以前に同著者による『教育入門』(岩波新書)をレビューした際、
「難しい時代にあう教育論」として、その淵源や原理性から説き起こされ、
きわめて意義深い書になっている点をまとめておいたのですが、
同著はいわば教育という営みの原理面に着目したものであって、
「教育活動とは、そんなところに根を発している」という塩梅でしたが、
本書はむしろそのエートスをたたき台として、まずは序章において、
戦後50年の歩み(当時)を振り返りつつ、アイデンティティの所在論をへて、
教育法的諸価値のなかから、より普遍的な人権論をよみとりながら、
現代という固有の時代のありさまを逆照射するかたちとなっています。
つづいて第1章では、OJTなどをつうじて現代社会ともコミットしている企業体をめぐり、
学校や地域社会とのかかわりから改革の方向性までを問うています。
そして本書の中心課題である現代社会と教育の延長的な関係論、
つまりメリトクラシーが孕んでいる重大なる問題性について第2章で扱うなかで、
制度化の極限形態としての、画一的になりがちな一元論にあらがいつつ、
オルタナティブを許しうる、より幅広な選択的契機を教育にもよみこもうとしています。
この点、著者からすると、いわば本邦教育への基本的スタンスでもある、
二重の基準論(ダブルスタンダード)の考え方にも相通ずるものがあるようにみえます。
堀尾教育論の精髄は、実は教育的営為に主体性を持たせ、現代社会の中に根づかせつつ、
近未来予測をつうじて、多元化を模索する契機を提供している点ではないでしょうか。
さて、これらの土台を据えつつ、つづく第3章では、いわゆる学校化社会の成立というものを、
歴史的に顧みるなかで、現実的な現象面としての不登校などが提示している問題性を検討し、
改めて学校現場を史的に形成されつつある場として再構成するスタンスのもと、
縷々言説分析を交えながら、学校知からの発展性や開放性が未来の学校を再生しうる、
といった希望論を踏まえ、学校論をめぐるひとつの分析モデルを示唆しています。
そこまで論じたところで、著者は今度は子どもという存在をひきあいに、
学校との状況を1975~1990年までについて概観し、学校存在の揺らぎと再生への模索、
という大きな課題について、ケーススタディを試みています。
最後に終章において、著者は再度、教育的営為の国民化という過程そのものが、
アイデンティティの涵養をへて、主体性の復権と共存モデルの構築に資するかもしれない、
と結び、今後の方向性を示すかたちとなっています。
あとがきをみると、本書執筆のきっかけは、第2章執筆のあとで、編集サイドと話し合いがもたれ、
「現代社会と教育」というコア問題を企業論と学校論の双方へと拡大することで、
議論に厚みが出、またアクチャリティが増したことが結果的にメリットだったのではないでしょうか。
一方で、本書のもうひとつのベーシックな面は、やはり教育法をめぐる体系的思索であり、
そのことが本考察により総合性を付与し、結論部分と現代社会のアクチャリティが交響し、
法思想としても未来に開かれた発展性をもたらしているのではないでしょうか。
そのような本書を、関心の向きにおすすめとしておきたく思います。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
¥968¥968 税込
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
¥968¥968 税込
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
¥92¥92 税込
ポイント: 1pt
(1%)
配送料 ¥257 6月13日-15日にお届け
発送元: 古書買取本舗 あやみ堂(株式会社リサイクル24時) 販売者: 古書買取本舗 あやみ堂(株式会社リサイクル24時)
¥92¥92 税込
ポイント: 1pt
(1%)
配送料 ¥257 6月13日-15日にお届け
発送元: 古書買取本舗 あやみ堂(株式会社リサイクル24時)
販売者: 古書買取本舗 あやみ堂(株式会社リサイクル24時)
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
現代社会と教育 (岩波新書 新赤版 521) 新書 – 1997/9/22
堀尾 輝久
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥968","priceAmount":968.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"968","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"vs4RqBZiehODWNe7jRR%2FC8F4rHTaM3FSXloV4g00n%2FO2W7U16UgREWycVAWE3ESe5PdpJHMRp0QYZT8GOFx7seEANY%2FJBZVRLawvX3xft350Qh2J9o0S1K%2BqVDHI0F1t","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥92","priceAmount":92.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"92","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"vs4RqBZiehODWNe7jRR%2FC8F4rHTaM3FSLJdr8wyJ9KJicvqiKuaAcCr8YgI6yleNxAnIG4M31cA9Zbwkh6V12oMhT05TS5NxJ2Lou4AM%2FLsIEwtb0lz7W%2FfAm%2Fc7MsnBc6n1htawlkpePucDCtQk9aOf%2F7Pbj7FmqLeUUAXrMByWbYh8oPoudg%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
現代の教育を考えるとき,その背景にある企業社会,高度情報化社会を視野に入れないわけにはいかない.いじめや落ちこぼれなど様々な深刻な問題を生んでいる社会の構造を明らかにしながら,歴史をどう教えていくか,核や環境の問題をどのように自らの課題として引き受けていくかなど,これからの教育のあり方について未来を見据えつつ明確な指針を与える.
- ISBN-104004305217
- ISBN-13978-4004305217
- 出版社岩波書店
- 発売日1997/9/22
- 言語日本語
- 寸法11 x 1.1 x 17.5 cm
- 本の長さ248ページ
よく一緒に購入されている商品
対象商品: 現代社会と教育 (岩波新書 新赤版 521)
¥968¥968
最短で6月12日 水曜日のお届け予定です
残り6点(入荷予定あり)
¥1,782¥1,782
最短で6月12日 水曜日のお届け予定です
残り4点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1997/9/22)
- 発売日 : 1997/9/22
- 言語 : 日本語
- 新書 : 248ページ
- ISBN-10 : 4004305217
- ISBN-13 : 978-4004305217
- 寸法 : 11 x 1.1 x 17.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 148,245位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3.6つ
5つのうち3.6つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
4グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2017年3月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2017年8月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「現代社会と教育」。堀を輝久著。研究目的で上記タイトルの新書を読んでいた。1997年が第1冊なので、今となればかなり古い本である。その中で「臨時教育審議会」の議論を取り上げていた。「臨教審」という言葉を覚えている人もいるだろうけど、自民党中曽根内閣が、「行政改革」という目玉政策を行ったことに引き続いてのことなので、ことが起こったのはもう30年も前。
その30年も前のことで、私がなるほどなと思ったのは、この書に引用されている、「臨教審」を推進した指導的人物の思想。「理念」や「思想」を馬鹿にして、そんなの現実に影響を与えないとか、「現実を見ろ」とかいう人がいるが、30年前の臨教審の理念がいま、日本社会で花開きつつある。そして、自然に多くの人が、その理念に共感しつつある。他民族や他国を憎悪して、それをばねに内部の思想を統一する、そんな社会が支持されて実現しつつある。筆者の堀尾氏は、そういう社会を作る教育に反対するという文脈で、臨教審の指導者の言動を引用しているし、私も態度表明すれば、そういう世の中や社会には反対している。
以下は臨教審のオピニオンリーダーの香山健一氏の著作から引用する。彼のめざす分断社会は、中曽根内閣から現在の安倍内閣にまでしっかりと受け継がれ、そして両内閣とも国民の支持は高い。
「社会は高度の知識人からなる、知的な豊かな社会となっていくであろう。優生学は優れた素質を持った人間で社会を満たすようになるであろう」
「情報革命のかなたに、われわれは素晴らしい素質を持ち、驚くほど高度の教養と知識とを身につけた健康な男女たちが、自動化された産業を基礎に高い生活水準を楽しみ、…余暇を、科学や芸術やスポーツなどの創造的な仕事に没頭し、知的な会話と人生のゲームを楽しみながら過ごしているような、そういう未来世界を構想したい」
「高い知識を持った知能水準の高い層と、平均以下の知能水準の低い層との階層分化が生じてくることは避けられないだろう」
「高度知識社会のメリトクラシー(注:能力優先主義)の下で、エリート層は真のリーダーシップを確立しなければならない。それは俗流化した民主主義や平等主義によって活力を失った社会ではなしに、永遠に活力を失わない、ダイナミックな社会の秩序を維持していくために必要不可欠なことである」
「能力のある人間にはそれにふさわしい冒険と挑戦の機会を与え、能力の劣る人間にはそれにふさわしい生きがいの対象を与え、能力のない人間にも―そういう人間には教育と優生学によって減らしていかなければならないが―適度な人間的思いやりを与えうるような社会を構想しなければならない。非凡人には非凡人にふさわしい、平凡人には平凡人にふさわしい満足の機会を与えるような条件を発明しなければならない」
「人間の質とその改良の問題は、…教育の問題とともに、優生学の問題に決定的にかかわっている」
「現代の産業文明ではIQ110以下の人間は役に立たなくなりつつある。…人口学者たちが深い不安をもって指摘していることは、人口の増加率がIQの低い層において特に顕著であり、IQの高い層において人口増加率が低いため、人類は遺伝的素質低下の危機にさらされているという事実である。」
「この遺伝的素質低下の問題を解決し、さらに人間の質を高めるための最も賢明な社会的技術を開発しなければならない。…ある優れた遺伝的素質を持つ者に飲み3人以上の子どもを持つことを認め、かつ―助成金その他の方法で―奨励し、それ以外は2人以下に制限するといった方法も考えられる」
(引用の引用元は、香山健一『未来学入門』潮新書、参考までに潮出版は創価学会系の出版社である)
その30年も前のことで、私がなるほどなと思ったのは、この書に引用されている、「臨教審」を推進した指導的人物の思想。「理念」や「思想」を馬鹿にして、そんなの現実に影響を与えないとか、「現実を見ろ」とかいう人がいるが、30年前の臨教審の理念がいま、日本社会で花開きつつある。そして、自然に多くの人が、その理念に共感しつつある。他民族や他国を憎悪して、それをばねに内部の思想を統一する、そんな社会が支持されて実現しつつある。筆者の堀尾氏は、そういう社会を作る教育に反対するという文脈で、臨教審の指導者の言動を引用しているし、私も態度表明すれば、そういう世の中や社会には反対している。
以下は臨教審のオピニオンリーダーの香山健一氏の著作から引用する。彼のめざす分断社会は、中曽根内閣から現在の安倍内閣にまでしっかりと受け継がれ、そして両内閣とも国民の支持は高い。
「社会は高度の知識人からなる、知的な豊かな社会となっていくであろう。優生学は優れた素質を持った人間で社会を満たすようになるであろう」
「情報革命のかなたに、われわれは素晴らしい素質を持ち、驚くほど高度の教養と知識とを身につけた健康な男女たちが、自動化された産業を基礎に高い生活水準を楽しみ、…余暇を、科学や芸術やスポーツなどの創造的な仕事に没頭し、知的な会話と人生のゲームを楽しみながら過ごしているような、そういう未来世界を構想したい」
「高い知識を持った知能水準の高い層と、平均以下の知能水準の低い層との階層分化が生じてくることは避けられないだろう」
「高度知識社会のメリトクラシー(注:能力優先主義)の下で、エリート層は真のリーダーシップを確立しなければならない。それは俗流化した民主主義や平等主義によって活力を失った社会ではなしに、永遠に活力を失わない、ダイナミックな社会の秩序を維持していくために必要不可欠なことである」
「能力のある人間にはそれにふさわしい冒険と挑戦の機会を与え、能力の劣る人間にはそれにふさわしい生きがいの対象を与え、能力のない人間にも―そういう人間には教育と優生学によって減らしていかなければならないが―適度な人間的思いやりを与えうるような社会を構想しなければならない。非凡人には非凡人にふさわしい、平凡人には平凡人にふさわしい満足の機会を与えるような条件を発明しなければならない」
「人間の質とその改良の問題は、…教育の問題とともに、優生学の問題に決定的にかかわっている」
「現代の産業文明ではIQ110以下の人間は役に立たなくなりつつある。…人口学者たちが深い不安をもって指摘していることは、人口の増加率がIQの低い層において特に顕著であり、IQの高い層において人口増加率が低いため、人類は遺伝的素質低下の危機にさらされているという事実である。」
「この遺伝的素質低下の問題を解決し、さらに人間の質を高めるための最も賢明な社会的技術を開発しなければならない。…ある優れた遺伝的素質を持つ者に飲み3人以上の子どもを持つことを認め、かつ―助成金その他の方法で―奨励し、それ以外は2人以下に制限するといった方法も考えられる」
(引用の引用元は、香山健一『未来学入門』潮新書、参考までに潮出版は創価学会系の出版社である)
2016年2月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
予定通り届きました。
包装はよかったです。
とても勉強になっています。
包装はよかったです。
とても勉強になっています。
2006年2月2日に日本でレビュー済み
最近(現在、2006年2月)「社会格差」がマスコミで頻繁にとりあげられているけれど、この本は1997年、つまり10年近くも前の段階で経済の自由化は私学化を促し、知能水準の階層分化を生じさせ、結局、社会の階層化を引き起こすということを指摘している。
研究者でもなんでもない私が、何気なく手に取った本に書いてあっただけなので、もしかしたらさらに前から指摘していた人がいるのかもしれない。というより、別に格差とはずっと昔から社会には存在してるのだし、言葉が一人歩きしてマスコミのいい商業ツールになってしまってることに気付いた。
ライブドアに端を発した一連の事件で社会の格差とはものすごく恐ろしいもののように、そしてそれはあたかも今日昨日、突然ふってわいたかのように語られている。私たちは、なんと情報に踊らされていることだろう。
岩波書店が上質な本を出しているということを改めて感じた。
研究者でもなんでもない私が、何気なく手に取った本に書いてあっただけなので、もしかしたらさらに前から指摘していた人がいるのかもしれない。というより、別に格差とはずっと昔から社会には存在してるのだし、言葉が一人歩きしてマスコミのいい商業ツールになってしまってることに気付いた。
ライブドアに端を発した一連の事件で社会の格差とはものすごく恐ろしいもののように、そしてそれはあたかも今日昨日、突然ふってわいたかのように語られている。私たちは、なんと情報に踊らされていることだろう。
岩波書店が上質な本を出しているということを改めて感じた。