花火大会の帰り、一人で夜道を帰宅中の高校生の娘が
未成年の少年3人組(いずれも高校中退してつるんでいる仲間)に
拉致されレイプ被害に遭った上、殺害され死体を遺棄され…
主人公はこの娘の父親で、被害者の親となり
娘を失った苦しみと怒りと絶望に苛まれていきます。
そして、遂に復讐へと行動に移っていきます。
あまりにも生々しい設定と、生々しい描写。
特に、性犯罪を受ける描写シーンの残酷さは容赦なく、
ある程度の覚悟をもって読まないと酷いショックを受けると思います。
ただ、実際の犯罪の場面は、こんな生易しいものではないでしょう。
被害者の人相が解らないほどに殴られたり蹴られたり
引きずり回されたり、多人数による暴行や罵倒…もっともっと悲惨です。
発見された遺体は、暴行の凄惨さを物語っています。
身体の一部が欠損していることも少なくありません。
もちろん、詳細が報道されることはありません。
精神衛生上の配慮をされ、上辺のみが報道されるのみです。
現実は、もっと恐ろしいのです。
ですから、「この描写は酷すぎる」というご意見もありますが、
むしろ、東野氏は抑えて書いたと思われます。
このような題材を扱う以上、事前の取材や資料は膨大だったと思いますが
そこから読者への配慮をし、ある程度フィルターをかけて限界まで抑え、
その上での描写だと察します。
非常に怖いことですが、これが現実で起きている事件であり
決して目をそらしてはいけない現実です。
これほど残忍な犯罪をおかしても、少年法で加害者が守られることを
筆者は切に訴えたかったのでしょう。
現実よりもソフトな、ドラマに出てくるような強姦シーンを書いただけでは、
いまひとつ加害者たちの残忍性や異常性は伝わりにくく、
読者に「更生の機会があるのでは」と、誤解を与える恐れがあります。
それを避けたかったのだと思います。
現実は、更生の余地がないほど人間性を欠いた犯罪が多いのです。
未成年であっても、もう救いがないほどに。
ただ、もう少し掘り下げて描いて欲しかったのが
犯罪に遭う前の親子関係や、娘さんの様子ですね。
もっと幼い頃から娘を大切に育ててきた場面、
妻の死後、男手ひとつで必死に娘を見守り育ててきた場面、
そういう部分が少ないので、被害者の性格も嗜好も解らないし、
娘さんが、単なる性犯罪の被害者としてしかイメージが湧かないのは
とても惜しいところ。
もっと、生前の娘さんの人物像や、
愛情あふれる親子関係が解るエピソードを丁寧に設けてあれば、
読者は、より身近で親しい人を失った悲しみを強く感じられ
もっと深く悲しみに共感できたのではないかと思います。
同時に、加害者の幼少期にも触れて欲しかったです。
ここまで残忍な犯行をおかすには、原因と前触れがあります。
劣悪な家庭環境、親の育児放棄と良識の逸脱など。
おそらく、中学時代にも散々悪いことをしてきたし
人を傷めつけることなど何とも思わないエピソードがあるはず。
色々な要因が重なって人格が歪む過程を描ききってあれば、
事件後の加害者の親たちの態度にも、より説得力があり、
読者が腑に落ちやすかったでしょう。
そのあたりが残念でしたが、テンポもよく最後まで一気に読めました。
途中で、何度も涙しました。
ただただ虚しく悲しい。
復讐をしてもしなくても、犯罪に巻き込まれた時点で
もうどうにもならない地獄に落とされるのが現実で、
遺族は、その苦しみから解放されることはありません。
その持っていき場のない葛藤や怒りが最後まで続きます。
だからこそ、正解はいつまで経っても見つからない。
やりきれない思いでいっぱいになります。
この絶望感こそ、子供を犯罪で失うことの現実であり
生き地獄にひとしい、筆舌に尽くしがたい苦しみなのです。
この小説に登場する、もう一人の被害者の父親…
この人が、最も現実の被害者遺族に近いのではないでしょうか。
主人公は、いささか理想化された被害者遺族の姿ですし
実際は復讐の機会など与えられないのが殆どだからです。
この父親の苦しみや怒りこそ、私には最もリアリティがありました。
被害者遺族、刑事、マスコミ、加害者、加害者家族…
色々な観点から描かれているので、より深く考えさせられる内容です。
映画の内容とはかなりかけ離れており、原作のほうが深く凄い。
また、心理的描写が見事なので映画しか知らない方は
原作を一度読まれることをお勧めします。
きつい描写も多いですが、これが現在の日本の現実。
実際に、いくらでもこういうことが起こりうるのが現実です。
事実、起きています。
危機管理意識が薄かったり、「私は大丈夫」「うちの子に限ってまさか」
と、どこか他人事に構えていたりする人にこそ
ぜひ読んでいただきたいと思うのです。
少年法のおかしさ、加害者ばかりが守られる裁きについても
折につけ、この本で何度も触れられています。
大変遺憾なことであり、怒りさえ湧きます。
けれども、すぐに少年法が改定されることはないでしょうし
そうこうしている間も犯罪は後を絶ちません。
夜道をひとりで歩かない、世の中にはおかしい人間がたくさんいる。
そういう危機管理意識や自覚をもって自衛をする大切さも、
同時に痛感した一冊です。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
さまよう刃 単行本 – 2004/12/1
東野 圭吾
(著)
蹂躙され殺された娘の復讐のため、父は犯人の一人を殺害し逃亡する。「遺族による復讐殺人」としてマスコミも大きく取り上げる。遺族に裁く権利はあるのか? 社会、マスコミそして警察まで巻き込んだ人々の心を揺さぶる復讐行の結末は!?
- 本の長さ361ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日2004/12/1
- ISBN-104022579684
- ISBN-13978-4022579683
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者からのコメント
他人事ではない
明日にでも、この物語の『誰か』に
なるかもしれない
その時あなたの『刃』は
どこに向けられるだろう?
東野圭吾
明日にでも、この物語の『誰か』に
なるかもしれない
その時あなたの『刃』は
どこに向けられるだろう?
東野圭吾
著者について
1958年大阪市生まれ。85年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞受賞。99年に『秘密』で第52回日本推理作家協会賞を受賞。主な作品に『白夜行』『片想い』『トキオ』『レイクサイド』『ゲームの名は誘拐』『手紙』『殺人の門』『幻夜』などがある。
登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (2004/12/1)
- 発売日 : 2004/12/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 361ページ
- ISBN-10 : 4022579684
- ISBN-13 : 978-4022579683
- Amazon 売れ筋ランキング: - 235,724位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 67,584位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学工学部卒業。エンジニアとして勤務しながら、85年『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。99年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 使命と魂のリミット (ISBN-13: 978-4043718078 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
星5つ中4.1つ
5つのうち4.1つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
500グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
イメージ付きのレビュー
1 星
中古本ですか?
表紙が途中のページに挟んであるし、読んでたかのような爪痕があるし、全体的に読み古しのようなものが届きました。新品って書いてあるやつ買ったのに残念すぎる。詐欺ですか?
フィードバックをお寄せいただきありがとうございます
申し訳ありませんが、エラーが発生しました
申し訳ありませんが、レビューを読み込めませんでした
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2024年6月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ずっと以前に寺尾聰主演の映画を見て購入
映画でも小説でも気持ち悪いシーンがある
主人公がさまよう様子がなかなかスリリング
面白くて2~3日で読んでしまった
ラストは、映画と小説で違ってた
映画でも小説でも気持ち悪いシーンがある
主人公がさまよう様子がなかなかスリリング
面白くて2~3日で読んでしまった
ラストは、映画と小説で違ってた
2021年2月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
初めて読んだとき、つらくてもう二度と読むものかと思った。友人が読みたいというので本をあげてしまった。その後、映画化になった。映画も見てしまった。でも、原作のほうがずっといいと思った。また文庫を買って読んでしまった。この原作が住んでいる地域なので、臨場感を増す。ただ、銃は飾ったりしては、法律違反です。サイドボードや、暖炉の上に飾ってよかったのは60年くらい前の話です。年に何回か銃弾を消費していないと、銃弾は買えなくなりますし、返還をもとめられる。それだけは調査不足。
今回好きな俳優さんでまた映像化されるので、新しい文庫を買い直してまた読んでしまった。読み終わった後も、あれで長峰さんは幸せだろうか?と、本当にあったことのように数日考えてしまいます。それは毎回同じ。
だから名作のひとつなのだろうけれど。ひかり市の殺人も含めて、少年法はどこまで正しいのかを考えてしまいます。もし私が被害者だったらと思います。一度父に尋ねたら、法廷で犯人を殺してやると言っていました。
感情移入しすぎる女性は、読むのは要注意です。読んでほしいけれど・・・
今回好きな俳優さんでまた映像化されるので、新しい文庫を買い直してまた読んでしまった。読み終わった後も、あれで長峰さんは幸せだろうか?と、本当にあったことのように数日考えてしまいます。それは毎回同じ。
だから名作のひとつなのだろうけれど。ひかり市の殺人も含めて、少年法はどこまで正しいのかを考えてしまいます。もし私が被害者だったらと思います。一度父に尋ねたら、法廷で犯人を殺してやると言っていました。
感情移入しすぎる女性は、読むのは要注意です。読んでほしいけれど・・・
2023年12月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
感情移入している主人公だから、なんとかうまく終わらせてほしかった。
2021年6月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読み終わってから、テレビも観たいと思いました。途中で止められなくて、先が気になって。
2021年5月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
東野圭吾さんの小説は面白いです。
2024年4月24日に日本でレビュー済み
少年法と、加害者親子、被害者親子の心情、行動を描く物語。一気に読める。ラストでスッキリさせないのも著者らしい。
2018年3月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
しばらくぶりに東野圭吾の作品を読みました。
やはり王道ですね。
当然ですが、一気に読めます。
内容が、復讐殺人ですから、ラストはやはりという結果になります。
でも、その内容は深いです。
自分だったらと思うと、考えさせられます。もちろん、殺人はいけないという当然の道理はわかります。
誰だって、復讐殺人をOKしてしまったら治安は保たれない、法治国家ですから。
ただ、これが他人事だったらそういいきれるかもしれませんが、それは、表面的なものであって、わが身に同じことが起これば、主人公と同じように考えてしまうと思います。
法律は人間が作り出したものですから、完全ではありません。
でも、どうにもやりきれない。
被害者が加害者になり、もともとの加害者が本当に社会に出たときに更生を望む遺族がいるだろうか?
重たい問題です。
そして、東野圭吾らしい、ラストがあり、驚きます。
やはり王道ですね。
当然ですが、一気に読めます。
内容が、復讐殺人ですから、ラストはやはりという結果になります。
でも、その内容は深いです。
自分だったらと思うと、考えさせられます。もちろん、殺人はいけないという当然の道理はわかります。
誰だって、復讐殺人をOKしてしまったら治安は保たれない、法治国家ですから。
ただ、これが他人事だったらそういいきれるかもしれませんが、それは、表面的なものであって、わが身に同じことが起これば、主人公と同じように考えてしまうと思います。
法律は人間が作り出したものですから、完全ではありません。
でも、どうにもやりきれない。
被害者が加害者になり、もともとの加害者が本当に社会に出たときに更生を望む遺族がいるだろうか?
重たい問題です。
そして、東野圭吾らしい、ラストがあり、驚きます。