ギャリコものの訳者としては矢川澄子さん程翻訳作品数は多くは無いし、知名度は低いかもしれないですが、ジェニィやポセイドンアドベンチャーなどギャリコ作品の傑作を早くから我が国に紹介し続けてきてくれた功労者である古沢安二郎さん翻訳版の白雁物語（スノーグース）です。
標題からも連想されるとおり、訳者は明治35年生まれですから、言葉遣いや文体も現代のものよりもむしろ夏目漱石などの世代に近いです。古臭いかといえば正反対で、明治生まれの知識階級の語彙能力の高さによって、ギャリコの厳選された語からなる短い文章で多くを語るという原文の持ち味を余すところ無く日本語化することが達成されています。全体を通して徹底的な推敲を重ねて限りなく丁寧に和訳されています。
矢上版スノーグースが現代語で読み易い読み物だとすれば、こちらは原作の格調の高さと日本語化における正確さに重点を置いた古典文学といえます。元々偕成社さんは翻訳の正確さ（特に児童向け文学の）に大きな価値を置く版元なので、児童書としてはこちらの版を強く推奨できます。
好みもあるでしょうが、一例として原文のGod speed, Philip!を「うまくやってねフィリップ」と今風に訳すか、「お達者でね、フィリップ！」と古風に表現するかの大きな差異があります。
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