中世の戦国時代、歴史の表舞台で活躍するのは常に武士達である。
だが、その一方で、各地に広がる農村部では多くの農民達が独自の社会を形成し、日々の暮らしを営んでいたのだ。
そこで、改めて当時の民衆の姿を浮き彫りにしようと試みたのが本書であり、コンパクトな新書ながらも極めて画期的、且つ充実した一冊であった。
本書の主な内容は下記の通り。
第一章「村掟ー暴力の克服」
当時の掟を具体的に引用しながら、村で定められた制度について詳らかにし、中世から近世への「村の成長」を説いている。
例えば、追放者の財産の所有権、犯罪者の親族達の処遇、村を捨てた者の連帯責任など等。
本章は特に、田畑等の財産管理、家の継承という事に着目しており、裏を返せば、それだけ苦しい生活を捨てて逃亡する村人が多かった事を彷彿とさせられる。
第二章「惣堂ー自立する村」
「惣堂」とは、即ち、村人共有のお堂であり、謂わば「集会所」のようなものである。
壁や柱に残された落書きを考察したり、旅人の宿としての役割を説いたりしながら「みんなのお堂」としての存在を解説しているので、村人の連帯意識や協力意識を垣間見る事が出来、非常に感慨深かった。
第三章「地頭ー村の生活誌」
本章では主に、領主と村人との関係を詳述しており、年貢等について具体的に述べている。
「年貢」と言うと、私達はつい「領主が農民から搾り取るだけ搾り取る」苛酷な光景を思い浮かべてしまうが、ここでは領主も農民に饗応しなければならなかった事や、しっかりと報酬を取る民衆の姿も描かれており、頼もしさを覚えた次第である。
第四章「山野ー村の戦争」
戦を起こしたのは、何も武士だけではない。
農民達もまた、境界線を巡り、山野河海の所有を主張し、戦っていたのだ。
無論、ここにも取り決めがあって、和解を促す「折中法」や「武器や農具の差し押さえ」等、様々な苦心の後が見られる。
更には、制裁や謝罪についても具体的に扱っているので「争い」にも一つの「掟」を制定する組織力を実感した。
第五章「直訴ー平和への道」
訴状を持って命懸けで大名行列に飛び込んだり、目安箱を目指して走ったり…時代劇ではお馴染みの光景だが、実はこの「目安箱」という存在はかなり古くからあったらしい。
取り分け面白いのは、この「直訴」や「目安箱」というシステムは、単に「物分りの良い統治者が民の声に耳を傾ける為」といった穏やかものではなく、農民達の決死の覚悟が生み出した事に言及している点である。
「数は力なり」とでも言うのであろうか、上をも動かした民衆達の団結力には目を見張るものがあった。
…以上が主な概要であるが、本書は中世から近世への流れにも言及しているので「村の日本史」を知るにも最適であり、非常に勉強になる。
また、こうした掟や対策の多くには、頻繁に起こった大飢饉の影響が影を落としている事も知り、改めて、民衆も統治者も皆、生きるのに必死だった事を考えずにはいられない。
確かに、本書に登場するのは無名の農民達かもしれないが、彼等は武士達と共に戦国時代を支えた主役でもあり、決して日本史を彩るただのエキストラではなかったのだ。
実の所、簡易な新書なので最初は余り期待していなかったのだが、読み終えた今、かけがえのない知識と充足感とを得たように思う。
教科書では語られない日本史の側面を知る事が出来る名著である。
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