本書には「死者の書(1943 増補訂正版)」「死者の書 続編(草稿)」「口ぶえ」を収めてます。
カルチャセンタの「日本書紀」の応神紀で講師が脱線し折口信夫の話になり「死者の書」は「背筋が寒くなる本」と云ってみえたので本書を購入。格調高い本です。日本書紀は既に読んでおり滋賀津彦=大津皇子(663-686)、耳面刀自(藤原鎌足の娘、大友皇子の妃)、南家郎女=中将姫(747-775)という事が分りましたので左程怖くはなかった。萬葉集の歌が素晴らしい。ただ「髪を振り乱して裸足で走り、殉死した。それを見た者は皆嘆き悲しんだ」山辺皇女の事に一言も触れてないのは気の毒な気がします。本書の最後は少しあっけない感じですが、解説を読むと「初稿 死者の書(1939)」の方が首尾一貫してるとの事ですので機会があれば読んでみたい。(2004国書刊行会にて再販)
「死者の書 続編(草稿)」は保元の乱の藤原頼長の話です。苛烈で妥協を知らない性格により悪左府と呼ばれた頼長が男色を好んだ事に驚愕。「日本書紀」の講師が脱線したのは、ジャニー喜多川(男色家)→折口信夫(男色家)だったかもしれません。
「口ぶえ」は読んでません。
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死者の書・口ぶえ (岩波文庫) (岩波文庫 緑 186-2) 文庫 – 2010/5/15
折口 信夫
(著)
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購入オプションとあわせ買い
「した した した。」雫のつたう暗闇、生と死のあわいに目覚める「死者」。「おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。」古代世界に題材をとり、折口信夫(1887-1953)の比類ない言語感覚が織り上げる物語は、読む者の肌近く忍び寄り幻惑する。同題の未発表草稿「死者の書 続編」、少年の眼差しを瑞瑞しく描く小説第一作「口ぶえ」を併録。(注・解説=安藤礼二)
- 本の長さ300ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2010/5/15
- 寸法10.5 x 1.4 x 15 cm
- ISBN-104003118626
- ISBN-13978-4003118627
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2010/5/15)
- 発売日 : 2010/5/15
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 300ページ
- ISBN-10 : 4003118626
- ISBN-13 : 978-4003118627
- 寸法 : 10.5 x 1.4 x 15 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 130,089位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2019年12月17日に日本でレビュー済み
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2019年9月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
文庫で買うならば角川、中公と他にもあるようだが、解説が安藤礼二ということで岩波をチョイス。いきなり読み始めたが何のことやらさっぱりわからなかったので、まず草壁皇子と大津皇子のエピソードをさらい、次いで奈良当麻寺の中将姫伝説、さらに安藤礼二著『霊獣「死者の書」完結編』を手元におき万全を期して再度ページを繰り始めた。冒頭、洞窟の暗闇の中から大津皇子と思われる人物が蘇る場面は背筋が凍りつくような怖さ(ここはホントに凄い)。転じて話題は中将姫伝説に移る。さていったいどんな結末が待っているのだろうかとますます期待は高まるのだったが・・・。ところが肝心のラストは、はっ?これで終わり?冒頭の場面があまりにも強烈な印象として残っていたために拍子抜けした感じであった。時間と空間を超越したような独特の文体から放たれる雰囲気は良かったのだが、物語としては、う~ん、ちょっと・・。折口信夫ファンやマニア向けといった印象か。また古代史などにある程度通じていないと読み通すのは難しいと思った。ただ、もう一度と言わず、二度、三度と読み返したくなる(読み返さずにはいられなくなる)のもまた事実で、そういう魅力というか魔力?を持った作品であることは間違いない。
2018年8月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
なかなか興味深いのでじっくり読んでます。読み返すとなお面白さが増すようです。
2018年1月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
期待しすぎていたせいか、そこまで感動しなかった…
古代研究者が知識を駆使して書いた小説だけど、話としてはそんなに面白くない、くらいな印象…
生の古典文学とか、古代の研究本の面白さには到達していない感じ。
好みの問題かもしれませんが。
古代研究者が知識を駆使して書いた小説だけど、話としてはそんなに面白くない、くらいな印象…
生の古典文学とか、古代の研究本の面白さには到達していない感じ。
好みの問題かもしれませんが。
2017年2月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内容もさることながら、注釈がとにかく丁寧。
作品の背景・元ネタ・歴史的な解説など、とても細かく書かれていてありがたい。
人物相関図や舞台の地図も最後に添えられています。
ここまで細かい解説をしてくれる本はなかなかないと思います。
作品の背景・元ネタ・歴史的な解説など、とても細かく書かれていてありがたい。
人物相関図や舞台の地図も最後に添えられています。
ここまで細かい解説をしてくれる本はなかなかないと思います。
2016年7月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ファジカルでリアルな世界観、古風言葉使いなのに独特の言い回しが新鮮な作品ですね。
2018年1月3日に日本でレビュー済み
いずれの作品も折口氏が完結を帰せず、書きついでは手をいれ、最終的に未完に終わったものもあるとのことだが、各々の作品は独自の「傾(かぶ)いた詩情性」に満ち、決定版を要する必要のない読後感を維持している。但し、解説者の言うごとく、半自伝小説「口ぶえ」を含む該作品の歴史的背景や典拠を、先に巻末の「注解」で当るか、或いは巻を留めて併読するほうが、より深く「折口ワールド」に浸ることができるとお薦めしておこう。
< 死者の書 >
壬申の乱を経て、皇位継承の諍いから、叔母である持統朝への謀反を企てたとして殺害され、三上山の古塚に祀られた大津皇子の荒魂の慟哭は、生々しく二上山に木霊する。遥か奈良の地より二上山麓の当麻寺を訪れた女がある。「藤原四家の系統で一番、神さびた たち を持ち、やがては枚岡の斎き姫にあがる」郎女である。しかし、当麻寺万法蔵院は「落慶のあったばかりの浄域」その境内深く立ち入った南家の郎女は、寺の僧に問われて「山をおがみに・・・」とだけ言った。高貴な子女とは言え、「寺社の女人結界を犯した」からには、「長期の物忌みを寺近くに住まい果たさなければ」奈良東城へは戻れない。奈良東城の人々は郎女が神隠しあったと噂した。
郎女の父横佩家の豊成は、その頃朝鮮半島新羅の暴状不穏につき、情勢把握のため朝廷より太宰府に遣わされていて都を留守にすることが多く、後日所在の知れた郎女の当麻寺隠棲の事実に気を揉むばかりであった。政界では豊成の従兄弟、藤原恵美中卿が権勢を持ち始めていた。庵堂の郎女はある夜、神々しい阿弥陀仏の常世を逍遥する夢を見る。「頂板にさし入った月」の光明に「山の端に立つ俤びと」を見たような気がした。
彼岸中日にいたり、大山颪が吹いた。惹かれるように郎女は庵堂を出て寺の門に立った。万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡は金や朱、青に自ら光を発し神々しい。郎女はそこに尊者の半身を見る。「あなとうと 阿弥陀ほとけ。」郎女は発心し機を織りはじめる。「この機を織り上げて、はようあの素肌のお身を掩うてあげたい。」日を継いで織り上げた「五十条の大衣、藕糸の上帠」に大唐の彩色を施し、その絵様に曼荼羅を添え、郎女自身はその中に「唯一人の色身の幻を描いた」つもりだが、傍らにいる刀自・若人の目には、「見る見る、数千地涌の菩薩の姿が浮き出てきた」ように映ったという。称賛浄土経を千部手写し、曾祖母にあたる橘夫人の法華経を拝受した。南家郎女の霊験灼たかである。
< 死者の書 続編 >
「大塔中堂の造立供養」の日、藤原頼長は高野山を訪れた。応接する丰恵律師に、宿曜経と、開祖空海が本邦にもたらしたという「易の八卦」について問いかけた。高野山の「房主」どもは、「面従」の「京の実務官」に似て、「気の許せぬ」人種である。丰恵律師は負けじとばかり、もっと西域より大唐長安に伝えられた「日京卜」という卜術を紹介した。「外には一切しない方法で、開山大師の御廟に限って卜をする時」があると仄めかす。そして、空海の入滅「入定留身」という「目を閉じ言葉を発しない状態のまま、滅びることなく生き続ける」・・・廟に坐して二百年の月日、二十年に一度「京の禁中より髪剃りの勅使が立ち、大師の髪を整える。律師はそれに立ち会い、袈裟替えを介添えたとき、大師の髪は二寸ほど伸びていたと自慢した。
頼長は「西観唐記」なる書の逸文を諳んじていた。そこでは、波斯国よりさらに西方に、神変不可思議の術を用い訝しまれ、疑われ磔に処せられた夷人があった。その夷人の教えが長安の都にも伝わり、「招魂の法」をもって夷人の姿を招きよせて礼拝する。君子士人のあいだにも広がって、流弊はかり難いものがある」、空海和上の入唐と夷人の教え(景教)との接触を想定し、「招魂法」を「卜象」と考えたのだと評した。
頼長は三日山に逗留し、山の幻影と怪異に興味を覚えたが、開山堂で二十年に一度開く勅封の扉を開けさせたとき、開山の死臘に吐き気を催し、自分の信仰とは無縁の寂寥感を覚えた。「この国の第一人者といわれた人は、「不可思議のない空虚な大地に一人生きている」。
頼長は自ら、山から貰いうけてきた楞善院の喝食に男色の嗜好を癒すだけの現実を知る。丰恵阿闍梨は山の僧の志を代表して、「麓の学文路村まで頼長の乗り物を見送ろうと山を降った。」「山の末寺である当麻寺。南北三町、東西五町にある境内、七堂伽藍の立つ平地、門を圧するように立っているのが二上山」である。
< 口ぶえ >
少年漆間安良の祖父は、日本書紀にも記された「飛鳥坐神社」に養子に入り、そこから婿養子で漆間家に入った人だというが、亡くなって後、祖父方とは縁が切れてしまった。その縁を取り戻そうと、安良は祖母や叔母のいる当麻・吉野・飛鳥方面へ訪れ、大和廻りの一泊旅行によって飛鳥坐神社に詣でた。安良は日頃から歌人や俳人たちの芸術至上主義の孤高たる「世捨人」への憧れと、思春期の真っ中に埋もれた、不純物のない鉱物のような感受性への逃避、これら相矛盾する日々に費やされていた。思春期個有の自殺願望の感傷を並列に準えると、決まってどこからともなく「淡紅色の蛇」が這い出してきて、行く手を遮る。それは、安良によせる級友岡沢の後ろめたい恋情の「痼」にあったのかも知れない。ある日のこと、安良のもとに手紙と絵葉書が届いた。葉書の主は岡沢で、富士山の松並木に添えた一文があったが、「倍旧のご愛顧を」などど、唾棄したいような気にさせられた。一方封書の方は渥美という少年からであった。安良はかねてより「清らかな人」と親しみを覚えていた。渥美の叔父が住職をする西山の寺に遊びに来ている、一つ年長の友人である。好意そのものは、岡沢に対する「心地」とさほどちがったものではない、と頭をよぎるけれど、そんな自分が「不愉快」になった。安良は家を出て京街道を北へ、渥美のいる西山の寺を目指した。「万事解決がつく」、安良はなぜかこう確信する。
「大人の人が死なれん死なれんいいますけれど、わては死ぬくらいなことはなんでもないこっちゃ思います」渥美は夜、相並んだ床のなかで、安良の応えを待つように言う。翌日、渥美は叔父のすすめで、安良に峪を案内する。川で泳いだあとは、西山から丹波の穴太寺へ通う山径へ出た。杉林や熊笹をかき分け、二人は息も絶え絶え山を登って行く。「鉞の刃をわたるような」「急勾配」の道が続いて、動悸はいや増した。安良は心臓を押さえながら、「青い顔をした父の死に顔」を思い出していた。その心臓を傍らの渥美が撫でた。
「家人の放つ冷ややかな眼の光」がふと頭をよぎる。谷風の吹き上げる」断崖に立った。「二人の掌は、ふり放すことの出来ぬ力が加わったように、きびしく結びあわされている」。
< 死者の書 >
壬申の乱を経て、皇位継承の諍いから、叔母である持統朝への謀反を企てたとして殺害され、三上山の古塚に祀られた大津皇子の荒魂の慟哭は、生々しく二上山に木霊する。遥か奈良の地より二上山麓の当麻寺を訪れた女がある。「藤原四家の系統で一番、神さびた たち を持ち、やがては枚岡の斎き姫にあがる」郎女である。しかし、当麻寺万法蔵院は「落慶のあったばかりの浄域」その境内深く立ち入った南家の郎女は、寺の僧に問われて「山をおがみに・・・」とだけ言った。高貴な子女とは言え、「寺社の女人結界を犯した」からには、「長期の物忌みを寺近くに住まい果たさなければ」奈良東城へは戻れない。奈良東城の人々は郎女が神隠しあったと噂した。
郎女の父横佩家の豊成は、その頃朝鮮半島新羅の暴状不穏につき、情勢把握のため朝廷より太宰府に遣わされていて都を留守にすることが多く、後日所在の知れた郎女の当麻寺隠棲の事実に気を揉むばかりであった。政界では豊成の従兄弟、藤原恵美中卿が権勢を持ち始めていた。庵堂の郎女はある夜、神々しい阿弥陀仏の常世を逍遥する夢を見る。「頂板にさし入った月」の光明に「山の端に立つ俤びと」を見たような気がした。
彼岸中日にいたり、大山颪が吹いた。惹かれるように郎女は庵堂を出て寺の門に立った。万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡は金や朱、青に自ら光を発し神々しい。郎女はそこに尊者の半身を見る。「あなとうと 阿弥陀ほとけ。」郎女は発心し機を織りはじめる。「この機を織り上げて、はようあの素肌のお身を掩うてあげたい。」日を継いで織り上げた「五十条の大衣、藕糸の上帠」に大唐の彩色を施し、その絵様に曼荼羅を添え、郎女自身はその中に「唯一人の色身の幻を描いた」つもりだが、傍らにいる刀自・若人の目には、「見る見る、数千地涌の菩薩の姿が浮き出てきた」ように映ったという。称賛浄土経を千部手写し、曾祖母にあたる橘夫人の法華経を拝受した。南家郎女の霊験灼たかである。
< 死者の書 続編 >
「大塔中堂の造立供養」の日、藤原頼長は高野山を訪れた。応接する丰恵律師に、宿曜経と、開祖空海が本邦にもたらしたという「易の八卦」について問いかけた。高野山の「房主」どもは、「面従」の「京の実務官」に似て、「気の許せぬ」人種である。丰恵律師は負けじとばかり、もっと西域より大唐長安に伝えられた「日京卜」という卜術を紹介した。「外には一切しない方法で、開山大師の御廟に限って卜をする時」があると仄めかす。そして、空海の入滅「入定留身」という「目を閉じ言葉を発しない状態のまま、滅びることなく生き続ける」・・・廟に坐して二百年の月日、二十年に一度「京の禁中より髪剃りの勅使が立ち、大師の髪を整える。律師はそれに立ち会い、袈裟替えを介添えたとき、大師の髪は二寸ほど伸びていたと自慢した。
頼長は「西観唐記」なる書の逸文を諳んじていた。そこでは、波斯国よりさらに西方に、神変不可思議の術を用い訝しまれ、疑われ磔に処せられた夷人があった。その夷人の教えが長安の都にも伝わり、「招魂の法」をもって夷人の姿を招きよせて礼拝する。君子士人のあいだにも広がって、流弊はかり難いものがある」、空海和上の入唐と夷人の教え(景教)との接触を想定し、「招魂法」を「卜象」と考えたのだと評した。
頼長は三日山に逗留し、山の幻影と怪異に興味を覚えたが、開山堂で二十年に一度開く勅封の扉を開けさせたとき、開山の死臘に吐き気を催し、自分の信仰とは無縁の寂寥感を覚えた。「この国の第一人者といわれた人は、「不可思議のない空虚な大地に一人生きている」。
頼長は自ら、山から貰いうけてきた楞善院の喝食に男色の嗜好を癒すだけの現実を知る。丰恵阿闍梨は山の僧の志を代表して、「麓の学文路村まで頼長の乗り物を見送ろうと山を降った。」「山の末寺である当麻寺。南北三町、東西五町にある境内、七堂伽藍の立つ平地、門を圧するように立っているのが二上山」である。
< 口ぶえ >
少年漆間安良の祖父は、日本書紀にも記された「飛鳥坐神社」に養子に入り、そこから婿養子で漆間家に入った人だというが、亡くなって後、祖父方とは縁が切れてしまった。その縁を取り戻そうと、安良は祖母や叔母のいる当麻・吉野・飛鳥方面へ訪れ、大和廻りの一泊旅行によって飛鳥坐神社に詣でた。安良は日頃から歌人や俳人たちの芸術至上主義の孤高たる「世捨人」への憧れと、思春期の真っ中に埋もれた、不純物のない鉱物のような感受性への逃避、これら相矛盾する日々に費やされていた。思春期個有の自殺願望の感傷を並列に準えると、決まってどこからともなく「淡紅色の蛇」が這い出してきて、行く手を遮る。それは、安良によせる級友岡沢の後ろめたい恋情の「痼」にあったのかも知れない。ある日のこと、安良のもとに手紙と絵葉書が届いた。葉書の主は岡沢で、富士山の松並木に添えた一文があったが、「倍旧のご愛顧を」などど、唾棄したいような気にさせられた。一方封書の方は渥美という少年からであった。安良はかねてより「清らかな人」と親しみを覚えていた。渥美の叔父が住職をする西山の寺に遊びに来ている、一つ年長の友人である。好意そのものは、岡沢に対する「心地」とさほどちがったものではない、と頭をよぎるけれど、そんな自分が「不愉快」になった。安良は家を出て京街道を北へ、渥美のいる西山の寺を目指した。「万事解決がつく」、安良はなぜかこう確信する。
「大人の人が死なれん死なれんいいますけれど、わては死ぬくらいなことはなんでもないこっちゃ思います」渥美は夜、相並んだ床のなかで、安良の応えを待つように言う。翌日、渥美は叔父のすすめで、安良に峪を案内する。川で泳いだあとは、西山から丹波の穴太寺へ通う山径へ出た。杉林や熊笹をかき分け、二人は息も絶え絶え山を登って行く。「鉞の刃をわたるような」「急勾配」の道が続いて、動悸はいや増した。安良は心臓を押さえながら、「青い顔をした父の死に顔」を思い出していた。その心臓を傍らの渥美が撫でた。
「家人の放つ冷ややかな眼の光」がふと頭をよぎる。谷風の吹き上げる」断崖に立った。「二人の掌は、ふり放すことの出来ぬ力が加わったように、きびしく結びあわされている」。
2015年5月30日に日本でレビュー済み
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なんでしょう・・・本当に心の奥に迫ってくるものがあります。
事象や感情をこのように表現できる才能を感じました。
もっと多くの小説を書いていたらとの残念な気持ちも含めて、すこしマニアックではありますが、お勧めです。
事象や感情をこのように表現できる才能を感じました。
もっと多くの小説を書いていたらとの残念な気持ちも含めて、すこしマニアックではありますが、お勧めです。