題名どおり、加藤氏の生い立ちから犯行に至るまで、関係者への直接取材、裁判傍聴、
新聞雑誌等のメディアリソースから収拾した情報を元に、話が進められてゆく。
そこには、加藤氏に寄り添い、何を感じ考え、どう思ったのかを、加藤氏の立場にたって
丹念に書こう、という筆者の強い姿勢が色濃く出ている。
それが、本書の大きな特徴である。筆者は、加藤氏にゆかりのある地を可能な限り訪れ、
加藤氏の立場に立ち、そのときに去来したであろう感覚を五感で感じ取ろうと努めている。
このような事件について書く場合、いたずらに、行為の意味などを、ありがちな専門用語
を振り回していいかげんに解釈した記述をしがちであるが、本書では、それはない。
解釈であるかどうかが、ちゃんとわかるように記述されている。好感が持てる。そういう本は
、なかなかない。また、筆者の専門ではない領域に属する専門用語は、使えば、虚偽になりか
ねないからだろう。専門領域の言葉であっても、ほとんど出てこず、注意深く使用している。
平易な文章で、非常に読みやすい。中学生であれば、さしたる苦もなく読めるはずだ。
まるで、筆者と加藤氏、そして読み手が一体化したかのように感じられるように、書かれている。
本書は、過剰にといえるほど、言葉に大変にこだわっている。実は、それこそが、本書の中盤
当りからそれが色濃く混じっている、筆者がこの事件を読み解く、一つの視点・見方、キーワードと
多いに関連している。それをここで書くとネタばれになるので、書かない。
筆者は、加藤氏を描くには、言葉にこだわらざるを得ないと感じ、そのためにこだわっているので
あり、本書中でそれはしっかりと守備一貫している。
解釈が正しいかどうかは別として、自分が同じ立場に立った場合、果たして同じことをしないと言
い切れるのかどうか、それを読み手に問うていると言える。
この場合、加藤氏の立場に立った状況を、筆者と同じように、寄り添い、想像できるかどうかで、
この本、および加藤氏への評価は大きく変わるだろう。
それは、読み手が、今、いかなる状況下にいるのか、現在の社会的位置、生育環境、これまでの
経験、人間関係、性格などにより大きく左右される。
つまり、筆者の導きに従いながら、想像力を働かせ、感情移入し、そしてこの事件に関連する問題
になんとなくでも気づくことができるかどうかが、それらにより、大きく左右される。
なお、私の場合は、加藤氏に対し、同情を禁じえなかった。
同情の余地は無いと感じれば、この本は、あなたにとって、何の価値も無いものだ。
結論が失速している、筆者の考えや具体的な問題の指摘がない、だからマイナスという評があるが、
それは間違っている。
筆者は、上述した立場からこの本を書いている以上、それはよく、あるいは陥りやすい言葉でまとめる
ことができない、と考えているのだ。そして、それこそが、筆者の主張なのだ。
筆者は、この事件を、加藤氏という個人の、人格なりの属人的なものに帰すことで、果たして足りる
のかどうか、と問いかけを行なっており、その記述は、できない、という主張をしていることと同じで
ある。
つまり、この日本という現在の社会に住んでいる私達とこの事件は、強い関係性を有していると述べて
いるわけである。
いかなる関係性を持っているのかについては、この社会をどのように感じ、捉え、どのように考えて
いるのかによる。筆者は、その点についての自らの考えをあえて書いていない。
それは、現在という特定の我々が生きて、コミットしている社会のあり方の中において起こったこの
事件について、各人に考えて欲しい、というのが筆者の願いだからだ。
考えるためには、各人が社会の成員として、この社会のありかた、現状について、新聞や雑誌、本、その
他のメディアから、メディアリテラシーを前提に、正しいと思われる情報を取捨選択して吸収し続ける
ことが必要とされることは言うまでもない。
知らないことについて、考えることはできない。不確かなことを確かめず、それを事実と思いこめば、
間違った考えを持つ可能性が高くなる。
そして、社会への無関心は、ひいては身を滅ぼすことになる。
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秋葉原事件: 加藤智大の軌跡 単行本 – 2011/3/1
中島 岳志
(著)
- 本の長さ239ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日2011/3/1
- ISBN-104023309222
- ISBN-13978-4023309227
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登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (2011/3/1)
- 発売日 : 2011/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 239ページ
- ISBN-10 : 4023309222
- ISBN-13 : 978-4023309227
- Amazon 売れ筋ランキング: - 391,799位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 49,776位社会・政治 (本)
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2012年1月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2021年7月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自分の意見や主張を、言葉で言うのではなくて、行動で表すというコミュニケーションスタイルを子供のころから身につけていた加藤被告。
毒親からの影響も大いにあると思うが、年少者が意見を表出したり、立場が低いとされている人達が反対意見を言う事を異常に嫌がる日本社会にも遠因はあると思う。
加藤被告も普段から意見を自由に言う等、コミュニケーションが円滑に取れていたならば、穏やかに暮らせていたかもしれない。日本的コミュニケーションには、自分が「それは違う」と思っても言えず、黙って、うつむいて、怒りを溜めていくパターンが蔓延していて、挙句、逆切れを起こす人が、人口割合の一定数存在しているように思う。
よって加藤被告を含めた日本人の抑圧的で一方通行なコミュニケーションのあり方を改めていかないとダメだと思う。
こういった事件からは人間について多くの事を学べると思う。そして出来るだけ人が幸せである社会に改善していきたいと思う。
毒親からの影響も大いにあると思うが、年少者が意見を表出したり、立場が低いとされている人達が反対意見を言う事を異常に嫌がる日本社会にも遠因はあると思う。
加藤被告も普段から意見を自由に言う等、コミュニケーションが円滑に取れていたならば、穏やかに暮らせていたかもしれない。日本的コミュニケーションには、自分が「それは違う」と思っても言えず、黙って、うつむいて、怒りを溜めていくパターンが蔓延していて、挙句、逆切れを起こす人が、人口割合の一定数存在しているように思う。
よって加藤被告を含めた日本人の抑圧的で一方通行なコミュニケーションのあり方を改めていかないとダメだと思う。
こういった事件からは人間について多くの事を学べると思う。そして出来るだけ人が幸せである社会に改善していきたいと思う。
2018年6月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
加藤智大について本当に詳しく書かれていました。
著者の洞察も織り込めて、色々考えさせられる内容だけど、あくまで私の感じた事ですが、全ての原因、諸悪の根源は彼の両親だ。
まさに毒親の中の毒親。特に母親は完全に異常性格者。
加藤智大の、リアルな人間関係では本音を言わないとか、理由の説明なしに突然キレるとか、こういったあらゆる行動のありかたは、まさに幼少期~青年時代にいたるまでを母親の常軌を逸した虐待に蹂躙され尽くされた事がベースです。
彼が異常な性格なわけじゃないんだ。
この子は本来なら、もっと幸せになれる資質を持っていたんだと思う。
母親が壊した。父親がそれに手を貸した。
両親が、彼をじわじわと壊した。
判断力、決断力、善悪を把握する時に必要な他者への共感、寂しさを受け入れるやり方、そういったありとあらゆる大事な感覚を、こいつらが加藤から奪って叩き壊したんだよ。
加藤智大に、これだけは考えて欲しかった事がある。
勝ち組が憎い、幸せそうな人間が憎い、って感情は誰にでもあるよ。
ただ、君が手にかけて命を奪った相手の人は、「勝ち組」で「幸福に包まれた」人ばかりだったろうか?君を上回る不幸や苦しみを抱えた人だったかも知れない。
やっと幸せをつかんだばかりの人だったかも知れない。やっと苦しい病気が治った人だったかも知れない。
そんな風には君は考えなかったの?
寂しさも孤独も、知っているはずの君が。
・・・それが、哀しい。
けれど、そういった他者の痛みへの共感性の欠如を彼の中に植え込んだのは、彼の母親だ。父親だ。
この事件の真の犯人は、加藤智大じゃない。加藤智大の両親だ。
正直、被害者の方々の御遺族には申し訳ない言い方になるけど、毒親の被害者が絶える事のない現代、加藤智大には死刑にはなって欲しくない。
彼自身が、彼の行動の本当の原因をはっきり掴むまでには時間がかかるから。けれど、それを掴んだとき、必ず他の毒親被害者への理解と助言が出来るようになると思う。
ひいてはその事が、こういった悲惨な事件を減らしていく事の力にもなるから。
だから、加藤に生きてほしい。
そう思いました。
著者の洞察も織り込めて、色々考えさせられる内容だけど、あくまで私の感じた事ですが、全ての原因、諸悪の根源は彼の両親だ。
まさに毒親の中の毒親。特に母親は完全に異常性格者。
加藤智大の、リアルな人間関係では本音を言わないとか、理由の説明なしに突然キレるとか、こういったあらゆる行動のありかたは、まさに幼少期~青年時代にいたるまでを母親の常軌を逸した虐待に蹂躙され尽くされた事がベースです。
彼が異常な性格なわけじゃないんだ。
この子は本来なら、もっと幸せになれる資質を持っていたんだと思う。
母親が壊した。父親がそれに手を貸した。
両親が、彼をじわじわと壊した。
判断力、決断力、善悪を把握する時に必要な他者への共感、寂しさを受け入れるやり方、そういったありとあらゆる大事な感覚を、こいつらが加藤から奪って叩き壊したんだよ。
加藤智大に、これだけは考えて欲しかった事がある。
勝ち組が憎い、幸せそうな人間が憎い、って感情は誰にでもあるよ。
ただ、君が手にかけて命を奪った相手の人は、「勝ち組」で「幸福に包まれた」人ばかりだったろうか?君を上回る不幸や苦しみを抱えた人だったかも知れない。
やっと幸せをつかんだばかりの人だったかも知れない。やっと苦しい病気が治った人だったかも知れない。
そんな風には君は考えなかったの?
寂しさも孤独も、知っているはずの君が。
・・・それが、哀しい。
けれど、そういった他者の痛みへの共感性の欠如を彼の中に植え込んだのは、彼の母親だ。父親だ。
この事件の真の犯人は、加藤智大じゃない。加藤智大の両親だ。
正直、被害者の方々の御遺族には申し訳ない言い方になるけど、毒親の被害者が絶える事のない現代、加藤智大には死刑にはなって欲しくない。
彼自身が、彼の行動の本当の原因をはっきり掴むまでには時間がかかるから。けれど、それを掴んだとき、必ず他の毒親被害者への理解と助言が出来るようになると思う。
ひいてはその事が、こういった悲惨な事件を減らしていく事の力にもなるから。
だから、加藤に生きてほしい。
そう思いました。
2016年8月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現時点において家族親族友人が凶悪事件に巻き込まれた事などない自分にとって、よく裁判などで
「まだ原因(動機)が究明されていない」とか「どうして殺されなければならなかったか知りたい」
という遺族の方達の思いがどうしても解りませんでした。
弁護側がそれを言うのは単なる時間稼ぎ、延命措置であるのは解るが、遺族の側がそれを言う気持ち
に理解が及びませんでした。もし自分がその立場であったなら「理由(経過)なんかどうでもいい。
やった事の結果についてさっさと認定してさっさと死刑にすればそれでいいのに」と思っていました。
例え犯人の育った環境に同情の余地があったとしてもそれはそれ、犯した罪を「純粋に」裁くべきだ、
と思っていた(る)からです。
しかし本書を読んで少しだけ考えが変わったかもしれません。
勿論犯人に同情も同調もしませんし、もしかしたら自分もこうなったかもしれない等とはこれっぽっちも
考えもしませんが、犯行に至る心の流れが少しだけ理解できたように思います。
言い換えるなら、遺族の方達がなぜ経過(理不尽な犯罪に理由もないでしょうが)を知りたがるのかを
少しだけ理解できたかもしれません。
「まだ原因(動機)が究明されていない」とか「どうして殺されなければならなかったか知りたい」
という遺族の方達の思いがどうしても解りませんでした。
弁護側がそれを言うのは単なる時間稼ぎ、延命措置であるのは解るが、遺族の側がそれを言う気持ち
に理解が及びませんでした。もし自分がその立場であったなら「理由(経過)なんかどうでもいい。
やった事の結果についてさっさと認定してさっさと死刑にすればそれでいいのに」と思っていました。
例え犯人の育った環境に同情の余地があったとしてもそれはそれ、犯した罪を「純粋に」裁くべきだ、
と思っていた(る)からです。
しかし本書を読んで少しだけ考えが変わったかもしれません。
勿論犯人に同情も同調もしませんし、もしかしたら自分もこうなったかもしれない等とはこれっぽっちも
考えもしませんが、犯行に至る心の流れが少しだけ理解できたように思います。
言い換えるなら、遺族の方達がなぜ経過(理不尽な犯罪に理由もないでしょうが)を知りたがるのかを
少しだけ理解できたかもしれません。
2023年10月1日に日本でレビュー済み
母親は幼少期の虐待をみとめ謝罪した。
自殺を止めてくれる友達もいたし
会社の同僚とはすぐに打ち解けていた。
オフ会時に自宅に泊めてくれる女友達も居た。
彼の居場所はどこにもなかった。
しかし彼の「行為」は賞賛され神格化つつつある。一体それはなぜなのか
この本を読むと大量殺人に人をたらしめる一因がわかる気がする。
そしてそれは一般人には全く理解されることはないだろう。なぜなら政府も国民も彼らの気持ちがわからないから。もうどうしようもない。
そして京アニの青葉容疑者や京王線放火事件の犯人とは徹底的に違うところがある。
いずれも無差別だったのにも関わらず加藤にだけは同情が集まる、そこになんの違いがあるのか。
答えはこの本の中にある
そしてまた同じような事件がおこる
今度はあなたの生活圏で。
だからこそ支援を、理解をする必要がある
自殺を止めてくれる友達もいたし
会社の同僚とはすぐに打ち解けていた。
オフ会時に自宅に泊めてくれる女友達も居た。
彼の居場所はどこにもなかった。
しかし彼の「行為」は賞賛され神格化つつつある。一体それはなぜなのか
この本を読むと大量殺人に人をたらしめる一因がわかる気がする。
そしてそれは一般人には全く理解されることはないだろう。なぜなら政府も国民も彼らの気持ちがわからないから。もうどうしようもない。
そして京アニの青葉容疑者や京王線放火事件の犯人とは徹底的に違うところがある。
いずれも無差別だったのにも関わらず加藤にだけは同情が集まる、そこになんの違いがあるのか。
答えはこの本の中にある
そしてまた同じような事件がおこる
今度はあなたの生活圏で。
だからこそ支援を、理解をする必要がある
2019年12月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
加藤智大は友人もおり、仕事もあり、ごく普通の青年であった思います。家庭環境の悲惨さはあったものの、「普通の青年」が凶行に至る過程が詳細に取材されています。一気によみました。
2019年7月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
秋葉原通り魔事件の犯人の生い立ちや心情を辿るための情報となりました。
2014年10月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
秋葉原事件の犯人である加藤氏の経歴が淡々と語られている。
おそらく家族や友人、会社の同僚に対して、相当数の取材を積み重ねたのではないか。
彼の日々の生活、言動、家族関係を知ることができ、「どうしてこんなことをしてしまったのか」を
リアリティをもって理解できる内容である。
加藤氏は、2012年に『解』と題する著書を出版し、自らの見解を世に問うた。
しかし、そこには「世に見せたい自分」しか感じられず、彼の仮面の下は覗けなかった。
むしろ、彼の思いを書き記していない本書を読むことで、彼の感覚に近づけた気がする。
ただ、確かに彼は特殊な環境に育ったが、それだけが原因ではないはずで。
永山事件の犯人に対して、「同じ条件下で育った他の兄たちは概ね普通の市民生活を送っている」との
理由から死刑判決が下されたが、きっと加藤氏と同様の不幸な環境で育ち、でも、健全な生活を送って
いる人々が多数いるに違いないわけで。。。
そういう意味においては、結局のところ「何が原因だったのか」は本質的には誰にもわからないのかも
しれないと思った。
おそらく家族や友人、会社の同僚に対して、相当数の取材を積み重ねたのではないか。
彼の日々の生活、言動、家族関係を知ることができ、「どうしてこんなことをしてしまったのか」を
リアリティをもって理解できる内容である。
加藤氏は、2012年に『解』と題する著書を出版し、自らの見解を世に問うた。
しかし、そこには「世に見せたい自分」しか感じられず、彼の仮面の下は覗けなかった。
むしろ、彼の思いを書き記していない本書を読むことで、彼の感覚に近づけた気がする。
ただ、確かに彼は特殊な環境に育ったが、それだけが原因ではないはずで。
永山事件の犯人に対して、「同じ条件下で育った他の兄たちは概ね普通の市民生活を送っている」との
理由から死刑判決が下されたが、きっと加藤氏と同様の不幸な環境で育ち、でも、健全な生活を送って
いる人々が多数いるに違いないわけで。。。
そういう意味においては、結局のところ「何が原因だったのか」は本質的には誰にもわからないのかも
しれないと思った。