佐伯一麦「芥川賞を取らなかった名作たち」を読了。ジョン・ハート「ラスト・チャイルド」の池上冬樹の解説を読んで手に取った一冊です。
芥川賞を取らなくても名作は名作で存在する。そんな当たり前のことをちゃんと明示してくれる書です。でも本書に掲載されている中で読んだことのあるのは、島田雅彦「優しいサヨクのための遊戯曲」のみ。知らぬ間に芥川賞に私自身とらわれていたのかもしれません。でも昔の作品が多く、初めて目にした作者も多かったのも事実。今後の読書生活の中で1つのヒントになるでしょう。
また、小説家が小説を解説していますので、創作のヒントが詰まっています。そのヒントは1つの会話、1つの比喩の使い方というように、非常に細部にわたっています。ですから何らかの文章を書こうとする者には非常に参考になります。
巻末にはこれまでの芥川賞の受賞作、候補作一覧があり、読書の海を渡るときの1つの羅針盤を手に入れることができました。
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芥川賞を取らなかった名作たち (朝日新書 158) 新書 – 2009/1/13
佐伯 一麦
(著)
太宰治、吉村昭、島田雅彦、干刈あがた……彼らはなぜ芥川賞を取れなかったのか。「私小説を生きる作家」として、良質な文学を世に問い続ける著者が、当時の選評を振り返りつつ、敬愛する名作たちの魅力を語りつくす。芥川賞落選史にみる、もうひとつの文学史。
- 本の長さ259ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日2009/1/13
- ISBN-10402273258X
- ISBN-13978-4022732583
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登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (2009/1/13)
- 発売日 : 2009/1/13
- 言語 : 日本語
- 新書 : 259ページ
- ISBN-10 : 402273258X
- ISBN-13 : 978-4022732583
- Amazon 売れ筋ランキング: - 632,361位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,185位朝日新書
- - 101,413位ノンフィクション (本)
- - 163,348位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1959年、宮城県生まれ。宮城県立仙台第一高等学校卒業。週刊誌記者、電気工等の職業につく傍 ら、創作を志す。1984年「木を接ぐ」で海燕新人賞を、1990年『ショート・サーキット』で野間文芸新人賞、1991年『ア・ルース・ボーイ』で三島由紀夫賞、1997年『遠き山に日は落ちて』で木山捷平文学賞、2004年『鉄塔家族』 で大仏次郎賞,2007年『ノルゲ Norge』で野間文芸賞を受賞。私小説作家として知られる。他に『石の肺――僕のアスベスト履歴書』『誰かがそれを』などの著書がある。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年8月28日に日本でレビュー済み
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2013年11月27日に日本でレビュー済み
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著者の作品は『ア・ルースボーイ』しか読んだことがありませんが、本人の誠実な人柄が講演の内容にも良くあらわれていると思います。
本書を読まなければ知らなかった作品・作者も多く、非常に参考になりました。
星ひとつ引いたのは、著者と島田雅彦氏が親友だということを予め知っていたので、島田氏の部分の内容が少し甘めになっている点が気になったからです。
本書を読まなければ知らなかった作品・作者も多く、非常に参考になりました。
星ひとつ引いたのは、著者と島田雅彦氏が親友だということを予め知っていたので、島田氏の部分の内容が少し甘めになっている点が気になったからです。
2019年4月26日に日本でレビュー済み
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取り上げられている作品は、誰もが知っているあの名作が実は芥川賞に落選していた・・・というのではなく、芥川賞をとった作家/作品だって知らないのに、候補止まりの作品なんて余計に知らないというものばかりです。
読んだことのある数少ない作品も、大昔に読んだので内容はまったく覚えていません。このため、この本に書かれたコメントに共感も、反感も持てませんでした。
純文学系の小説を読まなくなって久しいのですが、お好きな人はこの中から埋もれた名作を見つける楽しみがあるかもしれません。
読んだことのある数少ない作品も、大昔に読んだので内容はまったく覚えていません。このため、この本に書かれたコメントに共感も、反感も持てませんでした。
純文学系の小説を読まなくなって久しいのですが、お好きな人はこの中から埋もれた名作を見つける楽しみがあるかもしれません。
2011年10月5日に日本でレビュー済み
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自分自身が候補になっただけの非芥川賞作家である佐伯一麦さんが、魅力たっぷりだが、惜しくも芥川賞を取れなった小説を紹介します。大家である選考委員の選評の紹介も実に興味深く、その作家の文学観が垣間見られます。とにかく、どの作品も、読みたくなるものばかり。
それから、この本は講演を文字化したものですが、講演会場の聴講の方と佐伯さんとのやり取りも掲載されています。文学が好きで熱心な聴講者に囲まれた、熱い講演会だったことがわかります。
それから、この本は講演を文字化したものですが、講演会場の聴講の方と佐伯さんとのやり取りも掲載されています。文学が好きで熱心な聴講者に囲まれた、熱い講演会だったことがわかります。
2012年5月9日に日本でレビュー済み
第1回の芥川賞選考において、落選した太宰治が、川端康成の評に激怒した話は有名だが、本書は芥川賞にまつわるスキャンダラスな出来事よりも、受賞できなかった名作にスポットをあて、鑑賞することに重点を置いている。
本書のあおり文から連想するよりも、至極真っ当な文学批評なのだ。
本書は、一般の方と著者との意見交換という体裁で、作品毎に作家の紹介、作品のあらすじ、芥川賞の選評、著者の佐伯一麦さんによる作品の評価を掲載している。作品を読んでいなくても、読みどころをきっちりレクチャーしてくれるので、作品そのものを手にとってみたくはなるのだけど、読了している方が感じ入るところが多いと思う。文章のあちこちにピカッとひかる著者の文学に対するアツイ思いが散見される。
「私は『いのちの初夜』には書かずに生きられない宿命みたいのを感じたし、小説でその宿命が書かれているものは、どんな小説であれ、かけがえのない作品だと思うのです。」
「古風と言われるのは、作家にとっては一番屈辱的なこと。才能がないと言われるより大変なことなのかと思いました。」
「そもそも純文学は、どうにも表しようがないことを少しでも文章に表せるかという点が一番大事。」
「優れた私小説というのは、作者である私を描くことに徹しながら、作者自身が認識していないような部分や隠そうとしたものまで見えてしまい、知らないうちに描写の中に表れてしまうものじゃないかと思います。」
「小説というのは、たらいに水を張るように、いろんな言葉や表現やイメージやエピソードを溜めていって、それを一つもこぼさないように書き終わるまで持ち運んでいくことだと私は思うんです。その意識を最後まで保てるかどうか。」
くどくなるので、引用はこのくらいにしておくけれども、本好きには、ちょっとした気づきをあたえてくれたりする。
なお、本書に取り上げられている作品は以下のとおり。
太宰治『逆行』/北條民雄『いのちの初夜』/木山捷平『河骨』/小山清『をぢさんの話』/洲之内徹『棗の木の下』/小沼丹『村のエトランジェ』/山川方夫『海岸公園』/吉村昭『透明標本』/萩原葉子『天上の花−三好達治抄−』/森内俊雄『幼き者は驢馬に乗って』/島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』/干刈あがた『ウホッホ探検隊』
島田雅彦×佐伯一麦の巻末対談は、芥川賞の選にもれたお二方だけに、皮肉交じりの会話が面白い。
巻末付録(?)の芥川賞候補作一覧はブックガイドとして有効だったりする。これを参考に、自分なりの隠れた名作探してみよう。
本書のあおり文から連想するよりも、至極真っ当な文学批評なのだ。
本書は、一般の方と著者との意見交換という体裁で、作品毎に作家の紹介、作品のあらすじ、芥川賞の選評、著者の佐伯一麦さんによる作品の評価を掲載している。作品を読んでいなくても、読みどころをきっちりレクチャーしてくれるので、作品そのものを手にとってみたくはなるのだけど、読了している方が感じ入るところが多いと思う。文章のあちこちにピカッとひかる著者の文学に対するアツイ思いが散見される。
「私は『いのちの初夜』には書かずに生きられない宿命みたいのを感じたし、小説でその宿命が書かれているものは、どんな小説であれ、かけがえのない作品だと思うのです。」
「古風と言われるのは、作家にとっては一番屈辱的なこと。才能がないと言われるより大変なことなのかと思いました。」
「そもそも純文学は、どうにも表しようがないことを少しでも文章に表せるかという点が一番大事。」
「優れた私小説というのは、作者である私を描くことに徹しながら、作者自身が認識していないような部分や隠そうとしたものまで見えてしまい、知らないうちに描写の中に表れてしまうものじゃないかと思います。」
「小説というのは、たらいに水を張るように、いろんな言葉や表現やイメージやエピソードを溜めていって、それを一つもこぼさないように書き終わるまで持ち運んでいくことだと私は思うんです。その意識を最後まで保てるかどうか。」
くどくなるので、引用はこのくらいにしておくけれども、本好きには、ちょっとした気づきをあたえてくれたりする。
なお、本書に取り上げられている作品は以下のとおり。
太宰治『逆行』/北條民雄『いのちの初夜』/木山捷平『河骨』/小山清『をぢさんの話』/洲之内徹『棗の木の下』/小沼丹『村のエトランジェ』/山川方夫『海岸公園』/吉村昭『透明標本』/萩原葉子『天上の花−三好達治抄−』/森内俊雄『幼き者は驢馬に乗って』/島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』/干刈あがた『ウホッホ探検隊』
島田雅彦×佐伯一麦の巻末対談は、芥川賞の選にもれたお二方だけに、皮肉交じりの会話が面白い。
巻末付録(?)の芥川賞候補作一覧はブックガイドとして有効だったりする。これを参考に、自分なりの隠れた名作探してみよう。
2009年2月17日に日本でレビュー済み
芥川賞・直木賞に関しては、とくに近年は出版社との関係もあり
選考も不透明だ。
本書はそういったことを興味本位、ジャーナリスティックに取り上げるのではなく
あくまで「落選した事実」を前面に出し、
なぜ落選したかを解説。しかし声高になるわけではない。
受賞したかどうかに関係なく「良いものは良い」というスタンスで、
受賞しなかった作品の良さを取り上げていく。
太宰治から干刈あがたまで11人、11作品。
佐伯氏自身も候補になりながら、受賞はしていない。
しかし地味だが素晴らし作品を送り出している。
あえて最近の作品(とくに佐伯氏が候補になった前後)を取り上げなかったのは、
表現者としての佐伯氏のプライドでもあり、ある種の配慮だろう。
本文はわかりやすい、語りかけるような「ですます調」。
難解な表現もなく著者の誠実さも感じられる。
佐伯氏ならではの一冊かもしれない。
巻末の「芥川賞候補一覧」。とくにコメントもない一覧表だが、
受賞した作家もそれまで何回も候補作になっていたり……ということがわかり
文壇史の一部を見る思いだった。
できれば誰か、「直木賞編」を出していただきたい。
選考も不透明だ。
本書はそういったことを興味本位、ジャーナリスティックに取り上げるのではなく
あくまで「落選した事実」を前面に出し、
なぜ落選したかを解説。しかし声高になるわけではない。
受賞したかどうかに関係なく「良いものは良い」というスタンスで、
受賞しなかった作品の良さを取り上げていく。
太宰治から干刈あがたまで11人、11作品。
佐伯氏自身も候補になりながら、受賞はしていない。
しかし地味だが素晴らし作品を送り出している。
あえて最近の作品(とくに佐伯氏が候補になった前後)を取り上げなかったのは、
表現者としての佐伯氏のプライドでもあり、ある種の配慮だろう。
本文はわかりやすい、語りかけるような「ですます調」。
難解な表現もなく著者の誠実さも感じられる。
佐伯氏ならではの一冊かもしれない。
巻末の「芥川賞候補一覧」。とくにコメントもない一覧表だが、
受賞した作家もそれまで何回も候補作になっていたり……ということがわかり
文壇史の一部を見る思いだった。
できれば誰か、「直木賞編」を出していただきたい。
2014年6月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
落選した作品自体が載っていないことにがっかりしました(ネットで購入し、紹介されている作品全文が掲載されていると誤解した私が原因かもしれませんが)。
本書で紹介されている作品を読んだことのない方にはお薦めできないと思いました。この本は、連続講義の際の原稿が元となっており、その講義の受講者は当然その作品を読んでことがあるというのが前提です。この本の読者も、それらの本を読んだことがある前提で話は進みます。したがって、それらの作品を読んだことが無い人は、この本を読んでもあまり意味がない可能性が大きいです。
本書で紹介されている作品を読んだことのない方にはお薦めできないと思いました。この本は、連続講義の際の原稿が元となっており、その講義の受講者は当然その作品を読んでことがあるというのが前提です。この本の読者も、それらの本を読んだことがある前提で話は進みます。したがって、それらの作品を読んだことが無い人は、この本を読んでもあまり意味がない可能性が大きいです。
2009年1月28日に日本でレビュー済み
世評に関係なく自分だけのマイナー・ポエットを見つけてください、とういのが本書の肝。
仙台出身・在住の著者が地元で行ってきた読書会の記録を基にしたもので、編集者の人や生徒とのやりとりなどもあり、小難しい文章はなく読みやすい。
簡単なあらすじの説明や短い引用もしてくれるので、別に個々の作品を読んでいる必要もない。
基本的に作家ごとに章が分かれているので、気に入ったところを気に入ったときに読めばいい。
「芥川賞を取らんかったけど名作、ってほんまかいな?」という全くの門外漢が冷やかしに読んでもいいし、芥川賞は短編が多いので、気になる作品があったら近くの図書館に行けば大抵あるし、すぐに読める。
例年と比較すれば受賞レベルには完全に到達していても今日では考えられないような稀に見る激戦区で候補に挙がったり、最終決戦でも三すくみになり「該当作なし」の憂き目に会ったり、選考委員の見る目がなかったという事態だけではなく、やはり運、不運もあるものだなと思わされた。
(本書で取り上げられた中で芥川賞を受賞しなかったことで最もその後の人生が変わったと思われるのは故・吉村昭氏だろうか)
巻末の島田雅彦氏との短い対談でも触れられるが、「貶すのは簡単」というように、確かに本書で取り上げられた作品も素人目に見ても御都合主義の側面や冗長過ぎる嫌いがあったりするが、それを補ってあまりある魅力のある作品ばかりである。
欠点ではなく長所を!というのは対象に対して愛情がなければ無理だし、愛情をもつと美点も見えるがやはり瑕疵が大きすぎるので駄作だ、というケースも多いだろう。
人間と同じで難しいですな・・・
ここ十数年の作品は全く取り上げられていない。
そのあたりに佐伯氏の矜持が感じられる。
願わくば佐伯氏自身は5,60年後のマイナー・ポエットではなく、もう少しメジャーであればいいのになあという思いである。
なお、巻末に第139回(2008年上半期)までの候補作一覧があり、本書で取り上げられた以外で著者おすすめの「芥川賞を取らなかった名作たち」に印がつけられている。
仙台出身・在住の著者が地元で行ってきた読書会の記録を基にしたもので、編集者の人や生徒とのやりとりなどもあり、小難しい文章はなく読みやすい。
簡単なあらすじの説明や短い引用もしてくれるので、別に個々の作品を読んでいる必要もない。
基本的に作家ごとに章が分かれているので、気に入ったところを気に入ったときに読めばいい。
「芥川賞を取らんかったけど名作、ってほんまかいな?」という全くの門外漢が冷やかしに読んでもいいし、芥川賞は短編が多いので、気になる作品があったら近くの図書館に行けば大抵あるし、すぐに読める。
例年と比較すれば受賞レベルには完全に到達していても今日では考えられないような稀に見る激戦区で候補に挙がったり、最終決戦でも三すくみになり「該当作なし」の憂き目に会ったり、選考委員の見る目がなかったという事態だけではなく、やはり運、不運もあるものだなと思わされた。
(本書で取り上げられた中で芥川賞を受賞しなかったことで最もその後の人生が変わったと思われるのは故・吉村昭氏だろうか)
巻末の島田雅彦氏との短い対談でも触れられるが、「貶すのは簡単」というように、確かに本書で取り上げられた作品も素人目に見ても御都合主義の側面や冗長過ぎる嫌いがあったりするが、それを補ってあまりある魅力のある作品ばかりである。
欠点ではなく長所を!というのは対象に対して愛情がなければ無理だし、愛情をもつと美点も見えるがやはり瑕疵が大きすぎるので駄作だ、というケースも多いだろう。
人間と同じで難しいですな・・・
ここ十数年の作品は全く取り上げられていない。
そのあたりに佐伯氏の矜持が感じられる。
願わくば佐伯氏自身は5,60年後のマイナー・ポエットではなく、もう少しメジャーであればいいのになあという思いである。
なお、巻末に第139回(2008年上半期)までの候補作一覧があり、本書で取り上げられた以外で著者おすすめの「芥川賞を取らなかった名作たち」に印がつけられている。