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賢く生きるより 辛抱強いバカになれ (朝日文庫) 文庫 – 2017/3/7
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購入オプションとあわせ買い
京セラ、KDDIを創業、JALを再建し、
平成の“経営の神様"といわれる稲盛和夫氏、
iPS細胞を開発し、京都賞並びにノーベル賞を受賞した
山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長――。
2人には共通点があった。
理系出身、父親は工場経営者、挫折を繰り返した半生、愛妻家……。
仕事のやり方はマラソンか、全力疾走の100メートル走か?
部下の育て方、叱り方とは?
そして科学の進歩は人を幸せにするのか?
親子ほど年の違う2人が語り尽くした進化論。文庫版です。
【目次】
まえがき 山中伸弥
序章 京都賞受賞から4年後の再会
第1章 原点は父親の工場
第2章 挫折と回り道を繰り返した人生
第3章 ありったけを捧げる覚悟
第4章 高い頂を目指す力
第5章 真のリーダーとは
第6章 熾烈な国際競争を勝ち抜く情熱
終章 科学の進歩は人を幸せにするか?
あとがき 稲盛和夫
【著者について】
稲盛和夫(いなもりかずお)
1932年鹿児島県生まれ。鹿児島大学卒業後、松風工業を経て、59年に京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長に。84年に第二電電(現KDDI)を設立し、会長などを歴任。同年に私財を投じ、稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。また、経営塾「盛和塾」の塾長として経営者の育成に尽力している。2010年に経営破たんした日本航空(JAL)会長に就任。2年後に再上場を果たし、13年に名誉会長。
山中伸弥(やまなかしんや)
1962年大阪府生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科終了。米国グラッドストーン研究所博士研究員を経て、96年に大阪市立大学医学部助手、99年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授、2003年同教授。04年京都大学再生医科学研究所教授、10年4月から京都大学iPS細胞研究所所長。ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作りだすことに成功し、10年京都賞先端技術部門受賞、12年ノーベル医学・生理学賞を受賞。
平成の“経営の神様"といわれる稲盛和夫氏、
iPS細胞を開発し、京都賞並びにノーベル賞を受賞した
山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長――。
2人には共通点があった。
理系出身、父親は工場経営者、挫折を繰り返した半生、愛妻家……。
仕事のやり方はマラソンか、全力疾走の100メートル走か?
部下の育て方、叱り方とは?
そして科学の進歩は人を幸せにするのか?
親子ほど年の違う2人が語り尽くした進化論。文庫版です。
【目次】
まえがき 山中伸弥
序章 京都賞受賞から4年後の再会
第1章 原点は父親の工場
第2章 挫折と回り道を繰り返した人生
第3章 ありったけを捧げる覚悟
第4章 高い頂を目指す力
第5章 真のリーダーとは
第6章 熾烈な国際競争を勝ち抜く情熱
終章 科学の進歩は人を幸せにするか?
あとがき 稲盛和夫
【著者について】
稲盛和夫(いなもりかずお)
1932年鹿児島県生まれ。鹿児島大学卒業後、松風工業を経て、59年に京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長に。84年に第二電電(現KDDI)を設立し、会長などを歴任。同年に私財を投じ、稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。また、経営塾「盛和塾」の塾長として経営者の育成に尽力している。2010年に経営破たんした日本航空(JAL)会長に就任。2年後に再上場を果たし、13年に名誉会長。
山中伸弥(やまなかしんや)
1962年大阪府生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科終了。米国グラッドストーン研究所博士研究員を経て、96年に大阪市立大学医学部助手、99年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授、2003年同教授。04年京都大学再生医科学研究所教授、10年4月から京都大学iPS細胞研究所所長。ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作りだすことに成功し、10年京都賞先端技術部門受賞、12年ノーベル医学・生理学賞を受賞。
- 本の長さ264ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日2017/3/7
- 寸法14.8 x 10.5 x 1 cm
- ISBN-104022618965
- ISBN-13978-4022618962
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登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (2017/3/7)
- 発売日 : 2017/3/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 264ページ
- ISBN-10 : 4022618965
- ISBN-13 : 978-4022618962
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 147,192位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 278位ビジネス人物伝 (本)
- - 395位朝日文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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1932年、鹿児島生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、 84年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年2月より日本航空会長に就任。京都商工会議所名誉会頭。ス ウェーデン王立科学技術アカデミー海外特別会員。ワシントン・カーネギー協会名誉理事。全米工学アカデミー海外会員。1984年には稲盛財団を設立し理事 長に就任(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『地球文明の危機(倫理編) 新たな倫理をどう構築するか』(ISBN-10:4492223096)が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
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2023年5月9日に日本でレビュー済み
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梱包もしっかりしていて商品もとても綺麗な状態で届きました😊ありがとうございました🙇♀️
2021年7月5日に日本でレビュー済み
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ずっと心を語ってきた稲盛氏と科学技術のトップランナーの山中氏の面白い対談だった。
一貫したテーマは、科学技術の発展と人間の精神面のバランスが大事であるということ。
澄み切った心でやった仕事には必ず結果がついてくる。
だから、余計なことを考える暇がないほど働くのが良い。
期待することは不純な心。
小善は大悪に似たり。
損得ではなく、人間としての善悪で判断するべし。
一貫したテーマは、科学技術の発展と人間の精神面のバランスが大事であるということ。
澄み切った心でやった仕事には必ず結果がついてくる。
だから、余計なことを考える暇がないほど働くのが良い。
期待することは不純な心。
小善は大悪に似たり。
損得ではなく、人間としての善悪で判断するべし。
2023年3月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読みとばすことのできない深い対談集です。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
2021年11月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
題名の“賢く生きるより 辛抱強いバカになれ”は、稲盛氏が今まで率いてきた会社に必死にしがみ付いてきたスタッフたちを指しているのだということが読んでみて分かった。昭和も平成も終わり令和となった現在、稲盛氏の様な馬力あふれた上司に定年まで食らいついて行ける若者は果たしてどれほどいるのだろうか?と考えながら読んでみましたが、終始山中氏の穏やかで謙虚な姿勢が好印象の対談でもありました。
2020年8月15日に日本でレビュー済み
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迷走する人類に一つの方向性を示唆する内容になっています。我々は、科学技術の進歩によって「便利」を追求することで発展を遂げてきたように思えるが、果たしてこれが幸せなことなのか。人間本来のあるべき姿を考えさせられる。京セラフィロソフィーは一つの解ではあるが、正しいかどうかは個人の判断に委ねられる。本書は、稲盛氏が山中氏を迎える形で対談しているが、残念ながらその解は?というところで、稲盛氏が答えを出せず終わっている点で光明が見えてこない。また、読み終わると本書のタイトルとの相違に気づく。そういう点で、星4とさせていただきました。
2021年5月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ノーベル賞受賞者と日本を代表する経営者との豪華な対談。
ともに京都を拠点とする世界に発信をしているリーダー。
どうしても成功話に目が行きがちだが、そこに達するまでに数々の苦労が語られており、大変勇気づけられる一冊。
二人の仕事に対する向き合い方など一般的なサラリーマンにも通ずるヒントが披露されていた。
特に稲盛氏の言葉は印象的だった。
・感性的な悩みをしない(自分の影響外のことに悩まない)。自分のできることを精一杯やることが大事。結果だめでも後悔なく次に進めることができる。
・周りの人に感謝を伝える。
この2点は自分でもすぐ実行できることだと思う。
ともに京都を拠点とする世界に発信をしているリーダー。
どうしても成功話に目が行きがちだが、そこに達するまでに数々の苦労が語られており、大変勇気づけられる一冊。
二人の仕事に対する向き合い方など一般的なサラリーマンにも通ずるヒントが披露されていた。
特に稲盛氏の言葉は印象的だった。
・感性的な悩みをしない(自分の影響外のことに悩まない)。自分のできることを精一杯やることが大事。結果だめでも後悔なく次に進めることができる。
・周りの人に感謝を伝える。
この2点は自分でもすぐ実行できることだと思う。
2017年10月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
=エターナル・ドリーム=
・え~っ! 鉄郎さんが大けがを!
・・ええ 地球型の原始惑星でプテラノドンに似たトリさんにうっかり近づいたらくちばしで突かれてしまったの…
・大丈夫よ これから行く星にあるiPS 細胞で治せるわ 21世紀初めの地球でドクターヤマナカが作った夢の細胞よ
・・治療中は夢の世界にいたようで気持ちよかったなあメーテル
・良かったわね でも、決して良いことばかじゃないのよ…
・・そうかあ、確かに… 僕の細胞が、知らないうちに恐竜やライオンと混ぜられたらどうなっちゃうんだろう…? メーテルの細胞と混ぜられるんだったら良いけどね~!
・私は私だけのものよ、鉄郎
・悪夢の星もあるの それはiPS 細胞を正しく使わずに、たくさんの細胞が混じり合った、キメラだけの星… 色々な生命体が混じり合って元に戻れなくなった、悲しい星…
・・いや~、ホントに助かったよ でも、自分が知らないうちに他の生き物と混ぜられていたら いやだなあ…
・そうよ、鉄郎 生命を操作するということは、とても難しいことなの
・・いやあ、iPS 細胞に助けられたよ でもキメラの星には行きたくないなあ…
・・iPS 細胞は無限だけど、 ぼくは、限りある命を大切に生きたい!
・iPS細胞の未来… それは、たった1つの細胞が社会や生命を変えてしまう未来…
(松本零士『永遠の命の夢 iPS 細胞ビジュアル図解』のせりふから NHKスペシャル取材班編著『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命(2011年8月発行)』より)
島薗進著『いのちを“つくって”もいいですか? 生命科学のジレンマを考える哲学講義』(2016年1月発行)で大きな問題として挙げているテーマはたくさんあります。例えば。――
(1)“いのちの始まり”への操作
ES細胞やiPS細胞などの万能細胞を用いた再生医療には、実にさまざまな可能性が秘められています。その研究がますます進んで、人びとの苦悩を克服し、幸福な生活をもたらすために十分に役立つことが期待されます。 しかし、こうした状況を手放しで喜んでいてよいものでしょうか。
iPS細胞のもっとも革新的な点は、本来、必ず老いていく細胞を“初期化”し、からだのあらゆる部分に分化していける状態にまで戻した、というところにあります。これはある意味、細胞を“いのちの始まり”に近づけること、とも言えるのではないでしょうか。実際に、生命発生の仕組みを解明するための研究においても、iPS細胞の活用が大いに期待されています。一方で、“いのちの始まり”を人の手によってつくり出し、それを意のままに利用しようという試みには、どこか危ういものが感じられはしないでしょうか。
万能細胞の開発・研究の歴史を振り返ってみてわかるように、ES細胞やiPS細胞などの万能細胞を利用するためには、初期の胚の段階から身体のそれぞれの組織が形成される、いのちの始まりの段階を“操作する”過程が必然的に伴います。ここには「科学技術によって、いのちを人工的に形づくっていく」という側面があるのではないでしょうか。これは、胚を壊すことによってつくられるES細胞の是非をめぐって生じた「いのちの始まりを破壊する」という議論とは、まったく別の倫理の問題として問い直される必要があります。その先に、エンハンスメントの飛躍的な拡充という可能性が見えてくるからです。
(2)人の一部をもつ“何か”
一つ目の課題は、「人の細胞を動物のからだに混ぜる」という問題です。万能細胞によって実現できるかもしれないと期待されていることは数々ありますが、その意義がもっともわかりやすいものとして、「機能の十分でない臓器を、万能細胞からつくった臓器と取り換える」ということがあげられます。現在の医療では、肝臓や心臓などの機能が落ちて死を待つしかない状態になった場合、「臓器移植」、つまり他の人から臓器をもらうという方法しかありません。しかし、臓器の提供者は圧倒的に不足しているという状況があります。ところが、万能細胞の登場が思いもよらない解決案を提示したのです。
イノシシと豚を掛け合わせて生まれる「イノブタ」は、双方の遺伝子をもっています。これは自然な交配を通じて、異なる種の精子と卵子を合体させた「異種交配個体(ハイブリッド)」と呼ばれるものですが、万能細胞を用いると、自然交配を経ずに、ある生物種の胚に異なる種の生物の幹細胞を混ぜるということも可能になります。すると、一つの生き物のなかに異なる個体の要素が入ってくることになります。「キメラ(キマイラ)」という言葉をご存知でしょうか。これはギリシア神話に登場する想像上の怪物で、「頭はライオン、胴体は山羊、尻尾は毒蛇」という異形の存在です。ここから転じて、今述べたような「一つの個体のなかに異なる遺伝情報をもつ細胞が混じっているもの」を、生物学ではキメラと呼んでいます。
このキメラを応用して、たとえば心臓に障害のある人の細胞からiPS細胞をつくり、それを豚の胚に入れることで、豚の体内で人間の心臓を育てる、といったことが実際に目指されています。豚が例にあげられるのは、豚のゲノムが人間のものに比較的類似しているためです。そうしてできる心臓は、その人の遺伝子をもった健全な心臓であり、拒絶反応もなく移植できると考えられています。ただし、人の臓器をもった豚を生み出すには、豚のウイルスが人に感染しないなど、安全性だけでも多くの研究が必要で、実現できるとしてもまだまだ先のことになりそうです。
しかし、安全性の問題だけではありません。ここにはきわめて大きな倫理的問題があります。そもそも、「人間と豚のキメラをつくる」などということが許容できるのでしょうか。豚の胚に移植される幹細胞は、まぎれもなくその人自身(の一部)であり、また豚の体内で育つ心臓は、その一部は“人”であると言えるでしょう。そのような存在を自由に操作することは、果たして倫理的に容認できることなのでしょうか。
また、このようにしてさまざまにキメラを作製し、研究や医療への利用が進んで行くとすると、一体どこまでが人でどこまでが動物なのか、“種”の境界が揺らいでしまうのではないでしょうか。そうするとやがて、「人とは何か」という理解までもが怪しくなってくるかもしれません。
(3)人のいのちをつくり出す
万能細胞の研究には、キメラの問題ともう一つ、十分に問われなければならない倫理的課題が存在します。それは「生殖細胞をつくってよいのか」という問題です。
マウスによる実験では、すでにES細胞やiPS細胞から精子と卵子(生殖細胞)を誘導・分化すること、またそこから新しい個体を生み出すことにも成功しています。(ただし、現時点では「精子・卵子ともにES細胞あるいはiPS細胞由来」ではなく、どちらか一方は自然な生殖細胞で行った人工授精による)。そうしてできた精子や卵子を用いて、生殖細胞が関わる不妊症や先天性の疾患・症候群の原因の解明等を行うことが期待されています。
しかし、この技術の先には、それ以上の重大なことをも実現してしまう可能性が潜んでいます。マウスで成功しているということは、理論上は人間の生殖細胞をつくれる可能性もとても高いことになります。すると、そこからクローン胚をつくることも、またそうしてつくられた精子と卵子同士を受精させれば、赤ちゃんとして生まれる可能性も十分に考えられますね。これはつまり、万能細胞という人工的な細胞から“いのち”そのものを生み出すことができる、ということを意味しているのです。
(4)遺伝子から始まる“人間の品種改良”
「いのちをつくり変える」ことになる万能細胞の利用には、さらに別の危うい側面も伴っています。遺伝子レベルの検査を行い、受精卵、さらには精子や卵子の時点にまで「いのちの選別」が進んでいく可能性が重要です。さらに、万能細胞の研究・利用が拡大していくと、遺伝子レベルでの“選別”に加えて、やがては人間の“改造”にまでも進んでいくかもしれません。植物や家畜に対してはすでに「遺伝子組み替え」として行われてきましたが、今度はそれが人間に対してなされる可能性も視野に入ってきているのです。
(5)そこから何ができてしまうのか
2015年4月、中国の中山大学のチームが「ゲノム編集」という手法を用いて、ヒト受精卵の遺伝子改変を行ったというニュースが伝えられました。やはり「そこから何ができてしまうのか」、たいへん不気味なものが感じられないでしょうか。
再生医療によるエンハンスメントが急速に拡大しつつあり、人間改造の可能性もすぐそこまで来ています。このゲノム編集のような事例が、今後次々と既成事実化していくことも十分に考えられるでしょう。「人間のいのちをつくる、つくり変える」科学技術に向かって、少しずつドアが開いてきている、というのが現在の状況だと思います。
このような再生医療の利用や研究がこのまま進んでいくことについて、やはり何らかの規制やルールが、しかも国や地域を超えた枠組みが必要ではないか、という声はまだ大きなものにはなっていません。しかし、早い段階から国際的な討議を促していく必要があるのではないでしょうか。
NHKスペシャル取材班編著『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命(2011年8月出版)』第二部「iPS細胞と生命の神秘」第三章「曖昧になる生命の境界線」から――
国谷裕子「このiPS細胞はいろいろな可能性を秘めてますけれども、一方で予想できないような社会的な混乱をもたらすようなものかもしれません。iPS細胞というのは無限に増殖もできますし、たとえばドナーの方から体細胞をもらってiPS細胞を作ると、当初予定していなかったようないろいろな研究にどんどん使われていく可能性があって、プライバシーの問題も出てくるでしょう。あるいは倫理的にこういう研究に使って良いんだろうかというようなことも出てくるかもしれない。そういう生命倫理の課題とも向き合っていかざるをえないのではありませんか?
山中伸弥「確かに、今までになかったようなタイプの倫理的問題が生じています。皮膚細胞を取ってきてiPS細胞を作り、そこから精子とか卵子が理論的にはできるわけですから。
皮膚細胞から精子を作って卵子も作って、受精させて新しい生命を作るという研究もあり得るわけで、間違いなく倫理的問題もはらんでいます。」
立花隆「下手すると、本人の同意をちゃんと取らないでそういうことをやっちゃうというか。振られた女性の細胞をちょっととって、それから生殖細胞を作って、勝手に子どもを作っちゃうみたいなね。極端なことを言うと、そういう可能性だって技術的に可能な状況なんですよね。」
=髪の毛一本から精子が=
山中「アメリカの場合は体外受精という方法で、デザイナーベイビーといって、ノーベル賞学者や超一流のスポーツ選手の精子を売買しているところもあります。ただ、デザイナーベイビーなら精子をもらわないとできないんですが、iPS細胞だと、髪の毛一本からできることもあります。この間日本のグループが、採血した血液から作ることに成功しました。そうなってくると、血液なんて健康診断を受けても採血するわけですから、勝手にiPS細胞が作られるという可能性を今から考えておかないとダメです。」
国谷「よかれと思って研究をしていても、できてしまってから社会が大混乱して、こんな非倫理的なことは認められないというような大きな騒ぎが起こる可能性も考えられます。倫理的な問題をあらかじめ想定して、それをどうコントロールするか、どこまで規制をするのか。生命倫理アセスメントという言葉まで出てきますが、社会的な合意形成をしていく上での準備というのは必要だとお考えですか?」
国谷「iPS細胞をこれからどう使うのか、どう使わないのか。パンドラの箱が開いてしまったということでしょうか?」
=人と動物のキメラ=
山中「皮膚細胞から新しい生命が生まれるという可能性も出てきて、確かに大きな問題があります。たとえば、肝臓が専門の消化器科のドクターが私の研究室に大学院生としてやってきて、彼が何の研究をやるかという時に、じゃあ肝臓の細胞からiPS細胞を作ろうということになったんです。ネズミの肝臓から持ってきた細胞からiPS細胞ができて、それを移植して子どもを産ませたら、全身がその肝臓から作ったiPS細胞由来のネズミが生まれた。で、これを見た時にだんだん怖くなってきて。もともと肝臓とか胃の細胞だった細胞から、全身その細胞でできたマウスが目の前にいるわけです。ちょっと、こんなことして良いのかな、と。で、それを作っていた技術員の女性に、「あなた、人類が誰もやったことのないことをしているんだよ、肝臓の細胞から新しい生命を作り出したんだよ」って思わず言ったんです。」
国谷「それはマウスの形になっているわけですよね?」
山中「もちろん、普通のマウスですよ。やっている研究者が、なんというかちょっと気持ち悪い感じになりますね。すごいことだと。」
立花「心配することは山のようにあるんです。 たとえば生命倫理の専門家は、《iPS細胞の研究で、将来超えてはならない一線が人間と動物のキメラを作ることだ》と言っています。」
国谷「それはやめてほしいですね。」
=人間の臓器を作る=
山中「ヒトのiPS細胞を動物の受精卵に入れてキメラを作ることで、ものすごく有用な可能性があって、それは何かというと、臓器を作り出す可能性があるんですね。ブタの中に人間の肝臓を作り出す可能性があるんです。するとそのブタはちゃんと生まれてくる。そのブタから肝臓を取り出すと、人間の肝臓である可能性があるんです。」
国谷「取り出して移植するということですか。」
山中「理論的にはそうです。ただ血管とかはブタの血管の可能性がありますから、そんなには簡単じゃないんですけども。でもそうすると、今、臓器不足で大変な時代ですが、それを克服できる可能性がある。で、実際それを研究されている先生も日本にいます。ネズミのiPS細胞を使った研究を行っているんですけれども、しっかりできています。」
立花「そういう話をし出すとね、まあ、みなさん、凄まじいイメージが頭の中で膨らんじゃう。国谷さんがさっき僕をすごく非難するような眼で見たじゃないですか(笑)。それは例えばH・G・ウェルズの『モロー博士の島』のような、太平洋の離れ島に化け物のようなキメラでいっぱいの島を作ったという有名なSF小説(映画にも何度かなっている)がありますよね。普通の人はキメラというとああいうものを想像しちゃうんです。」
稲盛和夫、山中伸弥著『賢く生きるより 辛抱強いバカになれ(2014年10月出版)』終章「科学の進歩は人を幸せにするか? 少子化社会にとってiPS細胞は大善か、小善か。」から――
山中「独創的な取り組みとして、東大の中内啓光(ひろみつ)教授のチームは、iPS細胞の技術を使ってブタの体内で人間の臓器を作る実験を計画しています。
まだ人間のiPS細胞を使っては成功していないんですが、ネズミのモデルでは成功しています。ネズミにはマウスとラットの2種類があり、ラットの膵臓をマウスの体内で作ることに成功していますので、同じ技術を使えば、ブタの体内で人間の膵臓や肝臓といった臓器を作ることは理論的には可能と思います。
中内先生のチームが計画している実験は、まず特定の臓器が欠けるよう操作したブタの受精卵(胚)に、ヒトのiPS細胞を移植して「動物性集合胚」(動物の胚にヒトの細胞を入れてできる胚)を作り、それをブタの子宮に着床させるというものです。欠けた臓器の場所にヒトの細胞からできた臓器を持つブタが生まれれば、その臓器を将来、移植医療や新薬の開発に応用できる可能性があります。日本では動物の受精卵にヒトの細胞を入れて子宮に戻すのは、研究指針で禁止されていましたが、2013年夏、中内教授の研究を踏まえて、政府の生命倫理専門調査会が基礎研究については条件付きで容認しました。議論は始まりましたが、生命倫理の議論は時間がかかりそうです。」
稲盛「難しい問題ですね。世界的に待ったなしの研究開発競争が行われているわけですから、規制すると後れをとってしまう。でも、研究のため、何をやってもいいという話ではないですし…。」
山中「ただやはり動物の体内で人間の臓器を作ることには嫌悪感を持つ方もおられますし、生命倫理的な議論も追いついていないんです。」
稲盛「現在の臓器移植に関してよく聞くのは、臓器移植をすると強い拒絶反応を和らげるために非常にたくさんの薬を飲まなければならず、患者さんにとって大変だと聞いたのですが、今でもそうなんですか。」
山中「そうですね。移植するのは他人の臓器ですから、患者さんは拒絶反応や薬の副作用に非常に苦しむことになります。まず移植後に拒絶反応が出るので、それを抑える薬を大量に飲みます。すると飲んだ薬の副作用が起こるので、その副作用を抑える薬も飲むことになります。」
稲盛「患者さん由来のiPS細胞を使って作った臓器を移植した場合、自分のものなので、そうした副作用に苦しむことがなくなるということでしたね。」
山中「理論的にはそうです。移植するのは患者さん本人の細胞から作った臓器ですから、拒絶反応は小さいはずです。ただ、これも実際に臓器移植して確かめたわけではありません。実際にやってみたら拒絶反応や思わぬ副作用が出てだめだった、という可能性はゼロとは言い切れません。絶対にこうなるはずだと思ってやって逆の結果が出てくることは、科学ではいくらでもあります。とくにiPS細胞の移植は人類がやったことがないことですから、やってみなければわからないことはたくさんあります。ですから、研究者は実際に患者さんに移植する前に、非臨床試験(動物などを使った実験)でデータをとり安全性や有効性を慎重に検討しますし、不測の事態への対処方法も考えておく必要があります。」
稲盛「拒絶反応とは少し違いますが、他人の臓器を移植した場合、自分とは違ったものが体に入ってくるわけですから、その人の考え方、心までが変わってしまうという可能性はないですか。それこそ脳が何らかの影響を受けてしまい、性格が変わったり、あるいは幻覚とか幻聴とかが起こることはありますか。」
山中「脳以外の臓器の場合に、どれだけの影響があるかというのは、まだ十分わかっていません。臓器移植によって人格に影響がないかと言われると、それはないとは言い切れないですね。
ただ、おっしゃるとおり、人間の性格とよばれるものも、脳の中のちょっとしたことで変わってしまうんですね。たとえば脳の中にごく小さな出血が起きても、人格が変わることはあります。それこそ優しかった人がものすごい凶暴になったりとか。私なんか、お酒を飲むと一夜にして、人が変わるとよく言われますし(笑)。
人間についてはほんとうにわからないことだらけなんです。それを科学者がついつい不遜になってしまって、いやもう私たちはこんなに理解しているんだとやってしまうんですが、実際のところは1割もわかっていない。特に人間の脳に関しては99.9%以上わかっていないと言ってもいいと思うんですね。私たちはその1割もわかっていないところで医学とか医療をやっている。そのことを忘れてはいけないと思います。 人間の脳は未知な部分がほとんどですから、ゲノム解析のようにはいかないのではないかと思います。 また例えばガンも、いまだに治らないガンもいっぱいあり、とても克服したとは言えません。ガンもまだ解明できていません。 人間の体は手ごわい。私たちの体はほんとうに手ごわいです。」
稲盛「さきほどのブタの体のなかで人間の臓器を作る話とか、伺っていくと、一歩間違うと、何か恐ろしいことが起こるような気がしてきます。 今までそれこそ神様しか触れられなかった領域にすでに手を突っ込まれているわけですね。」
山中「そしてこれは悪用しようと思えばいくらでもできます。たとえば健康診断で稲盛さんが採血された血液をちょっと横からいただくとします。その血液細胞からiPS細胞を作り、そこから精子と卵子に分化させると、理論的には父親も母親も稲盛さんという遺伝子をもった子供が作れてしまうわけです。」
稲盛「iPS細胞から精子と卵子を作って、それを結合させて、人間の子宮に入れると可能だということですか。」
山中「現時点では技術的に不可能ですが、将来は可能になるかもしれません。すでにネズミではES細胞やiPS細胞由来の精子と卵子を作ることに成功しています。アメリカでは以前からデザイナーベイビーといって、いわゆる精子バンクで一流のアスリートや高名な学者の精子が売買されています。その場合は精子を提供する人との合意があるわけですが、それすらない。本人が知らないところでビジネスとして売買されるとか、そういうことも本当に起こりかねないんです。」
稲盛「生まれてくるのは、いわゆるクローン人間ということですか。」
山中「そこはちょっとややこしいんですが、核移植をするクローンとは違います。精子や卵子ができるときに組み換えという現象が起こるため、30億ある文字(塩基対)の並び方が稲盛さんとまったく同じにはならないからです。設計図が変わってしまうんです。稲盛さんとは見た目も少し違うし、別人格の人間に生まれてくるとは思います。」
稲盛「いやはや。恐ろしいですね。」
山中「ただ一方で、不妊症の治療研究として非常に期待されている技術なんです。少子化は日本社会が抱える深刻な問題のひとつですが、その原因のひとつに子供がほしくても授からない不妊カップルの増加があると言われています。」
稲盛「まさに諸刃の剣というか…。」
山中「さらに難しいのが倫理的な問題です。たとえばこの技術を使えば、将来、同性愛のカップルが子供をもつことも可能になるかもしれません。それぞれのiPS細胞から精子と卵子を作り受精卵を作ることも理論的にはできると考えられます。でも倫理的にどうなのか。そんなことをしてもいいのかという問題があります。」
稲盛「まさに神の領域です。」
山中「iPS細胞の発見をパンドラの箱と言われることがよくあります。」
稲盛「お話を伺っていると、iPS細胞の技術で病気で困っている人々を助け、寿命を少しでも延ばそうと、先生方は一生懸命やっていらっしゃる。目の前にある直近の善。一見すると、それは善の方向へいっているように思えます。しかし、結果としてはそうじゃなかったということもあり得るかもしれない。
私は人類の未来は、科学の発展と人間の精神的深化のバランスがとれて初めて安定したものになるという信念があるんです。
それこそ一歩間違うと、大きな悪に転じてしまう可能性もある。たとえば誰もが健康で長生きしたいという願望を持ち、医療がどんどん発展していくと、超高齢社会ができてしまう。その一方でこの先50~100年の間に、地球の人口が100億人を突破すれば、食糧も資源も足りなくなると予測されています。進歩と地球のバランスをどうやって取っていくのか。私は現在の人類の繫栄はすでに地球の許容能力を超えつつあるのかもしれないと危惧しています。 科学技術の進歩によりもたらされる人口増加には、そんな恐ろしささえ感じます。」
山中「日本は他のどの国より高齢化が進んでいるんです。さらに2050年には逆富士山型になっていきます。そうなると医療保険や年金、福祉などの社会保障を、この下のほうの少ない人たちが支えるので、ものすごい負担をかけることになります。私たちがやっている研究は上をさらに増やすことには繋がっていきますが、下を増やすことにはそれほど繋がらないんですね。」
稲盛「若い世代の負担が大きくなると、子供をさらに持てない悪循環になるかもしれません。」
山中「高齢者も健康で長生きできて幸せかというと、2050年になると福祉が追いつかなくなって、体は元気でも食住は十分に伴わなくなるかもしれない。それでも若い方にはすごい負担がかかる。その結果よけいに子供は作れないよということで、極端な悪循環になる可能性もあります。そう考えると、将来の人が今のわれわれをふりかえって、昔の人たちはとんでもない利己主義者だったと言われてしまうかもしれない。」
稲盛「たしかに日本の高齢化はこれからますます深刻な問題となっていきます。」
山中「利他に関してはまだまだ修行しないとダメなのですが、今、苦しんでいる患者さんを助けるということも利他。自分たちの子孫に対する将来の責任を今のうちからキチンと考えることも利他ではないかと思います。寿命が延びて今の世代はよかったかもしれないけれども、次の世代、その次の世代にとんでもない負担を負わせてしまうかもしれない。iPS細胞もそうですが、科学の進歩って遅いようで突然、ビュンと進んでしまう。SFだと思っていた話がどんどん実現しているんです。」
稲盛「医療技術の進歩と高齢化の問題は永遠に解けない命題だと思います。非常に難しい。
今度はぜひ、科学の進歩と地球の生態系のバランスをどう取っていくか、という難しい命題にも挑んでください。」
山中「じつは最近、稲盛さんのご著書を読んでドキッとしたことがあるんです。地獄と天国は何が違うかという話です。地獄と天国というのは、そう違いはないと。どちらも大きな釜に美味しいうどんが煮えている。そして皆が1メートルもある長い箸を持っていると。地獄の住人は我先にと箸を突っ込んでうどんを食べようとするんですが、箸が長すぎて口に運べない。そのうち誰かの箸の先にひっかかったうどんを食べようと奪い合いになってけっきょく何も食べられずにガリガリに痩せていると。ところが天国の住人はお互いに箸の先のうどんを向かいに座った人に食べさせてあげている。だからみんなニコニコして丸々と太っていると。そこで私は、これは科学技術の出る幕だと。箸が長すぎて食べられないのだったら、つまむときは長くて手元のボタンを押したら縮むようにすれば食べられるようになるじゃないかと。科学者なら当然そういうものを作るだろうなと考えてしまったわけです。でも天国ではそんなややこしいことをしなくても、長い箸を使ってみんなが仲良く向かいの人同士食べさせてあげていると。その気持ちを忘れて、科学技術に走ってしまうと、うどんは食べられても、決してみんなは幸せにはなれないと。でも私たち科学者は一歩間違えると、地獄に出かけていって便利な箸を作ってあげようと。」
稲盛「うまくいく方法を考えてしまう(笑)。」
山中「それを売って一儲けしようなんていう科学者も出てきたりして。みんなもそういう便利な箸が開発されると、お互いに助け合うチャンスもなくなってしまう。正直、はっとさせられるものがありました。」
・え~っ! 鉄郎さんが大けがを!
・・ええ 地球型の原始惑星でプテラノドンに似たトリさんにうっかり近づいたらくちばしで突かれてしまったの…
・大丈夫よ これから行く星にあるiPS 細胞で治せるわ 21世紀初めの地球でドクターヤマナカが作った夢の細胞よ
・・治療中は夢の世界にいたようで気持ちよかったなあメーテル
・良かったわね でも、決して良いことばかじゃないのよ…
・・そうかあ、確かに… 僕の細胞が、知らないうちに恐竜やライオンと混ぜられたらどうなっちゃうんだろう…? メーテルの細胞と混ぜられるんだったら良いけどね~!
・私は私だけのものよ、鉄郎
・悪夢の星もあるの それはiPS 細胞を正しく使わずに、たくさんの細胞が混じり合った、キメラだけの星… 色々な生命体が混じり合って元に戻れなくなった、悲しい星…
・・いや~、ホントに助かったよ でも、自分が知らないうちに他の生き物と混ぜられていたら いやだなあ…
・そうよ、鉄郎 生命を操作するということは、とても難しいことなの
・・いやあ、iPS 細胞に助けられたよ でもキメラの星には行きたくないなあ…
・・iPS 細胞は無限だけど、 ぼくは、限りある命を大切に生きたい!
・iPS細胞の未来… それは、たった1つの細胞が社会や生命を変えてしまう未来…
(松本零士『永遠の命の夢 iPS 細胞ビジュアル図解』のせりふから NHKスペシャル取材班編著『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命(2011年8月発行)』より)
島薗進著『いのちを“つくって”もいいですか? 生命科学のジレンマを考える哲学講義』(2016年1月発行)で大きな問題として挙げているテーマはたくさんあります。例えば。――
(1)“いのちの始まり”への操作
ES細胞やiPS細胞などの万能細胞を用いた再生医療には、実にさまざまな可能性が秘められています。その研究がますます進んで、人びとの苦悩を克服し、幸福な生活をもたらすために十分に役立つことが期待されます。 しかし、こうした状況を手放しで喜んでいてよいものでしょうか。
iPS細胞のもっとも革新的な点は、本来、必ず老いていく細胞を“初期化”し、からだのあらゆる部分に分化していける状態にまで戻した、というところにあります。これはある意味、細胞を“いのちの始まり”に近づけること、とも言えるのではないでしょうか。実際に、生命発生の仕組みを解明するための研究においても、iPS細胞の活用が大いに期待されています。一方で、“いのちの始まり”を人の手によってつくり出し、それを意のままに利用しようという試みには、どこか危ういものが感じられはしないでしょうか。
万能細胞の開発・研究の歴史を振り返ってみてわかるように、ES細胞やiPS細胞などの万能細胞を利用するためには、初期の胚の段階から身体のそれぞれの組織が形成される、いのちの始まりの段階を“操作する”過程が必然的に伴います。ここには「科学技術によって、いのちを人工的に形づくっていく」という側面があるのではないでしょうか。これは、胚を壊すことによってつくられるES細胞の是非をめぐって生じた「いのちの始まりを破壊する」という議論とは、まったく別の倫理の問題として問い直される必要があります。その先に、エンハンスメントの飛躍的な拡充という可能性が見えてくるからです。
(2)人の一部をもつ“何か”
一つ目の課題は、「人の細胞を動物のからだに混ぜる」という問題です。万能細胞によって実現できるかもしれないと期待されていることは数々ありますが、その意義がもっともわかりやすいものとして、「機能の十分でない臓器を、万能細胞からつくった臓器と取り換える」ということがあげられます。現在の医療では、肝臓や心臓などの機能が落ちて死を待つしかない状態になった場合、「臓器移植」、つまり他の人から臓器をもらうという方法しかありません。しかし、臓器の提供者は圧倒的に不足しているという状況があります。ところが、万能細胞の登場が思いもよらない解決案を提示したのです。
イノシシと豚を掛け合わせて生まれる「イノブタ」は、双方の遺伝子をもっています。これは自然な交配を通じて、異なる種の精子と卵子を合体させた「異種交配個体(ハイブリッド)」と呼ばれるものですが、万能細胞を用いると、自然交配を経ずに、ある生物種の胚に異なる種の生物の幹細胞を混ぜるということも可能になります。すると、一つの生き物のなかに異なる個体の要素が入ってくることになります。「キメラ(キマイラ)」という言葉をご存知でしょうか。これはギリシア神話に登場する想像上の怪物で、「頭はライオン、胴体は山羊、尻尾は毒蛇」という異形の存在です。ここから転じて、今述べたような「一つの個体のなかに異なる遺伝情報をもつ細胞が混じっているもの」を、生物学ではキメラと呼んでいます。
このキメラを応用して、たとえば心臓に障害のある人の細胞からiPS細胞をつくり、それを豚の胚に入れることで、豚の体内で人間の心臓を育てる、といったことが実際に目指されています。豚が例にあげられるのは、豚のゲノムが人間のものに比較的類似しているためです。そうしてできる心臓は、その人の遺伝子をもった健全な心臓であり、拒絶反応もなく移植できると考えられています。ただし、人の臓器をもった豚を生み出すには、豚のウイルスが人に感染しないなど、安全性だけでも多くの研究が必要で、実現できるとしてもまだまだ先のことになりそうです。
しかし、安全性の問題だけではありません。ここにはきわめて大きな倫理的問題があります。そもそも、「人間と豚のキメラをつくる」などということが許容できるのでしょうか。豚の胚に移植される幹細胞は、まぎれもなくその人自身(の一部)であり、また豚の体内で育つ心臓は、その一部は“人”であると言えるでしょう。そのような存在を自由に操作することは、果たして倫理的に容認できることなのでしょうか。
また、このようにしてさまざまにキメラを作製し、研究や医療への利用が進んで行くとすると、一体どこまでが人でどこまでが動物なのか、“種”の境界が揺らいでしまうのではないでしょうか。そうするとやがて、「人とは何か」という理解までもが怪しくなってくるかもしれません。
(3)人のいのちをつくり出す
万能細胞の研究には、キメラの問題ともう一つ、十分に問われなければならない倫理的課題が存在します。それは「生殖細胞をつくってよいのか」という問題です。
マウスによる実験では、すでにES細胞やiPS細胞から精子と卵子(生殖細胞)を誘導・分化すること、またそこから新しい個体を生み出すことにも成功しています。(ただし、現時点では「精子・卵子ともにES細胞あるいはiPS細胞由来」ではなく、どちらか一方は自然な生殖細胞で行った人工授精による)。そうしてできた精子や卵子を用いて、生殖細胞が関わる不妊症や先天性の疾患・症候群の原因の解明等を行うことが期待されています。
しかし、この技術の先には、それ以上の重大なことをも実現してしまう可能性が潜んでいます。マウスで成功しているということは、理論上は人間の生殖細胞をつくれる可能性もとても高いことになります。すると、そこからクローン胚をつくることも、またそうしてつくられた精子と卵子同士を受精させれば、赤ちゃんとして生まれる可能性も十分に考えられますね。これはつまり、万能細胞という人工的な細胞から“いのち”そのものを生み出すことができる、ということを意味しているのです。
(4)遺伝子から始まる“人間の品種改良”
「いのちをつくり変える」ことになる万能細胞の利用には、さらに別の危うい側面も伴っています。遺伝子レベルの検査を行い、受精卵、さらには精子や卵子の時点にまで「いのちの選別」が進んでいく可能性が重要です。さらに、万能細胞の研究・利用が拡大していくと、遺伝子レベルでの“選別”に加えて、やがては人間の“改造”にまでも進んでいくかもしれません。植物や家畜に対してはすでに「遺伝子組み替え」として行われてきましたが、今度はそれが人間に対してなされる可能性も視野に入ってきているのです。
(5)そこから何ができてしまうのか
2015年4月、中国の中山大学のチームが「ゲノム編集」という手法を用いて、ヒト受精卵の遺伝子改変を行ったというニュースが伝えられました。やはり「そこから何ができてしまうのか」、たいへん不気味なものが感じられないでしょうか。
再生医療によるエンハンスメントが急速に拡大しつつあり、人間改造の可能性もすぐそこまで来ています。このゲノム編集のような事例が、今後次々と既成事実化していくことも十分に考えられるでしょう。「人間のいのちをつくる、つくり変える」科学技術に向かって、少しずつドアが開いてきている、というのが現在の状況だと思います。
このような再生医療の利用や研究がこのまま進んでいくことについて、やはり何らかの規制やルールが、しかも国や地域を超えた枠組みが必要ではないか、という声はまだ大きなものにはなっていません。しかし、早い段階から国際的な討議を促していく必要があるのではないでしょうか。
NHKスペシャル取材班編著『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命(2011年8月出版)』第二部「iPS細胞と生命の神秘」第三章「曖昧になる生命の境界線」から――
国谷裕子「このiPS細胞はいろいろな可能性を秘めてますけれども、一方で予想できないような社会的な混乱をもたらすようなものかもしれません。iPS細胞というのは無限に増殖もできますし、たとえばドナーの方から体細胞をもらってiPS細胞を作ると、当初予定していなかったようないろいろな研究にどんどん使われていく可能性があって、プライバシーの問題も出てくるでしょう。あるいは倫理的にこういう研究に使って良いんだろうかというようなことも出てくるかもしれない。そういう生命倫理の課題とも向き合っていかざるをえないのではありませんか?
山中伸弥「確かに、今までになかったようなタイプの倫理的問題が生じています。皮膚細胞を取ってきてiPS細胞を作り、そこから精子とか卵子が理論的にはできるわけですから。
皮膚細胞から精子を作って卵子も作って、受精させて新しい生命を作るという研究もあり得るわけで、間違いなく倫理的問題もはらんでいます。」
立花隆「下手すると、本人の同意をちゃんと取らないでそういうことをやっちゃうというか。振られた女性の細胞をちょっととって、それから生殖細胞を作って、勝手に子どもを作っちゃうみたいなね。極端なことを言うと、そういう可能性だって技術的に可能な状況なんですよね。」
=髪の毛一本から精子が=
山中「アメリカの場合は体外受精という方法で、デザイナーベイビーといって、ノーベル賞学者や超一流のスポーツ選手の精子を売買しているところもあります。ただ、デザイナーベイビーなら精子をもらわないとできないんですが、iPS細胞だと、髪の毛一本からできることもあります。この間日本のグループが、採血した血液から作ることに成功しました。そうなってくると、血液なんて健康診断を受けても採血するわけですから、勝手にiPS細胞が作られるという可能性を今から考えておかないとダメです。」
国谷「よかれと思って研究をしていても、できてしまってから社会が大混乱して、こんな非倫理的なことは認められないというような大きな騒ぎが起こる可能性も考えられます。倫理的な問題をあらかじめ想定して、それをどうコントロールするか、どこまで規制をするのか。生命倫理アセスメントという言葉まで出てきますが、社会的な合意形成をしていく上での準備というのは必要だとお考えですか?」
国谷「iPS細胞をこれからどう使うのか、どう使わないのか。パンドラの箱が開いてしまったということでしょうか?」
=人と動物のキメラ=
山中「皮膚細胞から新しい生命が生まれるという可能性も出てきて、確かに大きな問題があります。たとえば、肝臓が専門の消化器科のドクターが私の研究室に大学院生としてやってきて、彼が何の研究をやるかという時に、じゃあ肝臓の細胞からiPS細胞を作ろうということになったんです。ネズミの肝臓から持ってきた細胞からiPS細胞ができて、それを移植して子どもを産ませたら、全身がその肝臓から作ったiPS細胞由来のネズミが生まれた。で、これを見た時にだんだん怖くなってきて。もともと肝臓とか胃の細胞だった細胞から、全身その細胞でできたマウスが目の前にいるわけです。ちょっと、こんなことして良いのかな、と。で、それを作っていた技術員の女性に、「あなた、人類が誰もやったことのないことをしているんだよ、肝臓の細胞から新しい生命を作り出したんだよ」って思わず言ったんです。」
国谷「それはマウスの形になっているわけですよね?」
山中「もちろん、普通のマウスですよ。やっている研究者が、なんというかちょっと気持ち悪い感じになりますね。すごいことだと。」
立花「心配することは山のようにあるんです。 たとえば生命倫理の専門家は、《iPS細胞の研究で、将来超えてはならない一線が人間と動物のキメラを作ることだ》と言っています。」
国谷「それはやめてほしいですね。」
=人間の臓器を作る=
山中「ヒトのiPS細胞を動物の受精卵に入れてキメラを作ることで、ものすごく有用な可能性があって、それは何かというと、臓器を作り出す可能性があるんですね。ブタの中に人間の肝臓を作り出す可能性があるんです。するとそのブタはちゃんと生まれてくる。そのブタから肝臓を取り出すと、人間の肝臓である可能性があるんです。」
国谷「取り出して移植するということですか。」
山中「理論的にはそうです。ただ血管とかはブタの血管の可能性がありますから、そんなには簡単じゃないんですけども。でもそうすると、今、臓器不足で大変な時代ですが、それを克服できる可能性がある。で、実際それを研究されている先生も日本にいます。ネズミのiPS細胞を使った研究を行っているんですけれども、しっかりできています。」
立花「そういう話をし出すとね、まあ、みなさん、凄まじいイメージが頭の中で膨らんじゃう。国谷さんがさっき僕をすごく非難するような眼で見たじゃないですか(笑)。それは例えばH・G・ウェルズの『モロー博士の島』のような、太平洋の離れ島に化け物のようなキメラでいっぱいの島を作ったという有名なSF小説(映画にも何度かなっている)がありますよね。普通の人はキメラというとああいうものを想像しちゃうんです。」
稲盛和夫、山中伸弥著『賢く生きるより 辛抱強いバカになれ(2014年10月出版)』終章「科学の進歩は人を幸せにするか? 少子化社会にとってiPS細胞は大善か、小善か。」から――
山中「独創的な取り組みとして、東大の中内啓光(ひろみつ)教授のチームは、iPS細胞の技術を使ってブタの体内で人間の臓器を作る実験を計画しています。
まだ人間のiPS細胞を使っては成功していないんですが、ネズミのモデルでは成功しています。ネズミにはマウスとラットの2種類があり、ラットの膵臓をマウスの体内で作ることに成功していますので、同じ技術を使えば、ブタの体内で人間の膵臓や肝臓といった臓器を作ることは理論的には可能と思います。
中内先生のチームが計画している実験は、まず特定の臓器が欠けるよう操作したブタの受精卵(胚)に、ヒトのiPS細胞を移植して「動物性集合胚」(動物の胚にヒトの細胞を入れてできる胚)を作り、それをブタの子宮に着床させるというものです。欠けた臓器の場所にヒトの細胞からできた臓器を持つブタが生まれれば、その臓器を将来、移植医療や新薬の開発に応用できる可能性があります。日本では動物の受精卵にヒトの細胞を入れて子宮に戻すのは、研究指針で禁止されていましたが、2013年夏、中内教授の研究を踏まえて、政府の生命倫理専門調査会が基礎研究については条件付きで容認しました。議論は始まりましたが、生命倫理の議論は時間がかかりそうです。」
稲盛「難しい問題ですね。世界的に待ったなしの研究開発競争が行われているわけですから、規制すると後れをとってしまう。でも、研究のため、何をやってもいいという話ではないですし…。」
山中「ただやはり動物の体内で人間の臓器を作ることには嫌悪感を持つ方もおられますし、生命倫理的な議論も追いついていないんです。」
稲盛「現在の臓器移植に関してよく聞くのは、臓器移植をすると強い拒絶反応を和らげるために非常にたくさんの薬を飲まなければならず、患者さんにとって大変だと聞いたのですが、今でもそうなんですか。」
山中「そうですね。移植するのは他人の臓器ですから、患者さんは拒絶反応や薬の副作用に非常に苦しむことになります。まず移植後に拒絶反応が出るので、それを抑える薬を大量に飲みます。すると飲んだ薬の副作用が起こるので、その副作用を抑える薬も飲むことになります。」
稲盛「患者さん由来のiPS細胞を使って作った臓器を移植した場合、自分のものなので、そうした副作用に苦しむことがなくなるということでしたね。」
山中「理論的にはそうです。移植するのは患者さん本人の細胞から作った臓器ですから、拒絶反応は小さいはずです。ただ、これも実際に臓器移植して確かめたわけではありません。実際にやってみたら拒絶反応や思わぬ副作用が出てだめだった、という可能性はゼロとは言い切れません。絶対にこうなるはずだと思ってやって逆の結果が出てくることは、科学ではいくらでもあります。とくにiPS細胞の移植は人類がやったことがないことですから、やってみなければわからないことはたくさんあります。ですから、研究者は実際に患者さんに移植する前に、非臨床試験(動物などを使った実験)でデータをとり安全性や有効性を慎重に検討しますし、不測の事態への対処方法も考えておく必要があります。」
稲盛「拒絶反応とは少し違いますが、他人の臓器を移植した場合、自分とは違ったものが体に入ってくるわけですから、その人の考え方、心までが変わってしまうという可能性はないですか。それこそ脳が何らかの影響を受けてしまい、性格が変わったり、あるいは幻覚とか幻聴とかが起こることはありますか。」
山中「脳以外の臓器の場合に、どれだけの影響があるかというのは、まだ十分わかっていません。臓器移植によって人格に影響がないかと言われると、それはないとは言い切れないですね。
ただ、おっしゃるとおり、人間の性格とよばれるものも、脳の中のちょっとしたことで変わってしまうんですね。たとえば脳の中にごく小さな出血が起きても、人格が変わることはあります。それこそ優しかった人がものすごい凶暴になったりとか。私なんか、お酒を飲むと一夜にして、人が変わるとよく言われますし(笑)。
人間についてはほんとうにわからないことだらけなんです。それを科学者がついつい不遜になってしまって、いやもう私たちはこんなに理解しているんだとやってしまうんですが、実際のところは1割もわかっていない。特に人間の脳に関しては99.9%以上わかっていないと言ってもいいと思うんですね。私たちはその1割もわかっていないところで医学とか医療をやっている。そのことを忘れてはいけないと思います。 人間の脳は未知な部分がほとんどですから、ゲノム解析のようにはいかないのではないかと思います。 また例えばガンも、いまだに治らないガンもいっぱいあり、とても克服したとは言えません。ガンもまだ解明できていません。 人間の体は手ごわい。私たちの体はほんとうに手ごわいです。」
稲盛「さきほどのブタの体のなかで人間の臓器を作る話とか、伺っていくと、一歩間違うと、何か恐ろしいことが起こるような気がしてきます。 今までそれこそ神様しか触れられなかった領域にすでに手を突っ込まれているわけですね。」
山中「そしてこれは悪用しようと思えばいくらでもできます。たとえば健康診断で稲盛さんが採血された血液をちょっと横からいただくとします。その血液細胞からiPS細胞を作り、そこから精子と卵子に分化させると、理論的には父親も母親も稲盛さんという遺伝子をもった子供が作れてしまうわけです。」
稲盛「iPS細胞から精子と卵子を作って、それを結合させて、人間の子宮に入れると可能だということですか。」
山中「現時点では技術的に不可能ですが、将来は可能になるかもしれません。すでにネズミではES細胞やiPS細胞由来の精子と卵子を作ることに成功しています。アメリカでは以前からデザイナーベイビーといって、いわゆる精子バンクで一流のアスリートや高名な学者の精子が売買されています。その場合は精子を提供する人との合意があるわけですが、それすらない。本人が知らないところでビジネスとして売買されるとか、そういうことも本当に起こりかねないんです。」
稲盛「生まれてくるのは、いわゆるクローン人間ということですか。」
山中「そこはちょっとややこしいんですが、核移植をするクローンとは違います。精子や卵子ができるときに組み換えという現象が起こるため、30億ある文字(塩基対)の並び方が稲盛さんとまったく同じにはならないからです。設計図が変わってしまうんです。稲盛さんとは見た目も少し違うし、別人格の人間に生まれてくるとは思います。」
稲盛「いやはや。恐ろしいですね。」
山中「ただ一方で、不妊症の治療研究として非常に期待されている技術なんです。少子化は日本社会が抱える深刻な問題のひとつですが、その原因のひとつに子供がほしくても授からない不妊カップルの増加があると言われています。」
稲盛「まさに諸刃の剣というか…。」
山中「さらに難しいのが倫理的な問題です。たとえばこの技術を使えば、将来、同性愛のカップルが子供をもつことも可能になるかもしれません。それぞれのiPS細胞から精子と卵子を作り受精卵を作ることも理論的にはできると考えられます。でも倫理的にどうなのか。そんなことをしてもいいのかという問題があります。」
稲盛「まさに神の領域です。」
山中「iPS細胞の発見をパンドラの箱と言われることがよくあります。」
稲盛「お話を伺っていると、iPS細胞の技術で病気で困っている人々を助け、寿命を少しでも延ばそうと、先生方は一生懸命やっていらっしゃる。目の前にある直近の善。一見すると、それは善の方向へいっているように思えます。しかし、結果としてはそうじゃなかったということもあり得るかもしれない。
私は人類の未来は、科学の発展と人間の精神的深化のバランスがとれて初めて安定したものになるという信念があるんです。
それこそ一歩間違うと、大きな悪に転じてしまう可能性もある。たとえば誰もが健康で長生きしたいという願望を持ち、医療がどんどん発展していくと、超高齢社会ができてしまう。その一方でこの先50~100年の間に、地球の人口が100億人を突破すれば、食糧も資源も足りなくなると予測されています。進歩と地球のバランスをどうやって取っていくのか。私は現在の人類の繫栄はすでに地球の許容能力を超えつつあるのかもしれないと危惧しています。 科学技術の進歩によりもたらされる人口増加には、そんな恐ろしささえ感じます。」
山中「日本は他のどの国より高齢化が進んでいるんです。さらに2050年には逆富士山型になっていきます。そうなると医療保険や年金、福祉などの社会保障を、この下のほうの少ない人たちが支えるので、ものすごい負担をかけることになります。私たちがやっている研究は上をさらに増やすことには繋がっていきますが、下を増やすことにはそれほど繋がらないんですね。」
稲盛「若い世代の負担が大きくなると、子供をさらに持てない悪循環になるかもしれません。」
山中「高齢者も健康で長生きできて幸せかというと、2050年になると福祉が追いつかなくなって、体は元気でも食住は十分に伴わなくなるかもしれない。それでも若い方にはすごい負担がかかる。その結果よけいに子供は作れないよということで、極端な悪循環になる可能性もあります。そう考えると、将来の人が今のわれわれをふりかえって、昔の人たちはとんでもない利己主義者だったと言われてしまうかもしれない。」
稲盛「たしかに日本の高齢化はこれからますます深刻な問題となっていきます。」
山中「利他に関してはまだまだ修行しないとダメなのですが、今、苦しんでいる患者さんを助けるということも利他。自分たちの子孫に対する将来の責任を今のうちからキチンと考えることも利他ではないかと思います。寿命が延びて今の世代はよかったかもしれないけれども、次の世代、その次の世代にとんでもない負担を負わせてしまうかもしれない。iPS細胞もそうですが、科学の進歩って遅いようで突然、ビュンと進んでしまう。SFだと思っていた話がどんどん実現しているんです。」
稲盛「医療技術の進歩と高齢化の問題は永遠に解けない命題だと思います。非常に難しい。
今度はぜひ、科学の進歩と地球の生態系のバランスをどう取っていくか、という難しい命題にも挑んでください。」
山中「じつは最近、稲盛さんのご著書を読んでドキッとしたことがあるんです。地獄と天国は何が違うかという話です。地獄と天国というのは、そう違いはないと。どちらも大きな釜に美味しいうどんが煮えている。そして皆が1メートルもある長い箸を持っていると。地獄の住人は我先にと箸を突っ込んでうどんを食べようとするんですが、箸が長すぎて口に運べない。そのうち誰かの箸の先にひっかかったうどんを食べようと奪い合いになってけっきょく何も食べられずにガリガリに痩せていると。ところが天国の住人はお互いに箸の先のうどんを向かいに座った人に食べさせてあげている。だからみんなニコニコして丸々と太っていると。そこで私は、これは科学技術の出る幕だと。箸が長すぎて食べられないのだったら、つまむときは長くて手元のボタンを押したら縮むようにすれば食べられるようになるじゃないかと。科学者なら当然そういうものを作るだろうなと考えてしまったわけです。でも天国ではそんなややこしいことをしなくても、長い箸を使ってみんなが仲良く向かいの人同士食べさせてあげていると。その気持ちを忘れて、科学技術に走ってしまうと、うどんは食べられても、決してみんなは幸せにはなれないと。でも私たち科学者は一歩間違えると、地獄に出かけていって便利な箸を作ってあげようと。」
稲盛「うまくいく方法を考えてしまう(笑)。」
山中「それを売って一儲けしようなんていう科学者も出てきたりして。みんなもそういう便利な箸が開発されると、お互いに助け合うチャンスもなくなってしまう。正直、はっとさせられるものがありました。」
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個性あるお二人の考え方に共感する。