「三つの窓」(岩波文庫 『河童 他二篇』所収)は芥川龍之介が物した"最後の小説"である.このなかに、興味深い句が引かれる.
君看双眼色(きみみよそうがんのいろ)
不語似無愁(かたらざればうれいなきににたり)
単純に考えれば「あなたは私の両の眼をよく見てほしい.語らなければ愁いていないように思われるが、本当は深い愁いを秘めているのだ」というほどの意味に取れる.しかし、良寛が愛したという名句は果たして本当にその程度のものであろうか.
「似無愁」と言う.似る、とはどういうことか.いったい愁いがあるのか、ないのか.
実はある、という解釈をすればそう有難がる程の句ではない.だが、人間は必ず愁いを持つものとして、それでも愁い無きの境地に至ると読めば、これは深い.禅の真髄である.
そうして読んだとき、ひとつの逆説が生まれる.語らざれば愁い無きに似たり.語れば、愁い在るが如し.
『或阿呆の一生』で、芥川は語った.だからそこには明らかな愁いがある.ところが「三つの窓」では「不語」である.ここでの彼は愁い無きに似る.
どちらがいっそう真実であったかは、敢えて問うまでもない.『或阿呆の一生』が「本音」でも「むき出し」でもないことを、実は、芥川自身が誰よりも知っていた.だからこそこの句を引いた.「君看」と彼が乞うのは、『或阿呆の一生』ではない.「不語」たる「三つの窓」である.その窓を通して観られるべき世界である.
――文芸の極北はハイネの言つたやうに古代の石人と変りはない。たとひ微笑は含んでゐても、いつも唯冷然として静かである。(芥川龍之介 「文芸的な、余りに文芸的な」)
「三つの窓」は微笑を含んでいる.それでいて、冷然として静かである.
芥川は、彼の信ずる「文芸の極北」に辿り着いていた.辿り着いたから、死んだ.
その先に「ぼんやりとした不安」を覚えて.
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河童 他二篇 (岩波文庫 緑 70-3) 文庫 – 2003/10/17
芥川 竜之介
(著)
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「河童」は,ある精神病患者の談話を筆録したという形で書かれたユートピア小説.ここに描かれた奇妙な河童の国は,戯画化された昭和初期の日本社会であり,また,生活に,創作に行きづまっていた作者の不安と苦悩が色濃く影を落している.脱稿後半年を経ずして,芥川は自ら命を断った.(解説=吉田精一)
- 本の長さ138ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2003/10/17
- ISBN-104003107039
- ISBN-13978-4003107034
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2003/10/17)
- 発売日 : 2003/10/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 138ページ
- ISBN-10 : 4003107039
- ISBN-13 : 978-4003107034
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著者について
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(1892-1927)東京生れ。東京帝大英文科卒。在学中から創作を始め、短編「鼻」が夏目漱石の激賞を受ける。
その後今昔物語などから材を取った王朝もの「羅生門」「芋粥」「藪の中」、中国の説話によった童話「杜子春」などを次々と発表、大正文壇の寵児となる。西欧の短編小説の手法・様式を完全に身に付け、東西の文献資料に材を仰ぎながら、自身の主題を見事に小説化した傑作を多数発表。1925(大正14)年頃より体調がすぐれず、「唯ぼんやりした不安」のなか、薬物自殺。「歯車」「或阿呆の一生」などの遺稿が遺された。
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年4月12日に日本でレビュー済み
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『河童』は芥川晩年の作品であり、彼の代表作の一冊とされる作品である。読んでみてわかるが、この作品が彼の作品の中で良作に位置づけられるかはともかくとして、普通じゃない雰囲気を持っていることはすぐわかる。
精神錯乱者が河童の社会へと入り込み(という幻覚をみる)、そこで生活をしていき、その社会的様式を綴っていく作品である。それは当然ながら我々の社会を何らかの形で反映しているものである。しかしながら、この作品はいったいどういう作品なのか。やはり風刺なのか?我々の社会を風刺した作品なのか?だが読んでいてそのようにはあまり感じなかった。風刺というか実社会を基にした社会をやや皮肉的に書いていくそういう作品である。無論、人間の理想郷を描いたようには見えないのは明らかだが。
この作品は結局どうやって捉えればいいのだろうか。ただ何も考えず読み通せばいいのだろうか。しかし、実社会の経験も蓄積していればよりこの作品の深みが増すのは確かではある。また、「楽しむ」という具合の作品でないのは間違いなさそうだが。まあ文学学者が研究の材料として好んで取り上げそうな作品ではあるだろう。
ともかく、わたしはこの作品を他人に読んでみるといい、という具合に薦めることはない。短いから時間の浪費にはならないが。
『蜃気楼』は何を訴えたいのかよくわからない作品だった。『3つの窓』はどこか作者の諦念がみえる、何とも言えない味のする作品である。
精神錯乱者が河童の社会へと入り込み(という幻覚をみる)、そこで生活をしていき、その社会的様式を綴っていく作品である。それは当然ながら我々の社会を何らかの形で反映しているものである。しかしながら、この作品はいったいどういう作品なのか。やはり風刺なのか?我々の社会を風刺した作品なのか?だが読んでいてそのようにはあまり感じなかった。風刺というか実社会を基にした社会をやや皮肉的に書いていくそういう作品である。無論、人間の理想郷を描いたようには見えないのは明らかだが。
この作品は結局どうやって捉えればいいのだろうか。ただ何も考えず読み通せばいいのだろうか。しかし、実社会の経験も蓄積していればよりこの作品の深みが増すのは確かではある。また、「楽しむ」という具合の作品でないのは間違いなさそうだが。まあ文学学者が研究の材料として好んで取り上げそうな作品ではあるだろう。
ともかく、わたしはこの作品を他人に読んでみるといい、という具合に薦めることはない。短いから時間の浪費にはならないが。
『蜃気楼』は何を訴えたいのかよくわからない作品だった。『3つの窓』はどこか作者の諦念がみえる、何とも言えない味のする作品である。
2015年9月21日に日本でレビュー済み
古本屋で手に入りやすい本を色々読んでいるのであるが、芥川とか三島が出てくると、なぜ自殺したり発狂したりするのだろうと思う。
遺伝的に日を追うごとに正気を失う人は何人か見たことがあるが、神経衰弱で薔薇の花を食い始めたりする人は見たことがない。
自殺した人も何人か出会ったが、なるほど死も選択肢だなと思える理由があったものだ。
さてレビューしてみよう。
”河童”は読み始めて数ページで、これはスイフトのガリバー旅行記だ、と思った。スイフトも最後は精神病になって病院で死んだはず。
解説でもスイフトを挙げていたのを見て二度納得。この手のユートピア小説は一周回った皮肉なので、当時の世相を正確に理解していないと
にやりとできない。ホイッグ党とトーリー党の皮肉を言われてもパロディ原典がわからないと???となる。
内閣がどうこうだという節など、戦争前の内閣は分からないなあ、という知識不足で面白さが理解できず不勉強をはかなむことになる。
大気温度を華氏で表現してある部分がある。ん?と思った。狂人の狂人たる表現かもしれないが、砂をかむような違和感だ。
主人公がすでに狂人だというところに芥川らしいアイロニーを感じるし、死を決断していなければ皮肉な理想郷はかけないのかも。
”蜃気楼”は文人みな名作という。死がないとこの評価につながっただろうかと首をかしげる。
もちろんさらさらした死生観が見え隠れするが、嫁さんがでてくるので、ごまかされるのだ。休日の一場面を切り取っただけでは、と。
芥川の死があって、なあるほど、このさらさらはこういうことかと思える。死あってこその名文と思うのだが。
”三人の窓”は最終章まで、”蜃気楼”の雰囲気をそのまま保っていて、なんの甲斐もなく死んでいく海軍軍人の話か?と思わせて
最終章で、軍艦自体がしゃべりだす。女性名詞であるべき船が、男の声でだ。注意してほしいのは芥川は英文科出身、東大のだ。
船が女性であるのは百も承知だ。取ってつけたような結末に尋常ではない違和感を感じた。このあたりは解説が正確に教えてくれるので
読んでいただきたい。軍艦の名前がXXだったり△△だったりするのもストレンジをこえてなんだかグロテスクに思える。
冒頭に申し上げた問いには、本書を読んでも答えは得られないが、二十歳そこそこでデビューして飛ぶ鳥を落とす勢い、
さすがに博覧といえど、創作の種のストックが切れる瞬間があったのではなかろうか。これを恐怖するのは、ある種の人には
よくあることで、サッカー日本代表が後半勝っていても見ていると負けそうな気がするので見ない、という人がこれだ。
しかし、私は幸いなるかな発狂するまで考え続けることができるほど頭がよくない。両極端は一緒とは名言である。
遺伝的に日を追うごとに正気を失う人は何人か見たことがあるが、神経衰弱で薔薇の花を食い始めたりする人は見たことがない。
自殺した人も何人か出会ったが、なるほど死も選択肢だなと思える理由があったものだ。
さてレビューしてみよう。
”河童”は読み始めて数ページで、これはスイフトのガリバー旅行記だ、と思った。スイフトも最後は精神病になって病院で死んだはず。
解説でもスイフトを挙げていたのを見て二度納得。この手のユートピア小説は一周回った皮肉なので、当時の世相を正確に理解していないと
にやりとできない。ホイッグ党とトーリー党の皮肉を言われてもパロディ原典がわからないと???となる。
内閣がどうこうだという節など、戦争前の内閣は分からないなあ、という知識不足で面白さが理解できず不勉強をはかなむことになる。
大気温度を華氏で表現してある部分がある。ん?と思った。狂人の狂人たる表現かもしれないが、砂をかむような違和感だ。
主人公がすでに狂人だというところに芥川らしいアイロニーを感じるし、死を決断していなければ皮肉な理想郷はかけないのかも。
”蜃気楼”は文人みな名作という。死がないとこの評価につながっただろうかと首をかしげる。
もちろんさらさらした死生観が見え隠れするが、嫁さんがでてくるので、ごまかされるのだ。休日の一場面を切り取っただけでは、と。
芥川の死があって、なあるほど、このさらさらはこういうことかと思える。死あってこその名文と思うのだが。
”三人の窓”は最終章まで、”蜃気楼”の雰囲気をそのまま保っていて、なんの甲斐もなく死んでいく海軍軍人の話か?と思わせて
最終章で、軍艦自体がしゃべりだす。女性名詞であるべき船が、男の声でだ。注意してほしいのは芥川は英文科出身、東大のだ。
船が女性であるのは百も承知だ。取ってつけたような結末に尋常ではない違和感を感じた。このあたりは解説が正確に教えてくれるので
読んでいただきたい。軍艦の名前がXXだったり△△だったりするのもストレンジをこえてなんだかグロテスクに思える。
冒頭に申し上げた問いには、本書を読んでも答えは得られないが、二十歳そこそこでデビューして飛ぶ鳥を落とす勢い、
さすがに博覧といえど、創作の種のストックが切れる瞬間があったのではなかろうか。これを恐怖するのは、ある種の人には
よくあることで、サッカー日本代表が後半勝っていても見ていると負けそうな気がするので見ない、という人がこれだ。
しかし、私は幸いなるかな発狂するまで考え続けることができるほど頭がよくない。両極端は一緒とは名言である。
2011年10月15日に日本でレビュー済み
収録されている三篇の物語は、河童83、蜃気楼-或いは「続海のほとり」-12、三つの窓16、である。なお数字はその物語が占める頁数である。
意外な発見は、本書で一番短い『蜃気楼-或いは「続海のほとり」-』で、本書解説130頁『それにしても「蜃気楼」は、自信を裏切らない名作である。一見静かな安らかさに満ちた画面の中に、不思議に無気味な実感がある。「鮮明な物象が提示されて、物象が物象のままに、作者の心の象徴をなし、そこに詩が漂っている」』のとおりである。さて『河童』ですが、期待していたが、面白くなかった。本書解説128頁『「河童」の世界は、…、彼(芥川)自身に対する自嘲、あるいは自虐的な風景であった。…いや社会批評である以上に、自己批評であった。』 また同じく本書解説129頁『強度の神経衰弱に結果する発狂へのおそれは、彼(芥川)の死因の重要な一つと考えられるが、この小説を書き上げたのち五月(後に)して、彼は自ら生命を絶ったのであった。「河童」はすなわち若くして死んだ鬼才の、最晩年をかざる一奇作だったのである。』とあるように、決して面白い話ではないのだった。
芥川龍之介 1892年生まれ 1927年7月没 35歳の若さで自殺したが、残った三人の子は、長男7歳、次男4歳、三男2歳であった。1926年12月が昭和元年であるので、昭和の声を聞いての自死であった。芥川はこれから起こるであろう暗い大戦の様相は体験せずにすんだのは幸運だったかも知れない。1929年世界恐慌、1931年満州事変、1936年二・二六事件、翌1937年に日中戦争が勃発し、生きていれば45歳。1941年太平洋戦争開戦、1945年敗戦、生きていれば53歳。1972年80歳になっていれば、あさま山荘事件、日中共同宣言、沖縄返還を知ることになった。芥川の精神はこの激動の時代をやはり乗り越えられなかったのだろうか。
意外な発見は、本書で一番短い『蜃気楼-或いは「続海のほとり」-』で、本書解説130頁『それにしても「蜃気楼」は、自信を裏切らない名作である。一見静かな安らかさに満ちた画面の中に、不思議に無気味な実感がある。「鮮明な物象が提示されて、物象が物象のままに、作者の心の象徴をなし、そこに詩が漂っている」』のとおりである。さて『河童』ですが、期待していたが、面白くなかった。本書解説128頁『「河童」の世界は、…、彼(芥川)自身に対する自嘲、あるいは自虐的な風景であった。…いや社会批評である以上に、自己批評であった。』 また同じく本書解説129頁『強度の神経衰弱に結果する発狂へのおそれは、彼(芥川)の死因の重要な一つと考えられるが、この小説を書き上げたのち五月(後に)して、彼は自ら生命を絶ったのであった。「河童」はすなわち若くして死んだ鬼才の、最晩年をかざる一奇作だったのである。』とあるように、決して面白い話ではないのだった。
芥川龍之介 1892年生まれ 1927年7月没 35歳の若さで自殺したが、残った三人の子は、長男7歳、次男4歳、三男2歳であった。1926年12月が昭和元年であるので、昭和の声を聞いての自死であった。芥川はこれから起こるであろう暗い大戦の様相は体験せずにすんだのは幸運だったかも知れない。1929年世界恐慌、1931年満州事変、1936年二・二六事件、翌1937年に日中戦争が勃発し、生きていれば45歳。1941年太平洋戦争開戦、1945年敗戦、生きていれば53歳。1972年80歳になっていれば、あさま山荘事件、日中共同宣言、沖縄返還を知ることになった。芥川の精神はこの激動の時代をやはり乗り越えられなかったのだろうか。
2014年5月20日に日本でレビュー済み
「蜃気楼」は湘南海岸(鵠沼)を舞台にチョット知的で洒落た若者、男女の気分を、ストーリー性なく綴っている。そこが春樹を思い起こさせた。春樹もこれに影響されているのではないか?と思った。
湘南海岸は、サザンオールスターズが歌う遥か昔の明治時代から、オシャレで色気のあふれた若い男女が似合う場所だったんだなと、この物語から知らされた。
「河童」は芥川が人間世界のバカバカしさになじめない(嫌気がさした)自分に向って書いた文章なんだなと思う。
湘南海岸は、サザンオールスターズが歌う遥か昔の明治時代から、オシャレで色気のあふれた若い男女が似合う場所だったんだなと、この物語から知らされた。
「河童」は芥川が人間世界のバカバカしさになじめない(嫌気がさした)自分に向って書いた文章なんだなと思う。
2010年2月17日に日本でレビュー済み
中学生くらいのときに読んで、社会的な内容云々は大方忘れたのに対し、強烈な印象を残したのが河童のお産の話でした。河童世界のお産は、胎児が生まれてくる前に、親がお前は生まれてきたいのか聞くのです。親ではなく、まだ生まれる前の胎児に生まれてくるかどうかを選択させる・・・人間もそうであったらいいのにと当時ひどく羨ましく思ったのでした。大人になりこの印象がすこしも色あせないので再び読んでみました。お産のお話は・・・もしかして河童世界を紹介する一エピソードにすぎないのかもしれないと思っていましたが、物語の最後に出てくる人間世界へ帰るための天窓を開く年寄りの河童の言葉に、お産の話は物語のなかでとても重要なものだったのかもしれない・・と再び強い印象を残しました。・・・「わたしもほかの河童のようにこの国に生まれて来るかどうか、一応父親に尋ねられてから母親の胎内を離れたのだよ」。そうして「僕」は河童世界を離れ、母親の胎内から離れることを望むように、人間世界へ戻っていくのでした。そう考えると、河童世界は生まれ出る前の世界を現していたのかなぁとも思います。
2008年1月17日に日本でレビュー済み
読む前にこれは人間社会への痛烈な皮肉であると評されているのは事前知識としてあったが、
風刺が利き過ぎて凡夫の私にはピンと来ませんでした。それは研ぎ澄まされた刃が切りつけるものの鋭すぎて、切られてもかまいたちに遭ったごとく、しばらくは痛痒を感じないのに似ています。この作品を理解するには高い知性と教養が必要のようです。私にはユニークな河童の国の話しとして、額面どおり受け取ることしか出来ませんでした。
風刺が利き過ぎて凡夫の私にはピンと来ませんでした。それは研ぎ澄まされた刃が切りつけるものの鋭すぎて、切られてもかまいたちに遭ったごとく、しばらくは痛痒を感じないのに似ています。この作品を理解するには高い知性と教養が必要のようです。私にはユニークな河童の国の話しとして、額面どおり受け取ることしか出来ませんでした。
2003年4月12日に日本でレビュー済み
この本には、表題の『河童』と『蜃気楼』、そして『三つの窓』が掲載されています。
芥川は、この『河童』を書き上げてから僅か5ヶ月後に自ら命を絶っていますが、この3篇にはいずれも、ゆらゆらと死の影が漂っています。
『河童』では、社会風刺というよりももっと厭世的な目で眺めた人間社会が描かれ、『蜃気楼』には、「水葬した死骸に付けた木札」を拾ったり、砂に埋まった遊泳靴を「土左衛門の足」と見間違えたりなど、不吉なモチーフが次々と現れます。そして『三つの窓』で書いたように、「XXはいつのまにか彼自身を見離していた。」のでしょう。
芥川が自殺したのは、「強度の神経衰弱に結果する発狂へのおそれ」(吉田精一/解説)が理由だったようですが、その発狂することへの恐怖心が、3篇を通してじりじりと伝わって来ます。
半分、黄泉の国に魂を置いたまま、書かれたような小説たちでした。
精神が健全でない状態の人が手に取ると、危険過ぎるかもしれません・・・。
芥川は、この『河童』を書き上げてから僅か5ヶ月後に自ら命を絶っていますが、この3篇にはいずれも、ゆらゆらと死の影が漂っています。
『河童』では、社会風刺というよりももっと厭世的な目で眺めた人間社会が描かれ、『蜃気楼』には、「水葬した死骸に付けた木札」を拾ったり、砂に埋まった遊泳靴を「土左衛門の足」と見間違えたりなど、不吉なモチーフが次々と現れます。そして『三つの窓』で書いたように、「XXはいつのまにか彼自身を見離していた。」のでしょう。
芥川が自殺したのは、「強度の神経衰弱に結果する発狂へのおそれ」(吉田精一/解説)が理由だったようですが、その発狂することへの恐怖心が、3篇を通してじりじりと伝わって来ます。
半分、黄泉の国に魂を置いたまま、書かれたような小説たちでした。
精神が健全でない状態の人が手に取ると、危険過ぎるかもしれません・・・。