「さいきん言葉が乱れている」とよく聞く言葉に日頃から違和感を抱いていた。言葉は常に変化するものだし、何をもって乱れというのか。「言葉が乱れてけしからん」と批判する年長世代は、明治大正時代の言葉を喋れと言うわけでもないし、実際誰も喋れない。さらに現在乱れを批判する年長世代は、そのさらに上の世代からすると「乱れている」と批判される立場にあるのではないか。つまり、現在言葉の乱れを批判されている若者世代は、後に年長になると年少世代の言葉を「乱れている」と批判するようになるのではないか、そういった繰り返しではないのかと漠然と考えていた。
著者は、地球上のことばで微動だにしなかった言葉はない、言葉とは乱れの結果であり、乱れてしまった状態をその時代ごとに都合よく「うつくしい」というのであると主張する。また、文法を与えられ文字化される「エリート言語」と、文字化されず、軽視されがちな俗語を対比して論じ、エリート言語を重んじようとする風潮をつよく批判している。言葉は家族や土地から学び始めるのだし、日々発する生きた言葉に実感が伴っているのであると。また、言語の「うつくしさ」や「正しさ」は、言葉自体にあるのではなく、性別、出身地、社会階層、歴史といった外的権威に左右されているのであるという意見は、とても鋭い。そこに公平な判断はまず不可能という。
言葉からみた国家と民族については、カウツキー、レーニン、スターリンが主張してきたマルクス主義における民族や言葉の定義とその変遷を中心に取り上げている。そこでは、民族と言葉の定義を変更せざるを得なくなった苦心や矛盾を浮き彫りにしており、非常に興味深い。
言葉は、制度でもあり個人的でもあり、「非常に矛盾をはらんだ活動」と著者が言う通り、また流動的でもあるがゆえに容易に全体を掴むことはできないが、本書は、方言の様に毎日の何気ない一言からでも、言葉を考える鍵を与えてくれる。言葉に日々疑問を持ち続けている人には是非お勧めです。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
言語からみた民族と国家 (岩波現代文庫 学術 63) 文庫 – 2001/9/14
田中 克彦
(著)
- 本の長さ343ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2001/9/14
- ISBN-104006000634
- ISBN-13978-4006000639
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2001/9/14)
- 発売日 : 2001/9/14
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 343ページ
- ISBN-10 : 4006000634
- ISBN-13 : 978-4006000639
- Amazon 売れ筋ランキング: - 716,926位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 985位岩波現代文庫
- - 27,570位社会学 (本)
- - 29,896位評論・文学研究 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3.7つ
5つのうち3.7つ
5グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2007年12月26日に日本でレビュー済み
2023年7月20日に日本でレビュー済み
ダンテにおける高貴な俗語
エリートの国語
柳田国男と言語学
カール・カウツキーと国家語
ソ連邦における民族理論の展開
国家語イデオロギーと言語の規範
ソビエト・エトノス科学の挑戦と挫折
固有名詞の復権
エリートの国語
柳田国男と言語学
カール・カウツキーと国家語
ソ連邦における民族理論の展開
国家語イデオロギーと言語の規範
ソビエト・エトノス科学の挑戦と挫折
固有名詞の復権
2004年4月4日に日本でレビュー済み
言葉にたいして、拒否的な態度になったときに読むとよいだろう。
目から鱗の思考がもりだくさんである。これみよがしな言論はなく、実践に基づいたことがらを間接的な表現をつかい、語るように主張がなされる。「ことば」ってそんな風に気軽に考えていいと同時に、やっぱり真剣に意識していかなくてはいけないんだと自省を促してくれる。
例えば、ある雑誌の表紙にでかでかと派手な装飾でもって主張している標語に対してのものほしげ態度として文字に囚われた目にすきまを与えることや、また最近注目の言葉の身体性についての話や、敬語の不必要主義者に対するやさしい説得、そして法律の成立根拠と国家の成熟度にことばを置く視点、そう、結局は言葉というのは、
『言語変化の原因は人々の意識の変化にあり、意識は、世の変わり目の自覚にある。』
ということである。
またすぐにでも人に教えたくなる言葉の極意が盛りだくさんである。
例えば、
『言葉ひとつとってその人の人格を攻撃するのは教養がなく不寛容であるといえる。ことばにはすなおに耳をかたむける姿勢が必要である。― そう、愚痴は一度きくが、2度目は、建設的に話をしてあげる。これこそ良き聞き手の極意である』
ぜひとも言葉を磨きたい人は、まずはこの本を読んでスタート地点に立ち戻っては如何だろうか
目から鱗の思考がもりだくさんである。これみよがしな言論はなく、実践に基づいたことがらを間接的な表現をつかい、語るように主張がなされる。「ことば」ってそんな風に気軽に考えていいと同時に、やっぱり真剣に意識していかなくてはいけないんだと自省を促してくれる。
例えば、ある雑誌の表紙にでかでかと派手な装飾でもって主張している標語に対してのものほしげ態度として文字に囚われた目にすきまを与えることや、また最近注目の言葉の身体性についての話や、敬語の不必要主義者に対するやさしい説得、そして法律の成立根拠と国家の成熟度にことばを置く視点、そう、結局は言葉というのは、
『言語変化の原因は人々の意識の変化にあり、意識は、世の変わり目の自覚にある。』
ということである。
またすぐにでも人に教えたくなる言葉の極意が盛りだくさんである。
例えば、
『言葉ひとつとってその人の人格を攻撃するのは教養がなく不寛容であるといえる。ことばにはすなおに耳をかたむける姿勢が必要である。― そう、愚痴は一度きくが、2度目は、建設的に話をしてあげる。これこそ良き聞き手の極意である』
ぜひとも言葉を磨きたい人は、まずはこの本を読んでスタート地点に立ち戻っては如何だろうか