一般的に融資や投資は、利益活動として行われるため融資・投資先事業の採算性や利益性が最も重視される。それ以外の公共性がきわめて高い事業に関しては、国や地方自治体により公共事業として行われる。しかし、それ以外にも世の中にとって貢献する意義のある事業活動は行われているが、十分な資金がないために継続できない事業がある。
金融NPOとは、まさに利益重視ではなく社会への貢献を重視した金融(融資・投資)を目指す非営利の組織のことである。欧米では、かなり事業規模の大きなNPOバンクが存在するが、日本では1980年代の立ち上がりから現在にいたるまで、限定的かつ小規模なものに留まっている。
遠因として、日本ではNPO(NGOも)が政府の下請けになっている構図が多く、対等な関係ではなくあくまで監督官庁によるコントロールの対象になってしまっている。政府の諮問機関において、ようやく金融NPO(NPOバンク)を見据えた議論が出てきてはいるが、欧米に比べてまだまだ遅れていると言わざるを得ない。(日本では金融NPOは消費者金融と同等の扱い)
本書は、そのような日本国内と諸外国における金融NPOの歴史・背景と現状、今後の展望が述べられている。岩波新書らしく全体的な概観はできる。詳細はさらに他著の参照が必要だろう。
全体的にサーベイ的要素が強く、新規に金融NPOを立ち上げたい人たちや、職員やボランティアとしてJoinしたい人たちへの手引きではない。
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金融NPO: 新しいお金の流れをつくる (岩波新書 新赤版 1084) 新書 – 2007/7/20
藤井 良広
(著)
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- ISBN-104004310849
- ISBN-13978-4004310846
- 出版社岩波書店
- 発売日2007/7/20
- 言語日本語
- 本の長さ241ページ
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2007/7/20)
- 発売日 : 2007/7/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 241ページ
- ISBN-10 : 4004310849
- ISBN-13 : 978-4004310846
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著者について
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神戸市出身。上智大学大学院地球環境学研究科教授。環境金融論、CSR経営論などが専門。元日本経済新聞社経済部編集委員で、記者時代は警察・皇室から、日銀・財務省、外務省などの政策畑までの幅広い取材経験を持つ。その間、英ロンドン駐在記者、オックスフォード大学客員研究員、米コロンビア大学客員研究員などを歴任。欧米に人脈を持つ。日本で唯一の環境金融情報サイトFinance GreenWatchを主宰、世界中の情報分析だけでなく、日本からの情報発信にも努めている。CSRから地球環境問題、環境金融、金融政策、EUの動向まで幅広くカバーしている。一般社団法人「環境金融研究機構(RIEF)」の代表理事。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年1月6日に日本でレビュー済み
多くの金融NPOを紹介していますが、ただ聞いたことをそのまま書いただけで、客観的な裏付けを欠いた、いいかげんな取材です。そのため、おかしな話が平気で書いてあります。たとえば、イギリスの金融NPOのくだりで、ビジネスプランは重視しないと言っておきながら、では何を重視しているのかとえば、その内容は明らかにビジネスプランです。裏付け以前の問題です。この著者は、本当に金融や経営を知っているのでしょうか?たしかに、金融NPOが重要であることは認めますが、手放しで礼賛できるようなものではありませんし、この本に書いてあることと実態とはあまりにかい離しています。
2009年3月12日に日本でレビュー済み
NPOバンクの様々な事例に関しては個々のHPでも知ることができるので珍しくはない。
むしろこの書で重要なのは金融アセスメント法の可能性を記載した部分だ。地域再投資法(CRA)という名前の方がいいと思うが、アメリカで成功した事例を中小起業主体で法制化しようとして失敗したことが紹介されている(参考: 誰のための金融再生か―不良債権処理の非常識 (ちくま新書) )。ただし、これは何度でもチャレンジすべきものであり、失敗した過去のものと片付けられないと思う(国に頼ってはいられないというのがこの本の主旨だから、CRAの法制化に成功したら本書の主旨がズレてしまうのだろうが)。
自己資本比率とともに金融機関に地域への貢献を義務づける地域再投資法は、「改革」による貸し渋り貸し剥がしに対抗しようとするものであり、NPO金融だけではカバーできない部分をカバーするものとして貴重だ。
中小企業のネットワークだけに限らない、超党派による新たな取り組みが望まれる。
むしろこの書で重要なのは金融アセスメント法の可能性を記載した部分だ。地域再投資法(CRA)という名前の方がいいと思うが、アメリカで成功した事例を中小起業主体で法制化しようとして失敗したことが紹介されている(参考: 誰のための金融再生か―不良債権処理の非常識 (ちくま新書) )。ただし、これは何度でもチャレンジすべきものであり、失敗した過去のものと片付けられないと思う(国に頼ってはいられないというのがこの本の主旨だから、CRAの法制化に成功したら本書の主旨がズレてしまうのだろうが)。
自己資本比率とともに金融機関に地域への貢献を義務づける地域再投資法は、「改革」による貸し渋り貸し剥がしに対抗しようとするものであり、NPO金融だけではカバーできない部分をカバーするものとして貴重だ。
中小企業のネットワークだけに限らない、超党派による新たな取り組みが望まれる。
2007年10月21日に日本でレビュー済み
営利を目的としない、自分たちが必要と考える文化や産業のために、お金を集めて融通しようとする金融NPO。その日本での実態から国外の例まで。
NPOは特定の概念ではなく、経済の主流である営利の立場から見たときに、非営利の傍流的経済活動を一括して、経済の仕組みに連接するための枠組みだと理解した。集団自体が利益を求めないからと言って、その活動は必ずしも善意に基づいたものにならないし、他者から見て意味を成しているかどうかを保障するものでもない。
その意味のうえで、金融を目的としたNPOという観点からの説明を試みたのが本書。
NPOとは何なのか、本書を通じてわずかながら理解できたような気がする。
NPOは特定の概念ではなく、経済の主流である営利の立場から見たときに、非営利の傍流的経済活動を一括して、経済の仕組みに連接するための枠組みだと理解した。集団自体が利益を求めないからと言って、その活動は必ずしも善意に基づいたものにならないし、他者から見て意味を成しているかどうかを保障するものでもない。
その意味のうえで、金融を目的としたNPOという観点からの説明を試みたのが本書。
NPOとは何なのか、本書を通じてわずかながら理解できたような気がする。
2007年10月9日に日本でレビュー済み
金融NPOは、地域経済にみられる「互酬」性を金融取引の世界にも形成する試みである。金融NPOの一般的な姿は、当該NPOの出資者となった個人が、その何倍かの資金を当該NPOから低利で借り受ける権利を得るというものである。つまり、資金を借りたい者は、当該NPOのコミュニティに参加することで、その権利を得ることが出来るのである。一方、出資者に対しては、低利であってもその行き先が「目に見える」ことから、その資金提供ニーズに応えることができる。この様に、金融NPOが持続可能であるためには、「社会への配当」をもたらすような事業目的が何といっても重要であり、それによって出資者と借り手の間に強い信頼関係を構築することが可能となるのである。この様な仕組みは、営利の世界における民間金融会社の融資を補完し、多様な資金ニーズに応えることを可能にする。
金融NPOは、社会の多様な資金ニーズに応え、富の偏在による貧困の問題を緩和していく上でも貴重な仕組みである。本書を読んで意外であったのは、こうした活動を支える専門家がかなり多く、人的基盤が充実していることであった。金融NPOが飛躍する可能性、ポテンシャルは整っている。後は、国や地方公共団体の政策によるサポート等により、それを育成する文化を社会に根付かせることが重要なのではないか。こうした取り組みは、これまでの政策メニューには無かった新たな社会政策の可能性を開くことに繋がるのかも知れない。
金融NPOは、社会の多様な資金ニーズに応え、富の偏在による貧困の問題を緩和していく上でも貴重な仕組みである。本書を読んで意外であったのは、こうした活動を支える専門家がかなり多く、人的基盤が充実していることであった。金融NPOが飛躍する可能性、ポテンシャルは整っている。後は、国や地方公共団体の政策によるサポート等により、それを育成する文化を社会に根付かせることが重要なのではないか。こうした取り組みは、これまでの政策メニューには無かった新たな社会政策の可能性を開くことに繋がるのかも知れない。
2008年1月26日に日本でレビュー済み
日本の多くの地域で、自分たちのお金を地域に活かすための試みがいくつも進行していることを知らされました。日本人も捨てたもんじゃないと、読んでいて元気にさせられました。世のなかを批判するだけでなく、自分たちでいいものを作り出そうという人々と実際に出会った気分にもなりました。書き手の生き生きとした描写が生きていますね。最近の新書では一押しです。