著者によって「陳腐で常識的な最小限度のたたき台」(あとがき)と自嘲気味に評される本書。
確かに特別な内容が盛り込まれているわけではない。にもかかわらず、陳腐に堕することなく、
民主主義というテーマをめぐって、歴史的あるいは原理的な話題から今日的な展望に至るまで、
読者に得心を与えるように、分りやすく語られている。
序章「現代史のなかの民主主義」は、まだ世界が冷戦構造に置かれていた時代を問題にしており、
さすがに賞味期限切れのきらいもないではないが(当時の状況を知るにはよいとしても)、
民主主義をめぐる期待と幻滅、あるいはワイマール共和国の悲劇について語っているあたりは、
今日でも十分に読み応えがある。
第1章「民主主義の歴史」では、民主主義という概念を、歴史的なパースペクティブのもとに概観。
ことにイギリス、アメリカ、フランスなどそれぞれの国における民主主義の性格の異同が、分りやすく語られている。
第2章「民主主義の理論」では、はじめに民主主義を機構原理に還元することによって、
一定の概念規定の試みがなされている。
とくに民主主義と自由主義の違い、平等の陥穽、代表原理や多数決原理の問題性が指摘され、
さらに討論と説得、参加と抵抗といった民主主義の運用面について語られている。
とくに「政治機構の外に、民主主義の培養基がある」という結びの言葉は重要である。
第3章「現代の民主主義」および終章「民主主義の展望のために」は、現在から遡ること三十余年の「現代」であるが、
本書が民主主義についての一般的(普遍的)原理を扱っている性質上、すぐに賞味期限が切れる時局ものとは異なり、
内容的に十分有効なものとなっている。
たとえば大衆民主主義について、「社会生活が行き詰まり、大衆が不安で、
いてもたってもいられないような状況が出てきたときが民主主義の最大の危機」という件は、
ワイマールの悲劇と相まって、不況と震災に喘ぐ現代日本の状況に向けられた警鐘の響きを帯びて新鮮である。
ほかにも国家主権と人民主権の問題、国民国家における軍事力の問題および軍備撤廃の課題など、
民主主義をめぐる未解決の課題について、示唆するところ大である。
最後に付言すれば、本書は岩波新書第三期(黄版)の巻頭に置かれた記念碑的著作物でもあり、
ザ・岩波新書というべき性格を備えた古典的良書となっている。
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近代民主主義とその展望 (岩波新書 黄版1) (岩波新書 黄版 1) 新書 – 絵本, 1977/6/10
福田 歓一
(著)
民主主義という言葉はかつての輝きを失なってしまった感が強い。しかしそれは、体制の違いを問わず最高の価値を付与されていることに変わりはない。本書は、近代民主主義の歴史を克明にたどりつつ、その理想と現実との対抗関係を明確にし、さらに現代政治を構成する原理としての民主主義を浮き彫りにして、新たな展望を拓く。
- ISBN-104004200016
- ISBN-13978-4004200017
- 出版社岩波書店
- 発売日1977/6/10
- 言語日本語
- 本の長さ211ページ
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1977/6/10)
- 発売日 : 1977/6/10
- 言語 : 日本語
- 新書 : 211ページ
- ISBN-10 : 4004200016
- ISBN-13 : 978-4004200017
- Amazon 売れ筋ランキング: - 475,381位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2011年4月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2010年8月4日に日本でレビュー済み
2010年現在からすれば、福田が岩波市民講座で"語った"内容は古めかしい気もしますが、それでも民主主義の歴史と原理・問題を平易に考察した点で、十分通時的価値を持つ様に思われます。
学園紛争が終結した当時でさえ白々しい雰囲気を醸し出していた民主主義について、それでも自身の世代から感じた気持ちや期待から論を説き起こし、その該博な知識と平易な言葉で論を進めていくのです。
内容は、歴史、民主主義的なものの実践方法、現代政治における民主主義なものに対する障害とその上での展望を踏まえているのですが、それ以外の部分は古めかしいですが、歴史の部分はかなり詳細に書かれています。
私がこの本から感じるに、この時代に福田は民主主義にある程度の期待の念を抱きながら講演をしている気がします。
弟子の佐々木毅が類書を出しているので、読み比べるのも良いかもしれません。
学園紛争が終結した当時でさえ白々しい雰囲気を醸し出していた民主主義について、それでも自身の世代から感じた気持ちや期待から論を説き起こし、その該博な知識と平易な言葉で論を進めていくのです。
内容は、歴史、民主主義的なものの実践方法、現代政治における民主主義なものに対する障害とその上での展望を踏まえているのですが、それ以外の部分は古めかしいですが、歴史の部分はかなり詳細に書かれています。
私がこの本から感じるに、この時代に福田は民主主義にある程度の期待の念を抱きながら講演をしている気がします。
弟子の佐々木毅が類書を出しているので、読み比べるのも良いかもしれません。
2008年3月7日に日本でレビュー済み
「民主主義」の歴史を振り返り、そこに共通する理論を考察し、今後の展望を考える。長谷川三千子「民主主義とは何なのか」を読みはじめたら、この本がかなり引用されていたので探して読んでみた。初版から30年経っているが、読めば驚くほど「まだ?」「また?」と思う記述が見出される。一度は真面目に「民主主義のなんたるか」を自分で考えてみようと思う方は手にとって損はない本だと思う。30年前の状況と現在を比較しながら読むのも興味深い。
例えば、討論と説得が難しくなった政党制の議会でも「論点を明確にし、責任のありかを問う」場としての価値はある、などと書かれている。確かにそういう位置づけもある、と思う。責任所在についてあまりにもあいまいな国会答弁を聞いていると、それも怪しくなっているきもするが。
終章「民主主義の展望のために」の数ページのなかに、著者の意見は集約されている。著者は、必ずしも「民主主義しかない」とは言っていないが、「民主主義に根本的な一つの特徴、ほかに求めがたい長所があるとすれば、それのみが、人間が政治生活を営むうえに、人間の尊厳と両立するという一点であります(p208)」という理由で支持する。ほぼすべての人間が「尊重されている」と感じ、権力をひっくり返す可能性のある要因が少ない状態に近づける考え方、という視点で、他の「主義」も各自、検討してみてもいいかもしれない。
過去の歴史の中での民主主義を振り返り、原理を検討してきた著者の結びの言葉を引用しておく。「求められているのは近代民主主義がどういうものであり、どういう特徴と困難とをもっているかの自覚であり、当面する諸問題を受けとることにおいてそれを解決に役立てる勇気であり、そのことを通じて民主主義の機構と作用領域とを組み直して行く叡智であろうと思います。(p207)」
岩波新書黄色版の1、という番号を付されているというのも、出版の意気込みが伝わってくるような一冊であった。まだ入手可能なのは嬉しい。
例えば、討論と説得が難しくなった政党制の議会でも「論点を明確にし、責任のありかを問う」場としての価値はある、などと書かれている。確かにそういう位置づけもある、と思う。責任所在についてあまりにもあいまいな国会答弁を聞いていると、それも怪しくなっているきもするが。
終章「民主主義の展望のために」の数ページのなかに、著者の意見は集約されている。著者は、必ずしも「民主主義しかない」とは言っていないが、「民主主義に根本的な一つの特徴、ほかに求めがたい長所があるとすれば、それのみが、人間が政治生活を営むうえに、人間の尊厳と両立するという一点であります(p208)」という理由で支持する。ほぼすべての人間が「尊重されている」と感じ、権力をひっくり返す可能性のある要因が少ない状態に近づける考え方、という視点で、他の「主義」も各自、検討してみてもいいかもしれない。
過去の歴史の中での民主主義を振り返り、原理を検討してきた著者の結びの言葉を引用しておく。「求められているのは近代民主主義がどういうものであり、どういう特徴と困難とをもっているかの自覚であり、当面する諸問題を受けとることにおいてそれを解決に役立てる勇気であり、そのことを通じて民主主義の機構と作用領域とを組み直して行く叡智であろうと思います。(p207)」
岩波新書黄色版の1、という番号を付されているというのも、出版の意気込みが伝わってくるような一冊であった。まだ入手可能なのは嬉しい。
2009年2月4日に日本でレビュー済み
本書は1977年という執筆当時の時代状況を反映してはいるが、民主主義をその歴史から丁寧に、そして客観的に論述し、高度な内容を保っているにもかかわらず、平易にそして淡々と書かれており、学問的な信頼性の高さを感じさせる。
平易に書かれているからこそ、逆にその記載内容の重さを読者が読み飛ばしてしまう面もあろうかと思う。読者の力量によって読み取ることができる内容も違ってくると思う。
残念なのは、昔の執筆であるため、今日議論されている「熟議デモクラシー」などの位置づけがない点である。しかし、その点は読者自身が補って読むことで、自らのデモクラシーを読者個人が想起・再生させていくしかない。しかし、そのことは著者の希望していたことでもあろう。
平易に書かれているからこそ、逆にその記載内容の重さを読者が読み飛ばしてしまう面もあろうかと思う。読者の力量によって読み取ることができる内容も違ってくると思う。
残念なのは、昔の執筆であるため、今日議論されている「熟議デモクラシー」などの位置づけがない点である。しかし、その点は読者自身が補って読むことで、自らのデモクラシーを読者個人が想起・再生させていくしかない。しかし、そのことは著者の希望していたことでもあろう。
2007年2月13日に日本でレビュー済み
評者のような戦後に生まれた者にとって、民主主義とは自明の政治体制である。民主主義について特に疑うことなく育ってきた、と言って良いかもしれない。しかし、そのような者にこそ、本書は読まれるべきである。民主主義の本質を理解することは、その正しい行使のあり方や、それが適切に働いているかを評価する視座について、我々に再考する機会を与えてくれるのではないだろうか。本書は民主主義とはいかなるものか、著者がその歴史を辿り、あるいはその理念を語り、またその展望を語ることで、我々読者に深い理解を授けてくれる。本書が出版されたのは1977年であり、その記述に若干時代状況が反映されているけれども、本書の意義は全く失われていない。
本書の意義は、民主主義を歴史の鉱脈を辿りながら、それが決して唯一のものでないことを示した点にあるのではないか。同じ民主主義を名乗っていても、立憲主義との関わり等を反映して、アメリカのそれとイギリスのそれとは性格が大きく異なる。また、民主主義の主張されてきた歴史を見るならば、社会主義も民主主義を標榜するものであるとも言える。本書は、民主主義の多様性を明らかにするのだ。しかし、著者は強調する。民主主義において最も大事なものは人間の尊厳である、人間の尊厳を忘れて民主主義を論ずることはすべて無意味である、と。民主主義の本質を鋭く鮮やかに浮かび上がらせた著者の筆致は見事である。
著者は政治学史の第一人者であった。本書は著者であればこそ書くことのできた名著であると思う。概念の本質を探るときに、その歴史的淵源に立ち入ることの重要性を改めて読者に気づかせてくれる。しかし、著者は先日、その巨大な足跡を政治学史研究に遺し故人となってしまった。大きな人物を喪ったものだと、本書を読んでいて改めて感じた。
本書の意義は、民主主義を歴史の鉱脈を辿りながら、それが決して唯一のものでないことを示した点にあるのではないか。同じ民主主義を名乗っていても、立憲主義との関わり等を反映して、アメリカのそれとイギリスのそれとは性格が大きく異なる。また、民主主義の主張されてきた歴史を見るならば、社会主義も民主主義を標榜するものであるとも言える。本書は、民主主義の多様性を明らかにするのだ。しかし、著者は強調する。民主主義において最も大事なものは人間の尊厳である、人間の尊厳を忘れて民主主義を論ずることはすべて無意味である、と。民主主義の本質を鋭く鮮やかに浮かび上がらせた著者の筆致は見事である。
著者は政治学史の第一人者であった。本書は著者であればこそ書くことのできた名著であると思う。概念の本質を探るときに、その歴史的淵源に立ち入ることの重要性を改めて読者に気づかせてくれる。しかし、著者は先日、その巨大な足跡を政治学史研究に遺し故人となってしまった。大きな人物を喪ったものだと、本書を読んでいて改めて感じた。
2005年5月13日に日本でレビュー済み
分かっているようで分からない「民主主義」。
多数決は民主主義の基本だ!なんて言い方をよく耳にしますが,
多数決でも決められないことがある,という観点も大切なはず。
その意味で,民主主義と立憲主義(自由主義)の関係と違いを正確に学ぶ必要は,今後ますます大きくなると思うのです。
そこでお薦めするのはこの本。
歴史と原理の関係を解きほぐしながら平易に語る内容は,政治学史の大家,福田歓一教授だからこその名著。
私は,高校生のときに副読本で配られて,全く読まなかったという思い出のある本ですが,大学を卒業してから読んでみて,深く感動を覚えた本でもあります。
この本が版元(岩波書店)品切れとは,寂しい限りです。
多数決は民主主義の基本だ!なんて言い方をよく耳にしますが,
多数決でも決められないことがある,という観点も大切なはず。
その意味で,民主主義と立憲主義(自由主義)の関係と違いを正確に学ぶ必要は,今後ますます大きくなると思うのです。
そこでお薦めするのはこの本。
歴史と原理の関係を解きほぐしながら平易に語る内容は,政治学史の大家,福田歓一教授だからこその名著。
私は,高校生のときに副読本で配られて,全く読まなかったという思い出のある本ですが,大学を卒業してから読んでみて,深く感動を覚えた本でもあります。
この本が版元(岩波書店)品切れとは,寂しい限りです。
2002年3月10日に日本でレビュー済み
真の民主主義であったワイマール憲法から何故ナチスが生まれたのか。民主主義の利点と背後に隠された危険性を視野に入れ、広範囲に渡り改めて民主主義とは何かを問う。
2010年11月15日に日本でレビュー済み
民主主義国に暮らして時に投票権を行使し「某国は民主主義国でないから信用できない」などと口にしながら「そもそも民主主義って何?」と問われると答えに窮するすべての人に有益な本です。東大法学部教授(後に名誉教授),明治学院大学学長などを歴任した著者が「・・・であります。」という平易な語り口で,民主主義について講義します。
まず,はなはだいかがわしい言葉(P3),危険思想を意味した言葉,暴民の支配・テロの支配として恐怖心を呼び起こす言葉(P4),ちゃんとした社会の人間にはタブーであった言葉(P14)であったはずの「民主主義」が,さまざまな波乱を経て,今日のように社会の基本原理として扱われるに至った経緯が示されます。次に,今日の民主主義は妥協の産物であり(多数決は多数者による少数者支配だから本来は民主主義と結びつかない,議員が有権者に拘束されない代表制は民主主義というより貴族政治的であるなど),しかも各国の異質な条件下で実現されたものであるから,そのあり方は1つではないこと,などが説明されます。
著者は,この本で述べたことは陳腐で常識的な内容を出ていないが,むしろそれは狙いとするところである,というあとがきを残していますが,民主主義について,興味深い歴史的エピソードと理論的考察とをあわせて織り込みながら正統的に平易に語る,という難業は,その道の泰斗であるからこそ可能であったのだと思います。
まず,はなはだいかがわしい言葉(P3),危険思想を意味した言葉,暴民の支配・テロの支配として恐怖心を呼び起こす言葉(P4),ちゃんとした社会の人間にはタブーであった言葉(P14)であったはずの「民主主義」が,さまざまな波乱を経て,今日のように社会の基本原理として扱われるに至った経緯が示されます。次に,今日の民主主義は妥協の産物であり(多数決は多数者による少数者支配だから本来は民主主義と結びつかない,議員が有権者に拘束されない代表制は民主主義というより貴族政治的であるなど),しかも各国の異質な条件下で実現されたものであるから,そのあり方は1つではないこと,などが説明されます。
著者は,この本で述べたことは陳腐で常識的な内容を出ていないが,むしろそれは狙いとするところである,というあとがきを残していますが,民主主義について,興味深い歴史的エピソードと理論的考察とをあわせて織り込みながら正統的に平易に語る,という難業は,その道の泰斗であるからこそ可能であったのだと思います。