最初に出版されたとき(1974年)から相当の時間が経っており、色褪せて見えるところもある。
それは歴史学方法論としてのマルクス主義である。現代の日本史学の状況には通じていないが、
さすがに本書のように露骨な階級闘争史観はほとんど姿を消しているだろう。
では本書はつまらないのか? いや、全くそんなことはない。いまでも色褪せないのである。
それは、丹念に史料を読み込むという歴史学の基本作業を忠実にこなしているからだと思う。
二つの例を挙げよう。
まず、短期間で消えてしまった雑誌や地方の小都市や被差別部落の運動の様子といった、
マイナーなテーマをも丁寧に紹介するところである。
これは従来の大正デモクラシー像を打破するという本書の意図にとって決定的に重要であったようだ。
民衆から遊離した一部の都市インテリの運動に過ぎないと捉える通説に対して、本書では徐々
に民衆にまで浸透して行く国民的運動としての大正デモクラシーが生き生きと呈示される。
ただし評者の読後感としては、民衆のなかでも、雑誌を読んだり投稿したり仲間と連帯して
社会運動を行なうことのできた層は相当限られるのではないか、という疑問も浮かんだ。
次に、石橋湛山らの『東洋経済新報』を「大正デモクラシーの最高の思想的達成の一つ」(316)
と位置づけていることである。
これは、自由主義から社会主義へという著者の単線的な歴史観と整合しているとは思えない。
学問的良心がアイディオロジーを無意識のうちに凌駕している、というと言い過ぎかもしれないが、
真摯な知的努力は時代を超えて訴えかける力を持ちうることを十二分に示している。
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大正デモクラシー (岩波現代文庫 学術 55) 文庫 – 2001/6/15
松尾 尊兊
(著)
内には立憲主義,外には帝国主義の2つの貌
- 本の長さ411ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2001/6/15
- ISBN-104006000553
- ISBN-13978-4006000554
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2001/6/15)
- 発売日 : 2001/6/15
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 411ページ
- ISBN-10 : 4006000553
- ISBN-13 : 978-4006000554
- Amazon 売れ筋ランキング: - 423,914位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2017年3月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年5月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
大正デモクラシーというと、私などはモダンな女性たち、大正浪漫といった時代の空気をイメージするが、本書は民衆運動の時代として捉えられている。研究内容は立派なもので否定しないし、光の当て方によってはそうなると思いますが、何か一面的に思えました。はしがきにあるように、長谷川如是閑はいみじくも「極めて少数の知識人の頭の中だけのデモクラシーが時代の空気をかき廻したにすぎない」「女性の小数が争って西洋おしろいを顔に塗ったようなもの」と言ったそうだが、そのようなものであったのだろうと思いました。
2018年8月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これまで知らなかった大正デモクラシーの全国的な広がりや幅広い担い手の事が詳しく書かれている。著者の丁寧な調査がうかがわれた。