どう考えても逮捕される理由など一つも思いつかない平凡なサラリーマンKが、ある朝突然自宅に押しかけた監視人の男たちに逮捕される。「変身」と同様、カフカの小説は意味や根拠といったものをごっそり欠落させたまま話が進んでいく。
平易な文章にも関わらず読むのに苦痛を感じるのは登場人物たちの退屈極まる話と言葉の空々しさによるものかもしれない。その空々しさは、第1章から第10章まで(付録も2つある)のうち、第7章の弁護士の話まで続く(ここで小説全体の半分くらい)。
それまでの各章の内容は、睡眠中に見る夢をリアルに言語化された世界を見ているようで、しかもそれぞれの章に有機的なつながりを見いだせず、突然場面が切り替わるような訳の分からない感覚があった。がしかし、それらを前提として第7章の画家の話あたりからこの物語が他人事ではなくなり、読む側にもじわじわと不安がにじり寄ってくる恐ろしさと緊張を強いられることになった。
自分たちの周りに幾重にも張り巡らされた得体の知れない巧妙な“仕掛け”が、大きく黒い翼で世の中を覆っているような不気味さ、その仕掛けがシステムだとして人がシステムに監視されているとしても、システム自体を監視するもの、あるいは疑問を持つものが存在しないという無防備さ、のみならず保身を優先するあまり、自分の中に持つ無防備なシステムによって自分の罪悪にすら気づこうとせず、決定を引き延ばすことしか考えない人間のずるさと愚かさ。Kは“何かをしているフリをすること”が人間の本質ではないことが分かっていながら、不安と絶望に苛まれて不気味な仕掛けに力を奪われていく。混沌とした時代の中におけるK(カフカ自身)の、相当な精神的葛藤を思わずにはいられない。
第9章に出てくる教誨師は、あの脳裏に刻まれる究極の短編「掟の門」の解釈の困難さを説明している。あまりの斬新さと複雑さに頭がクラクラしたが、奇妙な騙し絵の連続のようなこの作品では、巨大な仕掛けから戦うことによって逃れることの困難さ、ひいては自分自身から逃れることの困難さを示唆しているように思える。
出口なし。希望なし。戦うか、踏みとどまるか。
カミュの「異邦人」における”不条理”と通じるところもあり、非常に斬新であると同時に普遍性もあり、類似性のない独特のな魅力を放つ作品だと思います。
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審判 (岩波文庫 赤 438-2) 文庫 – 1966/5/16
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- 本の長さ394ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1966/5/16
- 寸法10.5 x 2.4 x 14.8 cm
- ISBN-10400324382X
- ISBN-13978-4003243824
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1966/5/16)
- 発売日 : 1966/5/16
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 394ページ
- ISBN-10 : 400324382X
- ISBN-13 : 978-4003243824
- 寸法 : 10.5 x 2.4 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 65,600位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2018年6月22日に日本でレビュー済み
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2014年12月5日に日本でレビュー済み
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この小説は我々における認知の問題及びそこから導き出される行動の不条理性の問題を考える上での金字塔となる作品であると私は考える。
主人公のヨーゼフ・Kは急にかけられる裁判、好意をよせるビュルストナー夫人、仕事仲間の銀行の同僚など様々な要素に自分が認知しえぬ水面下の動きが存在することを感じ取る。そんな中で誰もKには本当のことは言わずに漠然とした不安のみが募っていく。(このような問題は現代において特に顕著な問題と言える。)
そして、第9章において掟の門の話が出てくるわけであるが、ここでは我々の認知とは本質的に錯誤であることが語られる。我々は親の心情すら本当は知りはしないのだということを思い知らされる。そして、掟の門の前でその門を通るのは自分だけだと語られる。すなわち、人は自らを掟に基づき人を裁くということである。その門を通ることは当然のことながら自分にしかできない。
この世界の人間すべてが自分の掟を真実と錯覚し人を裁く。私はこの小説のこのようなメッセージにこの世の不条理の根源を見た。
主人公のヨーゼフ・Kは急にかけられる裁判、好意をよせるビュルストナー夫人、仕事仲間の銀行の同僚など様々な要素に自分が認知しえぬ水面下の動きが存在することを感じ取る。そんな中で誰もKには本当のことは言わずに漠然とした不安のみが募っていく。(このような問題は現代において特に顕著な問題と言える。)
そして、第9章において掟の門の話が出てくるわけであるが、ここでは我々の認知とは本質的に錯誤であることが語られる。我々は親の心情すら本当は知りはしないのだということを思い知らされる。そして、掟の門の前でその門を通るのは自分だけだと語られる。すなわち、人は自らを掟に基づき人を裁くということである。その門を通ることは当然のことながら自分にしかできない。
この世界の人間すべてが自分の掟を真実と錯覚し人を裁く。私はこの小説のこのようなメッセージにこの世の不条理の根源を見た。
2021年7月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
文字が小さくて読みづらいが、カフカの傑作をご堪能あれ
2019年9月18日に日本でレビュー済み
"何者か、ヨーゼフ・Kを密告したものがあるに相違ない。というわけは、ある朝、身に覚えのない彼が突然逮捕されたからである。"死後、1925年に編集・発刊された本書は長編『孤独の三部作』の一つにして不安、不条理な世界観が世界文学に今も影響を与え続けている未完の傑作。
個人的には主宰している読書会の課題図書として、数年ぶりに再読してみました。
さて、そんな本書は著者の別中編『変身』とよく似た始まり方で、ある朝、アパートで目覚めた銀行員Kが突然、逮捕される冒頭から始まり、なぜ逮捕されたのか?逮捕した"裁判所"もいっさい理由を説明しない中で、Kの『終わりの見えない問答が続いていく』のですが(この辺りは別長編『城』の展開と似てますね)
まあ、古典的名作。作家論的解釈としては『当時のカフカの女性関係』(カネッティ『もう一つの訴訟』)や『父親に対するエディプス・コンプレックス』として、またテクスト論的解釈としては実存主義的な『不条理文学』やデリダによる『脱構築』。あるいは友人にして編者のマックス・ブロードによる『シオニスト』的解釈と様々な論評が既にされているわけですが。
『それもそれ』として。再読して、あらためて思ったのですが。用意された登場人物の誰かに自分の感情を重ねて、著者が意図し用意した【起承転結的な一本のストーリーを追体験してなぞっていく】例えば、かってのドラクエシリーズ(ロト三部作)的JRPG的な作品を好んだり、親しんでいる人だと、本書は銀行員Kも【終始傲慢だし】また登場人物達も回収されずフェイドアウト。ストーリーはまったく先に進まず唐突に終わる。となかなかに【ストレスがたまるのではないか?】とやはり思いました。
一方で、数年ぶりの再読。と、当然に歳を重ねて、そもそもずっと人生は努力しても必ずしも報われるわけではない『不条理さ』ばかりである事を憤りというより【自然に受け止められるようになったり】読書(会)も重ねて、例えば風刺文学を著者がおそらくは意図したガリヴァー旅行記が『児童文学に変質したり』といった【時代の読み手によって変わる】事を"既に知っている"立場としては、おそらくは本書は今で言えば"読み手をあまり意識しないブログ創作日記"として、著者は本当は感じるままに"書きたいから書いていた"だけではないか?と、身も蓋もないですが。肩の力を抜いて【私的解釈したくなるのです】(だって未完だし)
不条理文学の代表作としてはもちろん。著者の意図より【自分自身で勝手に楽しみたい】そんな方にもオススメ。
個人的には主宰している読書会の課題図書として、数年ぶりに再読してみました。
さて、そんな本書は著者の別中編『変身』とよく似た始まり方で、ある朝、アパートで目覚めた銀行員Kが突然、逮捕される冒頭から始まり、なぜ逮捕されたのか?逮捕した"裁判所"もいっさい理由を説明しない中で、Kの『終わりの見えない問答が続いていく』のですが(この辺りは別長編『城』の展開と似てますね)
まあ、古典的名作。作家論的解釈としては『当時のカフカの女性関係』(カネッティ『もう一つの訴訟』)や『父親に対するエディプス・コンプレックス』として、またテクスト論的解釈としては実存主義的な『不条理文学』やデリダによる『脱構築』。あるいは友人にして編者のマックス・ブロードによる『シオニスト』的解釈と様々な論評が既にされているわけですが。
『それもそれ』として。再読して、あらためて思ったのですが。用意された登場人物の誰かに自分の感情を重ねて、著者が意図し用意した【起承転結的な一本のストーリーを追体験してなぞっていく】例えば、かってのドラクエシリーズ(ロト三部作)的JRPG的な作品を好んだり、親しんでいる人だと、本書は銀行員Kも【終始傲慢だし】また登場人物達も回収されずフェイドアウト。ストーリーはまったく先に進まず唐突に終わる。となかなかに【ストレスがたまるのではないか?】とやはり思いました。
一方で、数年ぶりの再読。と、当然に歳を重ねて、そもそもずっと人生は努力しても必ずしも報われるわけではない『不条理さ』ばかりである事を憤りというより【自然に受け止められるようになったり】読書(会)も重ねて、例えば風刺文学を著者がおそらくは意図したガリヴァー旅行記が『児童文学に変質したり』といった【時代の読み手によって変わる】事を"既に知っている"立場としては、おそらくは本書は今で言えば"読み手をあまり意識しないブログ創作日記"として、著者は本当は感じるままに"書きたいから書いていた"だけではないか?と、身も蓋もないですが。肩の力を抜いて【私的解釈したくなるのです】(だって未完だし)
不条理文学の代表作としてはもちろん。著者の意図より【自分自身で勝手に楽しみたい】そんな方にもオススメ。
2011年9月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『変身』と短編では間違いなく天才の着想と完成度を誇っていたカフカにとって本作を含めた長編三作は習作であったらしい。そして41歳で急逝してしまった著者は本作も未完のまま終わらせている。『城』を読んだ時には立体感のない会話が延々と続く冗漫さに読了までしんどい思いをした為、「審判もそうだったらやだなー」と思いながら読み始めた。(余談だが、奥泉光氏は『城』を途中で投げ出したそうだByエッセイ集『虚構まみれ)。『城』と比較すると本作は遙かに構造と立体感を備え、ディテールにも粗さが無い。だが公務員として多忙の中作品を描いたカフカにはやはり時間が足りなかったのではないか。あえて内容には触れないが、カフカの超絶的創造力であれば、世界のすべてが唐突に裁判所に繋がっている仕掛けをもっと巧妙かつ豊富に作る事が出来たと思う。〜若くして人生を終えてしまった事が作家としてのカフカにとって良かったのか否かは、僕には解らない。だが、間違いなく唯一無二の天才だっだ著者の才能と世界観は若かったからこそ為し得た僥倖というべきなのかも知れない。
2017年12月27日に日本でレビュー済み
「小説」というジャンルの一つの極致。ストーリー全体は奇妙奇天烈なのに,半径1mくらいの範囲では妙なリアリティーがあり,主人公の心理描写はさらにリアルで,痛いくらい。世界の深遠を覗くような凄みが有るのに,あちこちが妙にコミカル。『ビジュアルバム』など全盛期の松本人志にも通じる笑いだが,カフカを読むと,逆に松本が ぬるく感じられるようになる。
ただし, 作品全体を通して小出しに出され続ける「謎の裁判組織」の情報には,ちゃんと一貫性が有り, 意外としっかり「裏設定」を固めた上で書かれているかと思われる。
裁判組織の出先の事務所は,殆ど全ての住宅の屋根裏に存在しているとされ,その内部は時空が歪んでいる様に描写される。この「裏世界」に不慣れな主人公は,そこの空気を長く吸うと倒れそうになる。逆に,裏世界の住人は,外の通常の空気は苦手のようだ。二つの世界を自由に行き来する者の一部は,手の指に水かきが付いたり,足に障害があったり,と言った特徴を持つ。現代日本人から見ると,特撮ドラマのエイリアンのようである。
現代哲学では「シミュレーション仮説」と言うのが有るが(Wiki参照),計算機の発明の遥か前に,天才カフカは似た着想を得ていたのではないか?謎の裁判組織に属する連中は,映画『マトリックス』シリーズの「エージェント」に近いイメージで設定されているように思える(ただし、SF格闘モノである「マトリックス」のエージェントは、色々な特殊能力を持っているのに対し、本作では しょぼくれた小役人風はある)。
作品のあちこちに伏線らしきものが張られており, たとえば,「家具としてのベッド,特に壁際に置かれたベッド」には,何がしかの意味が有る筈。これらを丁寧に読み解いていけば,ある程度までは謎が解けそう (作品の底が浅いと言ってるのではなく,表面のミステリ的な要素は,意外にちゃんと解けるのでは,と言うこと。)
ただし, 作品全体を通して小出しに出され続ける「謎の裁判組織」の情報には,ちゃんと一貫性が有り, 意外としっかり「裏設定」を固めた上で書かれているかと思われる。
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作品のあちこちに伏線らしきものが張られており, たとえば,「家具としてのベッド,特に壁際に置かれたベッド」には,何がしかの意味が有る筈。これらを丁寧に読み解いていけば,ある程度までは謎が解けそう (作品の底が浅いと言ってるのではなく,表面のミステリ的な要素は,意外にちゃんと解けるのでは,と言うこと。)