マルクス
、フロイト、
アインシュタイン
。
それぞれの学問領域で時代の転換を主導したドイツ語著作の最後を飾るのが、数学と記号論理学におけるゲーデルの「不完全性定理」論文です。
記号論理学は、命題を記号で表す論理式の性質を記号の意味と形式の両面から研究します。
論理式の記号に意味を関連づけて真または偽と評価することを解釈といいます。
形式的な文字列操作を繰り返して公理から目的の論理式を得ることを証明といいます。
当時、数学界では数学全体の論理式への書き換えが企画されていました。
その裏付けとして、解釈と証明が一致すること、すなわち
真である論理式だけが必ず証明可能
であることを示す必要があります。
そのためには、
すべての論理式 P について P と not P の一方だけが必ず証明可能
であること、言い換えると、
(a) すべての論理式 P について P と not P の少なくとも一方が証明可能
かつ
(b) すべての論理式 P について P と not P の少なくとも一方が証明不可能
であることが必要条件です。
しかしゲーデルは、自然数の演算を記述できる論理式集合が(a)と(b)を同時には満たせないことを、仮定(b)のもとで(a)への反例を示して明らかにしました。
彼は、数の層、数を記述する数学の層、数学を記述する超数学の層の三階層を縫い合わせるようにその反例を構成しました。
まず、数学命題(例「数 a は数 b の約数である」)やその証明をあらわす論理式を文字コードで数に変換する方法を示します。
その上で、超数学命題(例「命題列 P1, ..., Pn は命題 Q の証明である」)を、数学命題をあらわす論理式に変換する方法を示します。
これらをもちいて、超数学命題「命題 Y は証明できない」を、数学命題「数 y が指す命題に対する証明を指す数は存在しない」をあらわす論理式に変換し、さらに数 q に変換します。
そして q を y に代入すると「この命題は証明できない」を意味する自己言及的な論理式 P を得ます。
最後に P と not P がともに証明不可能であることを仮定(b)を用いて示したのです。
-----
論理式の解釈と証明の関係は、関数を記号であらわす多項式についての解析と代数の関係に似ています。
解析
は、多項式 p(x) の x に値 v を代入して値 p(v) が得られる様子を調べます。
代数
は、方程式 p(x)=0 から x=c を導出する形式的操作を研究します。
解釈は解析に相当し、証明は代数に相当します。
そしてゲーデルが否定的な結論を示した問題は、解析と代数に置き換えれば、多項式 p(x) と値 v について、値 p(v) がゼロであることと方程式 p(x)=0 から式 x=v を導出できることが一致するか問うものでした。
-----
本文48頁のひとつひとつのステップは、
命題論理と述語論理
のごく基本的な知識さえあれば、一歩一歩たどることができます。(むしろ訳者による解説の方が数学に関する知識を要します。)
単純な道具立てから驚くべき結果を導き出すという点で、この定理は、
特殊相対性理論
や
ラムダ計算
、あるいは、機械語や低レベル言語を駆使した
ハッカーたちの曲芸的な技巧
に通じるものがあります。
天才の仕事とはこういうものかと、感動すら与えてくれます。
訳者HPに正誤表があります。
本書の後に
長谷川真人先生
の「不完全性定理」(kurims.kyotu-u.ac.jpの‾hassei/lecture/ディレクトリにある)を読むと良いと思います。
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ゲーデル 不完全性定理 (岩波文庫 青 944-1) 文庫 – 2006/9/15
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- 本の長さ309ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2006/9/15
- 寸法10.5 x 3 x 14.8 cm
- ISBN-104003394410
- ISBN-13978-4003394410
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商品の説明
著者からのコメント
翻訳者、および解説の著者の一人の林晋です。この本は、最初から主に解説を読んでもらうことを意図して企画された岩波文庫としては特異な一巻です。その解説は、不完全性定理の数学的理解のための入門的解説ではなく、この定理の数学史における位置と意義の解説を主目的としています。岩波文庫の哲学の巻よりは易しいですが、かなり高い文系の理解力を持つ読者を想定して書いてあります。教科書などで既に不完全性定理を理解した読者が、原典を確認し、また、その数学史における意義を理解したい時に読むと最適ですが、数学的内容の理解は一先ずおいて、この定理の歴史的な意義を理解したいという読者にも適しています。ただし、8章の「論文の構造」だけは、ゲーデルが、原論文をどうしてあの形に書いたかを解明する数学的なテキスト分析になっており、ここだけは、相当なレベルの数学的能力をもってる読者を想定して書きました。
出版からかなりたち、その間に多くの読者の方たちに間違いや分かり難い所を指摘して頂き修正・訂正しています。それらは林のWEBページに掲示されています。今度も見つかった間違いとその訂正は掲示し続けますので、読者の方は是非閲覧してください。
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2019年7月15日に日本でレビュー済み
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クルト・ゲーデル(1906-1978)は
オーストリア=ハンガリー二重帝国の
モラヴィア地方のブリュン
(現在はチェコのモラヴァ地方のブルーノ)
で生まれウィーン大学で数学を学びました。
1930年「完全性定理」
(1階の述語論理は完全である)の論文で
ウィーン大学から博士号を得ます。
同大学の私講師となり
1931年「不完全性定理」
(第一不完全性定理と
第二不完全性定理があります)
を証明しました。これが有名な
「ゲーデルの不完全性定理」です。
1933年1月 ドイツで
オーストリア出身の
ヒトラー(1889-1945)が政権をとり
1938年3月 オーストリアは
ドイツ(第三帝国)に併合
(アンシュルス)されてしまいます。
ゲーデルはユダヤ人でもユダヤ系でも
なかったのですがユダヤ人と誤解され
暴漢に襲われることもありました。
しかしこのアンシュルスの年つまり
1938年「一般連続体仮説の無矛盾性」
(公理的集合の体系ZFに選択公理と
一般連続体仮説を付け加えても無矛盾
である)という結果を発表します。
翌1939年 証明の大略が示され
1940年 詳しい講義録が出ました。
このように
①完全性定理
②不完全性定理(第一と第二)
③一般連続体仮説の無矛盾性
‥が「ゲーデルの三大業績」です。
中でも第二不完全性定理を
ざっくりとした日常語で表現すると
「現在の数学の体系に矛盾がないことは
数学の内部では証明できない」
となりますので一般の人々にも
動揺を与えました。無意識に
厳密性や論理性や無矛盾性の象徴
であると多くの人が思い込んでいた
数学という学問体系が
「自分でその無矛盾性を証明できない」
と言われたのでショックだったと
考えられます。あたかも
・地動説を初めて聞いたときの
ローマカトリック教会
・スプートニクが打ち上げられたときの
米国のロケット開発者
・解のない偏微分方程式が見つかった
ときの解析学者
‥のような衝撃だったのかもしれません。
ただし
不完全性定理じたい厳密な定式化のもとで
数学のコトバとして述べられていますから
ざっくりとした日常語で聞く場合と
数学(数理論理学)の定理として読む
場合には印象が相当、異なるように思います。
過剰なセンセーショナリズムは
かえって物事の本質を見誤ることに
なるかもしれません。
ウィーンで「三大業績」をあげた
ゲーデルですがドイツ第三帝国下の
ウィーンでは暮らしにくかったようです。
ナチス政権は「私講師」制度を廃止し
多くの私講師はそのまま「講師」に昇格しましたが
ゲーデルはなかなか「講師」になれませんでした。
おそらくユダヤ人と間違われたのでしょう。
欧州で第二次世界大戦が勃発
(1939年9月1日)した4カ月後
まだいわゆる「奇妙な戦争」
「まやかし戦争」の期間中の
1940年1月18日
ウィーンを出て米国に向かいます。
英独は既に戦争中ですが
日米はまだ開戦していなかったので
独米もまだ開戦していません。
独ソは1939年8月に不可侵条約を
結んでいたので形式上は友好国です
(1941年6月22日に独ソ開戦で破棄)。
よってゲーデルはシベリア鉄道経由
太平洋航路で米国に向かいます。
その途中、船は横浜に寄港しますが
ゲーデルは一歩も船から降りなかったので
日本の土を踏むことは生涯ありませんでした。
1938年3月4日 米国西岸のサンフランシスコ
に到着します。米国を横断し
東岸のプリンストン高等研究所に着任
亡くなるまでそこで研究を続けます。
1947年 終身研究員に昇格。
1948年 米国市民権取得。
1951年 第1回アインシュタイン賞受賞。
1955年 アインシュタイン亡くなる。
1957年 フォン・ノイマン亡くなる。
1978年1月14日 とうとう
ゲーデルも亡くなります。
死因は「人格障害による衰弱、栄養失調
および飢餓萎縮」つまり「餓死」です。
病院の病室の椅子にすわったまま
亡くなりました(あたかも胎児の
ような姿勢であったと伝えられます。
骨盤位の胎児という意味でしょう)。
ゲーデルはドイツ語圏の人ですから
論文は基本ドイツ語です。
講義録は英語です。
不完全性定理の論文(1931)は
英訳で次のタイトルになります。
"On Formally Undecidable Propositions of
PRINCIPIA MATHEMATICA and
Rrelated Systems Ⅰ"
日本語に直訳しますと
「『プリンシピア・マテマティカ』およびその
関連体系における形式的に決定不可能な命題
についてⅠ」です。
『プリンシピア・マテマティカ』
(PMと略します)というのは
ラッセル(1872-1970)と
ホワイトヘッド(1861-1947)
によって書かれた本です。
記号論理学の知識のもとに
公理からスタートし推論規則だけを用いて
数学の形式的な体系を導こうとする
試みです。全3巻の大著ですが
集合、基数、序数、実数を対象とし
それから先の実解析には踏み込め
ませんでした。
「PMおよびその関連体系」とは
数学の形式的な体系であって
自然数論を含むものです。
論文のタイトルの末尾の「Ⅰ」は
「Ⅱ」を書くつもりだったから
付けたのですが
実際には「Ⅱ」は書かれませんでした。
ゲーデルは「Ⅰ」で
第一不完全性定理をきっちり証明したので
「Ⅱ」で第二不完全性定理の証明を
きっちり書くつもりでした。よって
「Ⅰ」では第二不完全性定理の証明は
アウトラインが示されているだけです。
「Ⅰ」を発表したならば
ヒルベルト学派による相当の反発が
予想されましたので
ゲーデルはまず「敵の出方」を見て
それから作戦を練って満を持して
「Ⅱ」を書くつもりでした。
ところが「Ⅰ」の発表後
ヒルベルト学派からの反論は
一切ありませんでした。
なぜならゲーデルの手法は
まさにヒルベルト学派の手法であり
「われわれが怠けてやらなかったことを
勤勉なゲーデルが忠実に実行した」
(ベルナイスの弁)わけですから
ヒルベルト学派にとって
ゲーデルの手法はなじみ深いものであり
その論文をいちばんよく理解したのは
ヒルベルト学派でした。
「数学の無矛盾性」を示すために
ヒルベルト学派が考えた手法を
ゲーデルはそのまま発展させた結果
「数学の無矛盾性は数学の中では証明できない」
(第二不完全性定理)ことを
証明してしまったのです。
ヒルベルト学派の予想ないし希望と
180度違った結果となりました。
ちなみに論文「Ⅱ」に相当する予定の部分
つまり第二不完全性定理の証明を最初に
full-length (詳細)に書き下したのは
ヒルベルトの弟子で前にコトバを引用した
ベルナイス(1888-1977)が
ヒルベルトとの共著の中においてでした。
順番があとさきになりますが
不完全性定理の内容を
記号を使わないでコトバで
述べておきますと
「おおむね」次の通りです。
①第一不完全性定理
‥自然数論の公理系を含む
無矛盾な公理系は不完全である。
つまり
その公理系の中で
肯定も否定も証明されない命題が存在する。
②第二不完全性定理
‥自然数論を含む公理系が
無矛盾であるならば
「その公理系が無矛盾である」
という命題は(構成できるが)
肯定も否定も証明されない。
①も②もコトバにする際に
若干の厳密性を犠牲にして
分かりやすくしました。
例えば
「肯定も否定も証明されない」
と記述するよりは
「証明も反証もされない」
と書いたほうが実はより正確
なのですが一般人にとって
分かりやすい表現は前者であると
考えそちらを選択しました。
厳密な形につきましては例えば
『岩波数学辞典』(第4版)
(岩波書店 2007)で
「ゲーデルの不完全性定理」
の項目(項目番号128)を
ご覧になっていただけると幸いです。
上の①と②の表現で
「公理系」とは「形式体系」とおおむね
同じ意味で使っています。
ある公理系において
すべての命題が真か偽か決定できる
(つまり公理系の中でその命題を
導くことができるかあるいは
その命題の否定が導くことが
できる)ときに
その命題は「決定可能」であり
その公理系は「完全」であると言います。
それを踏まえて言い換えますと
ゲーデルの不完全性定理は
【現在の数学の体系には(真か偽か)
決定不可能な命題が必ず存在し
例えば
『現在の数学の体系が無矛盾である』
という命題がそのひとつである】
と言うこともできます。
ゲーデルの不完全性定理を
原文(の英訳または日本語訳)で
読むためには一定の数学的知識と
訓練と気力と体力が必要です。
入手しやすい本として次のような
ものがあります。
[1]van Heijenoot(ed)
"From Frege to Goedel:
A Source Book in Mathematical Logic,
1879-1931"
1967,Harvard University Press.
[2]廣瀬健+横田正一(著・訳)
『ゲーデルの世界』
副題:完全性定理と不完全性定理
(海鳴社 1985)
[3]林晋+八杉満利子(訳・解説)
『ゲーデル 不完全性定理』
(岩波文庫 2006)
[4]田中一之
『ゲーデルに挑む 証明不可能なことの証明』
(東大出版会 2012)
[1]は英訳です。
[1]と[2]には「不完全性定理」のほか
「完全性定理」(1930)の原論文の翻訳も
収録されています。
[4]は原論文を一段落(ワンパラグラフ)
ごとに翻訳し詳細な解説を付けた本です。
[3]が本書です。
ゲーデルの論文の翻訳と訳注は
最初の72ページまでです。
あとの pp.73-309 は解説です。
解説と申しましても
19世紀末のいわゆる「数学の危機」
に対するヒルベルト学派の対応が
メインであり必ずしもゲーデルに
焦点があたっているわけではありません。
237ページに及ぶ労作ですが
一部の数学史研究者以外には
あまりなじみのあるテーマではなく
別の本にしたほうがよかった
かもしれません。
正直に申し上げて
ゲーデルにせよ
ガロア(1811-32)にせよ
数学の原論文を読むのは難しいです。
とりあえず
「ゲーデルの不完全性定理とは何か」
を知るためには原論文は一瞥だけでも
いいかもしれません。
多くの教科書・啓蒙書・入門書が
出版されています。
入手しやすい啓蒙書として次の
ようなものがあります。
[5]吉永良正
『ゲーデル・不完全性定理』
(講談社ブルーバックス 1992)
‥タテ書き‥
啓蒙書として力作であり愛読しました。
[6]竹内外史
『ゲーデル』(日本評論社 1986)
‥タテ書き‥
『【新版】ゲーデル』(日本評論社 1998)
‥ヨコ書き‥
竹内の仕事は「証明論」ですから
ゲンツェン(1909-1945)を通じて
ヒルベルト(1862-1943)に
そのルーツがあります。しかし
プリンストンでゲーデルはよく
竹内とディスカッションしたそうです。
ゲーデルの人柄がヴィヴィッドに
記述されているのが特長です。
オーストリア=ハンガリー二重帝国の
モラヴィア地方のブリュン
(現在はチェコのモラヴァ地方のブルーノ)
で生まれウィーン大学で数学を学びました。
1930年「完全性定理」
(1階の述語論理は完全である)の論文で
ウィーン大学から博士号を得ます。
同大学の私講師となり
1931年「不完全性定理」
(第一不完全性定理と
第二不完全性定理があります)
を証明しました。これが有名な
「ゲーデルの不完全性定理」です。
1933年1月 ドイツで
オーストリア出身の
ヒトラー(1889-1945)が政権をとり
1938年3月 オーストリアは
ドイツ(第三帝国)に併合
(アンシュルス)されてしまいます。
ゲーデルはユダヤ人でもユダヤ系でも
なかったのですがユダヤ人と誤解され
暴漢に襲われることもありました。
しかしこのアンシュルスの年つまり
1938年「一般連続体仮説の無矛盾性」
(公理的集合の体系ZFに選択公理と
一般連続体仮説を付け加えても無矛盾
である)という結果を発表します。
翌1939年 証明の大略が示され
1940年 詳しい講義録が出ました。
このように
①完全性定理
②不完全性定理(第一と第二)
③一般連続体仮説の無矛盾性
‥が「ゲーデルの三大業績」です。
中でも第二不完全性定理を
ざっくりとした日常語で表現すると
「現在の数学の体系に矛盾がないことは
数学の内部では証明できない」
となりますので一般の人々にも
動揺を与えました。無意識に
厳密性や論理性や無矛盾性の象徴
であると多くの人が思い込んでいた
数学という学問体系が
「自分でその無矛盾性を証明できない」
と言われたのでショックだったと
考えられます。あたかも
・地動説を初めて聞いたときの
ローマカトリック教会
・スプートニクが打ち上げられたときの
米国のロケット開発者
・解のない偏微分方程式が見つかった
ときの解析学者
‥のような衝撃だったのかもしれません。
ただし
不完全性定理じたい厳密な定式化のもとで
数学のコトバとして述べられていますから
ざっくりとした日常語で聞く場合と
数学(数理論理学)の定理として読む
場合には印象が相当、異なるように思います。
過剰なセンセーショナリズムは
かえって物事の本質を見誤ることに
なるかもしれません。
ウィーンで「三大業績」をあげた
ゲーデルですがドイツ第三帝国下の
ウィーンでは暮らしにくかったようです。
ナチス政権は「私講師」制度を廃止し
多くの私講師はそのまま「講師」に昇格しましたが
ゲーデルはなかなか「講師」になれませんでした。
おそらくユダヤ人と間違われたのでしょう。
欧州で第二次世界大戦が勃発
(1939年9月1日)した4カ月後
まだいわゆる「奇妙な戦争」
「まやかし戦争」の期間中の
1940年1月18日
ウィーンを出て米国に向かいます。
英独は既に戦争中ですが
日米はまだ開戦していなかったので
独米もまだ開戦していません。
独ソは1939年8月に不可侵条約を
結んでいたので形式上は友好国です
(1941年6月22日に独ソ開戦で破棄)。
よってゲーデルはシベリア鉄道経由
太平洋航路で米国に向かいます。
その途中、船は横浜に寄港しますが
ゲーデルは一歩も船から降りなかったので
日本の土を踏むことは生涯ありませんでした。
1938年3月4日 米国西岸のサンフランシスコ
に到着します。米国を横断し
東岸のプリンストン高等研究所に着任
亡くなるまでそこで研究を続けます。
1947年 終身研究員に昇格。
1948年 米国市民権取得。
1951年 第1回アインシュタイン賞受賞。
1955年 アインシュタイン亡くなる。
1957年 フォン・ノイマン亡くなる。
1978年1月14日 とうとう
ゲーデルも亡くなります。
死因は「人格障害による衰弱、栄養失調
および飢餓萎縮」つまり「餓死」です。
病院の病室の椅子にすわったまま
亡くなりました(あたかも胎児の
ような姿勢であったと伝えられます。
骨盤位の胎児という意味でしょう)。
ゲーデルはドイツ語圏の人ですから
論文は基本ドイツ語です。
講義録は英語です。
不完全性定理の論文(1931)は
英訳で次のタイトルになります。
"On Formally Undecidable Propositions of
PRINCIPIA MATHEMATICA and
Rrelated Systems Ⅰ"
日本語に直訳しますと
「『プリンシピア・マテマティカ』およびその
関連体系における形式的に決定不可能な命題
についてⅠ」です。
『プリンシピア・マテマティカ』
(PMと略します)というのは
ラッセル(1872-1970)と
ホワイトヘッド(1861-1947)
によって書かれた本です。
記号論理学の知識のもとに
公理からスタートし推論規則だけを用いて
数学の形式的な体系を導こうとする
試みです。全3巻の大著ですが
集合、基数、序数、実数を対象とし
それから先の実解析には踏み込め
ませんでした。
「PMおよびその関連体系」とは
数学の形式的な体系であって
自然数論を含むものです。
論文のタイトルの末尾の「Ⅰ」は
「Ⅱ」を書くつもりだったから
付けたのですが
実際には「Ⅱ」は書かれませんでした。
ゲーデルは「Ⅰ」で
第一不完全性定理をきっちり証明したので
「Ⅱ」で第二不完全性定理の証明を
きっちり書くつもりでした。よって
「Ⅰ」では第二不完全性定理の証明は
アウトラインが示されているだけです。
「Ⅰ」を発表したならば
ヒルベルト学派による相当の反発が
予想されましたので
ゲーデルはまず「敵の出方」を見て
それから作戦を練って満を持して
「Ⅱ」を書くつもりでした。
ところが「Ⅰ」の発表後
ヒルベルト学派からの反論は
一切ありませんでした。
なぜならゲーデルの手法は
まさにヒルベルト学派の手法であり
「われわれが怠けてやらなかったことを
勤勉なゲーデルが忠実に実行した」
(ベルナイスの弁)わけですから
ヒルベルト学派にとって
ゲーデルの手法はなじみ深いものであり
その論文をいちばんよく理解したのは
ヒルベルト学派でした。
「数学の無矛盾性」を示すために
ヒルベルト学派が考えた手法を
ゲーデルはそのまま発展させた結果
「数学の無矛盾性は数学の中では証明できない」
(第二不完全性定理)ことを
証明してしまったのです。
ヒルベルト学派の予想ないし希望と
180度違った結果となりました。
ちなみに論文「Ⅱ」に相当する予定の部分
つまり第二不完全性定理の証明を最初に
full-length (詳細)に書き下したのは
ヒルベルトの弟子で前にコトバを引用した
ベルナイス(1888-1977)が
ヒルベルトとの共著の中においてでした。
順番があとさきになりますが
不完全性定理の内容を
記号を使わないでコトバで
述べておきますと
「おおむね」次の通りです。
①第一不完全性定理
‥自然数論の公理系を含む
無矛盾な公理系は不完全である。
つまり
その公理系の中で
肯定も否定も証明されない命題が存在する。
②第二不完全性定理
‥自然数論を含む公理系が
無矛盾であるならば
「その公理系が無矛盾である」
という命題は(構成できるが)
肯定も否定も証明されない。
①も②もコトバにする際に
若干の厳密性を犠牲にして
分かりやすくしました。
例えば
「肯定も否定も証明されない」
と記述するよりは
「証明も反証もされない」
と書いたほうが実はより正確
なのですが一般人にとって
分かりやすい表現は前者であると
考えそちらを選択しました。
厳密な形につきましては例えば
『岩波数学辞典』(第4版)
(岩波書店 2007)で
「ゲーデルの不完全性定理」
の項目(項目番号128)を
ご覧になっていただけると幸いです。
上の①と②の表現で
「公理系」とは「形式体系」とおおむね
同じ意味で使っています。
ある公理系において
すべての命題が真か偽か決定できる
(つまり公理系の中でその命題を
導くことができるかあるいは
その命題の否定が導くことが
できる)ときに
その命題は「決定可能」であり
その公理系は「完全」であると言います。
それを踏まえて言い換えますと
ゲーデルの不完全性定理は
【現在の数学の体系には(真か偽か)
決定不可能な命題が必ず存在し
例えば
『現在の数学の体系が無矛盾である』
という命題がそのひとつである】
と言うこともできます。
ゲーデルの不完全性定理を
原文(の英訳または日本語訳)で
読むためには一定の数学的知識と
訓練と気力と体力が必要です。
入手しやすい本として次のような
ものがあります。
[1]van Heijenoot(ed)
"From Frege to Goedel:
A Source Book in Mathematical Logic,
1879-1931"
1967,Harvard University Press.
[2]廣瀬健+横田正一(著・訳)
『ゲーデルの世界』
副題:完全性定理と不完全性定理
(海鳴社 1985)
[3]林晋+八杉満利子(訳・解説)
『ゲーデル 不完全性定理』
(岩波文庫 2006)
[4]田中一之
『ゲーデルに挑む 証明不可能なことの証明』
(東大出版会 2012)
[1]は英訳です。
[1]と[2]には「不完全性定理」のほか
「完全性定理」(1930)の原論文の翻訳も
収録されています。
[4]は原論文を一段落(ワンパラグラフ)
ごとに翻訳し詳細な解説を付けた本です。
[3]が本書です。
ゲーデルの論文の翻訳と訳注は
最初の72ページまでです。
あとの pp.73-309 は解説です。
解説と申しましても
19世紀末のいわゆる「数学の危機」
に対するヒルベルト学派の対応が
メインであり必ずしもゲーデルに
焦点があたっているわけではありません。
237ページに及ぶ労作ですが
一部の数学史研究者以外には
あまりなじみのあるテーマではなく
別の本にしたほうがよかった
かもしれません。
正直に申し上げて
ゲーデルにせよ
ガロア(1811-32)にせよ
数学の原論文を読むのは難しいです。
とりあえず
「ゲーデルの不完全性定理とは何か」
を知るためには原論文は一瞥だけでも
いいかもしれません。
多くの教科書・啓蒙書・入門書が
出版されています。
入手しやすい啓蒙書として次の
ようなものがあります。
[5]吉永良正
『ゲーデル・不完全性定理』
(講談社ブルーバックス 1992)
‥タテ書き‥
啓蒙書として力作であり愛読しました。
[6]竹内外史
『ゲーデル』(日本評論社 1986)
‥タテ書き‥
『【新版】ゲーデル』(日本評論社 1998)
‥ヨコ書き‥
竹内の仕事は「証明論」ですから
ゲンツェン(1909-1945)を通じて
ヒルベルト(1862-1943)に
そのルーツがあります。しかし
プリンストンでゲーデルはよく
竹内とディスカッションしたそうです。
ゲーデルの人柄がヴィヴィッドに
記述されているのが特長です。
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