読書の楽しみの一つに、自分の知らない人や世界を知る、というものが挙げられると思う。そう言った意味で、この作品ほど強烈に「自分の知らない世界」を体験出来るものは無いだろう。現代人は「常識が常に正しいとは限らない」「常識を疑え」などと知った風に言うが、我々現代人の常識が如何にちっぽけな型にはめられたものなのか、この作品は教えてくれる。
この作品は、当然作者によるフィクションであり、ジャンル分けをするのなら「小説」という事になると思う。だが、現代人が普通に思い浮かべる「小説」を構築しているような、緻密な設定やストーリー、キャラクターといったものは、この作品は存在しない。怪しげな呪術が出て来るかと思えば主人公が突然「神の父」を名乗り、いつの間にかそんな設定は無かった事になり、途中で主人公が娶った妻は何の脈絡も無く急に占い師みたいな事を言い出し、怪しげな化物に銃(途中で貰った)で立ち向かったり、もう何でもありである。かと言って完全に出鱈目かと言うとそうでも無く、途中で思い出したように以前のエピソードの伏線を回収したりもする。
この作品内に、我々現代人が知っているような「合理性」は存在しない。ところが不思議な事に、全く無秩序に行き当たりばったりに書き散らかした作品とは明らかに違うのだ。一見ムチャクチャなようでいて、一本筋を貫く、我々の知らない別の「合理性」が、あるような、無いような…。それが「ある!」とも断言出来ないのがもどかしいが、そもそも1冊本を読んだだけで全く未知の価値観を完璧に理解出来ると考える方が傲慢だ。この作品は、例えば文化人類学者がどこかの「未開」部族で調査を行った内容をまとめた、というような「現代的合理主義の立場から『非合理的世界』を紹介する」ものでは無い。我々の知っている合理主義の、向こう側の世界から、その思想がダイレクトにぶつけられて来るのだ。これを強烈な体験と言わずして何と言おうか。強いて言えば、調理された料理を当たり前のように食べている現代人に、いきなり獣の生肉を食べさせるような感じだろうか…?簡単には咀嚼して飲み込む事は出来ない。
ともかく、簡単には理解出来ない作品を、簡単に説明する事は、残念ながら自分には出来ない。だがそれでも、「こういう世界もある」という事実だけでも、十分に驚嘆に値するし、読む価値があったと思う。理屈では理解出来ずとも、感覚で、あるいは本能で感じ取れる何かがあれば、その体験は決して無駄にはならない。知らない世界、知らない思考、知らない物語…そういったものの「生」の味を多少でも感じ取れれば、脳味噌をおもいっきり揺さぶられたかのような、衝撃的な読書体験として、一生忘れられない思い出になるだろう。
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やし酒飲み (岩波文庫) 文庫 – 2012/10/17
エイモス・チュツオーラ
(著),
土屋 哲
(翻訳)
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「わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」――。やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る。その途上で出会う、頭ガイ骨だけの紳士、指から生まれた赤ん坊、不帰(かえらじ)の天の町……。神話的想像力が豊かに息づく、アフリカ文学の最高峰。1952年刊。
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2012/10/17
- 寸法10.5 x 0.9 x 15 cm
- ISBN-104003280113
- ISBN-13978-4003280119
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2012/10/17)
- 発売日 : 2012/10/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 240ページ
- ISBN-10 : 4003280113
- ISBN-13 : 978-4003280119
- 寸法 : 10.5 x 0.9 x 15 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 132,521位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年7月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2023年8月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
です。ます調(敬体)と、だ。である調(常体)がごちゃ混ぜになっているのは何故?原文がそんなふうに書かれているのかもしれませんが、文体に違和感があって内容が入ってきにくかったです。チュツオーラの他の作品にそんな訳はなかったので困惑しました。
内容は文句なしに面白いです。
内容は文句なしに面白いです。
2020年10月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
とても好きな作品なので手元に置けて嬉しいです。届くのも早くて迅速な対応に大変感謝致します。
2022年12月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
導入から序盤は何が起こるのかわくわくしてとてもおもしろかったです。
途中から似たような展開の繰り返しで少々中だるみしてしまい、
何か事件が起こっても即座に解決しあっさりと先へ先へと進んで行くので
描写がいまひとつ想像しにくい場面も多かったです。
解説にも力が入り、かなりのページを割いていて詳細です。
昔話や民話や神話のごちゃまぜになったものを読んでいるような
独特な読み心地でした。
途中から似たような展開の繰り返しで少々中だるみしてしまい、
何か事件が起こっても即座に解決しあっさりと先へ先へと進んで行くので
描写がいまひとつ想像しにくい場面も多かったです。
解説にも力が入り、かなりのページを割いていて詳細です。
昔話や民話や神話のごちゃまぜになったものを読んでいるような
独特な読み心地でした。
2013年8月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これまで読んだ小説のなかで最高の作品です!
保坂和志さんが著書の中で紹介していたのがきっかけで読んだのですが、
ぶっ飛んだ発想力があふれるすばらしい小説でした。
筋としては、やし酒を飲むことしかない男が、死んだ専属のやし酒作りを探して、
途中で妻をめとりつつ、ジャングルを旅するという話。
その道中でおかしな生物と出会ったり、危機を乗り越えたりします。
いくらか、『オデュッセイア』や『不思議の国のアリス』に似てますが、
これらより突拍子もない展開です。
安部公房を思わせる不条理な出来事、というのもありますが、
安部よりユーモアがあり、なんだかとぼけています。
とにかく、次々と「嘘つけっ!」と笑いながら言いたくなる展開の連続なので、
最初から最後まで飽きません。何度も読み返してしまいます。
ただ、繊細な心理描写とか、人間関係の機微とか、詳しい風景描写とか、
そういうものは皆無ですので、お気をつけを。
保坂和志さんが著書の中で紹介していたのがきっかけで読んだのですが、
ぶっ飛んだ発想力があふれるすばらしい小説でした。
筋としては、やし酒を飲むことしかない男が、死んだ専属のやし酒作りを探して、
途中で妻をめとりつつ、ジャングルを旅するという話。
その道中でおかしな生物と出会ったり、危機を乗り越えたりします。
いくらか、『オデュッセイア』や『不思議の国のアリス』に似てますが、
これらより突拍子もない展開です。
安部公房を思わせる不条理な出来事、というのもありますが、
安部よりユーモアがあり、なんだかとぼけています。
とにかく、次々と「嘘つけっ!」と笑いながら言いたくなる展開の連続なので、
最初から最後まで飽きません。何度も読み返してしまいます。
ただ、繊細な心理描写とか、人間関係の機微とか、詳しい風景描写とか、
そういうものは皆無ですので、お気をつけを。
2019年11月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
アフリカ文学は我々にとって馴染みの薄い物であろう、そもそも文学と言えば英仏独露日と言った所が日本では親しまれてるであろうにアフリカである。私は10になった子供の頃からヤシ酒飲みだった――表紙に書かれている導入から、アフリカだなぁ、と感じるだろう、10歳から飲酒とは…
しかしこれ、後書きの多和田女史によればインドで子供がハッシッシ(大麻)を吸っている様な物だと言えるらしい。
そして本書を読んだ人が必ず言う、支離滅裂な物語に語り口調、これをどう思うかで本書の評価は変わるだろう。
ストーリー開始4ページ目でjuju(ジュジュ)と言う正体不明のアイテムが説明も無しに突然出てきて話に絡んでいったり、主人公はただのニートだったのがいきなり「万物の神」と言い始めて、本当に何でも出来る様になったりと中学生の方がまだマシな小説を書くのではないか?と思えるぶっ飛んだ展開が次々と続く。
このぶっ飛び具合が英国で評価されたと言うが、それは何故だろうか?
土屋氏の後書きによれば原始アフリカの思想や民話が寄せ集められている事が評価に繋がったと言うが果たしてそうであろうか?確かによく読めば日本で言う所の古事記的な話を繋ぎ合わせているとはわかる。
しかしここで先に述べた支離滅裂な物語と語り口調が引っかかる。
土屋氏の解説によれば本書の独特な言い回しはヨルバ語を英語で表したからだと言う。
ドイツ留学経験のある多和田女史の解説によれば、ドイツ語が母国語で無い人がドイツ語で小説を書いた様な物、だそうだ。
成るほど、ならば些か不自然な文章構成も致し方ない…と思うが、そこに私は英国人の悪意があると思う。
味を出す為に敢えてそのまま翻訳をしたと言うにしても文章がやはりおかしい。
どうも私にはアフリカ人ってこの程度なんだぜ(笑)と言う珍獣を見る様な視点があった様に思う、そうでなければここまで不自然な訳になるだろうか。
と、言う感想を持ったのは確かなのだが、見方を変えるとその不自然な文章のせいか物語が非常に緩い。
死んだヤシ酒職人を探しに旅に出るのに、もう探すのやーめたと何度も旅を中断したり、独特な世界観が垣間見られるのも確かで、そこに不思議な味がある。
それに対して違和感を覚えなければ本書は高い評価となるだろう。
後書きでも本文の説明不足と支離滅裂さに対し、アフリカ人の考える森、呪術、精霊、神、民族と言った簡単な解説があり、これらを読んでから本文を読むべしと書いてある。
そうすると2周目に入った時に何とも言えない味を覚えるのだ。
しかしこれ、後書きの多和田女史によればインドで子供がハッシッシ(大麻)を吸っている様な物だと言えるらしい。
そして本書を読んだ人が必ず言う、支離滅裂な物語に語り口調、これをどう思うかで本書の評価は変わるだろう。
ストーリー開始4ページ目でjuju(ジュジュ)と言う正体不明のアイテムが説明も無しに突然出てきて話に絡んでいったり、主人公はただのニートだったのがいきなり「万物の神」と言い始めて、本当に何でも出来る様になったりと中学生の方がまだマシな小説を書くのではないか?と思えるぶっ飛んだ展開が次々と続く。
このぶっ飛び具合が英国で評価されたと言うが、それは何故だろうか?
土屋氏の後書きによれば原始アフリカの思想や民話が寄せ集められている事が評価に繋がったと言うが果たしてそうであろうか?確かによく読めば日本で言う所の古事記的な話を繋ぎ合わせているとはわかる。
しかしここで先に述べた支離滅裂な物語と語り口調が引っかかる。
土屋氏の解説によれば本書の独特な言い回しはヨルバ語を英語で表したからだと言う。
ドイツ留学経験のある多和田女史の解説によれば、ドイツ語が母国語で無い人がドイツ語で小説を書いた様な物、だそうだ。
成るほど、ならば些か不自然な文章構成も致し方ない…と思うが、そこに私は英国人の悪意があると思う。
味を出す為に敢えてそのまま翻訳をしたと言うにしても文章がやはりおかしい。
どうも私にはアフリカ人ってこの程度なんだぜ(笑)と言う珍獣を見る様な視点があった様に思う、そうでなければここまで不自然な訳になるだろうか。
と、言う感想を持ったのは確かなのだが、見方を変えるとその不自然な文章のせいか物語が非常に緩い。
死んだヤシ酒職人を探しに旅に出るのに、もう探すのやーめたと何度も旅を中断したり、独特な世界観が垣間見られるのも確かで、そこに不思議な味がある。
それに対して違和感を覚えなければ本書は高い評価となるだろう。
後書きでも本文の説明不足と支離滅裂さに対し、アフリカ人の考える森、呪術、精霊、神、民族と言った簡単な解説があり、これらを読んでから本文を読むべしと書いてある。
そうすると2周目に入った時に何とも言えない味を覚えるのだ。
2018年12月24日に日本でレビュー済み
ナイジェリア、そしてアフリカ文学を象徴する作家、エイモス・チュツオーラの代表作。
私は、同じナイジェリア出身でノーベル文学賞候補だった魔術的リアリズム系作家、故チヌア・アチェべの作品が好きだったので、自然な流れでこちらも読みました。
ネットでは「アフリカの魔術的リアリズム」と紹介されていたので、ワクワクして地元の本屋で買って開巻そうそう、思いっきり面食らいました。
魔術的リアリズムといえば、南米のガルシア・マルケスや日本の大江健三郎、中上健次、そしてアチェべ等の描く作品のことだと思っていたからです。
たとえばアチェべは、その代表作『崩れゆく絆』(光文社古典新訳文庫)の物語で、あくまでも一度、近代文学のリアリティを通してアフリカ民族の世界を描いていたのに対し、
こちらの『やし酒飲み』の方は、ほとんど近代的なリアリティを経ずに、まるで古代神話の世界をそのまま描いたような作品だったからです。
ストーリーをざっくり説明すると、10歳の時からヤシ酒飲みだった主人公は、父が与えてくれた自分専属のヤシ酒職人が死んだ後、そのヤシ酒職人を探して〈死者の国〉を目指し(しかも徒歩)、
ジュジュという魔術を使って、大鳥になったり舟になったり、小石になったり火になったりしながら、旅をします。
そして、その旅の中で目から光を放つカバのような怪物や、しゃべるヤシの木、死神、人を監禁する頭蓋骨の家族、巨大な木の中にダンスホールなどを作って旅人を招待してくれる女性などが登場します。
これだけならホメロスや古事記のような神話/ファンタジーなのですが、私が面をくらったのは、そこココに現代のテクノロジーが普通に出てくるという不可解な文章。
つまり一見、チュツオーラはアフリカ神話を語っているだけのようで、何故か舞台は明らかに現代であり、飛行機という表現やカメラ、銃(恐らくライフル)、さまざまな色に変わるテクニカラーの照明機器などが未開的な世界観の中に当然のように出てくる。
明らかに時代が混乱している。
なのではじめは、この作品との距離感がうまく掴めず、変な本を買ってしまったなという印象を抱きました。けど、もう一度読み直すと、その不可解な印象の理由にすぐ気づきました。
恐らくチュツオーラは、(解説によれば〈アフリカの民間伝承〉を元にしている)この小説の物語を、小説家としてではなく、『民間伝承を伝える語り部』として語っている。
つまり、チュツオーラは、あくまでも自分の知っている(多分、母親や祖父母から聞かされた)ナイジェリアの伝承や古代の神話を、英国軍にも従軍した現代人の自分の口から語ろうとすることで、自然と、古代的な世界観と現代的な世界観を混合する結果となり、
その結果として生まれたのが、現代人(チュツオーラ)が古代の民話を現代人に向けて語り直した作品である『やし酒飲み』なのではないか、と、私は理解しました。
(つまり現代の語り部が語る、古代の伝承というトリッキーなスタイルの作品ということ)
そしてこう考えることで、ベースがアフリカの伝承にもかかわらず現代テクノロジーが現れる世界観、そして2度ほど読者に作者が語りかけるという、まさに語り部的な語り口の理由が分かります。
ところで、この『やし酒飲み』は、はじめは我々のような現代人は必ず虚を突かれますが、もう一度読むと何故か愛しくなり、三度読むと決して手放せなくなります(笑)
これは遠野物語と同じで、むしろ社会に疲れた現代人の郷愁の情のようなものを掻き立てるからかもしれませんね。
素朴でユーモラスな物語が読んでいて楽しいので、普通の小説に飽きた人に特にオススメですよ。
私は、同じナイジェリア出身でノーベル文学賞候補だった魔術的リアリズム系作家、故チヌア・アチェべの作品が好きだったので、自然な流れでこちらも読みました。
ネットでは「アフリカの魔術的リアリズム」と紹介されていたので、ワクワクして地元の本屋で買って開巻そうそう、思いっきり面食らいました。
魔術的リアリズムといえば、南米のガルシア・マルケスや日本の大江健三郎、中上健次、そしてアチェべ等の描く作品のことだと思っていたからです。
たとえばアチェべは、その代表作『崩れゆく絆』(光文社古典新訳文庫)の物語で、あくまでも一度、近代文学のリアリティを通してアフリカ民族の世界を描いていたのに対し、
こちらの『やし酒飲み』の方は、ほとんど近代的なリアリティを経ずに、まるで古代神話の世界をそのまま描いたような作品だったからです。
ストーリーをざっくり説明すると、10歳の時からヤシ酒飲みだった主人公は、父が与えてくれた自分専属のヤシ酒職人が死んだ後、そのヤシ酒職人を探して〈死者の国〉を目指し(しかも徒歩)、
ジュジュという魔術を使って、大鳥になったり舟になったり、小石になったり火になったりしながら、旅をします。
そして、その旅の中で目から光を放つカバのような怪物や、しゃべるヤシの木、死神、人を監禁する頭蓋骨の家族、巨大な木の中にダンスホールなどを作って旅人を招待してくれる女性などが登場します。
これだけならホメロスや古事記のような神話/ファンタジーなのですが、私が面をくらったのは、そこココに現代のテクノロジーが普通に出てくるという不可解な文章。
つまり一見、チュツオーラはアフリカ神話を語っているだけのようで、何故か舞台は明らかに現代であり、飛行機という表現やカメラ、銃(恐らくライフル)、さまざまな色に変わるテクニカラーの照明機器などが未開的な世界観の中に当然のように出てくる。
明らかに時代が混乱している。
なのではじめは、この作品との距離感がうまく掴めず、変な本を買ってしまったなという印象を抱きました。けど、もう一度読み直すと、その不可解な印象の理由にすぐ気づきました。
恐らくチュツオーラは、(解説によれば〈アフリカの民間伝承〉を元にしている)この小説の物語を、小説家としてではなく、『民間伝承を伝える語り部』として語っている。
つまり、チュツオーラは、あくまでも自分の知っている(多分、母親や祖父母から聞かされた)ナイジェリアの伝承や古代の神話を、英国軍にも従軍した現代人の自分の口から語ろうとすることで、自然と、古代的な世界観と現代的な世界観を混合する結果となり、
その結果として生まれたのが、現代人(チュツオーラ)が古代の民話を現代人に向けて語り直した作品である『やし酒飲み』なのではないか、と、私は理解しました。
(つまり現代の語り部が語る、古代の伝承というトリッキーなスタイルの作品ということ)
そしてこう考えることで、ベースがアフリカの伝承にもかかわらず現代テクノロジーが現れる世界観、そして2度ほど読者に作者が語りかけるという、まさに語り部的な語り口の理由が分かります。
ところで、この『やし酒飲み』は、はじめは我々のような現代人は必ず虚を突かれますが、もう一度読むと何故か愛しくなり、三度読むと決して手放せなくなります(笑)
これは遠野物語と同じで、むしろ社会に疲れた現代人の郷愁の情のようなものを掻き立てるからかもしれませんね。
素朴でユーモラスな物語が読んでいて楽しいので、普通の小説に飽きた人に特にオススメですよ。
2016年2月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
いわゆる、文学的には?であるが、心に響くものはある。文章は粗削りと思うが、とにかくアフリカの風俗、文化、ものの感じ方、習慣が感じられて思いの他感銘を受けた。現在日本人の価値観を超越しているが、インターナショナル性は感じた。アフリカ(ナイジェリア)が好きになる不思議な魅力的な本である。
他の国からのトップレビュー
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5つ星のうち5.0
Explicación
2016年3月17日にスペインでレビュー済みAmazonで購入
Este texto "El bebedor de vino de palma", es una de mis obras favoritas, mi libro de cabecera, junto a dos o tres títulos, de otros autores, a los que considero creaciones magníficas, sin menoscabo de su número de páginas. Hace unos años me propuse hacer un homenaje a su autor, Amos Tutuola, y decidí adquirir su obra en los distintos idiomas que pudiera encontrar. Por ahora tengo varias ediciones en inglés, en alemán, italiano, polaco, catalán, español, finlandés, francés y sigo indagando porque sé que se editó en portugués, en sueco y en danés y supongo que en otros idiomas. El encontrarla en japonés y que ustedes me la hayan traído hasta esta parte del mundo, ha sido de una alegría indescriptible.