塩野七生を読もう、と思ったきっかけは、雑誌「プレジデント」で、あえての扇情的キャッチコピーだとは思うけれど、「年収別、読む本の違い」といったような特集記事の中で、それを解説している一人が、「司馬遼太郎が好き、と公言しているビジネスパーソンは恥ずかしい。視野が狭すぎ。塩野七生を読んでみれば、1000倍ぐらい視野がひろがる」(大意)みたいなことを言っていて、「ンなろー、じゃ、読んでやろうやんけ」と思ったからです(司馬遼好き)。
で、ふと家の本棚をグルリと見渡してみたところ、1冊だけありました。
「再び男たちへ。フツウであることに満足できなくなった男のための63章」
途中まで読んで止まっていた本ですが、これ、1991年初版の単行本で、今から21年前。私が19歳のときに、アルバイト先の社長さんからお借りした本でした(つまり借りたまま…ごめんなさい)。バブルがそろそろ弾けるよ!って頃に書かれたもので、タイトルにあるとおり、63編の、塩野さんから日本の男たち(リーダーたち)へ向けて発せられた叱咤激励の数々でした。比較されているのは、塩野さんが「これぞ」と思っておられるであろう、古代を生きた男(リーダー)たちです。
いや〜、おもしろかったんです。
もちろん、だからといって、「司馬遼好きは視野狭すぎ」という意見にまで共感することはありませんが、なぜそう言ったのか(扇情したのか)ということは、よくわかりました。要するに、日本国内の歴史や登場人物を用いた歴史小説を読んでればそれでいい、ということじゃないよ、ということなんですね。煽ってもらってよかったです(笑)
で、この「緋色のヴェネツィア」を選んだ理由ですが、ノンフィクション要素の強い塩野さん作品のなかでは珍しい部類の「小説」という形をとっていて、そのために、架空の人物、官僚マルコと遊女オリンピアの2人を加えて、彼らを入れることによる脚色を可能にした作品であったから。
中世の歴史好きな人、世界史通な人ならいざしらず、普通の人は、ヴェネツィア共和国が何年に起きて、その政治形態はどんなもので、どの程度の領土を持っていて、なぜ消滅したか、というのは知らないですよね、もちろん、私は知りません。あとがきを読むまで、マルコとオリンピアが架空の人物であることをすっかり忘れて読んでいたのですが、何が史実で何が脚色か、ダレが実存でダレが架空かわからないまま、つまりそれだけ自然に、普通におもしろく読めてしまいました。後から、マルコの幼馴染であり、この物語と、そして実際のヴェネツィア共和国にとっての主要人物であるアルヴィーゼ・グリッティが実存した人物であることに驚いてしまいました。(表紙の絵の人がアルヴィーゼだと思われますが、とにかく魅力的な男です。
塩野さん作品は、このあと「わが友マキアヴェッリ」を読んでいるのですが、この本の中でも、「コレコレ、こういうことが記録に残っているのだから、彼はこういう考えの持ち主ではなかったか?であれば、この行動の真意は、こうではなかったか」というふうに、実際の歴史的記述をヒントに、記録としては残されていないが、実際こうであったろう、ということを突き止めようとする作業をされているのだと思います。そしてそれは成功していると思います。実に納得のいく結論となって、すんなり、腑に落ちてくるのですから。
塩野さんは、中世ルネサンス期のこの三国の物語を書く…時には賛美し、時には嘆き…ことで、現代日本のこれからの生きる道を探る作業をしているのではないかと思います。決して、欧米礼賛な、日本を自虐的に批判するような作家ではなく、歴史を俯瞰して見ていればわかる、逃れられない盛者必衰のサイクルを、いかに引き伸ばし、いかに大きな混乱なく迎えるかの大きなヒントを、この国の舵取りをする人々(エッセイで言うところの「フツウであることに満足できなくなった男たち」)へ与えようとしているのではないかと思います。
そしてその対象は、1991年当時はどうであったか、現代においては、「男たちへ」だけでなく、「女たちへ」と広がっているように思います。
この作品は、「銀色のフィレンチェ」、「黄金のローマ」と続く三部作です。
このあと読むことになると思いますが、物語としても面白く読めるでしょう。さらに、ずしりと重いものを引き継がれたような感覚に陥ることと思います。
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緋色のヴェネツィア: 聖マルコ殺人事件 (朝日文庫 し 10-1) 文庫 – 1993/6/1
塩野 七生
(著)
- 本の長さ354ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日1993/6/1
- ISBN-104022640081
- ISBN-13978-4022640086
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登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (1993/6/1)
- 発売日 : 1993/6/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 354ページ
- ISBN-10 : 4022640081
- ISBN-13 : 978-4022640086
- Amazon 売れ筋ランキング: - 76,564位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1937年7月7日、東京生れ。
学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。1968年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。初めての書下ろし長編『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。この年からイタリアに住む。
1982年、『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。1983年、菊池寛賞。1992年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006年に完結)。1993年、『ローマ人の物語I』により新潮学芸賞。1999年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。2007年、文化功労者に選ばれる。2008-2009年、『ローマ亡き後の地中海世界』(上・下)を刊行。
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年3月17日に日本でレビュー済み
古代ローマ・中世ルネサンスの著作が多い塩野氏の作品。
中世イタリアはヴェネツィアを舞台に、貴族の息子と貴族の庶子の運命的な結末、都市国家ヴェネツィアとトルコや周辺列強諸国とのパワーバランスを華麗に描く。
・・・
先ずもって感じたのは、この本は国際政治の本だ、ということです。
主人公マルコは貴族の子として、若くしてヴェネツィア共和国の運営に関わり、外交官としてイスタンブールへも派遣される。彼の役割といえば、トルコでの情報収集、ヴェネツィア本国のリエゾンとしてトルコの宰相への口添えなど。
こうした仕事は何のためかといえば、小国たるヴェネツィアが北のハプスブルク(ウィーン)、西のスペインに蹂躙されないためです。そのために非キリスト教国ながら属国下の他宗教には寛容であるイスラム教国たるトルコと秘密裡に関係を強化しようというわけです。
外交とは国益を守ることなどという事がありますが、より端的に言えば国が生き残るべく泥臭く根回し・情報操作することなのでしょう。
本作はそうした政治・外交の機微が非常によく描かれていたと思います。とりわけ、トルコであてにしていた宰相イブラヒムの権力に陰りが出てきて、国際政治的にヴェネツィアに逆風が吹き始め、この先のかじ取りや状況を悲観する主人公の独白は、外交というものの正鵠を射ていると思いました(P.282)。
とはいえ、内容の2/3はヴェネツィアでの情景です。悪しからず。
・・・
って言いつつ書きますが、時はスレイマン一世(1494-1566)の治世。
幼馴染にして奴隷であるも宰相にまで上り詰めるイブラヒム、さらにはロシアから奴隷として連行され、これまた王妃にのし上がるシュッレム(作品ではロッサーナ)が権力を増しつつあった時代の話です。
本作はヴェネツィア側から描かれていますが、トルコ側の当時の様子としてはHulu収蔵のテレビドラマ『オスマン帝国外伝 愛と欲望のハレム』を見ていただくと非常に分かりやすいと思います。私の記憶では、上記のドラマでは、ヴェネツィアの外交官というとブクブクと太った欲深そうなおべっか使いみたいな描かれ方だったと思います。
・・・
さて、そのほかにも主人公マルコと娼婦オリンピアとのちょっと真剣な関係、ヴェネツィア宰相の庶子アルヴィーゼと有力者プリウリ夫人との道ならぬ恋など、人の性(さが)の機微もじっくりと物語に練りこまれていると思います。
こうした物語の作りこみが作品の完成度を上げていると感じました。
・・・
ということで、塩野作品は二作目でした。前回はエッセイを読んだので、本格的な作品はこれが初めて。
歴史ものは結構好きかもしれません。非常に面白く感じました。3部作となっている模様ですので、続編も続いて読んでみたいと思います。
私のように歴史好きな方以外にも、旅行でヴェネツィアやトルコ(イスタンブール)に行かれる予定のある方、あるいは世界史で中世(オスマントルコ時代、イタリア史)を勉強する必要のある方にはお勧めできる作品かと思います。
中世イタリアはヴェネツィアを舞台に、貴族の息子と貴族の庶子の運命的な結末、都市国家ヴェネツィアとトルコや周辺列強諸国とのパワーバランスを華麗に描く。
・・・
先ずもって感じたのは、この本は国際政治の本だ、ということです。
主人公マルコは貴族の子として、若くしてヴェネツィア共和国の運営に関わり、外交官としてイスタンブールへも派遣される。彼の役割といえば、トルコでの情報収集、ヴェネツィア本国のリエゾンとしてトルコの宰相への口添えなど。
こうした仕事は何のためかといえば、小国たるヴェネツィアが北のハプスブルク(ウィーン)、西のスペインに蹂躙されないためです。そのために非キリスト教国ながら属国下の他宗教には寛容であるイスラム教国たるトルコと秘密裡に関係を強化しようというわけです。
外交とは国益を守ることなどという事がありますが、より端的に言えば国が生き残るべく泥臭く根回し・情報操作することなのでしょう。
本作はそうした政治・外交の機微が非常によく描かれていたと思います。とりわけ、トルコであてにしていた宰相イブラヒムの権力に陰りが出てきて、国際政治的にヴェネツィアに逆風が吹き始め、この先のかじ取りや状況を悲観する主人公の独白は、外交というものの正鵠を射ていると思いました(P.282)。
とはいえ、内容の2/3はヴェネツィアでの情景です。悪しからず。
・・・
って言いつつ書きますが、時はスレイマン一世(1494-1566)の治世。
幼馴染にして奴隷であるも宰相にまで上り詰めるイブラヒム、さらにはロシアから奴隷として連行され、これまた王妃にのし上がるシュッレム(作品ではロッサーナ)が権力を増しつつあった時代の話です。
本作はヴェネツィア側から描かれていますが、トルコ側の当時の様子としてはHulu収蔵のテレビドラマ『オスマン帝国外伝 愛と欲望のハレム』を見ていただくと非常に分かりやすいと思います。私の記憶では、上記のドラマでは、ヴェネツィアの外交官というとブクブクと太った欲深そうなおべっか使いみたいな描かれ方だったと思います。
・・・
さて、そのほかにも主人公マルコと娼婦オリンピアとのちょっと真剣な関係、ヴェネツィア宰相の庶子アルヴィーゼと有力者プリウリ夫人との道ならぬ恋など、人の性(さが)の機微もじっくりと物語に練りこまれていると思います。
こうした物語の作りこみが作品の完成度を上げていると感じました。
・・・
ということで、塩野作品は二作目でした。前回はエッセイを読んだので、本格的な作品はこれが初めて。
歴史ものは結構好きかもしれません。非常に面白く感じました。3部作となっている模様ですので、続編も続いて読んでみたいと思います。
私のように歴史好きな方以外にも、旅行でヴェネツィアやトルコ(イスタンブール)に行かれる予定のある方、あるいは世界史で中世(オスマントルコ時代、イタリア史)を勉強する必要のある方にはお勧めできる作品かと思います。
2007年9月24日に日本でレビュー済み
サブタイトルに『〜殺人事件』とありますが、ミステリでは決してありません。
その意味ではすごくがっかりなので、星二つあたり。
ただ、歴史物としてなら大変面白く読めたので星ひとつプラスです。
少々文体にひっかかりがあるものの、登場人物は生き生きと描かれているし、
荒俣宏が描く小説のように知識の披瀝に熱が入るあまり、お話しがおざなりになることもありません。
ミステリじゃないから、血生臭いところが無いのもいいですね。
この作品は『緋色のヴェネツィア』、『銀色のフィレンツェ』、『黄金のローマ』
で構成されるルネサンス歴史絵巻三部作の一作目であり、ここは順番通りに読むのがお勧め。
それぞれ副題に『殺人事件』がついていますが、どれもミステリではありませんでした(確認済み)。
ですが、読後感もまあまあで、この巻は以下の人たちにお勧めします。
@世界史を受講している高校生:ルネサンス後期のイタリアとその周辺を取り巻く
情勢のイメージをつかむのによい資料となるでしょう。受験勉強の息抜きにも是非。
@秋の夜長に面白いおはなしを求める方:三部作を全部読むのが前提ですが、面白いです。
繰り返しますが、ミステリではありません。
@ワンピースの『水の都ウォーターセブン』編を読んだ方:
思いつきですが、この作品がモチーフ(の一部)になっていると思います。
そのあたりをオーバーラップさせて読むと、また違った趣がありますよ。
@C.O.Cがお好きな人に:ダークエイジの時代よりは随分後になりますが、
時代背景や情勢、雰囲気をつかむにはまたとないテキストといえます。
キーパー次第では、シナリオフックになりそうなエピソードあり。(ならなかったらごめんなさい)
読了後は呑めるならお酒を、ダメなら温かいものでも飲みながら、静かに想いをめぐらせる、
なんていう秋の夜長の贅沢が出来る作品です。
その意味ではすごくがっかりなので、星二つあたり。
ただ、歴史物としてなら大変面白く読めたので星ひとつプラスです。
少々文体にひっかかりがあるものの、登場人物は生き生きと描かれているし、
荒俣宏が描く小説のように知識の披瀝に熱が入るあまり、お話しがおざなりになることもありません。
ミステリじゃないから、血生臭いところが無いのもいいですね。
この作品は『緋色のヴェネツィア』、『銀色のフィレンツェ』、『黄金のローマ』
で構成されるルネサンス歴史絵巻三部作の一作目であり、ここは順番通りに読むのがお勧め。
それぞれ副題に『殺人事件』がついていますが、どれもミステリではありませんでした(確認済み)。
ですが、読後感もまあまあで、この巻は以下の人たちにお勧めします。
@世界史を受講している高校生:ルネサンス後期のイタリアとその周辺を取り巻く
情勢のイメージをつかむのによい資料となるでしょう。受験勉強の息抜きにも是非。
@秋の夜長に面白いおはなしを求める方:三部作を全部読むのが前提ですが、面白いです。
繰り返しますが、ミステリではありません。
@ワンピースの『水の都ウォーターセブン』編を読んだ方:
思いつきですが、この作品がモチーフ(の一部)になっていると思います。
そのあたりをオーバーラップさせて読むと、また違った趣がありますよ。
@C.O.Cがお好きな人に:ダークエイジの時代よりは随分後になりますが、
時代背景や情勢、雰囲気をつかむにはまたとないテキストといえます。
キーパー次第では、シナリオフックになりそうなエピソードあり。(ならなかったらごめんなさい)
読了後は呑めるならお酒を、ダメなら温かいものでも飲みながら、静かに想いをめぐらせる、
なんていう秋の夜長の贅沢が出来る作品です。
2017年1月5日に日本でレビュー済み
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本書は、歴史の事実と作者の創作が見事に融合した、愛と哀しみの素晴らしい作品である。塩野七生さんにしか書けないものと思います。
2009年3月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この作品のキーワードを一言で表すとするならば、それは『狭間』である。
都市が主役であった時代から大国の時代へと移り変わる、まさに『狭間の時代』を生きる斜陽のヴェネツィア共和国が物語の主要な舞台であり、ある意味で主役そのものでもある。
そして、大国間のパワーバランスの変化に対応し都市国家が生き延びるための死にものぐるいの諜報戦の現場に送り込まれた主人公マルコ・ダンドロの目を通して『狭間の世界』に生きた異邦人の生き様が描かれる。
多くの日本人にとっては身近ではない、この『狭間の世界』に生きる異邦人アルヴィーゼの悲しい生き方こそがきっと塩野氏がこの物語で描きたかったものなのだろう。
多くの歴史著作はその時代、世界を俯瞰的に上から描くものだ。
しかし、それだけでは世界・時代の動きを眺めることは出来ても、その時代そこに生きた人々の息吹は伝わらない。
だからこそ歴史小説という分野が必要になる。
この小説を読むことで知識の上に展開されたヴェネツィア共和国や地中海世界がまさに生きた世界となり、そこに暮らす人々が見たであろう景色がリアルかつ鮮やかに蘇る。
この小説とセットでヴェネツィア共和国という国家と歴史を俯瞰的に描いた『海の都の物語』も読んでおく事で、この小説世界により深くどっぷりとはまれるだろう。
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈下〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
都市が主役であった時代から大国の時代へと移り変わる、まさに『狭間の時代』を生きる斜陽のヴェネツィア共和国が物語の主要な舞台であり、ある意味で主役そのものでもある。
そして、大国間のパワーバランスの変化に対応し都市国家が生き延びるための死にものぐるいの諜報戦の現場に送り込まれた主人公マルコ・ダンドロの目を通して『狭間の世界』に生きた異邦人の生き様が描かれる。
多くの日本人にとっては身近ではない、この『狭間の世界』に生きる異邦人アルヴィーゼの悲しい生き方こそがきっと塩野氏がこの物語で描きたかったものなのだろう。
多くの歴史著作はその時代、世界を俯瞰的に上から描くものだ。
しかし、それだけでは世界・時代の動きを眺めることは出来ても、その時代そこに生きた人々の息吹は伝わらない。
だからこそ歴史小説という分野が必要になる。
この小説を読むことで知識の上に展開されたヴェネツィア共和国や地中海世界がまさに生きた世界となり、そこに暮らす人々が見たであろう景色がリアルかつ鮮やかに蘇る。
この小説とセットでヴェネツィア共和国という国家と歴史を俯瞰的に描いた『海の都の物語』も読んでおく事で、この小説世界により深くどっぷりとはまれるだろう。
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈下〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
2014年6月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ベネチアの歴史の一部を垣間見ることができて楽しかったです。実際に歩いて確かめました。