1908年発表。
夢の中でさえ過去に縛られ、記憶というこれまた不思議に付き纏われる人間の不気味を考えさせてくれる内容である。
全編、こんな夢を見た。から始まるが印象的であった四話を取り上げる。
第二夜 参禅したが、悟り切れない武士の絶望的な足掻きである。
第三夜 未生以前の人殺しを、背に負うた盲目の子に暴かれる。
第六夜 運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいる。ところが見ているのは明治の人間である。若い男が、鑿で刻んでいるのではない。
あの通りのものが木の中に埋まっているのだと言った。早速、家に帰り刻んでみたがどの木にも仁王は見当たらなかった。今の 木には到底埋まっていないと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由がほぼわかった。問題は、今の人にある。死ぬに死 ねないのである。
第七夜 大きな船に乗っていてどこへ行くかわからない。大変心細く悲しかった。異人が来て、星も海も神が作ったといった。とうとう 死ぬ決心をして海に飛び込んだ。その刹那に命が惜しくなり前のままがよかったと始めて悟りながら、それを利用することが出 来ず無限の後悔と恐怖を抱いて黒い波の方へ落ちていった。
僅か、35頁であるが人間の業の深さ・仏教・悟り・キリスト教・西洋文明等が散りばめられている。
漱石は、自我を超克するため禅を能くした。
言語を通して世界を見ず只、見る。
前後を切断せよ、物心一如の言葉を残している。
これは、道元の「前後際断」であり且つ、世界を対象的に見ないということを意味する。
哲学者大森荘蔵は、夢をみることは想起であるがそれは、言語による意味創作とした。夢をみた経験があって、次いでそれを再現することではない。なので、「記憶」という概念は本来不要であるとする。
過去は実在しない。それは、再生という二次的出現ではなく、「立ち現れ」るものであるとする。「立ち現れ」とは、主・客や原因・結果によらず直の透視を意味している。一如である。
二次的出現とは、言語による過去形の経験であり未来も同様である。
過去・現在・未来という直線的時間は、以前・以後から創り出された概念である。それは、再現・再経験されるものではない。
イメージについても、概念で説明不能部分であるとしている。
坂本龍一との対談で、道元の「有時」(=過去・現在・未来の同時存在)の「而今」に於いて「立ち現れ」が常時現れていると言っている。
「立ち現れ」とは、脳内現象ではなく、世界と肉体の状態全体を意味している。
明恵上人も、「夢記」を残した。誰でも一度は夢、記憶、時間等に興味を持つと思う。
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夢十夜 他二篇 (岩波文庫 緑 11-9) 文庫 – 1986/3/17
夏目 漱石
(著)
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- ISBN-104003101197
- ISBN-13978-4003101193
- 出版社岩波書店
- 発売日1986/3/17
- 言語日本語
- 寸法10.5 x 1.1 x 14.8 cm
- 本の長さ180ページ
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1986/3/17)
- 発売日 : 1986/3/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 180ページ
- ISBN-10 : 4003101197
- ISBN-13 : 978-4003101193
- 寸法 : 10.5 x 1.1 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 185,635位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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(1867-1916)1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)に生れる。
帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学した。留学中は極度の神経症に悩まされたという。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表し大評判となる。
翌年には『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、東大を辞し、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。
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トップレビュー
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2020年6月3日に日本でレビュー済み
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阿部昭の解説は良かった。
2020年10月29日に日本でレビュー済み
編集されている中身は、夢十夜、文鳥、永日小品である。夢十夜は死のイメージが多いし、永日小品群は漱石の心の底にあるわだかまりや何かに追い詰められているような事柄が、がたくさん出ているように思われる。私が感心したのは、文鳥である。観察眼がすごいのである。チョッとした動きやしぐさや変化を、文章で表現している。食・動物などを昔は手書きで描いている。牧野富太郎氏の植物の写生はすごいが、それと同じことを文章でやれるという事に、驚きを感じた次第である。全体をとらえながら、細部も逃さないという感性、感覚である。
2018年4月9日に日本でレビュー済み
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目立った傷もなく、とても嬉しいです。安価で名作が手に入りました!梱包が丁寧で発送も早くて嬉しいです。
2015年5月10日に日本でレビュー済み
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急いでいたので、大変助かりました。他の名作も購入したいと思います。
2014年12月13日に日本でレビュー済み
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前に購入した、「硝子戸の中」が、ある意味で、小説以上に面白かったので、楽しみにしています。
2007年9月14日に日本でレビュー済み
夢十夜は話にもよりますが、雰囲気がよく良いです。
純愛を書いた第一夜、わが子を捨てに行く第三夜が特に好きですが、
中にはわかりにくいものもあったような…
全体的になぜかぼんやりしてて、いい雰囲気です。
純愛を書いた第一夜、わが子を捨てに行く第三夜が特に好きですが、
中にはわかりにくいものもあったような…
全体的になぜかぼんやりしてて、いい雰囲気です。
2014年7月27日に日本でレビュー済み
漱石の作品は一部しか読んでいない。『夢十夜』をはじめ本書に所収の三編は読んでいなかったので、読んでみた。
『夢十夜』は十の夢日記ということだが、通常の夢日記とは随分違っている。
夢は記憶(意識的には思い出せなくなった記憶も含め)の再構成ではないかと勝手に思っている。その限りでは、夢は自分に何かが起こったり自分が何かに働きかけたりする事の連続である。しかし『夢十夜』に出てくる他者は自己の投影のようには感じられず、自立した他者、実在し自己を侵略しにくる他者、のような印象である。
一人称の主観的広がりの内部を覗き見るというよりは、主観と、それとは独立に存する幻想的世界との渡り合いを見るかのようである。物語がそれほどの自律性を確立していることに驚く。本当に夢日記なら、むしろ主観のありようが何らかの点で壊れてしまっていないか。
夢日記というより幻想文学のようなものと考えると、僕には強烈に面白い。第二夜と第八夜が、特に好みに合う。
『永日小品』は、著者の身辺に起こった事実と主観の動きとを記録しているのではあろうが、読んでいる自分に告白されているような感じ、心的恥部の自己暴露のような感じ、はない。
著者の心理と生き様に共感することももちろん可能だし意義深いと思う。
しかし個人的には、「そりゃ大変だわな」と僕が呟いた途端に、紡がれてきた力がぷつんと切れてしまうような感覚がある。
執筆のインスピレーションが枯渇しているというような意味ではない。登場人物としての著者が生きる作品の空間が、人の眼光にしろ言葉にしろ人が人に働きかける力にしろ、既に死んで沈殿した世界のことように、感じてしまう。活気がないという意味でもない。人物達が、死者か幻のように見えてしまう。
夏目漱石『夢十夜 他二編』
岩波文庫 31-011-9
1986年3月17日 第1刷発行
2014年4月24日 第46刷発行
『夢十夜』は十の夢日記ということだが、通常の夢日記とは随分違っている。
夢は記憶(意識的には思い出せなくなった記憶も含め)の再構成ではないかと勝手に思っている。その限りでは、夢は自分に何かが起こったり自分が何かに働きかけたりする事の連続である。しかし『夢十夜』に出てくる他者は自己の投影のようには感じられず、自立した他者、実在し自己を侵略しにくる他者、のような印象である。
一人称の主観的広がりの内部を覗き見るというよりは、主観と、それとは独立に存する幻想的世界との渡り合いを見るかのようである。物語がそれほどの自律性を確立していることに驚く。本当に夢日記なら、むしろ主観のありようが何らかの点で壊れてしまっていないか。
夢日記というより幻想文学のようなものと考えると、僕には強烈に面白い。第二夜と第八夜が、特に好みに合う。
『永日小品』は、著者の身辺に起こった事実と主観の動きとを記録しているのではあろうが、読んでいる自分に告白されているような感じ、心的恥部の自己暴露のような感じ、はない。
著者の心理と生き様に共感することももちろん可能だし意義深いと思う。
しかし個人的には、「そりゃ大変だわな」と僕が呟いた途端に、紡がれてきた力がぷつんと切れてしまうような感覚がある。
執筆のインスピレーションが枯渇しているというような意味ではない。登場人物としての著者が生きる作品の空間が、人の眼光にしろ言葉にしろ人が人に働きかける力にしろ、既に死んで沈殿した世界のことように、感じてしまう。活気がないという意味でもない。人物達が、死者か幻のように見えてしまう。
夏目漱石『夢十夜 他二編』
岩波文庫 31-011-9
1986年3月17日 第1刷発行
2014年4月24日 第46刷発行