この本を読んで実感することは、実に言語が豊饒だということだ。
ちょっとした日常の表現が、越前の方言の魅力とあいまって細密に、甘美とも言える世界を形作っている。
特にはっきりした筋もない作品世界が、むしろ生き生きとしていて読んでて心地よい。
また、伊藤博文暗殺とか皇太子行幸とか、広告といったかつての日本の姿を浮かび上がらせるあれこれがあるのも読みどころだ。
子供の「いじめ」もあったことが分かる。いじめられていた女の子を中学生になって思い出すところも味わい深い。
作品は話者が中学に入って、じょじょに大人になりそうなところで終わるのである。ゆえに子供の文学としても存在感がある。
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梨の花 (岩波文庫 緑 83-3) 文庫 – 1985/4/16
中野 重治
(著)
- ISBN-104003108337
- ISBN-13978-4003108338
- 出版社岩波書店
- 発売日1985/4/16
- 言語日本語
- 本の長さ479ページ
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1985/4/16)
- 発売日 : 1985/4/16
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 479ページ
- ISBN-10 : 4003108337
- ISBN-13 : 978-4003108338
- Amazon 売れ筋ランキング: - 330,324位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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イメージ付きのレビュー
4 星
濃厚な村社会と小さな目覚め。
(単行本で読了。装幀は加藤栄三)戦前の福井の農村を舞台に、著者の少年時代を下敷きに書かれた小説です。旧制小学低学年の良平が主人公。筋らしい筋は特にありません。むしろ良平の思考、夢想という形で内容が横道に逸れがちで、人間関係や背景の説明があきらかに不足している箇所があります。細かく言えば、ある親戚が「子殺し」と呼ばれるのはなぜか、良平の父親はなぜ朝鮮にいるのか、その父が「寂しいから鉦を送ってくれ」と手紙を送ってくるがなぜ「鉦」なのか等々。しかしそんな些末な点を気にしなかれば、描かれた農村の暮らしぶりには十分に読者を引き込むものがあります。家族総出の農作業、今なら親が止めそうな豪快で野性味たっぷりな遊び方、大好きなおばばの昔語りなど、まさに原風景と呼べるものでしょう。食べ物も良平の大好きな「にかごめし(むかごめしか)」、麦を炊き込む「ぶつめし」サツマイモの「いもめし」、「大根めし」「大根葉めし」「蕪めし」と、戦前の農村の質素な食生活が伺えます。学校では唱歌をうたい、書き取りをする。皇太子殿下が来られる際には見送りのために学校総出で街道へ並ぶ。良平も皇族を一目見ようと必死に目を凝らします。プロレタリア作家だからと言ってそこに反皇室的な記述はありませんね。時には祭文語りが村へ来て、広瀬中佐とアリアズナの恋を脚色した引き語りをする。アリアズナが広瀬のために父の机から露軍の機密文書を盗みだすというのは勿論フィクションでしょうねw こういうのも村では小さな娯楽だったのでしょう。もちろん抑圧的で閉鎖的な面も。良平は自分に親切にしてくれた女性ともども揶揄われ嫌な思いをします。その内容は残酷。今ならいじめ認定でしょう。しかも良平はその女生徒を助けることもできず、娘はその後、別の理由で一家もろとも夜逃げをしてしまう。終わり近くで良平は、村でただ一人旧制中学に通うようになります。構成としては、閉鎖的な村から開明的な世界へ一歩足を踏み出すということでしょうか。良平の思考(夢想)にも少しずつ自意識が芽生えてゆきます。その象徴として題名の梨の花が描かれる。「梨の花は咲いていた。そしてそれがほんとに美しかった。絵の通りだった。何の変哲もない、白っぽい花、それが何で美しいんだろうと思ったがそれはそこで行きどまりになった。とにかく、灰小舎の前で、今まで一ぺんも、花が咲くということさえ気にしたことのなかった梨の花が美しく咲いていた。」通学途次に出会う芸妓を美しいと感じる場面とともに、この花には性の目覚めも暗示されているようです。文量としては幼少期が中心で、地縁血縁ともに濃厚な村社会を克明に描いた点が読売文学賞受賞の理由でしょうか。最後にひとつ。庄野潤三の新刊「鉛筆印のトレーナー」(P+D BOOKS)で、主人公(作者)の長男がこの小説を読んで面白いと言っています。奥さんまで読んでいる。執筆は平成三~四年。ちょっと考えられませんね。
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上位レビュー、対象国: 日本
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2020年5月10日に日本でレビュー済み
(単行本で読了。装幀は加藤栄三)
戦前の福井の農村を舞台に、著者の少年時代を下敷きに書かれた小説です。旧制小学低学年の良平が主人公。
筋らしい筋は特にありません。むしろ良平の思考、夢想という形で内容が横道に逸れがちで、人間関係や背景の説明があきらかに不足している箇所があります。細かく言えば、ある親戚が「子殺し」と呼ばれるのはなぜか、良平の父親はなぜ朝鮮にいるのか、その父が「寂しいから鉦を送ってくれ」と手紙を送ってくるがなぜ「鉦」なのか等々。
しかしそんな些末な点を気にしなかれば、描かれた農村の暮らしぶりには十分に読者を引き込むものがあります。家族総出の農作業、今なら親が止めそうな豪快で野性味たっぷりな遊び方、大好きなおばばの昔語りなど、まさに原風景と呼べるものでしょう。食べ物も良平の大好きな「にかごめし(むかごめしか)」、麦を炊き込む「ぶつめし」サツマイモの「いもめし」、「大根めし」「大根葉めし」「蕪めし」と、戦前の農村の質素な食生活が伺えます。
学校では唱歌をうたい、書き取りをする。皇太子殿下が来られる際には見送りのために学校総出で街道へ並ぶ。良平も皇族を一目見ようと必死に目を凝らします。プロレタリア作家だからと言ってそこに反皇室的な記述はありませんね。
時には祭文語りが村へ来て、広瀬中佐とアリアズナの恋を脚色した引き語りをする。アリアズナが広瀬のために父の机から露軍の機密文書を盗みだすというのは勿論フィクションでしょうねw こういうのも村では小さな娯楽だったのでしょう。
もちろん抑圧的で閉鎖的な面も。良平は自分に親切にしてくれた女性ともども揶揄われ嫌な思いをします。その内容は残酷。今ならいじめ認定でしょう。しかも良平はその女生徒を助けることもできず、娘はその後、別の理由で一家もろとも夜逃げをしてしまう。
終わり近くで良平は、村でただ一人旧制中学に通うようになります。構成としては、閉鎖的な村から開明的な世界へ一歩足を踏み出すということでしょうか。良平の思考(夢想)にも少しずつ自意識が芽生えてゆきます。その象徴として題名の梨の花が描かれる。
「梨の花は咲いていた。そしてそれがほんとに美しかった。絵の通りだった。何の変哲もない、白っぽい花、それが何で美しいんだろうと思ったがそれはそこで行きどまりになった。とにかく、灰小舎の前で、今まで一ぺんも、花が咲くということさえ気にしたことのなかった梨の花が美しく咲いていた。」
通学途次に出会う芸妓を美しいと感じる場面とともに、この花には性の目覚めも暗示されているようです。文量としては幼少期が中心で、地縁血縁ともに濃厚な村社会を克明に描いた点が読売文学賞受賞の理由でしょうか。
最後にひとつ。庄野潤三の新刊「鉛筆印のトレーナー」(P+D BOOKS)で、主人公(作者)の長男がこの小説を読んで面白いと言っています。奥さんまで読んでいる。執筆は平成三~四年。ちょっと考えられませんね。
戦前の福井の農村を舞台に、著者の少年時代を下敷きに書かれた小説です。旧制小学低学年の良平が主人公。
筋らしい筋は特にありません。むしろ良平の思考、夢想という形で内容が横道に逸れがちで、人間関係や背景の説明があきらかに不足している箇所があります。細かく言えば、ある親戚が「子殺し」と呼ばれるのはなぜか、良平の父親はなぜ朝鮮にいるのか、その父が「寂しいから鉦を送ってくれ」と手紙を送ってくるがなぜ「鉦」なのか等々。
しかしそんな些末な点を気にしなかれば、描かれた農村の暮らしぶりには十分に読者を引き込むものがあります。家族総出の農作業、今なら親が止めそうな豪快で野性味たっぷりな遊び方、大好きなおばばの昔語りなど、まさに原風景と呼べるものでしょう。食べ物も良平の大好きな「にかごめし(むかごめしか)」、麦を炊き込む「ぶつめし」サツマイモの「いもめし」、「大根めし」「大根葉めし」「蕪めし」と、戦前の農村の質素な食生活が伺えます。
学校では唱歌をうたい、書き取りをする。皇太子殿下が来られる際には見送りのために学校総出で街道へ並ぶ。良平も皇族を一目見ようと必死に目を凝らします。プロレタリア作家だからと言ってそこに反皇室的な記述はありませんね。
時には祭文語りが村へ来て、広瀬中佐とアリアズナの恋を脚色した引き語りをする。アリアズナが広瀬のために父の机から露軍の機密文書を盗みだすというのは勿論フィクションでしょうねw こういうのも村では小さな娯楽だったのでしょう。
もちろん抑圧的で閉鎖的な面も。良平は自分に親切にしてくれた女性ともども揶揄われ嫌な思いをします。その内容は残酷。今ならいじめ認定でしょう。しかも良平はその女生徒を助けることもできず、娘はその後、別の理由で一家もろとも夜逃げをしてしまう。
終わり近くで良平は、村でただ一人旧制中学に通うようになります。構成としては、閉鎖的な村から開明的な世界へ一歩足を踏み出すということでしょうか。良平の思考(夢想)にも少しずつ自意識が芽生えてゆきます。その象徴として題名の梨の花が描かれる。
「梨の花は咲いていた。そしてそれがほんとに美しかった。絵の通りだった。何の変哲もない、白っぽい花、それが何で美しいんだろうと思ったがそれはそこで行きどまりになった。とにかく、灰小舎の前で、今まで一ぺんも、花が咲くということさえ気にしたことのなかった梨の花が美しく咲いていた。」
通学途次に出会う芸妓を美しいと感じる場面とともに、この花には性の目覚めも暗示されているようです。文量としては幼少期が中心で、地縁血縁ともに濃厚な村社会を克明に描いた点が読売文学賞受賞の理由でしょうか。
最後にひとつ。庄野潤三の新刊「鉛筆印のトレーナー」(P+D BOOKS)で、主人公(作者)の長男がこの小説を読んで面白いと言っています。奥さんまで読んでいる。執筆は平成三~四年。ちょっと考えられませんね。
(単行本で読了。装幀は加藤栄三)
戦前の福井の農村を舞台に、著者の少年時代を下敷きに書かれた小説です。旧制小学低学年の良平が主人公。
筋らしい筋は特にありません。むしろ良平の思考、夢想という形で内容が横道に逸れがちで、人間関係や背景の説明があきらかに不足している箇所があります。細かく言えば、ある親戚が「子殺し」と呼ばれるのはなぜか、良平の父親はなぜ朝鮮にいるのか、その父が「寂しいから鉦を送ってくれ」と手紙を送ってくるがなぜ「鉦」なのか等々。
しかしそんな些末な点を気にしなかれば、描かれた農村の暮らしぶりには十分に読者を引き込むものがあります。家族総出の農作業、今なら親が止めそうな豪快で野性味たっぷりな遊び方、大好きなおばばの昔語りなど、まさに原風景と呼べるものでしょう。食べ物も良平の大好きな「にかごめし(むかごめしか)」、麦を炊き込む「ぶつめし」サツマイモの「いもめし」、「大根めし」「大根葉めし」「蕪めし」と、戦前の農村の質素な食生活が伺えます。
学校では唱歌をうたい、書き取りをする。皇太子殿下が来られる際には見送りのために学校総出で街道へ並ぶ。良平も皇族を一目見ようと必死に目を凝らします。プロレタリア作家だからと言ってそこに反皇室的な記述はありませんね。
時には祭文語りが村へ来て、広瀬中佐とアリアズナの恋を脚色した引き語りをする。アリアズナが広瀬のために父の机から露軍の機密文書を盗みだすというのは勿論フィクションでしょうねw こういうのも村では小さな娯楽だったのでしょう。
もちろん抑圧的で閉鎖的な面も。良平は自分に親切にしてくれた女性ともども揶揄われ嫌な思いをします。その内容は残酷。今ならいじめ認定でしょう。しかも良平はその女生徒を助けることもできず、娘はその後、別の理由で一家もろとも夜逃げをしてしまう。
終わり近くで良平は、村でただ一人旧制中学に通うようになります。構成としては、閉鎖的な村から開明的な世界へ一歩足を踏み出すということでしょうか。良平の思考(夢想)にも少しずつ自意識が芽生えてゆきます。その象徴として題名の梨の花が描かれる。
「梨の花は咲いていた。そしてそれがほんとに美しかった。絵の通りだった。何の変哲もない、白っぽい花、それが何で美しいんだろうと思ったがそれはそこで行きどまりになった。とにかく、灰小舎の前で、今まで一ぺんも、花が咲くということさえ気にしたことのなかった梨の花が美しく咲いていた。」
通学途次に出会う芸妓を美しいと感じる場面とともに、この花には性の目覚めも暗示されているようです。文量としては幼少期が中心で、地縁血縁ともに濃厚な村社会を克明に描いた点が読売文学賞受賞の理由でしょうか。
最後にひとつ。庄野潤三の新刊「鉛筆印のトレーナー」(P+D BOOKS)で、主人公(作者)の長男がこの小説を読んで面白いと言っています。奥さんまで読んでいる。執筆は平成三~四年。ちょっと考えられませんね。
戦前の福井の農村を舞台に、著者の少年時代を下敷きに書かれた小説です。旧制小学低学年の良平が主人公。
筋らしい筋は特にありません。むしろ良平の思考、夢想という形で内容が横道に逸れがちで、人間関係や背景の説明があきらかに不足している箇所があります。細かく言えば、ある親戚が「子殺し」と呼ばれるのはなぜか、良平の父親はなぜ朝鮮にいるのか、その父が「寂しいから鉦を送ってくれ」と手紙を送ってくるがなぜ「鉦」なのか等々。
しかしそんな些末な点を気にしなかれば、描かれた農村の暮らしぶりには十分に読者を引き込むものがあります。家族総出の農作業、今なら親が止めそうな豪快で野性味たっぷりな遊び方、大好きなおばばの昔語りなど、まさに原風景と呼べるものでしょう。食べ物も良平の大好きな「にかごめし(むかごめしか)」、麦を炊き込む「ぶつめし」サツマイモの「いもめし」、「大根めし」「大根葉めし」「蕪めし」と、戦前の農村の質素な食生活が伺えます。
学校では唱歌をうたい、書き取りをする。皇太子殿下が来られる際には見送りのために学校総出で街道へ並ぶ。良平も皇族を一目見ようと必死に目を凝らします。プロレタリア作家だからと言ってそこに反皇室的な記述はありませんね。
時には祭文語りが村へ来て、広瀬中佐とアリアズナの恋を脚色した引き語りをする。アリアズナが広瀬のために父の机から露軍の機密文書を盗みだすというのは勿論フィクションでしょうねw こういうのも村では小さな娯楽だったのでしょう。
もちろん抑圧的で閉鎖的な面も。良平は自分に親切にしてくれた女性ともども揶揄われ嫌な思いをします。その内容は残酷。今ならいじめ認定でしょう。しかも良平はその女生徒を助けることもできず、娘はその後、別の理由で一家もろとも夜逃げをしてしまう。
終わり近くで良平は、村でただ一人旧制中学に通うようになります。構成としては、閉鎖的な村から開明的な世界へ一歩足を踏み出すということでしょうか。良平の思考(夢想)にも少しずつ自意識が芽生えてゆきます。その象徴として題名の梨の花が描かれる。
「梨の花は咲いていた。そしてそれがほんとに美しかった。絵の通りだった。何の変哲もない、白っぽい花、それが何で美しいんだろうと思ったがそれはそこで行きどまりになった。とにかく、灰小舎の前で、今まで一ぺんも、花が咲くということさえ気にしたことのなかった梨の花が美しく咲いていた。」
通学途次に出会う芸妓を美しいと感じる場面とともに、この花には性の目覚めも暗示されているようです。文量としては幼少期が中心で、地縁血縁ともに濃厚な村社会を克明に描いた点が読売文学賞受賞の理由でしょうか。
最後にひとつ。庄野潤三の新刊「鉛筆印のトレーナー」(P+D BOOKS)で、主人公(作者)の長男がこの小説を読んで面白いと言っています。奥さんまで読んでいる。執筆は平成三~四年。ちょっと考えられませんね。
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