著者のピーターセン氏のことはロイヤル英文法の共著者として名を知っていた。しかし網羅的な文法書であるあちらと比べて、本書は日本人学習者が犯しがちな間違いに的を絞って取り上げている。初めに冠詞/無冠詞・単数/複数から始まり、前置詞の使い分け、時制、副詞とイディオム、など、どれも英文を読むときにはさほど問題にならなくても、私たちが英文を作るときにはいつも迷わずにはいられない項目ばかりだ。この時点で、日本人の書く英文の添削経験を基にした著者の分析がしっかりしていることが分かる。
取り上げた項目の説明についても、他の類書よりも詳しく踏み込んだ叙述が多く、それらが豊富な例証に支えられている点が素晴らしい。特に、日本人の説明では基本的な使用方法から外れる「例外」として覚えさせられるようなことも、基本的な使用方法から論理的に説明することができるとして例を挙げて説明している点に大変な説得力を感じた。
例えば不定冠詞のaについて、日本人はこれを名詞に付けるか付けないか、という風に、まず名詞ありきで後からアクセサリーのようにaを付けるかどうか検討するが、実際には名詞の方がアクセサリーなのであり、aによって名詞の入れられるカテゴリーが先に決まってから、その名詞をどれにするかを検討するのだ、と説明している。こういうコペルニクス的転回は、やはりネイティブならではであろうと思う。
その他にも関係代名詞の制限用法と非制限用法の比較とか、[前置詞+関係代名詞…]の方が[関係代名詞…前置詞]よりも書き言葉的で洗練されているとか、The University of Meiji(×)とMeiji University(〇)の違いとか、とにかく面白くまた高級な説明ばかりで感動してしまった。
既に出版から35年が経っていて、これまでに様々な文法書が世に出ているものの、本書ほど立派な英語の本は無いと率直に感じた。あまり期待せず読み始め、あまりに学識豊かで面白く、その日のうちに読み終え同じく岩波新書のピーターセン氏の続編3冊も購入してしまった。
ただし、初学者には全く勧めることができない。本書では高度な内容の話をしているし、例文も高校レベル以上あるので、最低でも高校英語を学び終わってから読むのが好ましいと思う。そうでなければ、日本人にとって極めて複雑な文法項目を説明してくれている本書を読みこなすことはできないし、かえって英語を敬遠することになるだけだろう。大学生以上の方が、文法のさらなる理解のためにじっくり読むのが一番良いと思われる。
決してわかりやすい、一読してすっきりはっきりわかる、などという代物ではない。扱っているのが日本人にとって一番難解なポイントばかりなのだからしょうがない。だが詳細かつ信頼できる論理的説明は、何度も読み、何度も実際の英文を前に検討し、また本書に戻って参照して、を繰り返して血肉にすることができれば、一生ものになるだろうと思う。ピーターセン氏も、冠詞の段において、冠詞と数の論理を理解した上で、英文に現れる冠詞/数の一つ一つを分析すれば、次第に冠詞/数が自身のものになるだろうと述べている。決して本書を一読して使いこなせるようになるなどと生半可なことは言わない。
また著者の上から目線の書き方が気になるといったレビューがあったので若干躊躇したのであるが、実際に読んでみると何のことは無かった。ネイティブから見たら外国人が赤子のような間違いを犯しているという感じ方は、けして理解できないものではない。それに何より、著者は日本語を学習するアメリカ人として多大なる苦痛を経験し続けていて、自身が日本語の使用において犯した間違いとか、日本語で本を書きながらも自分の日本語には未だに自信が無いだとか、分厚い文法書を放り投げて日本語が嫌いだと思わず日本語で叫んだとか、こうして難解なる英文法を論理的に紐解こうとしている英語学習者にとってはなんとも親しみやすいエピソードを時折挟んでくれる。
むしろ1点だけ気になったのは、英語の論理への称賛が多いことである。ピーターセン氏は、日本語と比較して英語の方が、それぞれの文法項目に一本通った筋があり、実際には論理的に説明できるのだとして英語を称賛している。外国語の学習者としては確かに、論理でもって説明してもらえる方が、これは慣用でそうなってるからそうなのだなどと説明されるより100倍いいのだが、実際のところ、言語においては論理の前に慣用があって、論理は慣用を説明するために作られることが多いだろう。それに日本語には日本語の論理があって、(我々が英語の中にある論理に気付かないように)ピーターセン氏もまた日本語の論理に完全に精通してはいない、というのに過ぎないのではないかと思われた。この点だけはもう少し謙虚になってもいいのではないかという気もする。しかしこの程度の瑕疵では少しも色褪せないほど、本書で述べられる英語の説明は色鮮やかであるから安心していただきたい。
結局、日本語の中に存在しない概念が英語の中にあり、英語の中に存在しない概念が日本語の中にあるのだから、英語は英語の中の論理で考えて、日本語は日本語の中の論理で考えるようにするのがいいという考え方でもって、様々な文法項目について検討する。全くこれほど信頼できる英文法の本を、やはり私は今までに読んだことが無い。
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日本人の英語 (岩波新書) 新書 – 1988/4/20
マーク・ピーターセン
(著)
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購入オプションとあわせ買い
「冷凍庫に入れる」は put it in the freezer なのに「電子レンジに入れる」だと put it in my microwave oven となる。どういう論理や感覚がこの英語表現を支えているのか。著者が出会ってきた日本人の英語の問題点を糸口に、従来の文法理解から脱落しがちなポイントをユーモア溢れる例文で示しつつ、英語的発想の世界へ読者を誘う。
- ISBN-104004300185
- ISBN-13978-4004300182
- 出版社岩波書店
- 発売日1988/4/20
- 言語日本語
- 寸法11.2 x 1.6 x 17.4 cm
- 本の長さ196ページ
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登録情報
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- 言語 : 日本語
- 新書 : 196ページ
- ISBN-10 : 4004300185
- ISBN-13 : 978-4004300182
- 寸法 : 11.2 x 1.6 x 17.4 cm
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2023年5月18日に日本でレビュー済み
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2024年4月4日に日本でレビュー済み
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自分の知りたかったことが満たされる本。
2024年5月25日に日本でレビュー済み
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ここまで、日本人の英語をコケにされると腹がたつと同時に著者の日本語に文句をつけたい。日本人ネイティブのもつ感覚まで理解しているとは思えない。
2022年12月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
やり直し英語を始め、書籍やネットに良質の内容を見つけられるようになっていることに
とてもうれしくビックリしているが、あふれる情報から良質の内容を見極めて取り入れることの
なんと難しいことかと思いつつ学んでいるところである。
本書は米国出身の著者が35年ほど前に書いたものである。
その書かれた時点においても、完了形の使い方が30年の間に本来の使い方がされないことが
見られるようになったと嘆いている。日本語でも辞書にある意味で使われない語について時々
語られるが似たようなものであろう。なのでこの35年ほどで変わっている部分もあるかもしれない。
また、日本人だからといって日本語について正しく説明できるとは限らないのと同様、
ネイティブの人だから間違いないという盲信は避けたほうがよいと思うが、
日本語を学び日本人が書いた英語論文の添削をしていたネイティブの著者だからこその視点や
著者本人の説明の上手さが説得力を持って読ませてくれる。
日本語の訳についても、日本人のチョイスよりも「なるほど」と感じる訳がいくつかあった。
本書は、例文を示して、なぜその表現に至ったのかをその意識や感覚について説明してくれている。
個人的には難しい例文だが、大事な部分を丁寧に説明してくれるので例文自体は理解不足だと思うが、
十分勉強になる。書かれたのが35年ほど前とは思えないほどの目新しい感覚に出会えた。
感覚とはちょっと違うが、衝撃的だったのは姓名を逆に言う必要はないというものだ。
もしネイティブの知り合いがいたら、ぜひ本書についていろいろと内容を確認してみたいところだ。
とてもうれしくビックリしているが、あふれる情報から良質の内容を見極めて取り入れることの
なんと難しいことかと思いつつ学んでいるところである。
本書は米国出身の著者が35年ほど前に書いたものである。
その書かれた時点においても、完了形の使い方が30年の間に本来の使い方がされないことが
見られるようになったと嘆いている。日本語でも辞書にある意味で使われない語について時々
語られるが似たようなものであろう。なのでこの35年ほどで変わっている部分もあるかもしれない。
また、日本人だからといって日本語について正しく説明できるとは限らないのと同様、
ネイティブの人だから間違いないという盲信は避けたほうがよいと思うが、
日本語を学び日本人が書いた英語論文の添削をしていたネイティブの著者だからこその視点や
著者本人の説明の上手さが説得力を持って読ませてくれる。
日本語の訳についても、日本人のチョイスよりも「なるほど」と感じる訳がいくつかあった。
本書は、例文を示して、なぜその表現に至ったのかをその意識や感覚について説明してくれている。
個人的には難しい例文だが、大事な部分を丁寧に説明してくれるので例文自体は理解不足だと思うが、
十分勉強になる。書かれたのが35年ほど前とは思えないほどの目新しい感覚に出会えた。
感覚とはちょっと違うが、衝撃的だったのは姓名を逆に言う必要はないというものだ。
もしネイティブの知り合いがいたら、ぜひ本書についていろいろと内容を確認してみたいところだ。
2022年9月15日に日本でレビュー済み
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日本の文法書に載っていないネイティブの英語を使う感覚が書いてあるので、ネイティブがどのようにaやtheなど、日本人が間違いやすいものを使い分けているかがよく分かる
2024年1月7日に日本でレビュー済み
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英語を身に付けたいと勉強中の私にとって
まだ最初の方だが、大変参考になる本。
出来るだけ本物の英語に近づきたいので、又
日本と英米の文化の違いなども分かり、読み物としても楽しめる。
まだ最初の方だが、大変参考になる本。
出来るだけ本物の英語に近づきたいので、又
日本と英米の文化の違いなども分かり、読み物としても楽しめる。
2007年8月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
レビューで文章が堅いと書いておりましたが、実際本当に堅い英語の例文がおおいです(笑)。
冠詞、前置詞、副詞、関係詞、受動態、能動態、接続詞の本来の英語の感覚が
「あ〜そうだっのか、そうなんだ」っと思えることができます。
彼が指摘する私達のなにげなく使っている英語(日本語感覚の英語)に沢山の間違えがあったと気付かされましたし、
本当に学校では教えてくれない英語感覚がこの本に沢山あります。
著者は英語は英語の感覚で・・・と言いますが、実際難しいです。
私も海外4年滞在しておりました、その4年間で感覚的なことを沢山覚えましたが、
やはり日本人です。母国語(日本語)を40年近く使っております。
I am looking for the person to whom English and Japanese do the exchange lesson.
I am an company employee who works by foreign.
It takes charge of the work of distribution.
My company is a manufacturer of chemical goods.
The same industry or the occupational category is hoped for.
あるサイトでこの英文を見つけました、もしあなたがこの英文に何の疑問がないと感じるのでしたら、是非この本を読んでください!!!
日本人の私にはどうしてこのような英文になったのか痛いほど良く理解できます。
そうして日本人にとっては大変日本語にしやすい文章です。すなわち、日本語感覚の英文ということです。
また、この本の中に大変面白い冠詞の説明がありました、「電子レンジにはなぜ冠詞が使用されないのか?」。(この本を読んで理解してほしいです)
皆さんがどの程度まで英語を習得したいのかは分かりませんが、今までもやもやしていた冠詞の使い方は特に私にはためになりました。
冠詞、前置詞、副詞、関係詞、受動態、能動態、接続詞の本来の英語の感覚が
「あ〜そうだっのか、そうなんだ」っと思えることができます。
彼が指摘する私達のなにげなく使っている英語(日本語感覚の英語)に沢山の間違えがあったと気付かされましたし、
本当に学校では教えてくれない英語感覚がこの本に沢山あります。
著者は英語は英語の感覚で・・・と言いますが、実際難しいです。
私も海外4年滞在しておりました、その4年間で感覚的なことを沢山覚えましたが、
やはり日本人です。母国語(日本語)を40年近く使っております。
I am looking for the person to whom English and Japanese do the exchange lesson.
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It takes charge of the work of distribution.
My company is a manufacturer of chemical goods.
The same industry or the occupational category is hoped for.
あるサイトでこの英文を見つけました、もしあなたがこの英文に何の疑問がないと感じるのでしたら、是非この本を読んでください!!!
日本人の私にはどうしてこのような英文になったのか痛いほど良く理解できます。
そうして日本人にとっては大変日本語にしやすい文章です。すなわち、日本語感覚の英文ということです。
また、この本の中に大変面白い冠詞の説明がありました、「電子レンジにはなぜ冠詞が使用されないのか?」。(この本を読んで理解してほしいです)
皆さんがどの程度まで英語を習得したいのかは分かりませんが、今までもやもやしていた冠詞の使い方は特に私にはためになりました。