雑誌「AERA」に2007〜2009年に連載された高村氏の時事評論を纏めたもの。小説においても、著者の政治批判姿勢や世相を分析する鋭い観察眼が読み取れるが、それが直裁的に綴られており、高村氏の思弁が率直に伝わって来る。時代毎の事象の俯瞰以上の考察。
本書の特長は、著者が高邁な思想を持ちながら、"普通の庶民"目線で素朴な疑問を徹底追及している点だろう。著者の根本姿勢は、"まかり通っている常識"を疑って、冷静な分析によって本質を衝く所にある。政治批判の他では、例えば毒入り餃子事件。我々は輸出元の管理体制を怪しむが、著者はむしろ、食糧自給率が低いと騒ぎながら「輸入してまで安い食材を入手し、豊かな食生活を満喫する」日本人の食文化のあり方を怪しむ。「敬老」の概念についても、常識に反して、「胡散臭い」と言い放ち、現代の人生観の歪みを論じる。「捕鯨問題」も心情を捨て、怜悧な論を展開する。特に、「人のこころを惑わせる桜」の論考は、社会的"決め事"の記号性と画一性の欺瞞を語って秀逸。「死は自分のものではない」を読むと、著者が"言葉の力"を信じている事が分かる。国家・個人間の問題を「欲望」と言う視点で切る鮮やかさも印象的。そして、全体的に"言葉"を大切にする姿勢と共に「人間の理性を信じたい」との想いが伝わって来る。逆に忌避するものは「無関心と思考停止」。また、世相を観る先見性には鋭いものがあって、「言葉の軽さ」、「沖縄問題」、「党首側近逮捕」等は、まさに現在を予見した論考と言って良い。
「新リア王」や「太陽を曳く馬」の執筆の合間に本論評が書かれたと思うが、両者は繋がっている。両方共「物事の本質を突き詰めて、それを言語化する」姿勢が一貫している。また現代において、高村氏はそれが出来る稀有な作家である。その思索・信条のエッセンスをエッセイ風の体裁で堪能出来る貴重な作品。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
閑人生生 平成雑記帳2007~2009 (朝日文庫 た 51-2) 文庫 – 2010/3/5
高村 薫
(著)
マネーゲームの果てに人々から失われていくものは何か。少年犯罪の報道で言われる「ふつうの家庭」の「いい子」とはどういう子か――。現代日本で起こるさまざまな社会問題に、作家・髙村薫がリアルタイムで感じたことを書き綴った時事評論集。鋭い直観と深い洞察で、政府やメディアのあり方に感じる「違和感」を浮き彫りにする。「AERA」で連載中の「平成雑記帳」を文庫化。
- 本の長さ326ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日2010/3/5
- ISBN-10402261658X
- ISBN-13978-4022616586
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (2010/3/5)
- 発売日 : 2010/3/5
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 326ページ
- ISBN-10 : 402261658X
- ISBN-13 : 978-4022616586
- Amazon 売れ筋ランキング: - 714,423位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1953(昭和28)年、大阪市生れ。
1990(平成2)年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1993年『リヴィエラを撃て』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。同年『マークスの山』で直木賞を受賞する。1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞を受賞。2006年『新リア王』で親鸞賞を受賞。2010年『太陽を曳く馬』で読売文学賞を受賞する。他の著作に『神の火』『照柿』『晴子情歌』などがある。
カスタマーレビュー
星5つ中4.4つ
5つのうち4.4つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
7グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2010年6月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年1月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
氏の論考・コラムを読むと陰鬱になることを百も承知で購入、読了。やはり陰鬱な気分になったことは否めないが、毎日溢れる報道を耳にし目にするにつけ、「そんなもんだろう」と短絡的に意味づけし、理解したふりをする自分に危機感を抱くと氏の論考が読みたくなる。当該コラムでも氏のセンサーは健全であり、そのセンサーがアラームを鳴らした事柄についての考察は、凡々人々とした私の怠惰な脳をチクチクと刺す。印象的で且つ考えたこともなかった「五月病」や「花見」に関する考察など、陰鬱にはなりながら覚醒させられる。小説『太陽を曳く馬』では、理解しがたいものへの接近を、『冷血』では「そんなこともあるのだろう、そんなもんだろう」と表面だけ触っては後ろに流すような事象をどう捉えるかを言葉にしているが、翻ってこの世の中の実際は、目には映っているものの咀嚼することをしない不全状態(思考停止)が、毎日溢れる報道の数と同等、いやそれ以上に蔓延していることを考えさせられる。そしてそういう状態が「慣習化」してしまっていることに打ちのめされ、絶望しそうになる。かといって有効な手立てや力があるわけでもない私個人にとっては、せめて直観も考察も鈍磨してしまった自分自身を認識するための格好の道標にこの本はなる。
2010年4月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本は、2007年7月から2009年7月まで雑誌『AERA』に掲載されたコラムをまとめたものです。
2年分のコラムは、サブタイトルにある『雑記帳』らしく、社会生活から世界経済までさまざまな事柄について書かれていますが、時系列で掲載されているので、社会のおおまかな流れを感じながら読む事ができます。
社会に対する疑念と怒りが根底にあるのか総じて辛辣な意見が多いのですが、共感できる部分も多く、また自分と違う意見に触れる事で過去の出来事を違う視点から見ることができました。
ひとつのコラムは3ページ程度ですが、しっかりした文章と構成とで書かれていて、充実したコラム集だと思います。
2年分のコラムは、サブタイトルにある『雑記帳』らしく、社会生活から世界経済までさまざまな事柄について書かれていますが、時系列で掲載されているので、社会のおおまかな流れを感じながら読む事ができます。
社会に対する疑念と怒りが根底にあるのか総じて辛辣な意見が多いのですが、共感できる部分も多く、また自分と違う意見に触れる事で過去の出来事を違う視点から見ることができました。
ひとつのコラムは3ページ程度ですが、しっかりした文章と構成とで書かれていて、充実したコラム集だと思います。