和算の歴史の総括である。和算は知らないが、数学が専門または数学を使うという人に是非とも読んでほしいものである。評者も和算について断片的に聞いた情報が随所に見られ参考になった。
例えば微積分が和算でも発達していたらしいが図形の求積法としての積分学であって、微分や不定積分はろくに発達しなかったらしい。これは物理学が同時に出て来なかったというのも頷ける。
世界の数学史に目を向けると実学重視か理論重視かでわかれるが、日本の場合は理論重視で、実学の場合も実験科学と結びつかずに理論物理学が生まれなかった。フランスのブルバキの時代では純粋数学重視であり、確率論などは理論すら見向きもされずに停滞し、ローマ時代はギリシャの数学はほとんど忘れ去られてしまったりしたが、こういった歴史の中の数学の流れを比べるのも面白い。
更に和算では論理学や哲学がロクに発達せず、ユークリッド幾何の和訳などが入ってきたときも証明など当たり前の事を言っているだけじゃないか、何の役に立つのかと一蹴し和訳は世界一と考えていた者も少なくなかったようである。現代の数学教育でも証明を軽視し、大学に入っても証明とはなにかろくに理解できない者もいるようだが、そんなことを考えるのは和訳の時代から変わらないようである。ユークリッド幾何は年配の科学者らに人気であるが最近の若者はろくに学ばないしブルバキのような抽象数学は世代を問わずに拒絶している者も多いが論理も哲学もろくになかったんだから、解法の丸暗記で攻略しようという性根もこういうところが起源なのだろう。必ず原理に遡って考え論理的に理解できるまで考えることのできる人間が少ないのはこの時代の名残であろう。
こういうことを考えているのだから、理論づくりが苦手で、論理学や哲学や抽象理論が苦手で、小平や岡といったトップクラスの数学者たちですらブルバキを軽視している者も沢山いるのも頷ける。和算の時代からロクに変わっていないのである。日本の科学技術や数学の研究、教育問題や流行なども、こういう歴史から見ると本当に変化していないのだと思わされる。昔っからこういう国民性であり日本人の本能であったのだ。算数はわかるが数学はわからない国民だと誰かが言っていたがまさにその通りだ。
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文化史上より見たる日本の数学 (岩波文庫 青 N 101-1) 文庫 – 1999/4/16
日本と中国の数学を広く西欧に紹介した三上義夫(1875-1950)は,数学論についての論文を邦訳する仕事の過程でアメリカの数学者と交信するうち,日本の数学を研究する必要に目覚めた.その研究は単なる和算の解説にとどまらず,社会状態,国民性,文化一般の発達と伝統数学との関係を見定めようとするものであった.
- 本の長さ341ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1999/4/16
- ISBN-10400381004X
- ISBN-13978-4003810040
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1999/4/16)
- 発売日 : 1999/4/16
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 341ページ
- ISBN-10 : 400381004X
- ISBN-13 : 978-4003810040
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,025,117位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2012年12月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本の数学は江戸時代にかなり進んだと聞いたことがあるのですが、その状況がよくわかります。生活に必要となって発展する学問、役には立たなくても、興味だけで発展する学問、いろいろとあることもわかってきます。大阪の堂島では、今のマーケットで主流となっている先物取引がすでに行われていたと、ある番組で紹介されていました。日本のこういった歴史を振り返るもの興味深いと思いました。
2012年1月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
いわゆる和算の本は色々出てますが、敢えて云うと業績を賛美して内容を語り伝える、
そんな内容が多いようです。
この本では敢えて客観的に歴史を淡々と述べていますので、解釈の仕方によっては
やや冷たく感じるやもしれません(そんな意図は著者には毛頭無いでしょうが)
西洋数学が和算を駆逐してしまった過程、そして和算が繁盛していた時代でも身分の
制約などによって数学者が皆、楽に生きてきただけでは無いこと等の歴史の暗部を
嫌でも知らされます。
この時代の後に出てくるのが代数論の高木貞治や、岡潔などになるのでしょうか。
この本が書かれた年代のせいでしょうか、その直前までの記述になっています。
「 日本の数学 西洋の数学―比較数学史の試み (ちくま学芸文庫) 」をこれから買う予定ですが、
このギャップを埋めてくれてるでしょうか...?
全体的に文章中心で、和算の問題などを見たい方には不適な資料でしょう。
それらはちくま文庫から色々と出ていますので、そちらをどうぞ。
学術を中心とした和算史上の人々 (ちくま学芸文庫)
和算の歴史―その本質と発展 (ちくま学芸文庫)
算法少女 (ちくま学芸文庫)
和算書「算法少女」を読む (ちくま学芸文庫)
そんな内容が多いようです。
この本では敢えて客観的に歴史を淡々と述べていますので、解釈の仕方によっては
やや冷たく感じるやもしれません(そんな意図は著者には毛頭無いでしょうが)
西洋数学が和算を駆逐してしまった過程、そして和算が繁盛していた時代でも身分の
制約などによって数学者が皆、楽に生きてきただけでは無いこと等の歴史の暗部を
嫌でも知らされます。
この時代の後に出てくるのが代数論の高木貞治や、岡潔などになるのでしょうか。
この本が書かれた年代のせいでしょうか、その直前までの記述になっています。
「 日本の数学 西洋の数学―比較数学史の試み (ちくま学芸文庫) 」をこれから買う予定ですが、
このギャップを埋めてくれてるでしょうか...?
全体的に文章中心で、和算の問題などを見たい方には不適な資料でしょう。
それらはちくま文庫から色々と出ていますので、そちらをどうぞ。
学術を中心とした和算史上の人々 (ちくま学芸文庫)
和算の歴史―その本質と発展 (ちくま学芸文庫)
算法少女 (ちくま学芸文庫)
和算書「算法少女」を読む (ちくま学芸文庫)
2005年6月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
文化的側面から日本での数学の発展を考察した本。
和算は中国から入った本から発展してきたが、西洋のような発達の仕方をしなかった理由を算盤(商業・金)が卑しまれたことと考えている。
和算で有名な関孝和の功績について、関が独自に研究した結果ではない疑いがあるという説が載っている。
文化的背景から和算を切っているので、歴史・文化・数学と1冊でいろいろ楽しめる本だと思う。
和算は中国から入った本から発展してきたが、西洋のような発達の仕方をしなかった理由を算盤(商業・金)が卑しまれたことと考えている。
和算で有名な関孝和の功績について、関が独自に研究した結果ではない疑いがあるという説が載っている。
文化的背景から和算を切っているので、歴史・文化・数学と1冊でいろいろ楽しめる本だと思う。
2007年10月3日に日本でレビュー済み
表題論文「文化史上より見たる日本の数学」と、更に短く読みやすい「和算の社会的・芸術的特性について」、それに「芸術と数学及び科学」「付論 数学史の研究に就きて」の4編、編者の佐々木力氏による詳細な注、67頁に及ぶ解説、そして人名索引からなります。
岩波文庫に納まっていることからわかるように、古典です。いずれも初出が1922〜1932年。表題論文の初出時には物議をかもしたようですが、現在となっては何らそのような感は抱きません。
体裁的には論文でなくエッセイです。編者による注がないと細かなところは相応の知識なしには解り難いところも散見されますが、全体としては少し重めの読み物の風情です。細かな考証を省いて本旨を述べ続けており、中身の詰まった感じです。たいへんに歯切れの良い文章で、歯に衣着せぬというか、はっきりした、読んでいて面白い文体ですね。
内容のほうは、示唆には富むが最新の研究でのフォローが必要というところでしょうか。如何せん時間の経過が大きすぎます。この1冊で、というわけにはいきません。けれども、数学の歴史を学ぶのに避けては通れない、それでいて読みやすく入手しやすい好著とは言えると思います。
岩波文庫に納まっていることからわかるように、古典です。いずれも初出が1922〜1932年。表題論文の初出時には物議をかもしたようですが、現在となっては何らそのような感は抱きません。
体裁的には論文でなくエッセイです。編者による注がないと細かなところは相応の知識なしには解り難いところも散見されますが、全体としては少し重めの読み物の風情です。細かな考証を省いて本旨を述べ続けており、中身の詰まった感じです。たいへんに歯切れの良い文章で、歯に衣着せぬというか、はっきりした、読んでいて面白い文体ですね。
内容のほうは、示唆には富むが最新の研究でのフォローが必要というところでしょうか。如何せん時間の経過が大きすぎます。この1冊で、というわけにはいきません。けれども、数学の歴史を学ぶのに避けては通れない、それでいて読みやすく入手しやすい好著とは言えると思います。