内容は、病床につく石ノ森先生ご本人に萬画のキャラクターが会いに来て、不穏な予言を告げる、という白昼夢のようなプロローグから始まります。
かつて戦闘に明け暮れたゼロゼロナンバーサイボーグ各人が母国での生活を営んでおり、それぞれのキャラクターが生き生きと描かれています。
001ことイワンは、ギルモア博士とともに海の見える邸で暮らしています。ひと月の半分は覚醒し、もう半分は就寝という、不思議な赤ん坊。ESPを操り、一向に成長しない彼は、高名な科学者をして、時折家事に煩悶させています。
002ことジェットは、ニューヨークで探偵の個人事務所を開業しています。萬画本編ではカーレーサーの描写もありましたが、文字通りフットワークの軽い彼には、こちらのほうがよりしっくりくるように思います。
003ことフランソワーズはパリ・アルマバレエ団のバレリーナ。エトワール(主役級)を夢見て毎日稽古に励んでいます。かつての戦闘の記憶を払拭したい思いの強さは、もしかしたら彼女が一番なのかも知れません。
004ことアルベルトは、東西に分断された記憶も遠くなりつつあるドイツで、長距離トラックのフリードライバーとして生計を立てています。彼の知性をもってすれば、どんな職にも就けるような気もしますが、自分の技術だけを拠り所とし、束縛を良しとしないあたり、やはり無頼漢の彼らしい気もします。
平穏な日々もつかの間、それぞれが世界の混乱の幕開け、というのは生易しい、事件や怪異に巻き込まれます。
サブタイトルもイカしてます。001−「天使の羽音」、002−「摩天楼の底」、003−「ありえざるもの」、004−「妖精(フェアリー)街道」
いずれも、今後の波乱の展開を内包しているように思えます。
特筆すべきは、それぞれ違う文体で描き出されているということです。002の章は、石ノ森先生ご本人が執筆された原稿をそのままの形で載せたそうですが、あとは、走り書きのようなメモなどをもとに、パズルのように組み立てて完成されたことが、あとがきで明かされています。
「託された使命は、殊の外大きく、まるで巨大な十字架を背負わされたように、一歩も身動きがとれなくなりました」とは、本作を執筆された小野寺丈氏の弁です。多くの方がご存じの通り、氏は、石ノ森先生のご子息であられます。
私は、ドラマ「ホテル」や、ちょっとB級のカルトムービーなどで、コミカルな演技をなさっている俳優さんとしか存じ上げなかったのですが、略歴を拝読いたしますと、脚本等も執筆されているとのこと。小説はこれが第一作だそうですが、情景を思い浮かべやすい文章で、私は読み進め易かったです。
本編もさることながら、あとがきでの制作秘話、殊に、身近な、大切な人がこの世を去りつつある様を追体験しなければならない、苦悩というにはあまりにも過酷な状況に、胸を突かれました。
ともあれ、この作品は世に出たことこそ価値のあるものです。異なる職域の方が、ある意味常人では成しえない作業の末に生み出されたもので、制作過程を察するに余りあります。出来不出来を論じるのもおこがましく、まずは筆者をはじめとする関係各位に謝意を申し上げます。
ただひとつ、自分的には、装丁は単行本ハードカバーのほうが好みです。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
¥692¥692 税込
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
¥692¥692 税込
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
¥94¥94 税込
ポイント: 1pt
(1%)
配送料 ¥257 6月3日-4日にお届け
発送元: 『もったいない本舗』 ※通常24時間以内出荷。※商品状態保証。法能店 販売者: 『もったいない本舗』 ※通常24時間以内出荷。※商品状態保証。法能店
¥94¥94 税込
ポイント: 1pt
(1%)
配送料 ¥257 6月3日-4日にお届け
発送元: 『もったいない本舗』 ※通常24時間以内出荷。※商品状態保証。法能店
販売者: 『もったいない本舗』 ※通常24時間以内出荷。※商品状態保証。法能店
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD'S WAR I first (角川文庫) 文庫 – 2012/9/25
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥692","priceAmount":692.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"692","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"O2hbeRszh%2FvKeFPft7peXzc1cqQv2Bi1j0zzyVpK6X30zHhzSlS5MOfEkONvwjnbPOnkboEPBjJzqUXCNYppr6xY6jOxjm2gFdlK5pAww7sYoAeAyUuNObCmn%2BvL9TA00gTCfStO6XY%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥94","priceAmount":94.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"94","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"O2hbeRszh%2FvKeFPft7peXzc1cqQv2Bi1TrPFw5%2B2d0P%2FnfbUQ4iZolcr%2FyefEllCZe%2BzHM2gZMMZEsYRePpyuC1c2YMNs%2BJsqdKhiAmlMFxOF4MOvYQ10p18dvJNMUx0h1tlEBYnR1HA4kxhyJg2fOwd3Sc8FEAh2KT6Qz3e8FjZP0GwKGYPOQ%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
未完のまま終わった天才・石ノ森章太郎の『サイボーグ009 天使編』『神々との闘い編』がついに完結! 壮大なスケールで石ノ森章太郎の遺稿を元に小説化したファン待望のシリーズスタート!
- 本の長さ293ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日2012/9/25
- 寸法10.7 x 1.2 x 14.9 cm
- ISBN-104041004268
- ISBN-13978-4041004265
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
石ノ森章太郎-萬画家。『サイボーグ009』『仮面ライダー』など数々の傑作を発表。1998年没。 小野寺丈-俳優、演出家。石ノ森章太郎の長男。
登録情報
- 出版社 : 角川書店(角川グループパブリッシング); 一般文庫版 (2012/9/25)
- 発売日 : 2012/9/25
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 293ページ
- ISBN-10 : 4041004268
- ISBN-13 : 978-4041004265
- 寸法 : 10.7 x 1.2 x 14.9 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 354,868位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2012年11月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
筆者も述べているように、文章に統一性がないところや、表現が不自然なところが多数あって読んでいて気になりました。サイボーグ009のファンなので我慢して読みました。
2013年1月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
子供の頃に読んだ「神々との闘い編」の続きが読めると思うとワクワク。
イントロはちょっとびっくりしましたが、003のエピソードなんかは、なかなかいいのではないでしょうか。
今後に期待です。
イントロはちょっとびっくりしましたが、003のエピソードなんかは、なかなかいいのではないでしょうか。
今後に期待です。
2012年11月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
物語は、石ノ森先生の病室から始まります。それがのちに、大切な意味を持つことになります。
本編『001編』。「天使の羽音」というタイトルからしてすごく不吉で怖いこの章では、のちのすべての現象のヒントとなる恐ろしい予知夢が、イワンを襲います。
そして『002編』。ジェットの軽妙な一人称で語られる、スピード感のある活劇なのですが、暗黒都市ニューヨークの悲惨な状況が描写され、「地獄巡り」の様相を呈しています。かつての「時空間漂流民編」を思い起こさせます。私がここで最も感動したのが、その文体。なんと、石ノ森萬画そのものなのです! あとがきを読むと、この章だけは石ノ森先生の小説原稿が完成していたとのことなので、小野寺さんが手直しをされているとしても、おそらくほぼそのままなのではないのでしょうか。これが石ノ森先生の小説なのか! と、感無量。ジェットがあまりにもジェットらしい(当たり前です)。内容ももちろん素晴らしく(なんたって石ノ森萬画です)、平常心を取り戻すのに時間がかかってしまいました。
続く『003編』は、これは明らかに小野寺さんの文章であることが分かる、抒情的な世界観。フランソワーズが、幸福の絶頂から悪夢へと突き落とされる、つらい物語。前半のパリの描写が素晴らしく、私はこの章は実写映像で想像しながら読みました。監督はルネ・クレマンなんてどうでしょう。この完結編全3巻は、フランソワーズの人間性を深く描いているのがひとつの特徴だと思うのですが、その分、彼女は何度も、とてもつらい思いをします。ここではいよいよ怖い天使が出て来て、サスペンスが盛り上がります。
『004編』、これは前章とは対照的に、アニメにしたら一番美しい映像になるのではないかと思われる、ハインリヒの悲しい愛の物語。ドイツらしく、とてもファンタジックです。
各章の謎は解かれないまま、次巻へ続きます。
本編『001編』。「天使の羽音」というタイトルからしてすごく不吉で怖いこの章では、のちのすべての現象のヒントとなる恐ろしい予知夢が、イワンを襲います。
そして『002編』。ジェットの軽妙な一人称で語られる、スピード感のある活劇なのですが、暗黒都市ニューヨークの悲惨な状況が描写され、「地獄巡り」の様相を呈しています。かつての「時空間漂流民編」を思い起こさせます。私がここで最も感動したのが、その文体。なんと、石ノ森萬画そのものなのです! あとがきを読むと、この章だけは石ノ森先生の小説原稿が完成していたとのことなので、小野寺さんが手直しをされているとしても、おそらくほぼそのままなのではないのでしょうか。これが石ノ森先生の小説なのか! と、感無量。ジェットがあまりにもジェットらしい(当たり前です)。内容ももちろん素晴らしく(なんたって石ノ森萬画です)、平常心を取り戻すのに時間がかかってしまいました。
続く『003編』は、これは明らかに小野寺さんの文章であることが分かる、抒情的な世界観。フランソワーズが、幸福の絶頂から悪夢へと突き落とされる、つらい物語。前半のパリの描写が素晴らしく、私はこの章は実写映像で想像しながら読みました。監督はルネ・クレマンなんてどうでしょう。この完結編全3巻は、フランソワーズの人間性を深く描いているのがひとつの特徴だと思うのですが、その分、彼女は何度も、とてもつらい思いをします。ここではいよいよ怖い天使が出て来て、サスペンスが盛り上がります。
『004編』、これは前章とは対照的に、アニメにしたら一番美しい映像になるのではないかと思われる、ハインリヒの悲しい愛の物語。ドイツらしく、とてもファンタジックです。
各章の謎は解かれないまま、次巻へ続きます。
2014年2月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
評価が割れていて、しかも悪い方の評価のコテンパンぶりがあまりに凄まじかったので、却って関心を持った。非常に読みづらいという文章にも怖いもの見たさをそそられた。個人のブログの感想で「thirdは300ページこれ戦いっぱなし」というのも面白そうだった。それでも、購入したのはkindle版が激安だったことによる。一読、そんなに駄目かな?!というのが正直な感想。漫画でも相当エグい描写があるし、フランソワーズは前から戦いを厭がっているし、まぁ範囲ではないだろうか。オチが、SFに詳しくない私にさえ少々既視感があって残念だが・・・突き抜けたような『サイ』ボーグの描写が素晴らしく、こういう発想が用意されていたということを知らないのは、もっと残念だったかも知れない。
問題の文章は、009の漫画をずっと覆っているあのSFらしい理屈っぽい感じがそのままで、まさに読む009、読む石ノ森で興奮した。first及びsecondは、能う限り石ノ森氏のメモを生かして継ぎ合わされたものに違いない。thirdは故人のメモが殆ど遺されていなかったため小野寺氏が筆をとられたというせいか石ノ森臭は薄く、スピード感にあふれている。
ともかくも全編に小野寺氏の精一杯の誠実を感じる三冊、面白かった。あっという間に読んでしまったよ。
問題の文章は、009の漫画をずっと覆っているあのSFらしい理屈っぽい感じがそのままで、まさに読む009、読む石ノ森で興奮した。first及びsecondは、能う限り石ノ森氏のメモを生かして継ぎ合わされたものに違いない。thirdは故人のメモが殆ど遺されていなかったため小野寺氏が筆をとられたというせいか石ノ森臭は薄く、スピード感にあふれている。
ともかくも全編に小野寺氏の精一杯の誠実を感じる三冊、面白かった。あっという間に読んでしまったよ。
2012年11月11日に日本でレビュー済み
この小説は、故・石ノ森章太郎氏の遺した構想ノート「2012 009 conclusion God's War」を元に、小野寺丈氏が小説として完成させたものである。
その発端に当たる「天使編」は、正当な少年漫画であった。
だが、造物主からの干渉が開始した時、作者はそこで執筆を止め、仕切り直しをすることにした。
そして、改めて開始された物語が「神々との闘い編」である。
なぜ、作者自ら作品を変貌させることにしたのか。
それは、おそらくその作品に、造物主を名乗る宇宙人が登場したことによるだろう。
世界を創造した存在が自らの少年漫画に登場した時、作者である石ノ森氏はどれほど興奮し、驚喜したことだろうか。
そこでそれまでにない壮大なアイディアを活かせる可能性を見つけたのではないか。
「神々との闘い編」は、一読して違和感を覚えた方も多いことだろう。
その違和感は、その009が少年漫画でないことによる。
刺客と戦うなどといった少年漫画らしい展開は排除され、われわれ読者の世界に存在する不可解な出来事や伝説、遺跡が置かれ、宇宙人をクローズアップし、それらに対して「結局分からない」とした。それはこれまでの少年漫画009ではなかった展開である。
確かに、私たちの世界には、分からないことがいっぱいある。そして、それらは今のところ確かに「分からない」のだ。
そして、サイボーグ戦士たちは空飛ぶ円盤と遭遇することになる。注意すべきは「神々との闘い編」では天使は登場しないことだ。これは重要である。その代わり、宇宙人と結びつくようにして、羽のある蛇という神を指す言葉がキーワードのように物語上に置かれた。
それを与えられたサイボーグ戦士たちは、私たち読者と同様に戸惑うしかない。分からないことばかり、これをどうするのか。これがストーリーを牽引するものとなる。
物語は掲載誌によって中断され、読者は途方に暮れた。1970年のことである。
それから、石ノ森氏は「神々との闘い編」をリファインした形の、構想ノート「2012 009 conclusion God's War」を組み立て続け、しかし、未完成のまま他界してしまった。
この小説が発表されるまで、そのアイディアは約四十年もの間、誰にも知られることがなかった。
そして、小野寺丈氏による小説「God's War」を読むことで、故・石ノ森章太郎氏がやろうとしたことが、やっと理解されるに至ったのである。
彼は造物主(宇宙人)という媒体を介して、この世界の謎を解き明かすエンターティメント作品を生み出そうとしていたのだ!
この世界がいくつもの不思議を抱えているのは、何か理由があるはずで、それを天才萬画家・石ノ森は、自らのSFマインドで解決しようとしたのだ。
雪男、UFO、超能力、心霊現象など世界に散らばる謎の数々を、彼が大好きであったことは読者の知るところである。これをある仕掛けを用意し、そのすべてを自らの“理性”で理解できるよう解決しようとしたのである。
それがタイトルのconclusion(結論)の意味である。
故人は、その物語「2012 009 conclusion God's War」を、少年漫画どころか漫画ですらない、小説による完成を目指していたという。おそらく、若い頃から読んでいたSF小説群への憧れがあったのだろう。不思議を読み解く物語をして、SF作家たちの仲間入りをしたいという気持ちがあったのではなかろうか……。
さて、「God's War」であるが、構想ノートにもあった不思議話を割愛したのは、明らかに構成上の失敗であった。
エピソードに添って、作者とギルモア博士の対話で紹介される世界の不思議話は、この物語が少年漫画でないことへの宣言であるだけでなく、物語の結末への絶対不可欠の伏線であり、これがなければ肝心のconclusionに繋がらない。小野寺氏がこれを書き直す機会がある時は是非ともそれを省略せずに構成していただきたい。
また、アニメ化される暁には、この対話を省略しないようにしなければならないことを製作者側には理解していただきたい。
これを省略すると、これまで何度も繰り返されて来た、ただ単に戦うだけのいつもの009に成り果ててしまうのだ。それでは「地下帝国ヨミ編」を越えることはできない。
おそらく、執筆に当たった小野寺氏は、石ノ森氏の意図を読み取れていない。世界の不思議話を解き明かす醍醐味が「God's War」のテーマであることに気付いていれば、こうした展開にする決断はできなかったはずだ。
だが、それは石ノ森氏自身の苦悩でもあったと考えられる。この現実的テーマははっきり言ってしまえば、本来少年漫画であった009の世界観と相容れるものではない。サイボーグ戦士たちはあまりにリアリティが無さ過ぎ、存在自体が荒唐無稽であり、現実の不思議と向き合うのは極めて難しい。
ともあれ、現在、市販されているもので、この“仕掛け”を知ることができるのはこの小説だけである。
あなたが、天才萬画家・石ノ森章太郎氏が用意した“世界の謎を読み解く仕掛け”を知りたければ、この小説を手に取り御一読ください。
そして、故人が実際に手がけた「天使編/神々との闘い編」も併読すれば、更に楽しめることでしょう。それはまさに世界を題材にしたエンターティメントであるから。
その発端に当たる「天使編」は、正当な少年漫画であった。
だが、造物主からの干渉が開始した時、作者はそこで執筆を止め、仕切り直しをすることにした。
そして、改めて開始された物語が「神々との闘い編」である。
なぜ、作者自ら作品を変貌させることにしたのか。
それは、おそらくその作品に、造物主を名乗る宇宙人が登場したことによるだろう。
世界を創造した存在が自らの少年漫画に登場した時、作者である石ノ森氏はどれほど興奮し、驚喜したことだろうか。
そこでそれまでにない壮大なアイディアを活かせる可能性を見つけたのではないか。
「神々との闘い編」は、一読して違和感を覚えた方も多いことだろう。
その違和感は、その009が少年漫画でないことによる。
刺客と戦うなどといった少年漫画らしい展開は排除され、われわれ読者の世界に存在する不可解な出来事や伝説、遺跡が置かれ、宇宙人をクローズアップし、それらに対して「結局分からない」とした。それはこれまでの少年漫画009ではなかった展開である。
確かに、私たちの世界には、分からないことがいっぱいある。そして、それらは今のところ確かに「分からない」のだ。
そして、サイボーグ戦士たちは空飛ぶ円盤と遭遇することになる。注意すべきは「神々との闘い編」では天使は登場しないことだ。これは重要である。その代わり、宇宙人と結びつくようにして、羽のある蛇という神を指す言葉がキーワードのように物語上に置かれた。
それを与えられたサイボーグ戦士たちは、私たち読者と同様に戸惑うしかない。分からないことばかり、これをどうするのか。これがストーリーを牽引するものとなる。
物語は掲載誌によって中断され、読者は途方に暮れた。1970年のことである。
それから、石ノ森氏は「神々との闘い編」をリファインした形の、構想ノート「2012 009 conclusion God's War」を組み立て続け、しかし、未完成のまま他界してしまった。
この小説が発表されるまで、そのアイディアは約四十年もの間、誰にも知られることがなかった。
そして、小野寺丈氏による小説「God's War」を読むことで、故・石ノ森章太郎氏がやろうとしたことが、やっと理解されるに至ったのである。
彼は造物主(宇宙人)という媒体を介して、この世界の謎を解き明かすエンターティメント作品を生み出そうとしていたのだ!
この世界がいくつもの不思議を抱えているのは、何か理由があるはずで、それを天才萬画家・石ノ森は、自らのSFマインドで解決しようとしたのだ。
雪男、UFO、超能力、心霊現象など世界に散らばる謎の数々を、彼が大好きであったことは読者の知るところである。これをある仕掛けを用意し、そのすべてを自らの“理性”で理解できるよう解決しようとしたのである。
それがタイトルのconclusion(結論)の意味である。
故人は、その物語「2012 009 conclusion God's War」を、少年漫画どころか漫画ですらない、小説による完成を目指していたという。おそらく、若い頃から読んでいたSF小説群への憧れがあったのだろう。不思議を読み解く物語をして、SF作家たちの仲間入りをしたいという気持ちがあったのではなかろうか……。
さて、「God's War」であるが、構想ノートにもあった不思議話を割愛したのは、明らかに構成上の失敗であった。
エピソードに添って、作者とギルモア博士の対話で紹介される世界の不思議話は、この物語が少年漫画でないことへの宣言であるだけでなく、物語の結末への絶対不可欠の伏線であり、これがなければ肝心のconclusionに繋がらない。小野寺氏がこれを書き直す機会がある時は是非ともそれを省略せずに構成していただきたい。
また、アニメ化される暁には、この対話を省略しないようにしなければならないことを製作者側には理解していただきたい。
これを省略すると、これまで何度も繰り返されて来た、ただ単に戦うだけのいつもの009に成り果ててしまうのだ。それでは「地下帝国ヨミ編」を越えることはできない。
おそらく、執筆に当たった小野寺氏は、石ノ森氏の意図を読み取れていない。世界の不思議話を解き明かす醍醐味が「God's War」のテーマであることに気付いていれば、こうした展開にする決断はできなかったはずだ。
だが、それは石ノ森氏自身の苦悩でもあったと考えられる。この現実的テーマははっきり言ってしまえば、本来少年漫画であった009の世界観と相容れるものではない。サイボーグ戦士たちはあまりにリアリティが無さ過ぎ、存在自体が荒唐無稽であり、現実の不思議と向き合うのは極めて難しい。
ともあれ、現在、市販されているもので、この“仕掛け”を知ることができるのはこの小説だけである。
あなたが、天才萬画家・石ノ森章太郎氏が用意した“世界の謎を読み解く仕掛け”を知りたければ、この小説を手に取り御一読ください。
そして、故人が実際に手がけた「天使編/神々との闘い編」も併読すれば、更に楽しめることでしょう。それはまさに世界を題材にしたエンターティメントであるから。