「四島返還」が当然の前提だと考えていたものにとっては、目から鱗の内容であり、個人的には北方領土問題を改めて見つめ直すきっかけとなった。
本書を通じて強く感じたことは、北方領土問題は日ソ(日ロ)の二国間だけの問題ではなく、米国を加えた三国間の問題であるということだ。北方領土問題には、常に米国の影が付きまとっている。
例えば、第二次大戦末期、米国のルーズベルトがソ連の対日参戦を促すために、その見返りとして「クリル諸島」を引き渡すことを決め、それはドイツとの戦争で疲弊した国民・兵士に対日参戦を説得するため領土獲得という代償を必要としたスターリンの思惑と一致した。すなわち、今日の北方領土問題の発端を作ったのは米国であった。
また、戦後、鳩山一郎政権時にフルシチョフとの間で歯舞、色丹の二島返還で交渉が打開しかけたが、冷戦の状況下で米ソが対立する中、領土問題が解決することで日ソが接近することを警戒する米国の圧力(いわゆるダレス恫喝)により二島返還を軸とする日ソ交渉は頓挫した。
戦後からダレス恫喝までの日本政府の立場は、①択捉、国後に関してはサンフランシスコ条約で放棄した、②それゆえソ連に対して要求できる領土は歯舞、色丹に限定されるというものだった。だが、ダレス恫喝以降、日本政府は四島返還論に立場を変えることになる(米国は日本がソ連に対して四島返還を要求しなければ、沖縄の返還もありえないと圧力をかけたとされる)。四島返還は当然ながらソ連の受け入れるところとはならなかった(他方、ソ連側にもサンフランシスコ条約に未調印という瑕疵はある)。その結果、北方領土問題は解決されることなく、今日までもちこされることとなった。
現在の安倍政権は、ダレス恫喝前の日本の立場(二島返還論)に立ち返っているように思われる。そのこと自体、非常に画期的な外交方針の転換と言えるが、新冷戦の始まりと言われるような米ロが激しく対立する状況下において米国が日ロ接近を快く思うはずはない。ロシア側も当然それを意識しており、日米安保条約の存在が日露交渉の障害になっているとして日米の分断をあおっている。言ってみれば、三方にらみ合いの状況が続いており、今後事態がどのように展開していくか極めて不透明であるといった印象を個人的にはもっている。
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北方領土問題: 歴史と未来 (朝日選書 621) 単行本 – 1999/3/1
和田 春樹
(著)
- 本の長さ396ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日1999/3/1
- ISBN-104022597216
- ISBN-13978-4022597212
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
西暦2000年までに、日露平和条約を調印しようと誓ったクラスノヤルスク合意から、日本とロシアの関係は新たな時代に入った。1792年からの日露間の交渉史をまとめ、隣人としてのロシアを見つめ直す。
登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (1999/3/1)
- 発売日 : 1999/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 396ページ
- ISBN-10 : 4022597216
- ISBN-13 : 978-4022597212
- Amazon 売れ筋ランキング: - 789,038位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 131位ロシア・ソビエトの政治
- - 3,082位国際政治情勢
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2019年6月22日に日本でレビュー済み
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2009年5月21日に日本でレビュー済み
ソビエト連邦の研究者である和田先生の書物です。勿論長年金日成思想や
スターリン思想に携わった専門家でもあります。
本書では精緻にソビエト政府の文献を読み解き、日本政府の主張が間違っている
ことを主張しています。
現在ロシアの実質的支配者であるプーチン氏も近年領土返還へ傾いていますし
ソビエト連邦の今後を考える上でおすすめです。
スターリン思想に携わった専門家でもあります。
本書では精緻にソビエト政府の文献を読み解き、日本政府の主張が間違っている
ことを主張しています。
現在ロシアの実質的支配者であるプーチン氏も近年領土返還へ傾いていますし
ソビエト連邦の今後を考える上でおすすめです。
2007年2月16日に日本でレビュー済み
北方領土研究をやる時に厄介なのは、その研究者たちのあからさまなイデオロギー性です。
その特性が親ソ親日、保守急進などと分類されているほどです(長谷川より)。
したがって、一般読者、あるいは初学者が代表的な北方領土関連の本を読むと、基本的に
木村汎→四島一括返還を主張。諸条約は日本に有利なように解釈
和田春樹→二島+α、日本の譲歩を基本的に主張。諸条約はソ連寄りに解釈
岩下→政治的にせよ問題の解決を第一の主眼に。
という内容です。そして彼らの主張はいかに状況が変わろうとも、
ほとんど「変わることがない」わけです。
ですから、これら研究には、間違いなく政治的意図があると言えます。
そもそも北方領土問題はそれ自体が政治性を内包する問題です。
だからこそ、研究しようとする人も少ないのだと思います。真摯な研究がしにくいから。
大体この問題を考える際、みなさんは上記三人から一人を選んで、
自分の意見として取り込んでいるのではないでしょうか?
最後になりますが、本書について。この本は、旧ソ連よりではありますが、日本政府の主張に少々辟易気味で、
別の角度から北方領土を考えてみたい方におススメの本です。岩下をいきなり読む前にね。
北朝鮮問題のこともありますから、和田が信用できない方も多くあると思います。
それはよく分かります。私も彼を全面的には信用できません。
が、彼はロシア歴史家の権威であり、定評のある北方領土の研究者ではあります。
若干ソ連・ロシア寄りとのイデオロギー性を差し引いて読んで戴ければ、有効活用できると思いますよ。
「反・四島一括返還論」の先駆となる和田の本を読まずして、先に進めません。
その特性が親ソ親日、保守急進などと分類されているほどです(長谷川より)。
したがって、一般読者、あるいは初学者が代表的な北方領土関連の本を読むと、基本的に
木村汎→四島一括返還を主張。諸条約は日本に有利なように解釈
和田春樹→二島+α、日本の譲歩を基本的に主張。諸条約はソ連寄りに解釈
岩下→政治的にせよ問題の解決を第一の主眼に。
という内容です。そして彼らの主張はいかに状況が変わろうとも、
ほとんど「変わることがない」わけです。
ですから、これら研究には、間違いなく政治的意図があると言えます。
そもそも北方領土問題はそれ自体が政治性を内包する問題です。
だからこそ、研究しようとする人も少ないのだと思います。真摯な研究がしにくいから。
大体この問題を考える際、みなさんは上記三人から一人を選んで、
自分の意見として取り込んでいるのではないでしょうか?
最後になりますが、本書について。この本は、旧ソ連よりではありますが、日本政府の主張に少々辟易気味で、
別の角度から北方領土を考えてみたい方におススメの本です。岩下をいきなり読む前にね。
北朝鮮問題のこともありますから、和田が信用できない方も多くあると思います。
それはよく分かります。私も彼を全面的には信用できません。
が、彼はロシア歴史家の権威であり、定評のある北方領土の研究者ではあります。
若干ソ連・ロシア寄りとのイデオロギー性を差し引いて読んで戴ければ、有効活用できると思いますよ。
「反・四島一括返還論」の先駆となる和田の本を読まずして、先に進めません。
2004年4月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本政府の北方領土の論拠は、1980年代中ごろまで「南千島は千島ではない」が前面に出ていました。これは、下田条約・千島樺太交換条約の日本語条文で、クリル群島がウルップ以北と読めるためです。
本書の著者である和田春樹氏は、政府の論拠は、日本語の誤訳に基づく誤解であり、条約の他の言語を読む限り日本政府の論拠は成立しないことを明らかにしました。和田論文以降、政府の北方領土の論拠は「固有の領土」論が前面に出るようになっているようです。
本書は、北方領土の歴史から説き起こし、外交文書の検討等、詳細緻密な考察により、北方領土問題を冷静に考察しています。また、その上に立って、日露関係を見直しています。
北方領土問題を、感情に流されることなく、まじめにまともに考えようとする人には恰好の参考書です。
本書の著者である和田春樹氏は、政府の論拠は、日本語の誤訳に基づく誤解であり、条約の他の言語を読む限り日本政府の論拠は成立しないことを明らかにしました。和田論文以降、政府の北方領土の論拠は「固有の領土」論が前面に出るようになっているようです。
本書は、北方領土の歴史から説き起こし、外交文書の検討等、詳細緻密な考察により、北方領土問題を冷静に考察しています。また、その上に立って、日露関係を見直しています。
北方領土問題を、感情に流されることなく、まじめにまともに考えようとする人には恰好の参考書です。