本書は、演出家による演劇論で、「演出について」「演技について」「劇団に
ついて」「結び―新しい関係の創造について」の4つの章から成る。チェーホ
フのリアリズム、個性と孤性の違いについて知った。
まずは、チェーホフのリアリズムについて。冒頭から日本におけるリアリズム
演劇の理解の問題点が指摘される。これまで日本では、リアリズム演劇は現実
を反映するものと理解されてきたが、著者によれば、フィクション(嘘)を通
して人間の現実(心理)を表現するものだ、という。
著者は、『三人姉妹』の結末を事例として取り上げる。そして、チェーホフが
伝えたかった真意とは何かという観点から、解釈を練り直す。その解釈に得心
がいくとともに、チェーホフがなぜ古びないのか、わかった気がした。
次に、演劇における個性と孤性の違いについて。著者は次のように述べている。
「俳優は個性というようなものを発揮したいと演技するわけではありません。
(劇団の)共通のルールをより良く遊びたいと意欲するだけです。そして、よ
り良く遊べた人を観客は個性的だと感じるのが真相でしょう。ところが、現代
劇の舞台には、個性として錯覚された孤性の違いを自己主張する感性的な解放
の遊びがあるのです」(123頁)。
このような個性の捉え方は、哲学者アランの思想に通じるものがあると思う。
「個人と社会(劇団)の相互関係は明らかな以上、仕事や職務(ルール)によ
って高められ形づけられた性格をこそ、個人(個性)と呼ばなくてはならない。
(略)私は、だから周囲の社会(劇団)の刻印を受ける。しかし、これは社会
(劇団)が私を歪めるなどという意味ではない。それどころか社会(劇団)が
私を形作るのである。この圧力によって現れ出るのはまさしく私の本性(個性)
なのである」(『思想と年齢』379頁)。( )引用者。
また、別の言い方をすれば、個性がチームプレイの中で現れ出るファインプレ
イだとすれば、孤性はチームプレイを無視したスタンドプレイのようなものだ
と考えられる。
以上、個性として錯覚された孤性を自己主張する現代劇への批判の書でもある。
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演劇とは何か (岩波新書 新赤版 32) 新書 – 1988/7/20
鈴木 忠志
(著)
- 本の長さ176ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1988/7/20
- ISBN-104004300320
- ISBN-13978-4004300328
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1988/7/20)
- 発売日 : 1988/7/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 176ページ
- ISBN-10 : 4004300320
- ISBN-13 : 978-4004300328
- Amazon 売れ筋ランキング: - 356,106位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2016年8月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
状態がかなり良く、カバーの折れや中身の汚れかほとんど無い。状態は◎!かねてから欲しくて、一度は古本街を歩きまわって探したような本なので手元に届いて大満足です。演劇に興味のある人間ならば絶対に読みたい内容であるが、絶版になっているので貴重な一冊。
2015年6月17日に日本でレビュー済み
すばらしかったです!!
この本は、演劇といいつつ、エンターテインメントや娯楽の話ではなく、社会や共同体、コミュニティの話が綴られています。
1988年に書かれた本なのに、いま読んでも新しい。いや、本のほうが先を行っている。そんな感じです。なので、読みやすいという印象がある新書にしては、かなり骨太で、歯ごたえ・読み応えがある。
少し中身を紹介させていただくと。
身体論としては、個性と孤性の違いということが書かれています。
孤性とは癖のようなものなので、無意識に何度も繰り返してしまう。
一方、個性とは集団のルールを理解した上で、そしてその集団の一員として存在しつつにじみ出る「その人ならではの動き」。能や歌舞伎にでてくるのは、その個性。
それと同じことは社会についても言える。私たちは、他者や自然とともに生きる生態系の一部であり、まずはそこのルールを熟知し、群れる。それをのっとった上で表現する、みたいな話です。
この本は、演劇といいつつ、エンターテインメントや娯楽の話ではなく、社会や共同体、コミュニティの話が綴られています。
1988年に書かれた本なのに、いま読んでも新しい。いや、本のほうが先を行っている。そんな感じです。なので、読みやすいという印象がある新書にしては、かなり骨太で、歯ごたえ・読み応えがある。
少し中身を紹介させていただくと。
身体論としては、個性と孤性の違いということが書かれています。
孤性とは癖のようなものなので、無意識に何度も繰り返してしまう。
一方、個性とは集団のルールを理解した上で、そしてその集団の一員として存在しつつにじみ出る「その人ならではの動き」。能や歌舞伎にでてくるのは、その個性。
それと同じことは社会についても言える。私たちは、他者や自然とともに生きる生態系の一部であり、まずはそこのルールを熟知し、群れる。それをのっとった上で表現する、みたいな話です。
2004年7月27日に日本でレビュー済み
演劇全般について書かれています、
日頃接している演劇の本質が知りたくて買ってみました、
読み終わったあとは演劇だけではなく、ドラマに関しても見方が変わりました
演劇が現代に持つ意味を知りたい方にはピッタリの本です
日頃接している演劇の本質が知りたくて買ってみました、
読み終わったあとは演劇だけではなく、ドラマに関しても見方が変わりました
演劇が現代に持つ意味を知りたい方にはピッタリの本です