高校生の力では普通は自分の将来を見通しながら進路を選ぶことは難しい。今巻の初めの章「委員長の初恋」では図書委員長の岸本一の、後半の章「希望の星」では図書委員の藤枝高広の、2年生の3学期に進路調査票前に悩む様子が同時間併行の形で描かれます。彼らが悩みながらも何とか未来を見出そうとする姿に、若い読者は共感を、年を経た読者は愛おしさを感じるでしょう。レビュアーは文系理系こそ選んだものの、しっかりとした方向決定を先送りできるように、大学に入った後で選択肢が一番多くなる「茫洋とした学科」にさっさと逃げてしまったという過去があるので、「今ここで決めねば」と真剣に取り組む岸本や藤枝が眩しくてたまりません。
それでも一人で考えているだけでは決まりません。岸本は憧れていた司書の牧田先生への自分の想いが恋だと知り、藤枝は一度打ち消した川本かずらへの想いを再確認しながら、彼女達の優しい言葉や、図書委員仲間の自分への信頼を頼りに、進路の迷いの克服へ踏み出します。
サブタイトルに「委員長の初恋」とありますが、恋の話より進路問題に重心があるように思います。
青春物語ですが青臭くない。これからの春爛漫を予感させる学びの庭に咲く梅の香りか？ 派手さはありませんが、暗い書庫でポッと光るような小説です。
中高生向けとしては★５つ。ぜひ読んでもらいたいものです。
おまけ？は「岸本一さま＆委員のみなさま」の題で東京の女子高で図書委員をしている今日マチ子さんが「吉野北高校図書委員会」の本を送ってくれた面々にお礼がてらイラスト満載で自分のことを伝えているという設定の2頁です。カバーと本文イラストを担当されている今日マチ子さんがどんなにこのシリーズを愛しているかが伝わってきます。
それにしても、電子書籍で手軽に読めるようになったのはありがたい。
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