〇 ヴァレリーはすごい人だ。あの世のソクラテスにインタビューを敢行しているのでびっくりした。そのソクラテスに「アテネで問答を繰り返したことを悔いている。私には言葉でなく行動を通じて真実に迫るという人生もあったのではなかろうか」と言わせるものだからもう一度驚いた。
〇 あの世のソクラテスは、建築家になってみたかったと言う。神はカオスのなかからこの世界を創造したが建築家ソクラテスは神が仕事を止めたところからあらたな創造を始める、その作品は人間にとって有用で美しくかつ時の流れに耐える堅牢なものである、それと同時に建築家自身の内奥にあるものの表現でもあるのだと言う。ここには、あらゆる制作、製造、さらにはエンジニアリングの礼賛があるように聞こえた。
〇 現代社会を目撃したソクラテスは果たしてこう言うだろうか？言うかもしれないし、いよいよ魂の大切さを説くのかもしれない。ヴァレリーの説への賛否は別にして、こんなやり方もあるのだと柔軟な発想をひとつ学んだ。おもしろかった。
〇 本書収録の３篇ともおなじみの対話形式だから（３篇目にはソクラテスはでてこない）、難しい表現はないしとても読みやすい。翻訳もすぐれているのだと思う。
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