アメリカ抽象表現の潮流にいた画家が、自分の立場と問題意識から二十世紀美術についてまとめた新書。読み始めてすぐ、画家ならではの着眼の言葉が語られているのに気が付く。画家の使う言葉というのは何か詩人のそれに幾分か似たアングルがあって、読んでみると鮮烈な印象を受けることがあるが、この著者の言葉も読んでいて心地よい。
内容は、マチスの回顧展の話を枕にしながら、二十世紀前半のヨーロッパ前衛芸術が科学・技術の浸透の逆作用としていくつもの実験を進め、それを受け取ったアメリカ抽象表現が自国の覇権主義と高度資本主義の下で袋小路に陥っていく様子が示されていく。
著者の出自からニューヨーク派の抽象表現主義、とくにジャクソン・ポロックやバーネット・ニューマンについての言及が多い。バーネット・ニューマンの作品と「サブライム」というコンセプトについての著者の意見は手厳しいが、ジャクソン・ポロックの画業への評価は高い。ポロックといえば言及されるのはドリッピングで、真似をする人は多いし、ドリッピング的な手法をデジタルで使う画家もいるそうだが、著者はドリッピング以前と晩年のポロックへの関心が強いようだ。
その振り返りによって何らかの結論が出るわけでもなく、それは著者が画業で示したのだろうが、二十世紀美術についての現場からの証言が読めて愉しかった。面白い。
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20世紀美術 (岩波新書 新赤版 337) 新書 – 1994/5/20
宇佐美 圭司
(著)
二○世紀の幕あけとともに美術表現は新たな時代を迎えた.前世紀末の印象派の出現にはじまり,ヨーロッパの前衛表現からアメリカの抽象表現へ.オリジナリティを目指して画家たちの格闘が展開する――.現代の美術は人間社会にとってどのような価値をもつのか.二○世紀絵画表現の意味を画家としての眼で問い直し,現代美術の可能性を探る.
- 本の長さ205ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1994/5/20
- ISBN-104004303370
- ISBN-13978-4004303374
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1994/5/20)
- 発売日 : 1994/5/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 205ページ
- ISBN-10 : 4004303370
- ISBN-13 : 978-4004303374
- Amazon 売れ筋ランキング: - 186,555位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 3位未来派の美術史
- - 4位ロシアアヴァンギャルド・ドイツ表現主義の美術史
- - 12位新古典主義の美術史
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著者について
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上位レビュー、対象国: 日本
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2007年3月7日に日本でレビュー済み
1940年に生まれ、日本芸術大賞を受賞した画家が、戦後アメリカ抽象表現主義批判=自己批判を通じた現代美術の再生を目指して、1994年に刊行した本。20世紀は、科学技術の爆発によって人間のあり方や限界が問い直されると同時に、還元的情熱がさまざまな行方を模索した時代と言える。世紀前半欧州では、印象派の点描法からフォーヴィズムへの流れや立体派への流れなど、近代に反省を促し、視覚的認識に統一される以前の、輪郭が不分明で未分化な状態を描くことにより、芸術を活性化しようと試みる、アンチ・リアリズム前衛芸術の多様な動きの対立と並存が見られた。とりわけシュール・レアリズムは、認識作用全体への明確な反省意識を持ち、細分化し始めた人間文化のトータルな見直しを掲げ、視覚の中に身体性を回復しようとし、アメリカ現代美術に大きな影響を与えた。戦後米国のニューヨーク派は、欧州の前衛芸術の還元主義を継承しつつ、それを進歩主義の文脈に置き換え、運動が示す場全体のあり方より、その先端部分のみに注目した。その結果、芸術は競ってオリジナリティを追求する中で、過度に単純化され意味や面白みを喪失し、内容が消え形式のみがせり出し、奇抜さや強度(巨大さと崇高さ)のみが重視され、コミュニケーションを拒絶する空無な自己表出の場となり、伝承も困難になり停滞した。著者は抽象表現を、到達した結果としてではなく、表現過程として見直すこと、それが開拓した多様な方法を、可能世界の生成の場、コミュニケーションの場としてのホリゾントにおいて、新たに組み合わせて活用することを提唱する。本書は一定の知識を持った読者を対象としており、私のような素人には理解困難だが、著者の言わんとすること自体は感覚的に分かる気がする。