○絶頂期を過ぎた頃からアテーナイの民主政はその問題を見せるようになる。国政の重大な局面にあって賢明な政策判断をできないという衆愚政治の陥穽だ。著者は淡々と記述しながらも無念の思いに暮れていたのではなかろうか。さらによく見れば、絶頂期に至るずいぶん前からそのような兆しはあるのだが、賢明な指導者が問題の顕在化を防いでいたように見える。ニーキアースはシケリア遠征の愚を見抜いていたが、民議会をコントロールするカリスマ性に欠けていた。民主政とは、強く賢明なリーダーがいるときには人々のエネルギーを集約してすばらしい力を発揮するが、指導者に恵まれない時には、必ず(!)衆愚政治に堕するもののようだ。
○下巻には、第23演説から第32演説を収める。例えば、こんな具合。
○第23演説:シケリア派兵の賛否を巡ってのアテーナイの良識派ニーキアースと若き野心家アルキピアデースの論戦。ニーキアースは、シケリアは広大であること、アテーナイ周辺でもラケダイモーンと対立している時に、遠方に大軍を派遣するのは無謀であること、援助を求める外国(エゲスタ)の甘言に乗せられてはならぬと主張した。これに対してアルキピアデースは、危険に立ち向かってこそ支配権の拡大は望めるとシケリア遠征を強く主張、大半のアテーナイ市民は欲に目が眩み冷静な思考ができなくなって派兵に賛成した。
○第26演説:緒戦でアテーナイに敗れたシュラクーサイの民議会でヘルモクラテースが行った演説。緒戦では敗れたがこれでわれわれの決意が打ち砕かれたわけではない。経験豊富なアテーナイに素人同然の我々が立ち向かった戦いとしては立派なものだ。敗れた原因は、訓練の不足と指揮官が多すぎた(15名いた)ことだ。従って、市民に戦闘訓練の義務を課すとともに、指揮官を経験豊富な少数に絞ろう、と言う。負けは負けと認めたうえで、今後の希望を示していること、負けた原因を明確に分析して具体的対策を提案しているところが、優れている。
○第31演説:アテーナイとシュラクーサイの海戦を前に、ギュリッポスがシュラクーサイの兵士を激励する。アテーナイ側は先の海戦の敗戦で自信を失っている。絶望のあまり最後の手段として海戦に訴えようとしている。彼らはシケリアを征服して我々を奴隷にしようとやってきた者だ。憐憫は無用。追い払えばよいなどと考えずにここで撃滅しよう。
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戦史 下 (岩波文庫 青 406-3) 文庫 – 1967/8/16
トゥーキュディデース
(著),
久保 正彰
(翻訳)
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- 本の長さ544ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1967/8/16
- ISBN-104003340639
- ISBN-13978-4003340639
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1967/8/16)
- 発売日 : 1967/8/16
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 544ページ
- ISBN-10 : 4003340639
- ISBN-13 : 978-4003340639
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2019年12月26日に日本でレビュー済み
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2016年9月4日に日本でレビュー済み
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イタリア・シケリア方面へ向かう海路の要衝であるケルキューラを押さえたアテーナイは、大戦初期に発生した疫病の大過から回復し、またスパルタとの停戦協定により戦争の重圧から逃れたこともあり、シケリア島へ攻撃軍を派遣し攻略しようと企てる。
本書ではシケリア遠征に至る意思決定の過程、軍隊の派遣、開戦、そして敗北。さらにアテーナイ崩壊に至る様子が描かれる。デマゴーグによる愚民扇動を民主主義の負の面として説く場合によく出される事例の原典でもある。
「たとえ名目が立つとはいえ些細な口実を手掛かりにシケリア全島という、容易にものにし難い大国を得んとすることは判断の筋を誤っている」
「相手がシケリア人となると、たとえ彼らを一度は屈服させえたとしても、かの地への道程は遠く彼らの人口は大であり支配を継続するのは決して容易ではない」
「勝っても治めることができず、負ければ攻める以前よりも立場は悪化するこの戦は愚行という他はない」
とシケリア遠征に反対するニーキアースに対して、
「この作戦の司令官としての地位を熱望し、シケリアのみならずカルケードーン(カルタゴ)をも併せて占領し、成功した暁には己の富と声望を高めん」とする推進派アルキビアデースの扇動に、
「島の大きさやそこに住むギリシア人、異民族の人口について何も知らず、さらにこの戦がペロポネーソス同盟を相手の戦争と比べても遜色ない規模の大戦争となりうることにも気がつかない」アテーナイ市民は熱狂する。まさにデマゴーグに扇動される愚民政治そのものである。著者は「彼(アルキビアデース)のこの性癖が後日アテーナイの国家を倒壊させた重大な一因となったのである」と結論づける。
プルタルコス(「英雄伝2」京都大学学術出版社)は、アルキビアデースが市民に支持された様子を、「彼のこのような世のしきたりの軽視と逸脱を、専制君主に通じる異常なりとして恐れたが、(中略)民衆は、金は寄付するわ、催し物の面倒は見るわ、国のために有り余るほどの出費をして名誉欲を満たすわ、先祖の名声はあるわ、弁は立つわ容姿は淡麗だわ、そのうえ体力には恵まれ、戦闘経験も豊かだわ、武勲をあげるわ、その他もろもろ一束になって、アテーナイ人を相当寛容にし、彼の犯す過ちや欠点を、若気の至りとか、望みが高いのでと言って許した」と描く。
「歴史に学べ」という際に必ず例示される書物であり、政治体制として民主主義が必ずしも万能ではないことを考えさせられる名著である。いわゆる古典であり日本語訳も古めかしい感じはするが、読み物としてみても大変面白いお薦めの一冊である。
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「たとえ名目が立つとはいえ些細な口実を手掛かりにシケリア全島という、容易にものにし難い大国を得んとすることは判断の筋を誤っている」
「相手がシケリア人となると、たとえ彼らを一度は屈服させえたとしても、かの地への道程は遠く彼らの人口は大であり支配を継続するのは決して容易ではない」
「勝っても治めることができず、負ければ攻める以前よりも立場は悪化するこの戦は愚行という他はない」
とシケリア遠征に反対するニーキアースに対して、
「この作戦の司令官としての地位を熱望し、シケリアのみならずカルケードーン(カルタゴ)をも併せて占領し、成功した暁には己の富と声望を高めん」とする推進派アルキビアデースの扇動に、
「島の大きさやそこに住むギリシア人、異民族の人口について何も知らず、さらにこの戦がペロポネーソス同盟を相手の戦争と比べても遜色ない規模の大戦争となりうることにも気がつかない」アテーナイ市民は熱狂する。まさにデマゴーグに扇動される愚民政治そのものである。著者は「彼(アルキビアデース)のこの性癖が後日アテーナイの国家を倒壊させた重大な一因となったのである」と結論づける。
プルタルコス(「英雄伝2」京都大学学術出版社)は、アルキビアデースが市民に支持された様子を、「彼のこのような世のしきたりの軽視と逸脱を、専制君主に通じる異常なりとして恐れたが、(中略)民衆は、金は寄付するわ、催し物の面倒は見るわ、国のために有り余るほどの出費をして名誉欲を満たすわ、先祖の名声はあるわ、弁は立つわ容姿は淡麗だわ、そのうえ体力には恵まれ、戦闘経験も豊かだわ、武勲をあげるわ、その他もろもろ一束になって、アテーナイ人を相当寛容にし、彼の犯す過ちや欠点を、若気の至りとか、望みが高いのでと言って許した」と描く。
「歴史に学べ」という際に必ず例示される書物であり、政治体制として民主主義が必ずしも万能ではないことを考えさせられる名著である。いわゆる古典であり日本語訳も古めかしい感じはするが、読み物としてみても大変面白いお薦めの一冊である。