紀を超えた努力によって実現を目指してきた。一方でアジア・アフリカ・南米では国家も宗教も民族的ナショナリズムもいまだに国際政治の主要な原動力であり、たとえば社会主義市場経済なる暴力的な中国モデルが幅を利かせつつあるのが現実だ。そこでは民主化の努力は放棄され、国民が「居住国」を変える方法が選択されつつある。エスケープ、すなわち先進国への移民。EUは格好のユートピアだ。
2010年代になって移民問題は変化した。大挙してEU外から押し寄せる移民に対し、東欧は門戸を閉ざし、ドイツ、オーストリアは大量の移民を受け入れた。税金が使われ、職を競合しあうことなるため社会下位層を中心に不満は募る。「国が乗っ取られる! 自分たちの生活が脅かされる!」 その結果が社会多数派の右傾化、ポピュリズム政治の台頭であり、民主政治の性格の変化である(p30)。英国民が選んだ「EUからの離脱」はその象徴でもある。
・この世界で階級間の不平等は問題ではない。諸国民の間の不平等こそが重要であり、インターネットでEU社会の豊かさを知った第三世界の民が「移動」を始める(p35)。
・EU内の経済格差に端を発するユーロ圏の危機、英国のEU離脱の衝撃(Brexit:ブレグジット)、ロシアの暴力にEUの無力さを露呈したウクライナ危機。1993年の理想は彼方に遠く、そしていま「難民危機」によりEUの分裂が現実のものになろうとしている(p48)。
・民主主義が不安定化を招くジレンマ。そして、招かれざる移民から欧州を守る「独裁者」は歓迎される(p41)。
・「移民の時代において、民主主義は包容ではなく、排除の手段として作用しはじめつつある」(p17)
・選挙の変貌。かつての左派と右派の対立は、国際主義(リベラルな人々)vs民主主義(排外主義的な人々)の対立に代わってしまった(p77)。なるほど、日本の現状を鑑みても納得できうる。
・やがて、ポピュリストは直接民主制を謳って国民投票を、すなわち議論ではなく、感情に訴えての秩序破壊を手段とする(p99)。
オーストリア=ハンガリー二重帝国の実験、すなわち平和的な民族間協力、民族主権の自主的な制限、独自の文化を保ち継続させる民族集団の結束と発展は、そのままEUの実験でもあった。これが失敗しつつある現在、秩序の失われた世界が姿を現そうとしている。
翻ってこの日本はどうなのか。スピード可決された移民法が2019年4月に施行される。最長5年と謳ってはいるが、現在でも問題となっているように、姿をくらませた移民は半永久的に日本にとどまることができる。貧困ゆえに集団犯罪に走る彼らの姿が目に浮かぶ。特に農村部の未来は真っ暗だな。
「アフター・ジャパン」
根本的に道徳観念と文化が異なるだけでなく、反日教育を受けた若いC国人やK国人が大量に流入する将来を思うと……ああ、この国のナショナリズムに火がつき、社会がさらに右傾化するのは時間の問題だ。
……それが目的で移民法案を強硬成立させたのなら、右寄り現政権の手腕はお見事というほかない。
移民問題は、民主主義を市民統合の手段から、他者排除の手段へと変化(ヘンゲ)させる。日本にとっても対岸の火事ではない。和解と妥協の精神を忘れないようにしたい。
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アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか 単行本 – 2018/8/4
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欧州大陸はグローバルな政治の中心ではなくなった。難民・移民危機はどのように欧州社会を変化させたか。有権者の「能力主義的エリート」への反乱はなぜ起こっているのか。EU諸国のリベラル・デモクラシー体制が、ポピュリズムの台頭で内部的危機に直面する現在、その原因を解き明かし、どのように対応すべきかを論じる。
- 本の長さ144ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2018/8/4
- 寸法12.9 x 1.7 x 18.8 cm
- ISBN-104000612867
- ISBN-13978-4000612869
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商品の説明
著者について
イワン・クラステフ(Ivan Krastev)
1965年生.ブルガリア出身.ソフィア大学卒.政治学(政治理論,中東欧政治).ソフィアの「リベラル戦略センター」(the Centre for Liberal Strategies)理事長,ウィーンの「人間科学研究所」(Institut für die Wissenschaften vomMenschen)常任フェロー.著書にDemocracy Disrupted:The Politics of Global Protest(University of Pennsylvania Press)ほか.自ら編集委員を務めるJournal of Democra-cy 誌等で多数の論文を発表.
庄司克宏(しょうじ かつひろ)
1957年生.慶應義塾大学大学院法務研究科教授/ジャン・モネEU 研究センター所長.日本EU学会元理事長.2002年,欧州委員会よりジャン・モネ・チェア授与.2009-10年外務省日EU関係有識者委員会委員.専門は,EUの法と政策.著書に『欧州連合――統治の論理とゆくえ』(岩波新書),『新EU 法基礎篇』,『新EU 法政策篇』(以上,岩波書店),『欧州ポピュリズム――EU 分断は避けられるか』(ちくま新書),『欧州の危機――Brexit ショック』(東洋経済新報社),訳書にG.マヨーネ『欧州統合は行きすぎたのか』(上・下,岩波書店,監訳)ほか.
1965年生.ブルガリア出身.ソフィア大学卒.政治学(政治理論,中東欧政治).ソフィアの「リベラル戦略センター」(the Centre for Liberal Strategies)理事長,ウィーンの「人間科学研究所」(Institut für die Wissenschaften vomMenschen)常任フェロー.著書にDemocracy Disrupted:The Politics of Global Protest(University of Pennsylvania Press)ほか.自ら編集委員を務めるJournal of Democra-cy 誌等で多数の論文を発表.
庄司克宏(しょうじ かつひろ)
1957年生.慶應義塾大学大学院法務研究科教授/ジャン・モネEU 研究センター所長.日本EU学会元理事長.2002年,欧州委員会よりジャン・モネ・チェア授与.2009-10年外務省日EU関係有識者委員会委員.専門は,EUの法と政策.著書に『欧州連合――統治の論理とゆくえ』(岩波新書),『新EU 法基礎篇』,『新EU 法政策篇』(以上,岩波書店),『欧州ポピュリズム――EU 分断は避けられるか』(ちくま新書),『欧州の危機――Brexit ショック』(東洋経済新報社),訳書にG.マヨーネ『欧州統合は行きすぎたのか』(上・下,岩波書店,監訳)ほか.
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2018/8/4)
- 発売日 : 2018/8/4
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 144ページ
- ISBN-10 : 4000612867
- ISBN-13 : 978-4000612869
- 寸法 : 12.9 x 1.7 x 18.8 cm
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- - 2,079位国際政治情勢
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年1月9日に日本でレビュー済み
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2021年4月6日に日本でレビュー済み
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ブルガリア人である著者が、祖国で大きな問題となっているはずの移民・難民問題について、冷静に、どちらの側にもつかずに、可能な限り、冷静に書いているように感じます。
移民・難民問題が、EUの根本的問題を明らかにし、それは非常に根の深い問題であることが、よくわかりました。
多くの問題が明らかになり、存続そのもの是非が問われ始めたEUについての、一つの顕著な現象を記述したものが下記の文章です。
『冷戦後の最初の一○年間、欧州とりわけEUは、リベラリズムが採用したモデルであった。普通の国になることは、東欧の社会の夢だった。西欧が正常であることは、その繁栄、礼節および経済的な成功によって具体的に示されていた。三〇年後、ポスト・モダンの欧州は、多くの東欧の人々から、文化的に異常なものと見なされている。
多様性と移民の問題に関する東西欧州の態度の分裂は、西欧の社会そのものの内部にある、大規模で世界主義的な首都と、そうではない地方との間の分裂に非常に似ている。それらは相互に深い不信感を抱いている二つの世界である。興味深いことに、たとえば、性的少数者への寛容については、世代の違いが極めて鮮明であり、また東欧の若者は親よりもリベラルである一方で、移民の問題に関しては、世代間のギャップはない。若者は年配の世代と同じくらい移民に敵対的である。』
本書は、文章が高尚すぎて、私には難解な本でした。
それは、私が、EUについて、あまりに無知な状態で本書を読み始めたからかもしれません。
EUがこんなに病んでいるとは思いませんでした。
第二章の終盤に書かれている「国民投票によってもたらされる破壊」は、特に興味深い意見であり、同意してしまいました。日本でも「国民投票」が話題にあることがありますが、よく考えてからのうほうがいいと感じました。
学術論文のような本なので、精読することをお勧めします。
移民・難民問題が、EUの根本的問題を明らかにし、それは非常に根の深い問題であることが、よくわかりました。
多くの問題が明らかになり、存続そのもの是非が問われ始めたEUについての、一つの顕著な現象を記述したものが下記の文章です。
『冷戦後の最初の一○年間、欧州とりわけEUは、リベラリズムが採用したモデルであった。普通の国になることは、東欧の社会の夢だった。西欧が正常であることは、その繁栄、礼節および経済的な成功によって具体的に示されていた。三〇年後、ポスト・モダンの欧州は、多くの東欧の人々から、文化的に異常なものと見なされている。
多様性と移民の問題に関する東西欧州の態度の分裂は、西欧の社会そのものの内部にある、大規模で世界主義的な首都と、そうではない地方との間の分裂に非常に似ている。それらは相互に深い不信感を抱いている二つの世界である。興味深いことに、たとえば、性的少数者への寛容については、世代の違いが極めて鮮明であり、また東欧の若者は親よりもリベラルである一方で、移民の問題に関しては、世代間のギャップはない。若者は年配の世代と同じくらい移民に敵対的である。』
本書は、文章が高尚すぎて、私には難解な本でした。
それは、私が、EUについて、あまりに無知な状態で本書を読み始めたからかもしれません。
EUがこんなに病んでいるとは思いませんでした。
第二章の終盤に書かれている「国民投票によってもたらされる破壊」は、特に興味深い意見であり、同意してしまいました。日本でも「国民投票」が話題にあることがありますが、よく考えてからのうほうがいいと感じました。
学術論文のような本なので、精読することをお勧めします。
2018年11月13日に日本でレビュー済み
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本書は、僅か126ページの短い本である。だが、中身はギッシリと重たい。表面をなぞっただけではない。
自由と民主主義の母国であったはずの欧州で、自由と民主主義が危機に立っているのだ。冷戦の終結により、西欧における普遍的な価値観に立つ自由と民主主義が、東欧にも拡がった。同時にEUやユーロも東欧に拡がった。それが、東欧から逆転を始め、西欧内でも軋んでいる。こんなはずじゃなかった。
著者の見方で感心したのは、まず次の点だ。昔は、飢えた人々は、自分の住んでいる国で、革命を起こすしかなかった。今は、飢えた国から豊かな国に移ることで、幸福になれるかも知れないと思うようになった。テレビやインターネットで豊な国の生活と貧しい国の生活を比較できるようになってしまった。貧しい隣人同士の僅かな差の比較ではない。欧州外から難民や移民がEU域内に押し寄せ、EU域内でも東欧から西欧へ人々が移動する。これ以上行先が無い、不満を募らせた西欧の労働者階級が頼るのは極右だ。東欧においても、全ての人が西欧に移れるわけではない。留まる人たちの不満を吸い上げるのは勿論極右だ。自由だの人権だの言った制約無視で本音を叫ぶ分かりやすい主張が受ける。
貧しい人たちの味方であったはずの左派は、自由や人権といった価値観を捨てることが出来ず、右往左往してしまう。エリートや富裕層は、国境を超え、グローバルに活躍の場を得ることが可能だ。その多くは、自分の地位は、才能と努力の帰結と思っている。昔の地主貴族は、その土地で生きねばならないから、飢えた住民を見捨てることはできなっかた。戦争では先陣を切って、死をいとわなかった。そこに大きな差があるようだ。
ではどうする? 自由と民主主義は生き残れるのか? 答えは出ていないが、諦めるには早すぎると思うしかない?
ここで、小生は50年前の世界を思い出してみた。自由民主主義の国は、米国・カナダ、英・アイルランド・仏・独・伊・ベネルクス、北欧、スイス、日本位しかなかった。韓国、台湾、スペイン、ポルトガルなんか独裁国家だった。歴史はジグザグに進む。諦めるには早すぎる。
自由と民主主義の母国であったはずの欧州で、自由と民主主義が危機に立っているのだ。冷戦の終結により、西欧における普遍的な価値観に立つ自由と民主主義が、東欧にも拡がった。同時にEUやユーロも東欧に拡がった。それが、東欧から逆転を始め、西欧内でも軋んでいる。こんなはずじゃなかった。
著者の見方で感心したのは、まず次の点だ。昔は、飢えた人々は、自分の住んでいる国で、革命を起こすしかなかった。今は、飢えた国から豊かな国に移ることで、幸福になれるかも知れないと思うようになった。テレビやインターネットで豊な国の生活と貧しい国の生活を比較できるようになってしまった。貧しい隣人同士の僅かな差の比較ではない。欧州外から難民や移民がEU域内に押し寄せ、EU域内でも東欧から西欧へ人々が移動する。これ以上行先が無い、不満を募らせた西欧の労働者階級が頼るのは極右だ。東欧においても、全ての人が西欧に移れるわけではない。留まる人たちの不満を吸い上げるのは勿論極右だ。自由だの人権だの言った制約無視で本音を叫ぶ分かりやすい主張が受ける。
貧しい人たちの味方であったはずの左派は、自由や人権といった価値観を捨てることが出来ず、右往左往してしまう。エリートや富裕層は、国境を超え、グローバルに活躍の場を得ることが可能だ。その多くは、自分の地位は、才能と努力の帰結と思っている。昔の地主貴族は、その土地で生きねばならないから、飢えた住民を見捨てることはできなっかた。戦争では先陣を切って、死をいとわなかった。そこに大きな差があるようだ。
ではどうする? 自由と民主主義は生き残れるのか? 答えは出ていないが、諦めるには早すぎると思うしかない?
ここで、小生は50年前の世界を思い出してみた。自由民主主義の国は、米国・カナダ、英・アイルランド・仏・独・伊・ベネルクス、北欧、スイス、日本位しかなかった。韓国、台湾、スペイン、ポルトガルなんか独裁国家だった。歴史はジグザグに進む。諦めるには早すぎる。
2019年4月9日に日本でレビュー済み
本書はブルガリアの政治学者による、EUの「辺境」から中央を観る視点が特徴である。構成国28国のうち、ソ連崩壊後に加盟した中東欧国は16カ国、そのうち「旧ソ連衛星国」は11国に上るEUは、決して西欧型の「一枚岩」ではない。著者は主としてそれら「周辺国」に軸足を置いてEU事情を探る。
本書では言葉使いが我々の常識とはやや違うので注意を要する。差しあたりリベラル(派)を国際協調主義、ブリュッセル支持(派)に、民主主義(派)を民族主義、国家主義(派)と読み替えれば無難だろう。さらに東欧と一括したり、その東欧から中欧を分けたりしているので、その都度文脈からそれがどの国か判断することが必要だ。知識階級層の薄い小国では、一流学者はスペシアリストよりゼネラリストであることを強いられるが、著者も例外でない。広範な博識には脱帽するが、本書の中核は以下のようだ。
旧ソ連衛星国はEU加盟により、想像も出来なかった自由を獲得した。アイルランドやスペインから、英仏独伊といった大国まで自由に行き来でき、居住や労働も可能になったのだ。多くの国民は自国の再建よりも、移住によって手っ取り早く豊かになる方を選んだ。移住者はEUの基本理念「コスモポリタニズム(世界主義)」を満喫したが、その一方250万人がポーランドを離れ、350万人がルーマニアから出国し、リトアニアの人口は350万人から290万人まで減少、母国は福祉制度の維持に四苦八苦している。
その彼らがアラブ難民に行ったことは、ハンガリーやブルガリアに建設された/される1,200kmの“壁” である。彼ら西欧移民の豊かさの享受は、ムスリム難民と競合する。移民と難民は何が違うか。移民は利益を求めて母国を離れる人々、難民は生きるために母国を離れなければならない人々だが、明白な線引きは難しい。
EU総体は、経済を維持するために、加盟国外からの労働力の充当が喫緊の課題である。従って難民を忌避する人々の考えはイデオロギーであり、イデオロギーを煽るポピュリズムという「妖怪」である。ブリュッセルがこれまで進めてきた世界主義を根本から否定する妖怪は、EUに旧ソ連のような「予期せぬ」崩壊をもたらすかも知れないと著者は見る。その崩壊の仕方は「銀行の取り付け騒ぎのようなものであって革命ではないだろう」。
著者はこのポピュリズムの「慣性」を「中欧のパラドックス」「西欧のパラドックス」「ブリュッセルのパラドックス」に分けて展望する。
一途独裁下でリベラルな価値観とは無縁だった東欧に与えられた西欧型政治体制は、市民に「主権」を与えたが、同時に民族主義をも呼び覚ました。多くの市民はブリュッセルが国の主権を侵していると考えるようになり、ポピュリストと彼らを利用する反リベラル指導者層の生き残りに出番を与えた。「EUエリートと移民はお互いを利用してうまくやっている双子のようなもの」とするのが彼らのレトリックである。特に移民割り当てに激怒する労働者層は本来の「階級連帯」を捨て強権政治家に引きつけられる。「政治家に対する国民の根深い不信にもかかわらず、なぜ人々は政府の権力へのあらゆる制約を取り払うことの熱心な政党に投票するのか」という難問こそが中欧のパラドックスなのだ。
「西欧のパラドックス」とは、これとは違い、「公共生活の民主化や、ますますコスモポリタン的になる若い世代の登場がなぜ欧州を支持する勢力に転換されないのか」、という問題である。金融危機以後西欧の若者が政治に関わりを持つようになったことは疑いえない。だが彼らの武器はネットワークでありソーシャルメディアであり、運動は理念も指導者もない水平的な「お祭り」なのである、政治的抗議として街に繰り出し、しばらくは抵抗者としての力を誇威することは出来ても、権力を維持することは出来ない。統一欧州は代表なくして存在しないからだ。さらに漠とした現状不満はポピュリストに絡め取られる恐れさえある。そもそも、①若い有権者数が減少している ②若者は選挙に行かない、という事実は、世代交換で民族主義は消滅する、とする安易な考えのリベラルを戒める。
「ブリュッセルのパラドックス」とはEU市民の能力主義への反発である。EU本部を牛耳っているのは国籍、階級、貧富を超越する能力主義である。能力主義者たちは、自身の優れた能力は生得と努力の成果と信じ、その他のしがらみに囚われることなく、理想を目指す政策を推し進める。「欧州では、能力主義的エリートは、報酬目当てのエリートである」と著者は言う。EU諸機関はサッカーチームのように最高の「選手たち」を獲得するために巨額を投じる。しかしチームが負け出すとファンはあっさり彼らを見限る。エリートに職はどこにでもあるから、来るのも容易去るのも容易。この流動性が土地に根を下ろす人々から信用されないのである。
以上のようにEUの抱える問題を「構造的」に解析する著者だが、決して将来を悲観しているわけでない。「ユーロ危機、難民問題、およびテロの脅威の増大への対応を通して、欧州は少なくとも経済と治安に関してはいまだかってないほど統合された」。朝日新聞のインタビューでも、BREXITで「各国の欧州懐疑派政党の多くは、EU離脱や共通通貨ユーロからの脱退をもはや主張しなくなった。それがいかに大変か、はっきり認識したからです」(2019.3.20)と述べている。ポピュリストを手なずけ、コスモポリタンな西欧の若者を政治に回帰させる良い機会ではないか。EUにとって最も大事なのは「生き残ること」。その可能性を高めるのは「妥協の精神」であるとの結論は、このデモクラティックな歴史的大実験を見守る私にも異議はない。
本書では言葉使いが我々の常識とはやや違うので注意を要する。差しあたりリベラル(派)を国際協調主義、ブリュッセル支持(派)に、民主主義(派)を民族主義、国家主義(派)と読み替えれば無難だろう。さらに東欧と一括したり、その東欧から中欧を分けたりしているので、その都度文脈からそれがどの国か判断することが必要だ。知識階級層の薄い小国では、一流学者はスペシアリストよりゼネラリストであることを強いられるが、著者も例外でない。広範な博識には脱帽するが、本書の中核は以下のようだ。
旧ソ連衛星国はEU加盟により、想像も出来なかった自由を獲得した。アイルランドやスペインから、英仏独伊といった大国まで自由に行き来でき、居住や労働も可能になったのだ。多くの国民は自国の再建よりも、移住によって手っ取り早く豊かになる方を選んだ。移住者はEUの基本理念「コスモポリタニズム(世界主義)」を満喫したが、その一方250万人がポーランドを離れ、350万人がルーマニアから出国し、リトアニアの人口は350万人から290万人まで減少、母国は福祉制度の維持に四苦八苦している。
その彼らがアラブ難民に行ったことは、ハンガリーやブルガリアに建設された/される1,200kmの“壁” である。彼ら西欧移民の豊かさの享受は、ムスリム難民と競合する。移民と難民は何が違うか。移民は利益を求めて母国を離れる人々、難民は生きるために母国を離れなければならない人々だが、明白な線引きは難しい。
EU総体は、経済を維持するために、加盟国外からの労働力の充当が喫緊の課題である。従って難民を忌避する人々の考えはイデオロギーであり、イデオロギーを煽るポピュリズムという「妖怪」である。ブリュッセルがこれまで進めてきた世界主義を根本から否定する妖怪は、EUに旧ソ連のような「予期せぬ」崩壊をもたらすかも知れないと著者は見る。その崩壊の仕方は「銀行の取り付け騒ぎのようなものであって革命ではないだろう」。
著者はこのポピュリズムの「慣性」を「中欧のパラドックス」「西欧のパラドックス」「ブリュッセルのパラドックス」に分けて展望する。
一途独裁下でリベラルな価値観とは無縁だった東欧に与えられた西欧型政治体制は、市民に「主権」を与えたが、同時に民族主義をも呼び覚ました。多くの市民はブリュッセルが国の主権を侵していると考えるようになり、ポピュリストと彼らを利用する反リベラル指導者層の生き残りに出番を与えた。「EUエリートと移民はお互いを利用してうまくやっている双子のようなもの」とするのが彼らのレトリックである。特に移民割り当てに激怒する労働者層は本来の「階級連帯」を捨て強権政治家に引きつけられる。「政治家に対する国民の根深い不信にもかかわらず、なぜ人々は政府の権力へのあらゆる制約を取り払うことの熱心な政党に投票するのか」という難問こそが中欧のパラドックスなのだ。
「西欧のパラドックス」とは、これとは違い、「公共生活の民主化や、ますますコスモポリタン的になる若い世代の登場がなぜ欧州を支持する勢力に転換されないのか」、という問題である。金融危機以後西欧の若者が政治に関わりを持つようになったことは疑いえない。だが彼らの武器はネットワークでありソーシャルメディアであり、運動は理念も指導者もない水平的な「お祭り」なのである、政治的抗議として街に繰り出し、しばらくは抵抗者としての力を誇威することは出来ても、権力を維持することは出来ない。統一欧州は代表なくして存在しないからだ。さらに漠とした現状不満はポピュリストに絡め取られる恐れさえある。そもそも、①若い有権者数が減少している ②若者は選挙に行かない、という事実は、世代交換で民族主義は消滅する、とする安易な考えのリベラルを戒める。
「ブリュッセルのパラドックス」とはEU市民の能力主義への反発である。EU本部を牛耳っているのは国籍、階級、貧富を超越する能力主義である。能力主義者たちは、自身の優れた能力は生得と努力の成果と信じ、その他のしがらみに囚われることなく、理想を目指す政策を推し進める。「欧州では、能力主義的エリートは、報酬目当てのエリートである」と著者は言う。EU諸機関はサッカーチームのように最高の「選手たち」を獲得するために巨額を投じる。しかしチームが負け出すとファンはあっさり彼らを見限る。エリートに職はどこにでもあるから、来るのも容易去るのも容易。この流動性が土地に根を下ろす人々から信用されないのである。
以上のようにEUの抱える問題を「構造的」に解析する著者だが、決して将来を悲観しているわけでない。「ユーロ危機、難民問題、およびテロの脅威の増大への対応を通して、欧州は少なくとも経済と治安に関してはいまだかってないほど統合された」。朝日新聞のインタビューでも、BREXITで「各国の欧州懐疑派政党の多くは、EU離脱や共通通貨ユーロからの脱退をもはや主張しなくなった。それがいかに大変か、はっきり認識したからです」(2019.3.20)と述べている。ポピュリストを手なずけ、コスモポリタンな西欧の若者を政治に回帰させる良い機会ではないか。EUにとって最も大事なのは「生き残ること」。その可能性を高めるのは「妥協の精神」であるとの結論は、このデモクラティックな歴史的大実験を見守る私にも異議はない。